= 焚き火のまえで =
今年の夏休みは、北アルプスに行ってきました。
北アルプスといったら、日本正統派登山者(traditional Japanese hiker)のメッカ。
ニュージーランド育ちのなんちゃってトランパーの秋場には、畏れ多くてとても近づけるような場所ではなかったのですが、今年ははじめて意を決して行ってきました。
温泉があるとなればどこへでも馳せ参じる私ですが、登山やピークハンティングにはまったく興味なし。それじゃなんのために北アルプスへ? と言いますと、じつは今回の目的は、「北アルプスの夏山診療所で診療スタッフとして参加しよう!」なのでした。
特殊無線技士、電気工事士、ボイラー技士、学芸員、危険物取扱者。そんなB級資格に混じって、なぜか看護師免許も持っている資格取得マニアの秋場にとっては、趣味と資格を活かすいいチャンス。
というわけで、7月末のとある土曜日。北アルプス最奥部にある三俣診療所を目指し、岐阜県の新穂高温泉から入山したのでした。(右上の写真:鷲羽岳から見おろす三俣山荘・三俣診療所)
今回、訪れたのは岐阜県と長野県の県境、三俣蓮華山や黒部源流に近い三俣(みつまた)山荘に併設されている三俣診療所というところです。
日本の山岳地帯では、夏季限定で診療所があちこち開設されますが、そんななかのひとつ三俣診療所は、岡山大学医学部と香川大学医学部(旧香川医科大学)とで共同運営されています。
診療所といっても場所が場所だけに、スタッフがそこに辿り着くだけでもなかなかタイヘン。一般登山者と同じように、自分の荷物を背負って2日かけて歩いていきます。もちろん医材や薬品などは開所時にヘリコプターで荷揚げされるのですが、スタッフは行くにも帰るにも自分の足を使って行かなくてはいけません。
また途中で足りなくなった資材は学生たちがザックに入れて背負って登ります。内服薬くらいならいいのですが、輸液のボトルとかになると、ほとんどボッカ(歩荷)状態。山の上の診療所というのは、とにかく苦労の上に成り立っている施設なわけです。
運営は岡山大学と香川大学にまたがる学生サークル"三俣診療班"によって行なわれていて、医学生・看護学生数名と医師・看護師が1チームとなって、1週間交代くらいで診療所に駐留するようになっています。
医師と看護師のほとんどは、勤務の合間の短い夏休みを利用して参加で、完全なボランティアです。岡山や香川から来る人が多いのですが、交通費も完全に自腹。小屋に辿り着くだけで2日、下山に1日かかりますので、実質的に診療所業務に関われるのはほんの数日だけ。にもかかわらず参加しようというのは、山と三俣診療所が好きなんでしょうね。
でも現実問題として、7月中旬の診療所開所の頃は参加できる医師・看護師の確保が難しく、医師不在のまま診療所がスタートするということもあるようです。そうした事態を避けるため、運営している三俣診療班の学生たちにとって医師・看護師の確保がなかなか苦労の種のようです。
(数年前、いくつかの山岳会HPの掲示板で、同診療班の方が医師・看護師募集の呼びかけをしているのを見たことがあります。)
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By あきば・けん e-mail address |