たんじょうび



 今日は僕の誕生日だ。
 ……といっても、二十歳をとうに過ぎた身では、パーティという柄でもない。
 去年はたまたま日曜にあたったおかげで、友達が何人か来てプレゼントやケーキをくれたが、今年は平日なのでその望みも薄い。
 冥土の旅の一里塚か、などと考えながら、それでも残業は断って、ちょっと早めにアパートに帰り着いた。

 カバンから鍵を取り出し、部屋のドアを開けようとすると、階段を駆け上ってくる足音が聞こえた。
「お兄ちゃん! 今日は早かったんだね」
「ああ、ユーミか。残業しないで還ってきたから、今日は早いんだ」
「ふうん。やっぱり、誕生日だから?」
「そうだよ」
 ユーミは、近所に住んでいる小学生。何故か俺に懐いていて、日曜日にはいつも遊びに来る。まあ、俺の部屋にあるゲームや漫画が目当てなのだが。
 それにしても、かなり前にちらっと喋っただけなのに、俺の誕生日を覚えててくれたのか。

「ねえ、お兄ちゃん。あたし、お兄ちゃんに、誕生日プレゼント、用意したんだけど……」
「プレゼント? お前、いつも『お小遣いが少ない』ってぼやいていたのに、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。お金のかかるものじゃないから」
「そうか、なら安心だな」
「お兄ちゃん。受け取って……くれる?」
「もちろん。あ、でも金がかからないからって、『あたし』なんてのは駄目だぞ」
「…………」
「ん? どうした?」
「ごめん……出直してくるね」

 ユーミは、うなだれたまま部屋を出て行った。

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