タンチョウサンクチュアリ通信 2005年 秋号

発行:(財)日本野鳥の会 鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ
(編集:レンジャー 音成 邦仁、阿部秀幸、渡邉美沙)
 村内のあちらこちらで、冬を越すために湿原から飛来してきたタンチョウ親子の姿が見られるようになりました。間もなくタンチョウがサンクチュアリに飛来するシーズンです。レンジャー一同、ネイチャーセンターの開館に伴い、一層張り切っています(O)。

ボランティアワークキャンプ

 サンクチュアリでは、毎年3月と8月に主に首都圏の大学生を中心とする自然保護ボランティア団体「F.A.ネットワーク」(以降FAN)の「ボランティアワークキャンプ」(以降VWC)という活動を受け入れています。FANは自然保護ボランティアを通じて社会貢献することを目的に活動している団体で、VWCは、自然保護活動を進める施設に1週間ほど滞在し、その活動を手伝うというFANの主な活動の一つです。

 今年の夏のVWCは、8月24日〜31日に行われました。参加者は9人で、主にタンチョウの営巣環境保全に関わる活動を実施しました。

 本会が設置している野鳥保護区の一つ「早瀬野鳥保護区温根内(鶴居村19.5ha)」では保護区内にハンノキが繁茂し、タンチョウが営巣しなくなった時期がありました。そこで、ハンノキを伐採することでタンチョウの営巣できる環境を復元したのです。この営巣環境復元事業は、過去のVWCの主な活動の一つでもありました。今回は湿原における環境保全のためのデータ蓄積を主目的に、過去に伐採したハンノキの切り株から新たに発生した萌芽の数とその高さを調べ、萌芽を除去する活動を行いました。調査の結果、萌芽は皆無に近い状態で、保護区はタンチョウの営巣にとって良好な湿原環境が維持されていました。伐採後、何度か萌芽を除去することでハンノキの生長が大きく衰退することがわかりました。このままずっとタンチョウが営巣できる環境であり続けてほしいものです。

 また、「早瀬野鳥保護区別寒辺牛湿原(厚岸町365.4ha)」と「渡邊野鳥保護区フレシマ(根室市203.7ha)」では、ここが本会所有の野鳥保護区であることを示し、立ち入りを禁止するための標識を設置しました。両保護区は林道沿いにあり、比較的容易に立ち入ることが可能です。事実、魚釣りや山菜採りなどで人が入っていることがわかっています。その結果、意図せずタンチョウの繁殖に悪影響を及ぼしてしまう可能性があります。そのようなことを防ぐことも環境保全として重要な活動です。早瀬野鳥保護区別寒辺牛湿原に3本、渡邊野鳥保護区フレシマに7本、計10本の標識を設置しました。

 VWCに参加した学生たちは、現場でしか味わうことのできない貴重な体験を得て帰っていきます。一方、サンクチュアリは、労力の提供を受け活動を効率的に進めるとともに、学生たちにタンチョウやタンチョウ保護の現状を知ってもらう絶好の機会を得ているのです。実際今回のXWCに参加した学生の一人から「生き物そのものを守るのではなく、生き物が生きていくために必要な環境を守ることが大切だということがわかった」という声を聞くことができました。これも非常に大きな成果だと思います。このようにVWCは受け入れ先、参加者双方にとって大きなメリットがある活動なのです(A)。

第11回タンチョウイラスト展より
鶴居村 鶴居小 佐藤奈津子さんの作品

タンチョウによる農業被害対策の結果

 今年度もタンチョウによる農業被害対策が行なわれましたので、その結果をまとめました。昨年度から鶴居村が環境省からの委託事業として実施しており、今年度も村の取り組みとして実施されました(W)。

 ここ鶴居村は、冬にたくさんのタンチョウが訪れることで有名ですが、春から夏にかけては営巣のため湿原へ移動して行き、鶴居村にいるタンチョウの数はグッと減ります。その傍ら、鶴居村に居残るタンチョウもいます。この居残りタンチョウのうち若鳥が増えてきていることが農業被害の拡大に繋がっています。若鳥は、集団で牛の餌となるデントコーンの畑にやってきては、種を食べてしまうからです。主に下雪裡地区と下久著呂地区で被害が出ています。

 タンチョウが居残る原因として考えられることは、道東という限られた地域の中でタンチョウが年々増加していく一方、その本来の生息地となる湿原は減少していることが挙げられます。また、デントコーンの種播きの方法が露地式(地面を覆わずにそのまま土に種を播く方式)からマルチ式(保温・保湿のためにビニールで地面を覆う方式。種が埋められた所はビニールに穴が開いている。)へと変わったことも原因の一つと考えられます。これにより、タンチョウはビニールの丸く穴の開いた所にはデントコーンが埋まっていると学習してしまい、容易に餌が手に入る場所と認識してしまった可能性があります。

 十数年前からこの農業被害が拡大し、その対策として「巡回による追い払い」や「防鳥器具の設置」、「給餌の延長」が行われています。これらの対策により、被害は最小限に抑えられていますが、ここ数年は特に若鳥の増加が顕著であり、今後、被害の拡大の可能性が心配されています。

 今年度は、下雪裡地区での被害はありませんでした。前述の対策の効果もありますが、例年被害の出る畑がマルチ式畑ではなく露地式畑になったことも、被害の出なかった一因と考えられます。下久著呂地区では、一部の畑で大きな被害ではなかったものの被害が発生しました。下久著呂地区は例年、周辺で営巣する複数のつがいが畑をなわばりとし、若鳥の侵入を防いでいました。しかし、今年度はヒナの確認も少なかったことから、繁殖失敗によるなわばり意識の薄れが、若鳥の侵入を許してしまったと思われます。ここ数年で下久著呂地区に居残る若鳥が激増しており、若鳥は一昨年度の約2.5倍の数が確認されました。来年度以降も今年のように繁殖つがいのなわばり意識が薄くなると、増加している若鳥の群れが畑に侵入し、甚大な被害に繋がる可能性があります。

 今後、大きな被害によって人とタンチョウとの軋轢が深まってしまう前に、居残りを招く原因や被害を起こす原因そのものを解決していく対策を考えることが必要だと思われます。

第11回タンチョウイラスト展より
鶴居村 鶴居小 粕谷夏美さんの作品
タンチョウの農薬中毒死を考える
 タンチョウの生息数が1,000羽を超え、個体数としては最低限必要と見なされる数にまで回復してきました。一方で、繁殖環境の不足、人との軋轢などの課題は山積みです。そんな中、新たに発生したタンチョウの農薬中毒死の問題をお伝えします(O)。

 去る2002年10月に網走管内女満別町で、2羽のタンチョウの変死体が見つかりました。「フェンチオン」という有機リン系の殺虫剤が、肝臓や胃の内容物から高濃度で検出されたことから、死因はフェンチオンを直接食べてしまったことによる中毒死と判明したのです。タンチョウの農薬中毒死が確認されたのは、これが初めてのことです。

 もともとタンチョウは湿原や酪農地帯といった農薬の影響の少ない環境で生息していただけに、これまで農薬中毒の危険性については、あまり議論されていませんでした。今回の畑作地帯での農薬中毒死の発生は、タンチョウの生息環境の拡大に伴う新たな問題と思われました。しかしその後、過去に収容されたタンチョウの死体のうち、5個体について農薬の追加検査を行ったところ、鶴居村と標茶町で回収された死体もフェンチオンによる中毒死と判明しました。鶴居村の死亡個体は、女満別町の死体発見よりも前の2001年8月に回収された個体でした。

 フェンチオンは、作物の害虫防除や蚊、ウジなどの病害虫駆除に広く用いられています。特に鳥に対する毒性は強く、実験の結果、哺乳類の致死量のわずか1/100の量で鳥は死に至ることがわかっています。これまでにもツバメやカラスなどの中毒死の記録があります。特にツバメは、水田農薬として空中散布された際に、数百羽単位で死体や弱った個体が見つかっています。アメリカでは、すでに一部を除き使用禁止となっている他、EUでも使用が中止になっているとのことです。

 日本でも動きがあります。2003年に厚労省では「西ナイル熱」を媒介する蚊などの駆除に有効な殺虫剤59種を推奨していますが、その中にフェンチオンを成分とする殺虫剤11種も含まれています。タンチョウの中毒死を受け、鳥類への悪影響を懸念した関係者や団体から、厚労省と環境省に対して、使用回避の要望書が提出されました。そして、この7月にフェンチオン使用自粛の通達が各都道府県に出されました。

 しかし、現在のところ、フェンチオンに関する国内の動きはここまでです。つまり、法的な規制には至っていない上に、「西ナイル熱」対策以外であれば、使用を制限するものではありません。

 ところで、なぜ農薬をほとんど使わないはずの鶴居村で農薬中毒死が起こったのでしょう。実はフェンチオンを成分とする殺虫剤は、「ウジ殺し用殺虫剤」として普通に市販されています。想像ではありますが、局地的にその殺虫剤を散布した場所で、タンチョウが餌を食べたとすれば…。

 私たちは、まずフェンチオンという薬が特に鳥に対して毒性が強いということを知っておく必要があります。もともと自然に悪影響を及ぼす危険性のある殺虫剤は、上手に使ってこそ、その価値があると思います。フェンチオンを使わなければそれで良いというものでもありませんが、少なくとも意図に反した「タンチョウの死」を招いた事実を受け止めなくてはいけません。現段階では、このような事実を地域の方々に知ってもらい、このような殺虫剤の使用自粛を普及啓発することが私たちの役目だと考えています。
第11回タンチョウイラスト展より
釧路町 別保小 藤井美優さんの作品

コニカミノルタ・タンチョウチャリティポストカードと
フォトコンテスト入賞作品展
 今年もコニカミノルタホールディングス株式会社の協賛を受け、「第5回コニカミノルタ・タンチョウチャリティポストカード」が出来上がりました。第4回となる「コニカミノルタ・タンチョウチャリティフォトコンテスト」にご応募いただいた写真201点の中から、5点の作品をポストカードにしました。夕空を舞うタンチョウや白い吐息を昇らせるタンチョウなどの素敵なポストカードとなっています。

 このポストカードは1口1,000円のご寄付をいただいた方に5枚1セットで進呈します。是非ご支援いただき、優雅なタンチョウたちのポストカードをご活用いただければと思います。

 また、応募作品の中から、ポストカード採用作品の他に15点の入賞作品を加えた「フォトコンテスト入賞作品展」も開催します。北は北海道から南は九州まで、様々な場所で開催しますので、お近くで開催の際は是非足をお運びください。可愛らしい仕草や美しいタンチョウの姿がお楽しみいただけることと思います。

☆来年度のポストカードの作品を募集しています☆
  テーマ:タンチョウ(あなたの伝えたいタンチョウの魅力)。
  応募締め切り:2006年3月31日。
  応募資格:アマチュアの方のみ。
 詳しくは鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリまでお問い合わせください。