縁結び



 秋晴れの気持ちの良い朝、あたしがいつもと同じように登校すると、クラスメイトのユリの周りにみんなが集まって、なにやら騒いでいた。
「どうしたの? ユリが何かしたの?」
「あ、チヒロ、おはよう。あのね、ユリのお父さん、会社の社長さんなんだって」
「しゃ、社長? すごい……」
「いやだぁ。社長っていっても、小さい会社だもん。全然大したことないよ」
「そういえば、チヒロのお父さんって、何やってるの?」
「あたしの? 神主だよ。うち、神社だから」
「神社の方が、社長よりすごいよ。お祓いとか祈願とか色々やってくれるんでしょ」
「一応やってるけど、効くかどうかは分からないよ。あたし、懸賞とか一回も当たったことないもん」
「縁結びとかもできるの?」
「多分できるんじゃないかな……」

 次の日。
 いつものように登校し、ゲタ箱のふたを開けると、中から一通の手紙が床に落ちた。
 ちょうど隣にいたクラスメイトが、それを拾い上げて、しげしげと眺めた。
「これ、ハート型のシールで封をしてあるよ。もしかしてラブレターじゃないの?」
「ちょっと、やだ、そんなの。ゲタ箱に手紙なんて、感覚が古いよ」
「とにかく開けて読んでみたら?」
「う、うん……」

 ちょっとドキドキしながら開封し、文面に目を通すと……

『私は二年B組の小橋君のことが好きです。どうか二人の仲を取り持ってください』

「……な、何、これ? あたしに、どうしろって言うの?」
「多分、あれじゃないかな。昨日、チヒロん家が神社で縁結びもできるなんて言ったから」
「あたしに寄越されても困るよ……。これ、どうしよう。捨てるのもなんだか悪いし……」
「とりあえず、お父さんに渡してみたら?」
「う、うん……」

 明くる日には、手紙が三通に増えていた。
 そのまた次の日、ふたを開けると小銭の入った小箱があった。賽銭のつもりだろうか。しかし五円玉が数枚では、お小遣いの足しにもならない。
 更にその翌日は、ゲタ箱の上に、セロテープで縄のようなものが留められていた。どうやら注連縄のつもりらしい。

 今後どうなるのかと悩みながら教室へと向かうと。
「あっ! チヒロ大明神様だ!」
「本当だ、チヒロ様だ!」
「拝め、拝め!」
 ドアを開けた瞬間、何故かクラスの生徒達が一斉に、私の方に向かって一礼二拝二拍手した。
 どこからか五円玉まで飛んできた。銭形平次かっての。

 これから一体どうなっちゃうんだろう。
 ああ、神様、私を助けて……。

あとがき:
なんとなく、モノリス大明神↓の話に似てるかな、と思いつつも…。
http://ameblo.jp/kuromaryu/entry-10014397684.html

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