第3話「なだれ崩し」



 ある夕方、叔父の店の手伝いで、自転車でビールを配達していた五郎は、道路いっぱいに広がって歩いていた不良中学生グループにぶつかってしまう。
「何すんだ、この(    )」と放送禁止用語で罵られた五郎は「ぶつかったのはお前達じゃないか」と反論するが、五郎が青空学園の生徒だと知ると、不良グループは五郎に襲い掛かる。
 さすがの五郎も、後ろから羽交い締めにされて殴られてはかなわない。五郎を思う存分いたぶった後、不良グループは「太陽中学の実力を知ったか」と言い残して立ち去る。

 時期はちょうど、青空学園対太陽中学の柔道部の対抗試合が行われる3日前。
 新聞部でもこのニュースを重点的に取り扱うことにしていた。
 一平は卒業したOBへの取材、まゆみは校内でインタビュー、そして五郎は「柔道に詳しいようだから」と柔道部付きの役割を仰せつかり、手分けして記事を書くことにした。

 校内で生徒達から話を聞こうとしたまゆみだが、しかし話題になっているのは自校ではなく、相手の太陽中学にいる柿本という選手だった。
 特に女生徒には絶大な人気で、中には「青空学園なんか絶対負ける」と言い、頬を赤らめる者までいる始末。
 それに対する青空学園柔道部は練習にも気合いが入っており、部長の荒熊は部員達を前に試合までの間は遊ぶのを禁止し、本を読むことさえやめて練習に専念するよう言い渡していた。

 そんな中で荒熊は、松原という選手との稽古に、特に力を入れていた。
 思い切り投げ飛ばしては「お茶かお花をやってりゃいいんだ」「今度負けたら柔道部を追い出す」と、他の部員達の前で罵倒する。
 そんな言葉に松原はすっかり落ち込んでしまい、夕暮れの柔道部室に一人佇んでいた。
 五郎は松原に、試合に臨んでの気持ちを聞こうとするが、馬鹿にされたと感じた松原は五郎に掴み掛かる。しかし、いくら力を入れても五郎の身体はびくともせず、逆に軽々と投げ飛ばされてしまう。
 柔道部員ですらない五郎にも勝てずに、松原はうずくまって頭をかきむしり、「僕は勝ちたい、選手でいたいんだ」と泣き崩れる。
 松原は、自分では太刀打ちできず、荒熊をも投げ飛ばしたことのある五郎に、柔道の稽古を付けてくれるよう頼む。
 少し迷った後、五郎は「柔道の技を教えるなんて大それた事はできない、教えられるとすれば気合いだけだ」と、承諾。

 柔道部の練習が終わった後、五郎と松原は草原で猛特訓していた。
 力任せに挑み掛かってくる松原を五郎は軽く投げ飛ばし、「力んでも駄目だ、相手の気持ちを知ることだ」と教える。
 やがて辺りがすっかり暗くなった頃、二人は川原に座って語り合っていた。
 松原の兄も、柔道をやっていたという。強い選手だったが、試合で怪我をして引退してしまった。
 その弟だということで選手にしてもらい、兄のためにも立派な選手でいたい気持ちもあるが、それよりも柔道が死ぬほど好きだと訴える松原。
 そんな松原の熱意に、五郎も協力を約束。

 翌日、柔道部長の荒熊と副部長の鬼丸が、教頭の赤原に呼び出されていた。
 弱い松原を選手から外し、代わりに補欠から誰かを入れろという赤原。
 だが荒熊は「松原は素質を持っている、ただ気が弱いだけだ」と固辞。「選手を決めるのは俺だ!」と赤原を怒鳴りつけて1mも飛び上がらせる。
 柔道場へ戻った荒熊は松原を前に、自分が松原をけなすのは自信を付けてやりたいからだ、勝つという信念を持てと諭す。
 そこへ割って入る五郎。
 荒熊のそういう言葉が悪い、松原は負けてはならないと焦っているため試合が消極的になってしまう、と反論する。

 その日も五郎と松原の特訓は続いていた。
 五郎は「馬鹿野郎それでも男か!」「なんだそのザマは」と、荒熊よりも更にひどいことを言いながら、松原を投げ飛ばし続ける。
 だが同時に、何があっても決してむきにならず、無心になって戦うようにとも教える。特訓の中で松原の弱点を見抜いている五郎だからこそ言えるアドバイスだった。
 すっかり暗くなった頃、練習をやめて帰ろうとする五郎達だったが、松原が石につまづいて土手を転がり落ちて頭を石にぶつけ入院してしまう。

 松原を欠いたまま、対抗試合の日になった。
 青空学園のメンバーは順調に勝ちを重ねていたが、いよいよ太陽中学の柿本が登場。
 柿本の必殺技「なだれ崩し」は、突っ込んでくる相手に対して低い体勢で構え、相手の勢いをそのままに一度やり過ごして後ろへ突き飛ばした後、振り返ってから遙か後ろにいる相手に飛びついて脚を踏ん張ると、相手が突然手足を上に向けて背中でぐるぐる回り出し、その後自分の方へ吸い寄せられてくるので、そこを待ち構えてわざわざ背中の方に回り込ませてから背負い投げという、恐ろしい技だ。
 柿本の前に、青空学園の選手達は次々と倒されていく。
 そんなとき、松原の柔道に掛ける熱意を思い出した五郎は、松原が入院している病院へと走り出した。

 松原は五郎と一緒に病院の窓から抜け出し、敷地内に駐められていた自転車を借りて試合会場へと急ぐ。
「試合に出たかった」と喜ぶ松原に、五郎は「お前は怪我をしたんだ、負けても当然だ」と言う。
 二人が会場に着いたとき、既に副将の鬼丸も敗れ、残るは小山と荒熊の2選手だけとなっていた。だが柿本の迫力を前に、震えるばかりの小山。
 小山がまだ畳に上がっていないのを見て、五郎は荒熊に、松原を試合に出してくれるよう懇願。
 土下座する五郎と、松原の目を見た荒熊は了承。

 五郎の言葉で、松原はすっかり焦りが消え、相手の呼吸をうまく読んでいた。
 柿本の一本背負いにもうまく合わせて体勢を崩し、同体に持ち込む。
 怪我のせいもあって「どうせ負けるんなら冷静に投げられてやろう」と開き直った松原に対し、柿本は投げが決まらなかったせいで逆に焦っていた。
 早く勝負を決めようと、なだれ崩しの体勢に持ち込む柿本。
 だが松原は、飛びつかれた時点で逆に相手を掴み、投げ飛ばす。柿本もただでは負けずに投げ返し、もつれ合う二人だったが、松原は畳をえぐる程の勢いでかかとを突いて止め、勢いで柿本を投げ飛ばして一本勝ち。

 試合終了後、控え室で待っていた五郎に、松原は走り寄って握手を求める。
 やがて主将の荒熊も駆けつけ、男泣きにむせぶ五郎たちだった。



 今回は放送禁止用語の登場は無し。ちゃんとカットされていた。残念。

 荒熊の松原に対する言動を非難しておきながら、自分は特訓の中で更にひどいことを言う五郎。
 わざわざ教頭が柔道部長を呼びつけて、選手の起用について注文。
 病院に駐めてあった誰かの自転車を勝手に借りる五郎達。
 サブタイトルの「なだれ崩し」は後半になってやっと登場、しかも敵側の技、おまけに意味不明な動きを見せる。
 それにも増して動きを理解しがたい、松原の「なだれ崩し」返し。
 ツッコミ点は以前鑑賞したとき以上に多数。

 そして、これまでは「暴力集団・柔道部のボス」としてしか描かれなかった荒熊の、新たな一面がついに画面に現れた。
 当初はただ松原を罵倒しているようでありながら、選手から外せという赤原の要求を突っぱね、選手として活躍して欲しいと願う姿。そして松原の勝利に涙を流す男意気。
 やはり名部長である。

 ←ところで今回、こんな場面があった。
 来賓席に校長がいるのは良いが、何故その隣に、新聞部の先生が?

(2009/5/23)
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