告白



 日本海の荒波を見ながらしばらく走った後、展望台の駐車場に車を駐め、俺とミサは外へ出た。
 春の海から吹いてくる風はまだ冷たく、俺のコートをはためかせ、ミサの長い髪を真横になびかせている。
 わずかに草が生えている岩肌の上を歩き、展望台の横を過ぎて、崖のすぐ手前の手すりの所まで来た。

 ミサとのデートは、これが三度目だ。
 まだ食事をしてドライブに行く程度の仲だが、いずれはもっと発展しそうな気がしている。
 今回はミサもだいぶ打ち解けてくれて、二人で楽しく話をしながらここまで来た。
 だが、車を降りてからは、何とはなしに二人とも無言で、ただ吹き渡る風に身を委ねている。
 横を見ると、ミサはじっと水平線の彼方を見つめている。その横顔からは何も読み取ることはできない。
「なあ、ミサ」
「ん? どうかした?」
 海を見ているのを邪魔されてもミサは気にせず、それとも俺が口を開くのを待っていたのか、いつもの優しい笑みを浮かべて、俺の方を見返してきた。
「こんなときに言うようなことじゃないかも知れないんだけど、でもせっかく来たんだし、是非、ここで言いたいことが、いや、ここじゃないと言えないことがあるんだ」
「なあに?」
 俺は、大きな音を立ててつばを飲み込んでから、言葉を継いだ。
「俺……今、ここで、告白したい」
 ミサは一瞬だけ目を大きく見開き、すぐに目を細めて、どこか嬉しげな、それでいて少し寂しげにも見える表情を浮かべた。
「まるっきり俺の独りよがりなんだけど、聞いててくれるかな」
「……うん」
 ミサの返事を聞き、俺は意を決して、海の方に向き直った。

「……そうだ。俺はあの日の夜10時過ぎ、店に行ったんだ。あの女がいた。俺は会社でのことを秘密にしてくれと頼んだんだ。そしたら、あいつは馬鹿にしたように笑って、俺に向かって言った。『もう遅いわよ。週刊誌の記者さんに知り合いがいてね、今日の昼に全部しゃべっちゃった』とな。俺は思わず、そばにあった花瓶を手に取って、そのままあの女の頭に振り下ろして……」

 目を丸くして俺の言葉を聞いていたミサが、ようやく我に返って、妙な叫び声を上げた。
「ちょ、ちょっと! 何の話なのよ! 告白してくれるんじゃなかったの!?」
「そうだよ。俺、一度でいいから、こういう海辺の崖の上で、サスペンスドラマの告白シーンごっこをやってみたかったんだ!」

 その日の夕方、俺はミサから別れを告げられた。
 どうやら二人は趣味が合わなかったらしい。

あとがき:
結局本編中では使いませんでしたが、ミサの苗字の設定は「山村」です。
って、どうでもいい話だな。

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