星に願いを



「トシ従兄にい、遊びに行こうよ!」
「ん、マヤちゃんか。今日はどこに遊びに行……な、どうしたの、その格好!?」
 近所に住んでいる、従妹のマヤちゃんが、いつものように俺の部屋に来た。
 一人っ子で甘えん坊のマヤちゃんは、よくこうして俺の所に来ては、遊びに行こうとせがんでくる。
 妹のいない俺も、そんなマヤちゃんのことがとても可愛くて、少ないバイト代をはたいては、一緒に出かけている。

 そんなマヤちゃんだが、今日はなんと、淡い紫色の浴衣を着て現れた。
 いつもスパッツやジーンズなどの活発そうな服装しか見ていないので、とても新鮮な光景だ。
「もう、しっかりしてよ、トシ従兄。今日は何月の何日?」
「え? 今日は七月七日……ああ!」
「そうだよ、七夕だよ。商店街でお祭りもやってるから、一緒に行こ!」
「ようし。マヤちゃんの好きな、りんご飴も買ってやるからな」
「もう……。あたし、食べることばっかりじゃないよ」
「そうだっけか。まあ、いいや、行こうか」
「うん」

 十分ほど歩くと、住宅街を出て商店街に着く。
 平日だが夕方ということもあり、七夕を見に来た人達のせいか、普段よりも人通りが多い。
 あちこちに笹の葉が飾られている。
「ねえ、トシ従兄。なんで七夕には笹なの?」
「うーんと、確か昔の中国で……」
「うんうん」
「パンダが神様に自分の食べ物を捧げて願い事をしたのが始まりだったかな」
「何、それ! パンダがお祈りするわけないでしょ!」

 更に歩いていくと、子供達が集まっている場所がある。
 長テーブルに向かって何か一生懸命やっている。その横では、笹の前に何人かの列。
 どうやら短冊に願い事を書いているらしい。
「マヤちゃんも書いてみるか?」
「うん! ねえ、トシ従兄も書こうよ」
「子供だけじゃないのか? 俺でもいいのかな」
「いいに決まってるよ! 一緒に書こう!」
「ちょ、ちょっと、そんなに引っ張るなって」
 商店会の担当の人に聞くと、どうせ短冊はたっぷり余っているから、構わないそうだ。
 それならと遠慮無く、俺も一枚もらって、願い事を書き、笹に吊るす。

「ねえ、トシ従兄は何をお願いしたの?」
「俺か? 俺は『就職活動がうまくいきますように』って」
「卒論が完成しますように、の方が良かったんじゃないの?」
「言ったな、こいつ! そういうマヤちゃんは、何を書いたんだよ」
「あたし? あたしはねぇ、トシ従兄が……」
「俺が?」
「……やっぱ、内緒」
「俺のは聞いたくせに、ずるいぞ!」
「だって……」
「いいよ、じゃあ短冊の方を見てやるよ」
「あっ、駄目! 見ちゃ駄目!」
「いいだろ、別に減るもんじゃないし。えぇと、これだっけか」
「駄目だってば! やめてよ!」
「えぇと、なになに……」

    バ カ は 見 る

「…………」
「だから見ちゃ駄目って言ったのに」
「……マヤ」
「ん?」
「今度、お前の宿題見てやるとき、全部わざと間違った答えを教えてやるからな」

あとがき:
うちの実家がある町内は、もう子供が少なくなって、七夕祭りなんてやらなくなってしまった……。
去年までは一応、広場に子供達を集めてお菓子を配ったりしていたが、確か今年度からは、それすら中止になったはず。
なんだか寂しいなぁ。
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