ねこの恩返し
注意!
チョコレートに含まれているテオブロミンという物質が、
犬や猫にとっては毒となるらしいので、絶対に猫にチョコレートを与えてはいけません。
「はぁ……結局、渡せなかったな……」
夕暮れ時、セーラー服姿の少女がとぼとぼ歩きながらため息を吐く。
今日は2月14日。言わずと知れたバレンタインデーだ。
彼女も例に漏れず、ずっと想い続けている幼なじみの彼にチョコレートを渡そうとしていた。
だが、成績優秀スポーツ万能しかも童顔で母性本能をくすぐるタイプの彼は、朝から晩まで女生徒にかこまれてデレ〜ッとしちゃってて。おまけに机の上には色とりどりの包装紙に包まれたチョコレートが山のように積み重なっちゃって。
渡そうと思えばもちろん渡せたのだが、そうするとあの山の中に埋もれたりなんかしちゃって、そこに込められた自分の想いも、なんだか陳腐なものになってしまいそうで嫌だった。
あたしのチョコレートは、これまでの10年間の想いがギッシリ詰まってるのよ〜、あんた達みたいな浮ついた気持ちでそこらの店から買ってきた安物とは違うのよ〜、そんなの全部捨てちゃいなさいっ、あたしのだけが秀くんに食べられる資格があるのよ!! とか心では思っても、控えめな性格の彼女にはとてもそれを口にするだけの勇気は無かった。
「はぁ……」
また一つ大きなため息を吐くと、足元の石ころを蹴っ飛ばした。
「に゛ゃん!!」
「えっ? 何!?」
泣き声のした方に走って行くと、そこにはみかん箱に入れられた仔猫。
箱のすぐそばにはさっき彼女が蹴飛ばした石ころが落ちており、猫の頭には、×の形にバンソウコウを貼られたたんこぶができている。
「に゛ゃ〜〜」
「ご、ごめんね、当たるなんて思わなかったから……」
コブをなでながら、仔猫に謝る。
「あ、そうだ。お腹すいてるでしょ? これあげるね」
そう言って、カバンから奇麗にラッピングされた箱を取り出し、包みを破いて猫の前に置いた。
「猫ってチョコレート食べるのかな……ほら、どう?」
「にゃ〜〜」
「あ、食べてる食べてる」
かりかりかりかり。
仔猫が板チョコをかじる小気味良い音が響く。
「じゃ、あたしもう帰らなくちゃ。あたしの家、アパートだから飼えないし……。ごめんね、誰かいい人に拾われてね」
一心にチョコレートを貪り続ける仔猫を残し、彼女はなんだかすっきりしたような気分で、家へと向かった。
夜。
少女がパジャマ姿でベッドに寝転んで雑誌を読んでいると、窓を叩く音がする。
……?
ここ、3階なのに……!?
だが、ベランダの方に目をやると、そこには間違いなく小さな少女が微笑みながら、ガラスを叩いている。
「あ、あなた誰!? あたしに用? それよりも、なんでこんな所に?」
「みぃは、今日チョコレートもらった猫にゃ。恩返しに来たにゃ」
「猫ぉ!? 恩返しぃ!?」
確かに、どことなく猫っぽい雰囲気はある。
まず、左右のほっぺから各三本ずつ細いヒゲが生えているし、頭の上には茶色でおっきくてチャーミングなねこみみがある。手ももちろんねこ手だ。目はいわゆる猫目だし。ねこだから当然服は着ていない。胸も作者好みで小さ目だ。
少女は呆気に取られる。
と、その隙にねこみみ少女にベッドに押し倒された。
「ちょ、ちょっと、何するのよ」
「恩返しにゃ」
妖艶な表情を浮かべ、ねこ手を小さな舌でペロリと舐めると、器用に彼女のパジャマを脱がしてゆく。
「やだっ、やめてってばぁ。そんなざらざらした舌で舐めちゃダメぇぇぇ」
「恩返しにゃ。気持ちよくするから、おとにゃしくしてるにゃ」
「いやっ……あっ……ンはっ……」
抵抗しながらも、だんだんと身体が熱くなってくる少女。
「それじゃ、いくにゃ……」
ねこみみ少女が、すっかり準備の整ったそこに、自分のしっぽをあてがう。
「だ、ダメぇぇぇぇぇぇっ! それだけはダメっ!!」
「?」
ねこみみ少女が、きょとんとした顔で見返す。
「そんな、初めてが猫の、それも女の子なんて……。それに、あたし……」
初めては秀くんに、と言おうとして、少女は躊躇った。そんなはしたない事を言うのは、さすがにちょっと気が引ける。
が。
「おんにゃの子じゃにゃければ良いにゃ?」
ぽむっ!
ねこみみ少女が白い煙に包まれる。
そして煙が晴れた後、そこに姿を現したのは……ねこみみ少年。
「じゃ、男の子ににゃったから入れるにゃ」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
………………
ある年の2月中旬から、その街には、捨て猫や野良猫を見掛けると惨殺してしまうという、恐ろしい少女が出没するようになったという……。
あとがき:
思考経路解説
1.チョコレートネタを考えている
2.チョコレート=甘い
3.そういや、猫は甘みを感じないらしい…
4.むぅ。猫か。猫。
以下略(笑)
原動力
「販売者:キッコーマン株式会社」のワイン
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