第4話「天下御免の親不孝」



 ある日、帰宅した五郎は、叔父から酒の配達を頼まれる。
 五郎は「一平達と約束がある」と一度は断るが、叔父は「行きがけに断れ」と五郎に酒瓶を押しつける。
 仕方なく配達に行こうとした五郎だったが、自転車の荷台に乗せようとして手を滑らせ、酒瓶を落としてしまう。
 だが幸いにも地面に落ちる前に叔父が受け止め、「酒屋の酒は武士の刀も同然」と五郎を怒鳴りつけ、酒屋の店主としての心意気を見せつける。

 配達先の安西という家は偶然にも、五郎の同級生の家だった。颯爽と走り去る五郎に向かい、叔父は「ツケでいい、金はもらうなよ」と叫びかけるが、叔母はそれでいいのかと懸念し「他の店じゃ安西さんの所は断ってんだよ」と言う。
 だが叔父は、長い付き合いもあるためか、「手のひらを返すようなことができるか」と強気の姿勢を見せる。

 その安西の父は、人形作りの職人だった。
 しかし高度経済成長に伴って日本人形の注文が激減し、仕事のないときは酒を飲んでばかりの毎日。最後のチャンスとして受けた野球選手型マネキンも、完成したのは良いが、酔っ払った勢いで「マネキンなんか作れるか!」と酒瓶で殴ったうえに蹴飛ばして、壊してしまう。
 安西はそんな父にすがり付き、「父さんにはマネキン人形なんて簡単に作れるはずだ、頼むから仕事をしてくれ」と訴えるが、父はかつて作った歌舞伎役者などの人形を指さし「これが本当の人形なんだ」と強がるばかり。しかし、それらは注文を受けて作った売り物ではなく、工房の片隅にただ並んでいるばかりのものだった。
 自分の金ではなく母親の稼ぎで酒を飲んでいることを指摘されると、父は安西にぐい飲みを投げつけ、更に突き飛ばす。

 五郎が配達に訪れたのは、ちょうどそうして揉めている真っ最中だった。
 安西の父は喜んで酒を受け取ろうとするが、安西がその背後から、渡さないでくれと五郎にジェスチャー。
 揉めている場面も見ていた五郎は、酒を渡さない方が良いと判断し取り返そうとしたが、取り合っているうちに瓶を落として割ってしまう。

 すっかり暗くなった後、五郎と安西は父親のことで語り合っていた。
 五郎は「あんな酔っぱらいの親父なんかぶっ飛ばせ」と気軽に言うが、安西は当然ながら気を悪くする。
 安西に誘われて工房の中を覗き込むと、そこでは安西の父が、さっきとはまったく違った真剣な眼差しで、人形の手入れをしていた。
「うちの親父、今度こそ傑作を作るぞ」と、涙を浮かべて父親の腕を信じる安西に、五郎もうなずき、酒浸りになっていることを内緒にしておいてくれという安西の頼みを受け入れる。

 家に戻った五郎は、当然のことながら、叔父に怒鳴られる。
 しかし安西との約束があるため、酒瓶が割れた本当の理由を言うこともできない。
 更に悪いことに、もう酒を持っていかない方がいいと説得するうちに、その理由をツケが溜まっているからだと誤解されてしまう。
 業を煮やした叔父が自分で酒を届けようとしたところで、やむを得ず五郎が配達を引き受け、自転車に積んで出かける。
 素直に酒を届けることも、かといって持って帰ることもできず、「忠ならんとすれば孝ならずか」などと独りごちながら街中を走り回っていた五郎は、たまたま出会った一平に「これを預かってくれ」と押しつけ、とりあえずその場をごまかす。

 翌朝、事情を何も知らない一平が、酒を戻すために店を訪れたところ、叔父にその場面を見られてしまう。
 現場を見られてはどうにもならず、配達をサボったことにして罪をかぶる五郎。
 五郎が配達が嫌でサボったと思い込んでいる叔父は、「お前の性分が情けねえからだ」と説教を始める。
 叔父がまだ幼かった頃、隣の家の柿を盗んだことがあった。隣の親父に見付かってしまったが、兄がその罪を全部かぶり、弟のことは一言も言わなかったという。
 そんな兄を誇りに思っていると言い、五郎に「その息子がお前とはな、親不孝者め」と怒鳴りつける。
 五郎はその話を聞き、父親を誇らしく思うと同時に、「俺も今ちょっぴり真似してるんだぜ」と、自分の行動に自信を深めていた。

 学校に着くと、一平から話を聞いたまゆみが五郎の所へやって来た。
 詳しい事情を聞き出そうとするが、五郎に「特ダネ探すような顔をするなよ」とからかわれ、矛先を逸らされてしまう。
 だが腑に落ちない一平は引き下がらず、二人がかりで質問攻めにされている姿を安西にも気付かれ、事情がバレそうになった五郎は、早弁をしてごまかす。
 直接聞き出すのは無理と悟り、まゆみと一平は放課後に五郎と安西を尾行することにした。

 一平達の尾行に気付かず安西と共に歩いていた五郎たち。安西の家へ着くと、安西の父が酒瓶を振り回して激怒していた。
 自分が不在の間に酒を買ってこないよう、安西が財布を隠したことが理由だった。
 父は安西につかみかかり、「工場が潰れたのは時勢の流れだ」と言い訳めいたことを叫ぶと、そばにあった人形の腕で安西を思い切り殴る。
 それを見た五郎は、ついに堪忍袋の緒が切れ、安西の父をビンタで張り飛ばす。
 父も反撃するが、酔っ払っているうえに、五郎の腕力には敵わない。突き飛ばされ、弾みで人形も壊れてしまう。
 再び胸ぐらを掴み上げる五郎だったが、安西の制止を受け、手を離す。
 そして「これが俺の親父なら、俺はとうの昔に勘当してらい」と叫び、工房内の人形を滅茶滅茶に壊して走り去る。

 こっそり様子をうかがっていた一平達は、ようやく事情を知り、大石酒店へ戻って五郎の叔父に説明していた。
 だが叔父は、五郎が安西の父を殴ったという部分にのみ反応し、逆に五郎を怒鳴りつける。
 叔父は「五郎の親父が生きていたら何と言って嘆くだろう」と言うが、五郎は逆に「叔父さんに分からなくても、父ちゃんなら分かってくれる」と反論。
 どうしても話の通じない五郎は、荷物をまとめて郷里へ帰ることにした。
 去り際に叔父から「不良もん」と言われ、それに腹を立てた五郎は「ちくちょう、爆発だーっ!」と叫び、店先の酒樽の栓を片っ端から抜いて走り去る。

 五郎が出て行くのと入れ違いに、安西の父が大石酒店を訪れた。
 来訪の目的が五郎にお礼を言うためであり、「酒に逃げていたぐうたらな私を粉微塵にして下さった」という言葉を聞いた叔父は、態度をころりと変えて「五郎の奴は俺にぴったりの甥っ子だ」と、さっきと正反対のことを言う。
 しかし、その五郎は、たった今、出て行ってしまった。
 慌てて駅まで追いかけていったが、時既に遅く、ちょうど列車が出発したところだった。
 遠ざかる列車に向かって必死に叫び掛ける叔父達。
 だが五郎は、列車には乗らず、まだ駅にいた。所持金が足りず、入場券だけを買って潜り込もうとしたところ、車掌に見付かってしまったのだと言う。
 五郎に謝罪し、「わしを殴れ」と言う叔父。
 その言葉に、手加減せずに叔父をぶっ飛ばし、笑い合う五郎達だった。



 放送禁止用語の登場は無し。
 鳩山不況の嵐が吹き荒れる現代には、涙無しでは見られない人情話である。

 心を入れ替え、真面目に仕事をすると誓った安西の父であるが、その後安西は作中には登場しない。
 その後どうなったのか、ちょっとだけ気になる。

(2010/1/28)
『ばくはつ五郎』のページに戻る