井の中の蛙大海を知らず



 魚の子供が、母親に話しかけていた。

「ねえ、お母さん。海って、とっても広いんだよね」
「そうだよ、坊や。海はどこまも、ずっと続いているんだよ」
「じゃあ、海の端っこは、どうなっているの?」
「海には端っこなんて無いんだよ。ずうっと海が続いているんだよ」

 魚の子供は、目を凝らして、海の彼方を見つめた。
 しかし、もちろん海の端などは見えず、はるか向こうの暗がりへと海が続いているだけだった。

「お母さん、この間、亀のおじいさんが言ってたんだけど、『井戸』って知ってる?」
「なんだい、それは? 初めて聞いたよ」
「あのね、陸の上にあって、狭いんだけど、とっても深くて、底に水があるんだって」
「そんな所があるのかい。深いって、どのくらいなんだろうね」
「もしかしたら、海よりも深いのかも知れないよ」
「そうだね。世界は広いんだ、この広い海だって、もしかしたら、ちっぽけなものかも知れないね」

 魚の親子は、色々なことを話しながら、仲良く寄り添って泳ぎ去っていった。

あとがき:
えぇと、まぁ、何つーか。
単にシチュエイションを逆にすれば良いというものではない、とでもいうか。

リストに戻る
インデックスに戻る