タンチョウサンクチュアリ通信 2004年 新春号

発行:(財)日本野鳥の会 鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ
(編集:レンジャー 原田 修、音成 邦仁)

 新年おめでとうございます。サンクチュアリは17回目の正月を迎えることができました。これもひとえにご支援いただいている皆さまのおかげと感謝しております。今年もよろしくお願いいたします(O)。


藤田野鳥保護区酪陽のタンチョウ一家がサンクチュアリに飛来

 2003年10月にタンチョウの営巣環境保全の目的で設置した8ヶ所目の野鳥保護区「藤田野鳥保護区酪陽(根室市22.1ha)」では、毎年1つがいのタンチョウが繁殖しています。しかも、メスの個体には標識「T45」が装着されていますので、すぐに識別できます。

 このつがいは、2003年には2羽のヒナを育てました。毎年、環境省から委嘱されている山階鳥類研究所とタンチョウ基本調査グループを中心にバンディング(足環装着)を実施していますが、この2羽の幼鳥にもそれぞれ19P、20Pという足環がつけられました。

 その後、20Pが羽を傷めてなかなか飛べるようにならないとの情報もあり心配していましたが、11月27日無事家族4羽でサンクチュアリにやってきました。給餌場の柵の近くで行動することが多いので、観察しやすい家族です。

 一方で、人に対する警戒心の薄い点が気になります。給餌をしていても、他のタンチョウが給餌人と一定の距離を保つのに対し、この家族はわずか2〜3mに寄っても逃げません。また、一度は柵の外側(来訪者の方々が観察する場所)でくつろいでいたこともあります。このような個体は、後述する事故の可能性が高くなるのではないかと思われ、今後が心配です。少なくとも、必要以上に近づいたり、驚かせたりしないように配慮する必要がありそうです(O)。

第9回タンチョウイラスト展より
釧路町 昆布森小 滝本真琴さんの作品

タンチョウの学習教材を製作中

 この教材「タンチョウ・ティーチャーズガイド(仮称)」は、総合学習や観察会などでタンチョウの生態や保護の歴史、彼らの生息環境である湿原の大切さを効果的に学べるように企画されました。学校の先生や自然系施設の職員、観察会のリーダーなどを対象に、体を使ったゲームからグループで考えて発表するもの、野外観察で使うものなど約20のプログラムとタンチョウについての基礎知識を盛り込んでいます。

 担当はタンチョウの越冬地のタンチョウサンクチュアリと、繁殖地である根室市春国岱原生野鳥公園のレンジャーが中心になり、今年度末の完成を目指し現在製作中です。次号のぴっけるぴっけでは、さらに詳しい内容をお伝えします(H)。

釧路町 富原小 武田奈桜さんの作品


フォーラム「ツルの未来」に参加 

 このフォーラムは、北東アジア地域ツル類重要生息地ネットワークの国内ワークショップの一環として、2003年11月16日に実施されました(日本野鳥の会・釧路国際ウェットランドセンター共催)。北海道のタンチョウの生息状況やマナヅル・ナベヅルの越冬地保全についての報告と共に、タンチョウサンクチュアリより原田が「タンチョウ生息環境の復元」と題し温根内早瀬保護区でのタンチョウの再営巣につながった環境管理の報告を行いました。

 フォーラムの最後に行われた討論会では、越冬地の過密化という共通の課題に対して分散化への質問や、ネットワークによるツル類の保全活動への可能性が話し合われました。

 また同フォーラムに先立ち14日に行われたワークショップでは、鹿児島県や山口県、岡山県の関係者と共にネットワーク各地の活動報告と今後の活動についての意見交換が行われました。 15日の現地施設見学の際には、タンチョウサンクチュアリでは前述した「タンチョウ・ティーチャーズガイド」から農業被害防止について考えるものと、タンチョウのしぐさを観察するものと、2つのプログラムを参加者に実演しました。改善に向けてのアドバイスをいただくと共に、各地での普及教育への展開に大きな期待と評価をいただきました(H)。


今年も事故多発

 2003年におけるタンチョウの死体やケガ個体の保護収容数は、12月15日現在26羽となっており、そのうち17羽が事故(電線事故や交通事故など)によるものです。過去最多だった2002年(収容数31羽、内事故原因23羽)から増加傾向が続いています。これには、タンチョウの人や人工物に対する警戒心の薄れが原因との見解もあります。

 2003年に電線衝突で命を失ったタンチョウの中に標識個体「07P」がいました。07Pは本会が設置した「渡邊野鳥保護区ソウサンベツ」で2002年に生まれた個体です。11月17日にサンクチュアリから80kmほど離れた別海町の牧草地帯で収容されました。11月7日には、サンクチュアリで元気な姿を確認していただけに、残念です。

 営巣地保全や越冬地での給餌などのタンチョウ保護活動が行われていますが、営巣地と越冬地の移動経路の環境警備も今後の課題のひとつです。現在、タンチョウに電線を認識させようと、北海道電力の協力により、事故現場付近の電線に黄色などのカバーを取り付ける対策がとられています。07Pの事故に関しては、本会より環境省を通じて北海道電力に協力を要請しています。

 また12月18日には、環境省、北海道電力とともに、今年鶴居村で発生したタンチョウの電線衝突事故現場を検証しました。いずれの場所も事故の発生時期には周辺に多くのタンチョウが生息していますが、カバーは取り付けられておらず、カバーの取り付けを検討することになりました。また、風により動いたり、音が鳴ったりするようなカバーの検討を要望しました。

 北海道電力は、この件に関して以前より独自に予算を組み、前向きに対応しています。今後もたくさんの方々と協力しあいながら、タンチョウ保護活動を進めていきたいと思います(O)。

阿寒町 阿寒湖中 前田いづみさんの作品


サンクチュアリの行事から
12月に行われたサンクチュアリセミナーのご報告です(O)。
 

オオワシの繁殖地が危ない!
講師:北海道野生生物保護公社 渡辺有希子氏

 オオワシは、主に極東ロシアで繁殖しており北海道には越冬のために渡ってきます。希少種であるオオワシの調査を行おうと、2000年から繁殖地であるロシアと越冬地である日本での「日露共同オオワシ調査」が始まりました。調査内容は、サハリンでの繁殖状況調査や発信器の追跡調査が中心です。

 調査は、親の警戒心が薄くなるヒナの巣立ち間際に行われます。捕まえたヒナの体長測定などを済ませ、発信器をつけます。この発信器の追跡調査を行うことで、サハリンで生まれたほとんどの個体が冬になると北海道に渡ってきていることがわかりました。

 一方、近年調査地周辺では、石油や天然ガスの採掘による環境破壊が深刻な問題です。森林は伐採、分断され、湿原は剥ぎ取られ土砂が川や湿原に流れ込んでいます。サハリンでは、すでに2つの開発が進んでおり、今後さらに7つの開発計画があります。

 この開発には、アメリカや日本など先進国が融資しています。開発にあたっては、事前にオオワシなどへの影響を調べたことになっていますが、その内容は事実と食い違う部分が多く見られます。住民や自然保護団体から再調査などの要望を出していますが、開発側が重い腰を上げない現状です。開発がすべて悪いと言っているわけではなく、その影響を客観的に評価し、影響を最小限に抑える努力は必要なことです。今のやり方では、広大な湿原や森林が失われ、多くの生物が窮地に追いやられてしまいます。

 この開発で得られる石油や天然ガスは、日本にも送られてくる予定です。日本も融資し環境破壊に加担していることを認識し、問題改善を求めるべきだと思います。オオワシに代表されるサハリンと日本を行き来する野生生物は、両国の共有財産であり、ともに守っていく義務があるはずです。

このセミナーの記録の詳細は →→→ こちら