近所のにいちゃん
いつものように放課後のバスケット部の練習を終えて家に帰る途中、近所に住んでいるチカちゃんと会った。
こちらの姿を見つけて、チカちゃんはポニーテールを揺らして近付いてきた。赤いスカートがとてもよく似合っている。
「あ、にいちゃん! お帰りなさい! 今日も部活?」
「うん。さっきまでずっとシュート練習してきたよ。チカちゃんは?」
「公園でみんなと遊んできたの」
満面の笑みを浮かべて、チカちゃんが隣に並んできた。
彼女の歩幅に合わせて、足の運びを緩める。なにせ、バスケット選手のこっちは、背の高さだけがとりえなのだ。
家までの道を一緒に歩きながら、学校のこと、友達のこと、テレビのこと、色々な話をする。
小さい頃から、まるで妹のように懐いてくれているチカちゃんは、本当に可愛い。きちんと挨拶のできる子なので、うちの両親もお気に入りだ。
そんなとき、チカちゃんがちょっと照れたような目で、こちらを見上げてきた。
「ねえ、またいつか、にいちゃんの所に泊まりに行きたいな」
「別にいいけど、お母さんにちゃんと言ってこないと駄目だよ」
「分かってる! 今度の土曜日でもいい?」
「いいよ。ご馳走いっぱい用意して待ってるからね」
「うん! 楽しみだな!」
数日後の土曜日。
約束通り、チカちゃんは夕方にうちへとやって来た。テレビで人気の犬のキャラクターがプリントされた、大きな赤いバッグに着替えなどを詰め込んで。
夕食にチカちゃんの大好きなグラタンを食べ、のんびりテレビを見てから一緒にお風呂に入り、身体を洗い合って、そして一緒の布団に入った。
腕の中にそっと抱いたチカちゃんの身体からは、石鹸のいい香りが漂ってくる。
「にいちゃんって、コイビトとか、いないの?」
明らかにコイビトという単語を言い慣れていない口調で、チカちゃんが尋ねてきた。
「残念ながら、今のところは、いないよ」
「ふ〜ん。なんだかもったいないね」
「もったいないと思う? やっぱり名前が悪いのかな」
「うん、もったいないよ。こんなに美人だし、おっぱいだって大きいのに」
そう言ってチカちゃんは、小さな手をアタシの胸に伸ばしてきた。
一七年も生きていればもう慣れてしまったが、アタシの「仁井美」という名前は、愛称で呼べば「にいちゃん」になってしまう。まるで「兄ちゃん」と呼ばれているようで、小さい頃は本当に嫌だった。
自分では顔もまあ普通だと思うし、部活のおかげでスタイルには多少自信があるのだが、これまでに男の子からモテた思い出はない。
チカちゃんの屈託のない笑顔に苦笑を返しながら、アタシはかすかなやりきれなさを感じていた。
あとがき:
某チャットサイトにてチャット中に突然気が向き、勢いのままに書き下ろし。
後になって読み返すと、どんでん返しには「ハサミ男」の影響を否定しきれないところ。
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