タンチョウサンクチュアリ通信 2004年 夏号

発行:(財)日本野鳥の会 鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ
(編集:レンジャー 原田 修、音成 邦仁、阿部秀幸)


 今夏の道東地方は、比較的よい天気が続き、例年に比べ霧が少なめです。湿原ではタンチョウのヒナが、親の背丈の2/3ほどに育っています。タンチョウサンクチュアリには4月より新レンジャーが加わりました。新体制のもと、保護区の巡回や新規保護区候補地の調査などの活動をしています(H)。

温根内早瀬野鳥保護区で今年も2羽のヒナ確認しました!

 タンチョウの営巣環境保全を目的とした野鳥保護区「温根内早瀬野鳥保護区(鶴居村 19.5ha)」で、今年も2羽のヒナの姿を確認しました!

 1990年に買い上げたこの湿原では、周辺の開発の影響でハンノキが増加したため、1994年を最後にタンチョウが営巣しなくなりました。1999年からハンノキを伐採し、開けたヨシ原を復元させる実験が始まりました。この実験が奏功し、2001年には8年ぶりの営巣、2002年にはヒナの姿を確認したことを、その年の夏号でご紹介しました。

 そして、今年も吉報をお届けできることに大きな喜びを感じています。今年は4月27日の現地調査で生後数日と思われるヒナの姿を確認しましたので、そのときの模様をお伝えします。

 当日は、小雨混じりの天候でした。今回の目的は、抱卵中のタンチョウを確認し、営巣場所を把握しておくことでした。    

 調査地(保護区を見下ろすことのできる数百m離れた丘陵地)に到着すると、すぐに親1羽(以降、親A)が保護区内を歩いている姿が確認できました。間もなく、もう1羽の親(以降、親B)が飛んできました。そこに親Aも近寄ってきたのですが、その足下に2羽のヒナがいたのです。親Bはヒナに餌を与えると座り込みました。どうやら、そこが巣のようです。すると、ヒナは親Bのからだに潜っていきました。これは体温調整のためと思われ、この行動やヒナの大きさなどから、ヒナは生後数日と思われます。親の背中から顔を出したり、立ち上がったりするヒナの姿は「めんこい(かわいい)」の一言でした。

 この野鳥保護区の設置や管理には、多くの方々からのご支援やご協力をいただいています。そして、今後もタンチョウが安心して子育てのできる環境に保っていくことが私たちの使命です。喜びとともに責任の重大さを改めて感じています(O)。

第10回タンチョウイラスト展より
根室市 珸瑶瑁小 鈴木沙也圭の作品

保護区での繁殖状況
 野鳥保護区での繁殖状況について(温根内早瀬野鳥保護区を除く)、5月12日に根室市春国岱原生野鳥公園担当レンジャーとともに実施した現地調査の結果を中心にお知らせします(O)。

●藤田野鳥保護区酪陽(根室市 22.1ha)
 保護区内では毎年、メスの標識鳥T45のつがいが繁殖しています。昨年まで、3年連続で繁殖に成功しています。5月12日には、T45が1羽で採餌している姿が確認され、その時点では抱卵中だったものと思われます。しかし、6月下旬から山階鳥類研究所を中心に行われたバンディング(ヒナへの足環づけ)の際にはヒナが確認できず、今年は繁殖に失敗したものと思われます。

 しかし、ヨシ原と干潟を中心とする保護区内の環境は良好な状態を保っており、来年度以降の繁殖成功に期待がかかります。

●渡邊野鳥保護区ソウサンベツ(根室市 368.1ha)
 今年は保護区内での営巣が確認されませんでしたが、周辺では3つがいの営巣が確認されています。5月12日には、1つがいと単独で行動する成鳥と思われる2個体のタンチョウを確認しました。また、タンチョウ保護調査連合の航空調査の結果、もっとも保護区に近い場所で営巣しているつがいがヒナを連れていることが確認されました。

 保護区は餌資源の豊富な風蓮湖畔に面している良好な環境です。無事に成長してくれることを願っています。

●渡邊野鳥保護区大別川(厚岸町 235.0ha)
 大別川とその周辺に広がるヨシ原とハンノキ林で形成されるこの保護区では、毎年1〜2つがいの営巣が確認されています。今年も1つがいの営巣が確認されました。5月12日には、林の中を1羽のヒナを連れていることが確認できました。調査地からは、姿を確認しづらいこともあり、ヒナの姿が確認できたのは初めてのことです。このまま順調に育ってほしいものです。

●別寒辺牛湿原早瀬野鳥保護区(厚岸町 365.4ha ※厚岸町購入箇所も含む)
 保護区内では少なくとも1つがいが営巣していますが、ヒナの有無については確認がとれていません。周辺ではさらに数つがいが繁殖しており、5月12日には、1羽の成鳥と思われる個体が保護区内で確認されました。

 一方、保護区内にはハンノキが繁茂しており、今後タンチョウの繁殖しやすい環境に復元していく必要性などを検討していきます。

●持田野鳥保護区(根室市 7.6ha)
 ここ数年、営巣はするものの繁殖に失敗しています。根室市春国岱原生野鳥公園から近い保護区であるため、同ネイチャーセンターの担当レンジャーが頻繁に調査を実施することができました。今年は順調に2羽のヒナが生まれたものの、わずか数日でヒナはいなくなりました。恐らくキツネによる捕食が直接の原因と思われます。

 営巣場所は、車通りの多い国道のすぐ近くで、以前からキツネなどの天敵が近づきやすい環境であることが指摘されています。来年度以降の繁殖成功に向けて、関係者とも連携をとりながら対策を検討していく必要があります。

鶴居村 鶴居小 八重将隆さんの作品


新レンジャー着任

本年4月、インターンレンジャーが着任しました。1年間、サンクチュアリでの活動を通じてレンジャーの仕事を体験し、経験を積んでいきます。簡単に自己紹介をさせていただきます。

 はじめまして。今年度から、鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリでインターンレンジャーとして勤務させていただくことになりました、阿部秀幸と申します。愛媛県出身の24歳です。

 サンクチュアリには学生時代に一度訪れたことがあったのですが、そのときはまさか自分がここで働くことになるとは夢にも思いませんでした。

 もちろん野鳥が大好きで、眼下に広がる雄大な湿原と北海道の生き物たちの姿に感動しています。この感動を多くの人と分かち合うと共に、タンチョウとそれを取り巻く自然環境を見つめ、自然保護について学ぶ実りある1年を過ごしたいと思います。よろしくお願いいたします(A)。


農業被害防止対策のご報告
 タンチョウによる農業被害防止対策の今年度の結果をまとめました(A)。

 冬期には多くのタンチョウが冬を越す鶴居村では、5月中旬から6月中旬にかけて、タンチョウによる農業被害の問題が発生しています。春先以降も鶴居村の酪農地帯周辺に生息するタンチョウによって、デントコーン(飼料用トウモロコシ)の種が食べられてしまう問題です。

 原因として、タンチョウの増加による道東域への集中化、タンチョウの生息できる湿原の減少、酪農地帯の環境の変化などが考えられます。

 これまでサンクチュアリでは、環境省からの委嘱により農業被害防止対策を実施してきました。給餌の延長、畑からの追い払い、畑への防鳥器具設置を中心に実施し、被害を最小限に抑えていす。同時に、この問題はタンチョウと鶴居村の基幹産業である酪農との共生という視点から、地域ぐるみでの取り組みの必要性を提言してきました。

 そして、今年度より鶴居村が環境省から委嘱し防止対策が実施されました。これは、地域ぐるみでこの問題を考えていくための第一歩であり、今後に期待が高まります。

 尚、今年度はタンチョウによる農業被害は軽微でしたが、いくつかの懸案事項もありました。

●下久著呂地区
 今年は若いタンチョウの群れが非常に目立ちました。この地区では、もともと周辺で営巣しているタンチョウが、畑をなわばり内の餌場として利用する反面、他のタンチョウの侵入を許さず大きな被害を防いでいる面があります。しかし、中にはなわばりに含まれない畑もあり、そこに若いタンチョウの群れが侵入するようなことがあると、大きな被害の出る可能性があります。来年度以降も厳重な監視が必要です。

●下雪裡地区
 畑への侵入は少なかったものの、給餌場では多いときで40羽近くの若いタンチョウが群れていました。今年は被害が出ませんでしたが、来年度以降も被害が出ないという保証はなく、これまで通りの対策を続ける必要があります。

鶴居村 鶴居小 海田真哉さんの作品


コニカミノルタ・タンチョウチャリティポストカードと
フォトコンテスト入賞作品展のお知らせ

 コニカミノルタホールデングス株式会社の協賛を受けて実施している「コニカミノルタ・タンチョウチャリティポストカード」は、今年で第4回目を迎えます。おかげさまで、今年も多くの方々から多数の写真が集まり、すばらしいポストカード5点ができあがりました。

 昨年まではタンチョウサンクチュアリの開館する10月からポストカードをご用意しておりましたが、より多くの皆さまにご利用いただけるよう、今年は8月から用意いたしました。1口1,000円のご寄付により、タンチョウサンクチュアリの活動を支えていただくとともに、素敵なポストカードを是非ご活用いただきく、ご支援をよろしくお願いいたします。

 また、同時にポストカード採用作品の他、15点の入賞作品を加えたフォトコンテスト入賞作品展も実施いたします。第3回目となるこの作品展は8月の根室市春国岱原生野鳥公園ネイチャーセンター、阿寒湖畔エコミュージアムセンター(北海道阿寒町)を皮切りに、北海道のみならず様々な場所で実施いたしますので、近くの会場まで是非足をお運びください。

 フォトコンテスト入賞作品展の詳細については、タンチョウサンクチュアリまでお問い合わせください(O)。

標茶町 標茶中 佐藤隆亮さんの作品