マッチ売りの少女
少女は、男を建物の陰へと招き入れると、マッチを擦らせ、その仄かな灯りの中で、おずおずとスカートを持ち上げ始めました。
……って、そっちの「マッチ売りの少女」じゃなくて。
ある少女が、真冬の街角でマッチを売っていましたが、誰も買ってくれる人はいませんでした。
このままでは少女は凍えてしまいます。
冷静に考えれば、こんなマッチなんて、そう簡単に売れるわけがありません。
何か、マッチを使って儲けられる商売は無いものか。
少女は傍らの建物の壁際の座り込んで、じっくり考えました。
ポクポクポクポクポクポク、チーン!
それから一週間後。
少女が開いた小さな店には、長蛇の列ができていました。
ちょっと中を覗いてみましょう。
あの少女が、白い布で顔の下半分を隠した姿で、座っています。
部屋の照明はロウソク2本だけで、敢えて薄暗くしてあります。ときどきロウソクの炎が揺らめき、壁に映った影が大きく動いて、なにやら神秘的な雰囲気です。
少女の前に座った若い男性は、何やら少女に悩みを打ち明けているようです。
「というわけで、彼女と僕は、結ばれるのでしょうか?」
「分かりました。では占ってみましょう」
少女は手に持ったマッチに火を付け、皿の上に置きました。
やがてマッチは燃え尽き、黒い燃えかすが残りました。
少女は何やらうなり声を出して、その燃えかすをじっと睨んでいます。
「……完全に燃え切らず、柄が半分ほど残っています。そして燃えた部分は、あなたの方に向いて曲がっています。これは、あなたが途中で心変わりする可能性を表しています」
「そんな! 僕は彼女のことだけを、こんなにも愛しているんだ!」
「その心を、いつまでも持ち続けなさい。他の女性に目を向けたとき、二人の関係は終わりを迎えるでしょう」
「ありがとうございました。よし、彼女と結婚するぞ!!」
少女は「マッチ占い」で一世を風靡していました。
もちろん、本当に占いの心得があるわけではありません。しかし、貧しい環境に生まれ、人の世の裏側にある汚い部分を見て育ってきた少女にとって、善良な一般市民の心の隙を突くのは、容易いことでした。
現にこうして、当たり障りのない話に、ほんのちょっとの注意を付け加えただけで、あの青年はあんなにも喜んでいたではありませんか。
少女が答えるのは、大抵相手が望んでいる答えなので、当然客受けも良く、評判が評判を呼んで、ついに行列ができるほどの占い師になってしまったのです。
やげて少女は巨万の富を得て、いつまでも幸せに暮らしました。
どっとはらい。
あとがき:
割とどうでも良い話だけど、「ダイナマイト売りの少女」が商品に火を付けて爆発というネタは、これまで3度ほど目にした。
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