◆群馬 四万温泉 湯の泉 − 水没を免れた野湯の今

1998年10月頃/2001年8月

「行くなら『湯の泉』しかないっしょ。急ぐべし!」

そう言われたのは、栃木県"湯沢"の野湯でキャンプしていたときのことでした。

温泉脇のキャンプ地で、出会った千葉から来たというカップル。野湯通の彼らからでいろいろ話を聞くうちに出てきたのが、冒頭の台詞でした。

なんでも群馬県の四万温泉の近くにある"湯の泉"(ゆのせん)という野湯は、ダム工事のせいで水没の危機に瀕しているとのこと。「関東周辺じゃ随一の野湯だし、もう先がないのだから急いでいってきな」というありがたいアドバイスでした。

で、行ってきたのが下の写真。

四万温泉の奥地にある『湯の泉』(ゆのせん)

見てのとおり、なんともまあ立派な温泉が待っていたのでありました。でも下の方の写真を見てもらえばわかりますが、実はこれ、「作られた湯船」です。石とコンクリートでしっかり固められたなんとも立派な湯船。

水没するはずの手掘り温泉のつもりで行ったのに、なぜ??

まあ、そのカラクリはおいおい話していくとして、まずは温泉への道順です。関越自動車道の沼田インターで下りて、草津や軽井沢方面へ進みます。中之条というところで国道を離れて四万温泉へ分岐していきます。

四万温泉はその道のほぼどん詰まりにありますが、温泉街を抜けて町外れへ行くとダムにぶちあたります。

ダム:かつてはここまでしか車が入れなかった。

温泉手前の「湯の泉橋」

いまはダムの奥の方まで行かれるのですが、ぼくがはじめて訪れたときは、ダム工事中で、ダム下から先へは車が入れませんでした。空き地に車を停めて、ダム工事作業の間を縫うように歩くこと1時間。ようやく『湯の泉』にたどり着いたわけです。

あらかじめ行き方の情報を得ていたものの、いままさにダム工事であちこちが削られている真っ最中。「とにかく湖予定地の左縁を巻く林道を歩いていって、湯の泉橋という橋を渡ったら河原を探す」と聞いていただけで、それとてどう変っているかわからないし、そもそも温泉がまだアクセスできるのかも不明。かなり心もとない温泉探しでした。

湯の泉橋を過ぎたら河原へ下りなくちゃと思っていたら、そんな必要もなく、あっけなく現れたのが下の立派な湯船。林道のすぐ脇にあったのですが、ホント拍子抜けでした。

林道のすぐ下の沢沿いに作られた湯船 !

誰もいないことだし、なにはさておき入浴。真新しい石積みの広い湯船。パイプからは湧きたての湯が惜しげもなく流れ出ています。湯温はまさに適温。川のせせらぎと共に、あたりをうっすらと赤く染めるまわりの紅葉。最高に極楽な温泉です。野湯のつもりがとんでもないめっけものをしてしまった気分でした。泉質は不明ですが、湯に浸かっていると肌の産毛にすぐ気泡がたまってしまう不思議なお湯でした。もしかしたら炭酸ガスを含んでいるのかも知れません。

それにしてもこれだけ立派な湯船。どうみても作られたばかりで新品そのもの。確信しました。ここが水没するなんてウソだって。あとで役所に電話して聞いたら、「皆さん、不思議とそうおっしゃるんですよね。水没なんてしませんよ。どこで聞いたんですか?」だって。後日、誤報の出元は、今は廃刊となった某雑誌と判明。

この湯船は、ダム近くに作られた新しい日帰り入浴施設の源泉として活かされることになったようです。温泉の汲上げポンプの設置と同時に、余り湯を受けるこの湯船も作られました。

うれしいですね。商用だけじゃなく、無料でこんな立派な湯船をつくってくれちゃうなんて。あまりに立派だったから、そのうち有料になってしまうのかななんて心配しててたんですが、3年ぶりに行っても、まえとかわらず無料で安心。

もちろん、この温泉、いまでも入れます。ただし状況はずいぶん変ってしまったかも...。

湯船に浸かながらこんな景色が楽しめる

人がほとんどこなかったもので、温泉の直下で幕営してしまいました。いまじゃ、昼夜の境なく人が多すぎてこんな贅沢はできません...

  『湯の泉』のいま

ダム完成後も沈むことなく"湯の泉"は、コンコンと湯をたたえ続けています。ダム完成に伴い、閉鎖されていた道路も再開し、いまでは湯の泉の直近まで(徒歩10分程度のところまで)車が乗り入れられるようになりました。

このゲートの手前に車を置いて歩いていく。湯の泉までは10分ほど。 ダムから見て右岸にある園地。きれいなトイレと東屋がある。野外宴会に最適? 湯の泉入口までは車で5分ほど。

ダムのまわりを一周できる道路が完成し、あちこちに園地が作られています。ダムのいちばん奥のあたりに閉鎖林道のゲートがあり、その周辺には何台も車が停まっているはずです。ここが湯の泉への入口。なんといまは徒歩10分で湯の泉にありつけてしまいます。

あまりにお気軽過ぎて、いまとなってはひっきりなしの人出。2001年夏に行ってきたときは、夜中にも関わらずにぎわっていました。温泉のすぐ上の林道の脇に数張りのテントがありました。まあ温泉直近で悪くはないんでしょうけど、ちょっと落ち着かない感じです。聞くところによると、沢沿いに湯の泉の50mほど上流に幕営に適した河原があるそうです(未確認)。どうせ泊まるならそっちの方がいいかも知れません。林道じゃ焚き火もできませんからね。(実際は跡があったけどマナー違反だと思う・・)

湯の泉からほど近い"赤沢やすらぎ広場"でテントを張った。

ちなみにぼくはこのときは夜中に到着したため、ダム沿いにある園地で幕営しました。天気もあやしかったので屋根付きの東屋がうれしかった。"赤沢やすらぎ広場"は湯の泉に最も近い園地ですが、その他、ダムから見て右岸にとても大きな園地があります。ここにはきれいなトイレがありました。芝生もありますし、大勢集まる宴会にはこっちの方がいいかも知れません。

1998年、タッチの差で、野湯状態の湯の泉に浸かることはできませんでした。野湯時代の湯の泉は、ワイルドながら快適度の高い野湯で、まわりの景色も最高だったといいます。当時は1時間半歩かなくてはいけなくて、それが自然のフィルターになっていたというか、よっぽどの人でなければこないという野湯ならではの醍醐味があったものと思います。それがなくなってしまったのは残念です。

ただその点をさしおいても、これほどのロケーションで、豊富な流量の温泉が無料で開放されているというのはありがたいこと。また群馬方面へ行くときには気軽に立ち寄ってこようと思っています。


おまけ:四万の温泉街には4つの無料公衆温泉があるのでも有名。ただしどこも小さく、男湯・女湯共に数人でいっぱいになってしまう。人さえいなければいいお湯なのだけど。

(2002.9.9 up)





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焚き火のまえで 〜山旅と温泉記
By あきば・けん
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