春スキーの夢は儚く消えて



 俺は友達から、よく遊びに誘われる。
 自慢にはならないが、俺は自分のことを、一緒にいてもそれほど面白い奴だとは思っていない。
 話をするにも話題は無いし、趣味と呼べるほどのものも無い。カネもそれほど持っていない。勉強も苦手だしスポーツも得意ではない。顔はまあ悪くはないという程度で、彼女いない歴は生まれて以来ずっと更新中。
 それなのに昔から、何かイベントが行われるというときには、よくお呼びがかかる。
 海へ行くから一緒に来ないか、有名バンドの野外コンサートがあるから来ないか、バーベキューをやるから来ないか、天文観測会を開くから来ないか……。
 誘われるときには屋外で行われるもののことが多く、例えば映画館とかカラオケとか、インドアの場合がほとんど無いのが気になってはいたが、たまたまだろうかと、それほど深く考えてはいなかった。

 そして今日、またお誘いがあった。
 春スキーのツアーに参加するのにメンバーが足りないから、来ないかという。
「そんなわけで、三月五日出発で二泊三日だ。なあ、来いよ」
「春スキーと言ったって、今はまだ十二月だぞ? 三ヶ月も先じゃないか」
「今は春スキーが大人気で、今から予約しておかないと取れないんだよ。一グループ四人以上じゃないと駄目なんだ、頼むよ」
「頼まれちゃ仕方ない、行くよ。予算とかは?」
「後で山田から連絡が来るはずだ。あいつの主催だからな」
「分かった。楽しみにしてる」

 それからおよそ二ヶ月半。
 俺を誘った奴から、電話が来た。
「ああ、実は、春スキーのツアー、中止になっちまったんだ」
「中止? なんで今さら。もう上司に休むと伝えちゃったよ」
「スキー場にまったく雪が無いんだとよ。まさか、ここまで効くとはな」
「ちょっと、何だよ、その『ここまで効く』ってのは」
「あん? お前、まさか自覚してないのか?」
「自覚って、何を。俺が何をしたってんだよ」
「お前、ものすごい『晴れ男』だって、仲間内じゃ評判なんだぞ。旅行会社に問い合わせたら、お前が参加すると言った日から、まったく雪が降ってないらしいんだよ。まったく、効き過ぎだ」

 その瞬間、俺は全てを理解した。
 何故、自分がこんなに友達から誘われるのか。
 そして、その誘われる先が、どうして屋外のイベントばかりなのか。
 そうか……。全てはこの、晴れ男という体質のせいだったのか……。

 受話器からは、まだ友達の声が聞こえ続けている。
「三月になったら花見をやるから、来いよ。せっかくの桜も雨降りじゃ仕方がないからな。おっと、ゴールデンウィークのキャンプのときも頼むぜ」

リストに戻る
インデックスに戻る