蝉 2000.8.12 up
蝉の声が聞こえると、夏の暑さが身にしみるように感じるので、 蒸し暑い夏が苦手な私は、蝉がいなければもう少し涼しいだろうに…と思ってしまいます。 しかし、蝉が鳴かなければ夏らしくないという人もいることでしょう。 その善し悪し(好き嫌い?)は別にして、蝉は日本の夏に欠かせない存在と言えそうです。 蝉の写真をUPしたこともあり、今回は蝉の話です。 よく知られているように、蝉は幼虫時代に何年も土の中で暮らし、 ようやく地上で成虫になったと思ったら、1週間くらいで死んでしまいます。 子供の頃にこのことを初めて聞いたとき、とても驚きました。 長かった土の中の暮らしを終え、やっと自由に飛べるようになったというのに、 わずか1週間の命というのはとてもかわいそうだと思ったのです。 しかし、蝉の立場になって考えてみたら、本当のところはどうなのでしょうか? 土の中は、地上に比べれば安全です。 温度の変化が少ないので過ごしやすいことでしょう。 木の根にしがみついて汁を吸っていれば飢え死にすることもありません。 あわてず急がず、のんびりと暮らすことができるのです。 それに比較すると、地上では、大いなる試練が待ちかまえています。 暗くなってから地上に出てきて、夜明けまでに羽化を終えて飛べるようにならなければなりません。 しかし、私のような人間が外で待ちかまえていることもあるのです。 (それが私であれば、ちゃんと家で羽化させてもらえるので、運が良いと言えます。) もしも羽化の途中で足が木から離れて落ちてしまえば、もうおしまいです。 そんな蝉を見つけたことがあります。 一度も飛ぶことができないのはどんなに無念なことか、想像するだけで胸が痛みます。 無事に羽化できた後も、鳥などに捕まらないように注意しなければなりません。 トンボのような飛行技術を持たず、蝶のように優雅に飛ぶこともできない蝉は、 障害物にぶつかって地面に落ち、ひっくり返ってしまうこともあります。 あの体の造りは、大きな声を出すには適しているようですが、 そのために飛ぶ能力が犠牲になっているように思われます。 それに何と言っても、羽化してしまった蝉にとって、残された時間は短いのです。 そのことを蝉が知っているから、あんなにせわしなく憑かれたように鳴くのではないでしょうか。 ミンミンゼミは、おもしろくないことがあって、やけになって鳴いているとしか思えないときがあります。 ツクツクホーシは、「ただでさえ出遅れたのに、鳴くのを忘れてた!」 とでも言うように鳴き始め、どんどん鳴き方が速くなり、最後は疲れ果ててしまったように鳴き終えます。 アブラゼミは、どことなく義務感で鳴いているように聞こえます。 どれも、楽しく愉快に鳴いているようには聞こえません。 このように考えてみると、本当は、蝉は地上に出て来たくないのではないか、 と思えてきます。 しかし、一方で、それがどんなにつらいことであっても、 一匹一匹の蝉が地上で羽化して、子孫を残してきたからこそ、 今現在、これだけたくさんの蝉が鳴いているのです。 もしも土の中の生活に満足してしまい、地上に出るという危険を冒さなければ、 蝉は絶滅していたはずです。 蝉の幼虫は、なにも知らずに本能に従って地上に出て来ると考えるのが常識的ですが、 地面をよたよたと歩き、木の幹を一歩一歩登っていく姿の裏には、 決死の覚悟が隠れているのかもしれません。