= 焚き火のまえで =
沖縄の西表島で、サトウキビの収穫の仕事をしていたことがある。そのとき、畑でハブをよく見かけた。ハブ、そうあの毒蛇のハブである。
ハブは世界の三大(五大だったかな)毒蛇に数えられる危険な種類で、日本ではもちろん最強の毒蛇といわれている。
もっとも西表島に生息するサキシマハブは、毒性は比較的弱く、近年命を落としたという例はない。しかし関節などをかまれると動かなくなったり後遺症が残ることが多く、危険であることにかわりはない。
畑で作業中にハブを見つけたらどうするのか? 実は“食べる”が正解だ。ぼくが初めて自分でハブをさばいたときの様子を当時の日記から再現してみたいと思う。改めて文章にしてみると、ちょっと生々しい表現になってしまった。人によってはグロいと感じるかもしれない。イマジネーション豊かな人や、食事中の人は読むのを控えた方がいいかもしれない……、念のため。
絡み合ったサトウキビの茎の間から現れたハブは、くねくねと逃げ回っていた。あわてて追いかけて、手近にあったサトウキビの茎でたたきまくる。すると背中の関節が外れたのか、その場でうねるだけで逃げなくなった。そこで素早く仕事用の手斧で頭を一撃、首を切り落とした。
首を切り落とされても、ハブはあいかわらずのたうつように動き回っている。かなり勇気がいったけど、思いきってヘビをつかみあげた。全身が筋肉の固まりのようで、ぼくの手の中でなんともいえない動きを繰り返している。まるで意志があるかのようにしっぽを腕に巻き付けてくる。
首はスパッと切れたわけではなく、むしろひねりきられたかのように、身に対して皮の部分がギザギザにすこしはみ出していた。皮の内側に親指と人指し指を入れ、ヌメヌメしている身に爪を立ててしっかり押さえる。鱗のついた皮をしごくようにすると、身と皮の間に隙間ができる。そこで皮の上端をつまんで一気に尻尾まで引き下ろした。
気持ちいいくらいに皮がスパッとまくりかえって、ほんのりとピンクがかった身が現れた。土色をした体表とは裏腹にきれいな白色がまぶしい。内蔵は皮と一緒にとれてしまったので、腹の部分はぽっかりと縦の溝になっている。
こうして見ると、細い白身魚に見えなくもない。ここまで処理しておけば、たとえスーパーに並んでいてもそれほど違和感がないくらいに"食材"という感じになる。そんなむき身の状態にされても、ハブはまだクネクネと身をよじっていた。身が腕に絡んでくるとペタペタと不快な感触がした。
これでひとまず解体作業は終了。軽トラックの荷台に放り込んでおいて、昼休みに家へ戻ったときに冷蔵庫に入れておいた。(当時住み込みで働いていた)
仕事が終わって、家へ帰ってからさっそく調理にかかった。まな板の上で適当な大きさにぶつ切りにして、骨付きのまま魚用の網で焼く。表面がパリッとなるまで火を通して、あとは素材の味を生かして塩・胡椒で食べた。
骨のままボリボリと食らいつく。身は骨のまわりにこびりついているという程度しかない。くさみはほとんどない。いちおうニンニク醤油も用意しておいたけど、素のままで大丈夫だった。肉はよく言われるようにトリのササミに似ていてパサパサしていた。味という味もなく、ただ食感だけが残った。
By あきば・けん e-mail address |