船頭多くして船山に上る
王城の謁見室。
華麗な飾りの付いた防具を身につけた屈強な戦士が、王の前でひざまずいている。
王は、しばらく戦士を眺めやった後、重々しく口を開いた。
「そなたが、伝説の勇者ロットの血を引く戦士ヌラトンか」
「はっ」
「魔王ゾマドーモスのことは知っておろう。ヌラトンよ、魔王を倒し、この世に平和を取り戻すのだ!」
「御意!」
「ヌラトンよ、いくら剣の達人でも、たった一人で長い旅をして魔王を倒すのは、至難の業。そなたの良き仲間となるであろう者達を集めてある。一緒に行くが良かろう」
「ありがたき幸せ。このご恩に報いるためにも、必ずや魔王の首を持って参ります!」
ヌラトンは王に言われたとおり、仲間と会いに行った。
そこには、いずれも充分に経験を積んでいるであろう数人の冒険者達が待っていた。
皆の期待と戦意に満ちた目を向けられ、ヌラトンは旅立つ前から、成功を確信していた。
「私の名はヌラトン。見ての通りの剣士だ。みんな、これから長い旅になると思うが、どうかよろしく頼む」
ヌラトンは全員を見回し、頭を下げた。本来ならば伝説の勇者の血を引く彼が、格下である同伴者に頭を下げる必要は無いのだが、これから色々な面で世話になるであろう相手に対し、そこまで我を通すほどの世間知らずではなかった。
一番右にいた、道着姿の男が、ヌラトンに話しかけてきた。
「私は格闘家のタイロン。伝説の勇者ロットの末裔だ。以後お見知りおきを」
「なっ……? 勇者ロットの末裔!?」
タイロンが差し出した手を握り返すことも忘れ、ヌラトンは相手の顔をまじまじと見つめている。
格闘家の隣に立っていた、黒いフードの女性が、微笑みを浮かべて話しかけてきた。
「私は魔法使いのキラ。伝説の勇者ロットの血を引いているわ。攻撃魔法、回復魔法、どっちでも任せて」
「勇者の血を……君も……」
更にその隣にいた、身軽そうな服装の男が口を開いた。
「俺は、盗賊のダッラ。盗賊といっても、遺跡探索専門だ。盗みは、ご先祖様の伝説の勇者ロットの名にかけて、絶対にやらねぇ」
「先祖が……勇者ロット……?」
やがて全員の自己紹介が終わったが、ヌラトンはほとんど聞いていない。しばらく呆けていたかと思うと、そのまま横にあった椅子に、倒れ込むように座った。
「一体……どうなってるんだ……? 俺が、俺だけが勇者の子孫じゃないのか……」
「あなた、もしかして伝説を知らないの?」
「ロットの伝説なら、もちろん知っている。子供の頃から何度も聞いた。勇者が魔王を倒し、お姫様と共に旅立ったんだろ」
「じゃ、『その後』は知らないわけだ」
「その後? その後があるのか?」
「勇者ロットと姫の間には、7人の子供が生まれたのよ。そして7人はそれぞれ世界中に散らばっていき……」
「その子供達もそれぞれ、何人もの子を得ている。こうして世界中に勇者の子孫が増えていったんだ」
「つまり、勇者ロットの子孫は、世界中で何百人といるってわけさ。ま、俺もここに来るまで知らなかったけどな」
「本当、私だけが勇者の子孫だと思ってたら、タイロンも子孫だって言うでしょ」
「それからも、来る奴来る奴、みんな勇者の子孫だったもんな。参ったよ」
伝説の勇者ロットの子孫達が和気藹々と笑い合う中、勇者の子孫の一人、剣士ヌラトンは、呆けたままでじっと天井を見上げていた。
あとがき:
書いてるうち、ここで区切った方が良いような気がしてこういう形で終わったけど、そのうち気が向いたら、プロットの段階で考えてたアイディアを入れて続編を書くかも。
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