フランの日常  作:紅嬢妹 朔夜 警告! ・東方キャラが皆様のイメージとかなり違うかもしれません。 ・というかキャラ崩壊もイイトコです。 ・俺設定ありありです。 ・この物語はフィクションです。 ・若干キャッキャムフフな描写が無きにしもあらずかもしれませんが、所謂絡みやカップリング等は無い筈です。 ・それでも良い!と言う方のみ、読み進めてください。 ・二次創作や、上記の設定などに嫌悪感を抱くおそれのある方は、引き返しておく事をオススメ致します。 じゃら… 「ん…」 日の光の一切届かない、冷たく暗い地下室。 その暗闇の中、金属の擦れる音で目を覚ます。 それが、私のいつもの朝。 眠っていたのかどうかも判らない。 ずっと起きていたような気もするし、悲しい夢を見ていた気もする。 じゃらじゃら… 寝ぼけ眼を擦ろうとする度、気だるい金属の拘束感が意識を覚醒させてゆく。 四肢を拘束する無骨な鎖は、しかし私には見慣れた寝具の一部程度にしか感じない。 とはいえ足も重く、動かす気すら起きない。 こんなもの壊そうと思えばすぐにでも解けるのだが私にその気は無い。 詰まる所、私は今日も鎖に繋がれたままでいたいのだ。 「ん…」 足元がスースーする。 拘束されていては満足にトイレもいけない。 なので咲夜に頼んでここ最近は、寝る時には下に何もつけていない。 私だって、お気に入りの服を汚したくは無いのだ。 だけど、いくら「いつでも出来るように」してあるからと言って、本当にやってしまってはあまりにも情け無い。 私だってもう立派な“れでぃ〜”なのだ。 尤も、「気が触れている」と噂されている私が本当に排泄物を床にブチ撒けていたとしても人は咎めはしないだろう。 何をしても良いというのはある意味魅力だ。 それでも、一部の業界ではご褒美かもしれない粗相は、生憎と未だ一度もした事が無い。 私達吸血鬼は、定期的に少量の血さえ摂取すれば基本的に死にはしない。 故に、消化して排泄に至る量の食べ物を摂取しなければ、こんなもの「念のため」程度で済むのだ。 そんな状況であるにもかかわらず敢えて贅沢を言うならば、今の私は迷わずこう答える。 そろそろ咲夜が持ってきてくれるであろう、朝のオレンジジュースが待ち遠しいと。 コツ、コツ、コツ… 扉の向こうの廊下から、微かな足音が聞こえてくる。 規則正しく動きに一切の無駄が無い、美しいとすら思える足音。 こんな音を出せるのは、間違いなく彼女だ。 コンコン… 軽くドアをノックする音。 「お早う御座いますフランドールお嬢様、もう起きていらっしゃいますか?」 鈴を転がしたような少女の声。 私は言葉を発することなく、小さく意図的に鎖をじゃらりと鳴らす。 それだけで扉の向こうに控える声の主、十六夜咲夜は全てを理解してドアノブを廻す。 ガチャリと小さく音を立てて入ってくる、メイド服に身を包んだ銀髪の少女。 その表情は私の姿を認めた瞬間にやや曇った。 「妹様、顔色があまり宜しく無いようですが、やはりちゃんとベッドでお休みになられた方が…」 「ううん、良いの。ありがとう♪ それよりも…」 「心得ています」 私の返答を遮り、咲夜は私が待ち焦がれていたものを見せてくれる。 透明なガラスの瓶に詰められ、氷でよく冷やされた黄金色の飲み物。 「今日も良いオレンジが入りました。果汁100%の絞りたてです♪」 「そう! それを待ってたのよ!」 思わず目を輝かせてしまう。 「それでは、ササッと着替えを済ませてしまいましょう♪」 そう言って一旦それを脇に置くと、咲夜はまずフランドールの拘束を解きにかかる。 カチャリと鍵を回す音を数回立て、四肢や胴体を拘束していた鎖を外す。 次いでやや汗ばんだ彼女の寝巻きをあっさりと脱がし、鎖が拘束していた部分を含め、身体全体を万言なく冷たい水で濡らしたタオルで拭いてゆく。 「また脱がすの早くなったわね」 「妹様、人が好きで脱がしまくってるみたいに言わないで下さい」 「そうだよね。咲夜にとっては“仕事だから仕方なく”だもんね…」 「そういう事を言って困らせないで下さい。私が本当に嫌いな相手には触りたくも無い事、妹様もご存知の筈ですよ」 「えへへ、ありがと♪」 「その笑顔も反則です」 お互いに笑いながら冗談を言い合う。 本来ならば主従の関係に近い間柄だが、こういうやりとりが私は好きだ。 時折敏感な部分に触れる冷たい感触がくすぐったくて声を漏らしてしまったが、咲夜は特に気にした風もなく笑顔のままで、一晩中拘束されていた私の身体を拭いてくれた。 そうして次は乾いたタオルで全身の汗と水分を綺麗に拭き終えると、今度は私の着替えを用意してくれる。 いつもと同じ紅い服と、お姉様のとよく似たお揃いの帽子。 私の大好きな服装だ。 そして、寝巻き以外の時にはちゃんと着ている、これも私のお気に入りの下着。 色と柄は…“おとめのひみつ♪”なのだ。 「さぁ、お手伝いさせて頂きます」 そう言う咲夜に身体を預けると、彼女は手馴れた感じで私を可愛く仕立ててくれる。 そんな彼女の手を何とはなしに掴むと、彼女は不思議そうな顔をしてこちらを覗き込んできた。 「あの、妹様…?」 「咲夜の手、あったかいね♪」 「…ありがとうございます♪」 そう告げると咲夜は笑顔のまま、その優しい手で私の頭を撫でてくれた。 子供扱いされるのは正直癪だが、咲夜の手は嫌いじゃない。 「さ、出来ましたよ」 そう言って鏡の前に立たせてくれる。 「ありがとう咲夜」 礼を述べると、いつの間にか咲夜はオレンジジュースをグラスに注いでいて、私の前に差し出してくれた。 「こぼさない様に気をつけてくださいね。折角のおめかしが台無しになってしまいますから♪」 「あら、そんなに子供じゃないわ♪」 言い返して、一気に飲み干す。 うん、冷たくて美味しい。 「あらあら妹様、口元におヒゲが…」 タオルでそっと口元を拭われる。 「はい、これで綺麗になりましたよ♪」 「…ありがとう」 少々子供扱いが過ぎてむくれた私に気付いたのか、咲夜はポンと手を鳴らす。 「では、そろそろ朝食に致しましょう。レミリアお嬢様やパチュリー様も、既に食堂でお待ちかねです」 「えぇ、すぐ行くわ」 「お供致します。暗いので、足元にお気をつけ下さい」 私の手をとって半歩先を進んでくれる咲夜と共に、私は食堂へと向かった。 私の名前はフランドール・スカーレット。 この紅魔館の主レミリア・スカーレットを姉に持つここの住人だ。 使用人や住人達からは「フランドール様」とか「妹様」と呼ばれて慕われている。 でも、本当に凄いのはお姉様なので、私までちやほやされて良いのか、時々疑問に思う。 以前それをお姉様に聞いてみたけど、「当然でしょ。ここの使用人はその為に居るのだから」と言われた。 結局よく判らなかったけど、お姉様が良いと言うのなら良いのだろう。 お姉様はここの“御館様”なのだから。 そして、先ほどから私のそばについているこのパーフェクトメイドは十六夜咲夜。 万一他の使用人が機能しなくても咲夜さえいれば大丈夫、とお姉様に言わしめるくらい完璧なメイド長だ。 だけど、門番をしてる美鈴が以前私にこっそり教えてくれた事がある。 「咲夜さんは一見すると完璧ですけど、実は胸の所にちょっとした弱点があるんですよ〜♪」 なんて、私以上にほんわかした笑顔で言ってた。 ただ、何故かその直後に美鈴は原因不明の大怪我を負い、数日ベッドで寝込んでいたが。 昏睡状態の彼女はしきりに「PADが〜!PADが〜!」とうなされていたが、結局何だったのだろうか? 私にはさっぱり判らなかった。 だけど、咲夜みたいに謎の多い女というのはちょっとカッコイイ気がする。 それに、周囲から怖れられている私やお姉様とも普通に接してくれる。 実の所、それが何よりも嬉しかったりするのだ。 特に、それが理由で長い間幽閉されていた私にとっては。 まぁ、そのお陰で今も自主的に軟禁生活のようなスタイルを自分に科しているのも、そんなに苦ではない。 お姉様に迷惑を掛けたくは無いし、咲夜を始めここの住人達のように私の事を想ってくれる人がいるから、そういうのも平気なのだ。 勿論、口に出して言うのは死ぬ程恥ずかしいので、普段は素っ気無くしているのだが。 「さぁ、着きましたよ」 不意に咲夜から声を掛けられて我に返る。 どうやら、いつの間にか食堂の前まで来ていたようだ。 ギイィィ… 扉の軋む音を聞きながら、咲夜の開けてくれた道を進む。 「お早うフラン」 「お早う、妹様」 「お早う御座います、お姉様。お早う、パチュリー♪」 食堂に入るなり声を掛けてくれた2人に笑顔で挨拶する。 レミリア・スカーレット。 押しも押されぬ紅魔館の主にして、私の大好きなお姉様。 とっても強くて優しい。 お姉様の言葉をそのまま使うなら、それが“カリスマ”というものらしい。 私にはよく判らない。 そして、それに反して一見するとあまり丈夫ではなさそうなもう1人はパチュリー・ノーレッジ。 紅魔館の大図書館に住む稀代の魔法使いだ。 とても物知りで色んな事を教えてくれる彼女は、私にとっては咲夜同様もう1人のお姉様みたいな存在だ。 「フラン、咲夜から報告を聞いているけど、大丈夫?」 お姉様が質問してきたそれは、恐らく私の体調についてだろう。 というか彼女はずっと私と一緒にいたのに、いつの間に報告を済ませたのだろうか。 こっそり時を止めて報告していたのだろうか。謎だ。 「うん、大丈夫だよ♪」 「あまり無理はしない方が良いわ。幾ら妹様でも、わざわざあんな事する必要は無いのよ?」 パチュリーも話に加わってくる。 彼女も私が眠る時の事を知っているのだ。 「ううん、自分で決めた事だから」 「そう…」 少しだけ、お姉様が悲しそうな表情をする。 私が先程まで繋がれていた鎖には、魔力を大きく抑制する効果がある。 私が寝ている間にうっかり力を発動させない為には、あの位の拘束が必要なのだ。 勿論、繋がれていなければならない為、安眠は難しい。 まぁ、それでも最近は大分コツも掴めて来ているのだが。 「それよりもお腹が空いたわ。お姉様、食事にしましょう♪」 「えぇ、そうね… 咲夜?」 「はいお嬢様、既に準備は整っております」 咲夜が軽く指を鳴らすと、彼女の配下の妖精メイド達が一斉に食事の準備を始める。 流石に咲夜の率いるメイド部隊だけあって、彼女らは2分と掛からずに準備を終えてしまった。 真っ赤なトマトジュースとコーンポタージュ。 サラダにトースト。 今日は久しぶりに食欲があるので、量は軽めだがしっかりとした食事だ。 目の前にすると、思わずお腹が鳴ってしまう。 「もう、フランってば…」 その様子がおかしかったのか、お姉様がクスクスと笑う。 「さ、頂きましょう」 『いただきます!』 皆で声を合わせ、食事を始める。 「咲夜、たまには貴女も一緒にどう?」 「有難う御座いますお嬢様。ですが私は既に済ませておりますので御心配には及びません。御心遣いだけ、有難く頂戴致します」 「そう」 「ねぇ咲夜、美鈴は?」 「美鈴でしたら、私と同様既に食事を済ませ、門の前に立っております。彼女に何か御用でしたか?」 「ううん、そうじゃないけど。美鈴もたまには一緒に食事したいんじゃないかなって」 「まぁ、妹様のその言葉を聞いたら、きっと彼女も喜ぶでしょう」 そんな取り止めの無い会話をしながら食事をする。 この、家族と呼べるような人達と過ごす一時が、私にとってのかけがえの無い時間。 こんな時間があるから、私は鎖に繋がれるのも平気なのだ。 そんな小さな幸せを噛み締めながら、私はラズベリージャムを塗りたくったトーストに齧り付いた。 「美鈴、お早う!」 「妹様、お早う御座います♪」 門の外で立っていた美鈴は、私を快く迎えてくれた。 「どうかなさいましたか?」 「ううん、特に用があったわけじゃないんだけど…」 「?」 不思議そうな顔をしている彼女の前に、私は手に持っていた物を差し出す。 朝食を済ませた私は咲夜に頼んで、2人分の紅茶とスイーツを用意して貰ったのだ。 「差し入れ。一緒に食べよ♪」 「まぁ、有難う御座います♪」 そう言って一旦門の中に入ってくる美鈴。 中国とか役立たずとか言われているけど、実際の所美鈴は強い。 何しろ、あのお姉様が腕を見込んで紅魔館の門番としているのだ。 人間はおろか、ちょっとした妖怪程度では彼女の足元にも及ばない。 とはいえ、流石に箒にまたがって上から侵入してくる白黒魔法使いまでは阻止出来ないようだが。 まぁ、今の所特に人的被害は出ていないようなので、お姉様もそれは黙認しているらしい。 尤も、度々本を盗まれる(白黒の魔法使いが言うには“借りている”らしいが)パチュリーはたまったものではないだろう。 ベンチに腰掛け、紅茶とスイーツを用意していく。 今日は、ヨーグルトのブルーベリーソース掛けだ。 『いただきます♪』 二人で声を合わせ、カチャカチャと食器を鳴らしながら食後のティータイムを満喫する。 外で食べると、ちょっとしたピクニックみたいで嬉しくなる。 「怪我、もう大丈夫?」 美鈴に聞いてみる。 「はい、もう大丈夫ですよ」 そう言ってガッツポーズをとる美鈴。 「流石にあの時は本気で死ぬかと思いましたけどね♪」 朗らかな笑みを浮かべながら答える。 何と言うか、タフだ。 「ゴメンね美鈴、私が変な事聞いちゃったから」 「そんな、妹様のせいじゃありませんよ。それに私は門番ですから、身体の頑丈さだけには定評があるんですよ♪」 屈託なく笑う彼女に、流石に少々申し訳なさを感じてしまう。 だが、そんな私の心を機敏に読み取ったのか、美鈴が私を抱き締めてくる。 「ちょ、美鈴…」 「だから、そんな顔なさらないで下さい。妹様にそんな顔をされると、私も悲しいです」 優しく頭を撫でてくれる美鈴の手と、私を包んでくれる彼女の胸がとても温かい。 だけど何と言うか、その… 何だろう、この胸の、言い知れぬ敗北感は? 「ま、負けないんだからねっ!」 「…はい?」 咲夜の気持ちがちょっとだけ判った気がした。 「だからナマチチですって!」 何か聞こえた気がしたが、多分気のせいだと思う。 それにしても、美鈴のあのボリュームはちょっと羨ましい。 …牛乳を沢山飲んだら、私もあんな風になれるだろうか? ニコニコ笑っている美鈴を眺めてそんな事を考えながら、私は最後の一口をパクリとたいらげた。 「そう言えばフランお嬢様、今日はどこかへお出掛けですか?」 ヨーグルトを食べ終えた美鈴が訪ねてくる。 「お嬢様方にとっては折角のお出掛け日和ですし」 空を眺めながら話す美鈴の視線の先には、成る程確かに絶好の曇り空だ。 しかも巧い事に、雨が降るような雲ではなさそうだ。 「そうね… もう少しお屋敷の中を歩いてから決めるわ」 これからの事を考える。 吸血鬼の寿命に比べれば今日1日の“これから”など、考えても刹那の憂いに過ぎない。 時間は幾らでもあるのだ。 「あ、フランお嬢様こっちこっち!」 と、いつの間にか門の外に戻っていた美鈴が、不意に嬉しそうな声でフランを呼ぶ。 「どうしたの?」 「お静かに、そっとこちらへ」 「?」 ますます訳が分からないが、とりあえず言う通りそっと美鈴のそばまで寄っていく。 「どうしたの美鈴?」 「ほら、あそこ…」 美鈴が指差したのは、紅魔館の脇の小さな茂み。 そして、その先にいたのは… 「キュウ〜ン…」 「クゥ〜ン…」 小さな数匹の仔犬と、彼等にお乳を与える母犬だった。 「わぁ、可愛い〜♪」 「実はこの子達、何日か前からこの辺に居たんですよ」 美鈴が小さな声で告げる。 「もう、それなら教えてくれれば良かったのに〜」 フランがプンスカといった感じで不満を唱える。 「すみません、実は最初に見つけた時、まだこの子達はお母さんのお腹の中に居る状態だったので」 美鈴が発見時の経緯を話し始める。 門番説明中…。 「いきなり大勢で覗いて、要らぬ警戒心を母犬に与えてストレスになっては良くないと思ったので… すみませんお嬢様」 「そう… それなら仕方ないわ。気にしないで」 フランも、何となくは美鈴の言うことが判った。 つまり母親がゆっくりしていないと、お腹の中の赤ちゃんがゆっくり出来ないという事なのだろう。 「でも、こんなに可愛い子達… お姉様達にも見せてあげたいなぁ」 「そうですねぇ…」 美鈴がしばし考える。 「時々交代で見にくれば良いんじゃないですかね? 少しおやつも持っていきながら」 「そっか、それなら母犬も安心してくれるか…」 「いけませんよ」 「なっ?!」 声に振り返ると、いつの間にか美鈴達の背後に咲夜が立っていた。 そして心なしか、その表情は怒っているようにも見える。 「美鈴、貴女また仕事中に…」 「ア、アハハハ… すみません…」 「フランお嬢様もです。美鈴への差し入れ程度なら構いませんが、彼女も仕事がありますから」 「あ、うん… ゴメンナサイ…」 途端にしゅんとなるフラン。 そう、フランにとっては家族のような存在でも、美鈴や咲夜にとっては主従の関係なのだ。 幾ら主が良いと言っても、その仕事を必要以上に邪魔してはいけない。 「まぁ、お嬢様も美鈴も反省したようですし、“そちらの件”についてはもう良いとしますが…」 「あ、あのぉ… まだ何か…?」 思わず美鈴が問いかける。 「判らないの? まぁいいわ。美鈴、その犬達に無闇にエサを与えてはいけません」 「そんなぁっ!」 思わずフランが声を上げる。 「ちょっとだけだから…」 「いけません」 が、咲夜は断固として譲らない。 「どうしてよ!」 が、フランにとってはたまったものではない。 突然訳も判らないまま、折角見つけた楽しみを取り上げられてしまったのだ。 それも、“咲夜とも一緒に”楽しもうと思っていた事なのに。 「お嬢様。彼等は“野生”として、自然の中で生きているんです」 不満一杯のフランの肩にそっと手を置き、優しく諭すように話しかける。 「それはこの仔犬達にとって、生きる力を育てていくという大事な事なんです」 美鈴も、黙って咲夜の話を聞いていた。 「人が安易にエサを与えて、誰かに依存する事を覚えさせてしまったら、もうその瞬間から、この子達は野生では生きられないんです」 「…っ!」 咲夜の言葉にハッとする。 それはつまり、自分の何気ない行為が、この仔犬達を殺してしまうという事なのだ。 「咲夜さん、幾らなんでもそんな言い方…」 流石に堪えかねて美鈴が口を挟む。 「飼えば良いとでも思っているの? だけどそれって、殺さない代わりにこの仔犬達の“自由”を奪う事なのよ?」 「…それは!」 「もし、貴女がこの仔犬だったらどう思う? 自分の自由を奪われて、誰かの都合で一生鎖に繋がれていたいかしら?」 「…」 美鈴には、反論の余地など無かった。 否応なく、納得させられてしまったから。 咲夜の言っている事は、間違いではないと。 「でも、そんな言い方って無いですよ… フランお嬢様はただ、咲夜さんにもこの仔犬達を見せてあげたいと思って言っただけなのに…」 とうとう、フランよりも先に美鈴の方が泣き出してしまった。 「…すみません、少し言い過ぎました」 「ううん、ありがとう…」 小さく呟いて、フランがトボトボと歩き出す。 「あ、フランお嬢様…」 涙をぬぐって美鈴が呼び止めると、フランは一度だけ振り返った。 「今日は、部屋で休んでるね…」 それだけ言うと、フランは館の奥へと姿を消してしまった。 「…私って駄目ね」 美鈴と2人きりになってようやく咲夜が呟いたのは、落胆の吐息だった。 純真なフランドールの事だ。 きっと純粋に、この可愛い生き物達の事を皆に伝えて、喜んでもらおうと思っていたのだろう。 なのに、自分はその心遣いを踏みにじるような事を言ってしまった。 嫌われたかもしれない。 今更ながらに後悔していた。 どれだけ大人びていても、自分もまだまだ子供なのかもしれない。 「大丈夫ですよ♪」 いつの間にか笑顔を取り戻していた美鈴が咲夜の手を取る。 「美鈴…」 「フランお嬢様だって、咲夜さんの言ってる事が間違いではないって、判ってくれてますよきっと」 「…だと良いんだけど」 珍しく、咲夜が溜め息を吐いて本音を漏らす。 「大丈夫ですって。私は信じてますから! 咲夜さんもフランお嬢様も、レミリアお嬢様やパチュリー様、それに小悪魔だって、ここの住人は皆優しいって」 屈託の無い笑顔でそう言われ、思わず咲夜も笑みをこぼす。 彼女の、底抜けの明るさに。 「全く… 貴女と話してると落ち込むのすらバカらしいわ…」 「あっははは、やだなー咲夜さん、褒め過ぎですよー♪」 「ホンット、バカらしくなるわ…」 クスリと笑いながら、咲夜は心の中で美鈴に感謝した。 「咲夜に、嫌われちゃったかな…?」 一方のフランも自室のベッドに寝転がって肘をつき、先程の咲夜とのやり取りを思い出して自己嫌悪に陥っていた。 つい、我侭を言って困らせてしまった。 確かに咲夜の頑なな態度にも問題はあったが、それも彼女なりにあの犬達を思えばこその言葉だったのだろう。 「顔、会わせ辛いな…」 やはり、どんな顔をして彼女に会えば良いのか判らなかった。 咲夜を拒絶したいわけではないが、彼女と会うのが怖かった。 また、嫌われるような事を言ってしまわないか。 それがたまらなく不安だった。 コンコン… 「咲夜っ?!」 突然部屋に響いたノックの音に、つい大声を上げてしまうフラン。 「私よ、パチュリー」 「あ、うん、どうぞ…」 が、残念ながらと言うのは失礼だが、部屋に現れたのはフランの考えていた人物ではなかった。 「えっと、その… どうしたの?」 おずおずと尋ねてみる。 が、それに対してパチュリーの答えは実にシンプルだった。 「別に」 「え、じゃあ…?」 何をしにここへ、と聞こうとした所で、パチュリーが口を開く。 「ただ、少し気になったのよ。外から戻ってきた貴女と廊下ですれ違った時、とても悲しそうだったから」 「あ…」 フランが呆然とする。 無理も無い。 さっき彼女は、パチュリーとすれ違った事にすら気付いていなかったのだから。 「その様子だと、気づいてなかったみたいね」 「あぅ、ご、ごめんなさい…」 「別にいいわ」 そう言ってフランの隣に腰掛ける。 「咲夜と、何かあったの?」 「…!」 ズバリ核心を突いてくる。 尤も、自分の落ち込みようと先程パチュリーがノックした際の言葉を聞かれていたなら、当然だろう。 「犬が居たんだ。屋敷の外に」 「犬? あぁ、美鈴が見つけたコーギーの親子達ね」 パチュリーも、どうやら知っていたようだった。 「美鈴とね、話してたんだ。皆で一緒に見れたら良いねって」 「そう…」 「おやつとかあげて、一緒に遊ぼうって話してたんだ。だけど、咲夜が駄目だって」 「そう…」 「咲夜の言う事、間違ってないと思うんだ。だけど、ただね…」 「咲夜にも、笑って欲しかったのね…」 フランの瞳をまっすぐに見つめ、それでいて優しくその頭を撫でる。 「…ありがとう。ゴメンネ、私なんかの為に気を遣わせちゃって」 「違うわ」 「え…?」 フランの言葉を、初めてきっぱりと否定した。 「貴女がレミィの妹だからじゃない。私が貴女に、そうしたいと思ったからよ」 「パチュリー…」 「当たり前でしょ、家族なんだから」 「かぞ、く…?」 「一緒に住んでいて、食事だって共にしてる。お風呂だって。それに、私は貴女が好き。貴女が大事。レミィも美鈴も咲夜も、同じ位好き。ほら、どこからどう見たって家族じゃない」 「あぅ…」 「貴女は違うの? 私の事、皆の事、嫌い?」 「う、ううん! 皆大好き! お姉様もパチュリーも美鈴も。咲夜の事だって、大好きだよ!」 真剣な眼差しでそう語るフランに、パチュリーは小さく微笑んだ。 そうだ、この笑顔だ。 かつてレミリアと共に誓った、“彼女の笑顔を守る”こと。 今ひとたび、自分はそれを成す事が出来た。 それは不思議と、パチュリーにとって誇らしい気持ち。 あぁ、自分はこんなにも家族が愛しかったのか。 ゴロゴロ… 朝の天気から一転して、紅魔館の周辺には暗雲が立ち込め始めた。 それに一抹の不安を抱きながらも、パチュリーは自らの胸に顔を埋めるフランの頭を優しく撫でていた。 「聞いたわよ咲夜」 窓際でティータイムを楽しんでいたレミリアが、不意に傍で給仕をしていた咲夜に声を掛ける。 「美鈴と、フランドールお嬢様の事ですね」 咲夜もそれは予想していたようでやや曇った顔をする。 「…ありがとう、咲夜」 だが、レミリアからの言葉は、咲夜の予想していたものと随分異なるものだった。 てっきり、お叱りを受けると思っていたのだ。 「なによその顔は。もしかして、私がそんな小さな事で怒るとでも思ってたの?」 「は、はぁ… あ、いえ、決してそのような…」 彼女の意地悪な笑みにあてられ、思わず顔を赤くしてしまう。 「まぁいいわ」 クスクスと笑いながら、咲夜の淹れてくれたアップルティーに口をつける。 「あの子には色々と教えないといけないからね。外に出ても大丈夫なように」 「…はい」 フランの解放。 それは、レミリアが姉として願ってやまない、ささやかで小さな、果てしなく難しいたったひとつの夢。 彼女の力は、危険過ぎる。 それでも今は精神的に大分落ち着いているから、館の周りくらいなら外出も許している。 だけど… 「もっと広い世界を、あの子にも…」 「そうですね…」 力強く頷く。 「貴女にも、迷惑を掛けるかもしれないけど…」 「お嬢様」 咲夜が言葉を遮る。 「言った筈ですよ。私も、お嬢様やフランお嬢様が、私にとっては大切な家族だからこそ、ここに居たいのです」 心からの笑顔で、そう語る。 それに対して、レミリアは… 「自分の主を家族呼ばわりとは、あなたいい度胸してるわね」 またも意地悪な笑みを浮かべている。 だが、咲夜は涼しい顔で言ってのけた。 「紅魔館のメイド長たるもの、そのくらいの覚悟が無ければ務まりませんわ」 「それもそうね」 咲夜の切り返しがおかしかったらしく、レミリアは小さな笑い声をもらした。 「ひとつ良いことを教えてあげるわ」 アップルティーを飲み干し、レミリアがやや真剣な瞳を咲夜に向ける。 「今日は、夕方から夜にかけて大きな嵐が来るわ。このままだと、あの仔犬達は…」 「お嬢様、それはどういう…」 「貴女自身で考えて、決めなさい」 今度は咲夜の言葉を遮り、レミリアが言い放つ。 「あなたがやりたいようにやりなさい。仕事に差し支えない程度に」 「お嬢様…」 「自然の厳しさも教えたいけど、命の重さも伝えたい。これって、ワガママかしらね?」 「心得ました、お嬢様。ありがとうございます」 そう言って頭を下げ、メイドは微笑む主のティーカップにアップルティーを注ぎ足した。 …ゴロゴロ 遠くで聞こえる雷鳴は、やがて光を伴って近づきつつあった。 「うおりゃあああぁーっ!」 掛け声と共に飛んでくる倒木に飛び蹴りを入れる美鈴。 弾かれた幹が近くの木にぶつかり、一瞬のバウンドの後に静止する。 「はぁ… はぁ… まだまだぁっ! こんな程度で、私を倒せると思うなぁーっ!」 人間や妖怪ですら蹴散らす彼女も、追い風によって勢いづいた巨木を払いのけ続けるのは堪えるらしい。 言葉とは裏腹に、顔には明らかな疲れが見える。 無理もない。 夕食を終えて部屋に戻ろうとしたら、急に雨と風が紅魔館を襲った。 天狗のイタズラかとも思ったが、どうやら本当に嵐らしい。 いてもたってもいられずに駆けつけたのは、言うまでもなくあの仔犬達の所。 大丈夫、大木の足元、小さな茂みの中に隠れていたので、母親も含めて皆無事だった。 美鈴を見つけて安心したのか、皆ペロペロと美鈴の手を舐めてくる。 「大丈夫だよ。皆は絶対、お姉ちゃんが守ってあげるからね!」 そう言い聞かせて持ってきたタオルを犬達にかぶせると、美鈴が全身に気合いを込める。 「おりゃあああぁぁーっ!」 そして雨と風、飛んでくる倒木すらも相手に、美鈴は戦いを挑んだ。 …それが既に四時間前。 雨は一向に止む気配は無く、風はますます強くなるばかりだった。 「不味いな…」 冷たい雨は、体力だけでなく体温さえも容赦無く奪ってゆく。 そしてそれは、美鈴よりも小さなコーギー達に顕著に現れた。 「キュウゥ〜ン…」 心なしか、鳴き声が弱くなっている気がする。 「もう少し、頑張ってね…」 それでも努めて笑顔で振る舞い、彼女は再びコーギー達を背に戦いを続けようとして… 「え…?」 不意に視界がふらつく。 そして違和感の正体に気付いた時、彼女は弾き飛ばされるように横に倒れた。 「マズったなぁ…」 側頭部からの完全な不意討ち。 「“石ころ”が飛んでくるなんて、反則だよぉ…」 相変わらずのんきな声で言うが、決してそんな生易しいものではない。 それはゆうに人の頭ほどもある、言うなれば岩だ。 それを側頭部に受けては、いくら美鈴が妖怪と言えどただではすまない。 赤い滴りが雨に打たれて容赦無く流れ出し、ますます体温を奪ってゆく。 「キュウゥ〜ン…」 遠のき掛けた意識を無理矢理呼び戻すと、美鈴の顔を仔犬の一匹が懸命に舐めていた。 「駄目だよ、出てきちゃ…」 そう言って既にずぶ濡れの仔犬に手を伸ばす。 だが… 運命トハ、カクモ残酷ナモノナノカ…? 「っ!」 美鈴が気付いた時、それは既に彼女達に向かって迫っていた。 仔犬達の背後を守っていた大木。 それが遂に嵐に耐えかね、倒れたのだ。 「チビちゃん、逃げて…」 だが、仔犬は彼女の言うことを聞こうとしない。 自分一人なら、倒れた巨木の下敷きになったところで死にはしない。 だが、犬達は違う。 増して、仔犬達は根本にいるのだ。 たとえ美鈴が外側で下敷きとなり緩衝材になったとしても、根元で磨り潰されたら守りきれない。 「誰か、誰かあの子達を助けて!」 叫び声が、嵐の中に消えてゆく。 だが、それでも美鈴は叫び続けた。 せっかく生まれたのだ。 まだ生まれたばかりなのだ。 見せてあげたい、広い世界を。 知ってもらいたい。 世界とはかくも厳しくて、辛くて。 それでも暖かいのだと。 「嫌ぁ、誰かあの子達を助けて… 誰か… 誰かぁっ!」 虚しい叫び声だった。 誰にも届く筈なんてなかった。 だからこそ、“彼女”が気付いたのだ。 禁忌:「レーヴァテイン」 突如として嵐の中の暗闇に燃え上がる焔。 業火が倒れつつあった巨木を瞬時に焼き尽くす。それは、彼女が扱う炎の剣。 「あ…」 いつまでも来ない激痛と仔犬達の断末魔を不思議に思い、彼女は目を開いて、言葉を失った。 自分達に向かって倒れた筈の巨木はまるで美鈴と仔犬達を避けるかの如く縦に真っ二つに切断されており、表面は真っ黒焦げ。 それでいて美鈴達は、火傷ひとつ負っていない。 そして、美鈴を見下ろしているひとつの気配は… 「もう… 美鈴ったら水くさいよ。私にも一言言ってくれれば良いのに」 少し拗ねたような、それでいて心配そうなフランの顔が美鈴を見やる。 嵐をものともせず、七色の宝石の如き翼を羽ばたかせて。 その小さな手に、絶対の破壊力を秘めた剣を携えて。 「あはは… すみません」 痛みを堪えて、それでも精一杯の笑顔で答える。 「大丈夫? 痛くない?」 着地して剣を消去し、美鈴を抱き起こす。 「私、頑丈さが取り柄ですから」 彼女が頷いたのを確認すると、フランは彼女を抱えて羽をパタパタと羽ばたかせる。 「フランお嬢様いけません、私よりもあの子達を!」 「その心配は無いわ」 声に振り返ると、そこには予想外の人物の姿があった。 「咲夜さんっ?!」 そこには、仔犬達を庇うように抱き上げているメイド長の姿があった。
「全く… 美鈴も妹様も、こんな夜中に何て格好ですか…」 『え…?』 二人とも改めて自分の格好を見る。 どちらも嵐に遭いずぶ濡れのボロボロ。 特に美鈴は頭から血を流してチャイナドレスに大きな染みを作っている有り様。 フランも嵐の中で放った、通常よりも高出力のレーヴァテインにより、手のひらに軽い火傷をしている。 にもかかわらず、彼女は美鈴やコーギー達には火傷ひとつ負わせず、あまつさえ傷ついた美鈴をその手で運んでいるのだ。 だが、その火傷とは裏腹に、フランは満足げな表情だった。 「そんな事言って、咲夜だって…」 フランが意地悪そうに笑う。 「こ、これは妹様と美鈴が…」 そう言って、お世辞にもまともとは言えない格好の咲夜が口ごもる。 確かに、人の事をどうこう言える格好ではない。何故なら咲夜もまた、美鈴に負けず劣らず泥だらけだったからだ。 「嵐の中とは言え、高出力のレーヴァテインでは仔犬達に危険が及ぶ可能性もありましたから」 「だから、咄嗟に時を止めてもらってその間に皆を助けてもらったって訳♪」 ウインクしながらフランが説明する。 「全く… フラン様は無茶し過ぎです。もしあの場に私が居なかったら…」 「それは無いわ」 咲夜の言葉を遮ってフランが続ける。 「咲夜の気配を近くに感じていたし、それに何より、私は咲夜を信じてたから。咲夜は“みんな”に優しいって♪」 「い、妹様、それって?!」 咲夜が急に取り乱す。 まるで、何かがばれるのを怖れるかのように。 「どうしたんですか咲夜さん?」 と、それまで会話に参加していなかった美鈴も、流石に咲夜の変化に気付いたのか声を掛けてくる。 「な、何でもありません!」 ぶっきらぼうに言い捨てて“美鈴”と目が合わないようにそっぽを向く。 「もう、素直じゃないんだから…」 「い、妹様っ!」 フランの言葉に耳まで赤くする。 「へーきよ、黙っておくから♪」 意地悪な笑みを浮かべる我等が妹様。 そう、フランはレーヴァテインの出力制御に完璧に成功していた訳ではない。 高出力のレーヴァティンは、“周囲”に居た者にも被害が及ぶ危険性があった。 だから、咲夜は瞬間的に時間を止め、被害を被る可能性のあった者達を助けたのだ。 そして、その時その場所に居たのは犬達と… 「…?」 ただ1人事情を呑み込めていない美鈴だけが頭に「?マーク」を浮かべていたが、 ともあれ事なきを得た三人と数匹は、屋敷の中へと戻っていった。 屋敷の中へ入ると、ずぶ濡れの三人をパチュリーが出迎えた。 「皆揃ってヒドイ格好ね」 開口一番の言葉に何も言えない。 だが、そのすぐ後に口許を緩める。 「可愛いわね、わんこ達」 咲夜の前まで来て、目線を抱きかかえられている仔犬達に合わせる。
「だけど、レミィに何の断りも無くこの子達を屋敷に入れた事を、レミィがなんとも思ってない… とは思わないでしょうね?」 不意に、パチュリーの発している気配が変わる。 「はい、全ては私の責任です」 だがそれに動じる事無く、きっぱりと咲夜が告げる。
「そんな、咲夜は悪くないよ!」 「そうです、元はと言えば私が勝手に…」 パチュリーの言わんとしてる事を悟り、フランと美鈴が口を挟む。 「黙りなさい!」 パチュリーが一括する。 「私は咲夜と話をしているの。それに、これから伝えるのは私ではなくレミィの… 紅魔館の主の決定よ」 「…」 パチュリーの滅多に見せない顔に、思わずシュンとなってしまう2人。 「…ともあれ、その格好のままレミィの部屋にも行けないでしょ。まずはすぐお風呂に入るようにと、レミィから言付かっているわ」 溜息混じりに指示を出す。 「…判りました」 俯いたまま、3人は浴場へと向かった。 「お嬢様は怒っていらっしゃるんでしょうか、咲夜さん」 「…判らないわ」 沈んだ声で答える。 「でも、きっと判ってくれるよ。だって、緊急事態だったんだもん!」 フランがそれでも気丈に振舞う。 「咲夜や美鈴がお姉様にお叱りを受けるなんて、そんな事私がさせない! だって美鈴も咲夜もパチュリーも、それにお姉様だって、皆私の大好きなお姉様達だもの!」 「…ありがとうございます」 咲夜も、ようやく気を静めることが出来た。 自分の為に泣いてくれる。 そんなフランを、2人とも愛しく思っていた。 しかしだからこそ、彼女に無理を言わせる事など出来ない。 「とにかく、まずは皆でお風呂よ。せめて、ゆっくり疲れを取りましょう」 浴場に着くやボロボロの衣服を洗い桶に放り込み、3人が浴室に入ると… 「あら、3人とも遅かったわね」 『へ?』 大浴場内から掛かった声に思わず間の抜けた声を出す3人。 そりゃあそうだ。 まさかレミリアが湯船でくつろいで居るとは、夢にも思わなかったのだ。 「ヒドイ格好。全く、この私を差し置いて何楽しそうなことしてるのよ」 クスクスと笑いながらお湯を手に絡めて遊ぶレミリア。 「…お姉様、怒ってないの?」 「怒ってるに決まってるでしょ」 フランの問いにレミリアがきっぱりと言い返し、ざばぁっと音を立てて湯船から上がってフラン達の前まで歩み寄る。 そしておもむろに姿勢を低くした、その目線の先には… 「こんな可愛い子達の事を私にだけ教えないなんて、みんな酷いわ」 泥だらけの仔犬を1匹抱き上げ、汚れる事を全く気にせずにその頭を撫でる。 「あ〜あ、身体だってこんなに冷えちゃって… ほら何してるの、皆で手分けしてこの子達を綺麗にするのよ」 「…良いの?」 フランの声音に喜びがありありと蘇ってくる。 「良いも何も、お客を泥だらけのまま屋敷に入れる訳にいかないでしょう。ほら、早くしないと皆風邪引くわよ」 『は、はいっ!』 レミリアの御許しを頂くや、皆途端に笑顔になる。 「良かったわね、皆」 そう呟きながら、最後にパチュリーも大浴場に入ってくる。 「うん♪」 フランが嬉しそうに頷き、パチュリーの目の前に仔犬を一匹差し出す。 「パチュリーも、一緒に洗お♪」 「えぇ」 少女達の笑顔の中、紅魔館の賑やかなお風呂タイムは過ぎてゆく。 「それにしても、皆さん嬉しそうですねぇ♪」 脱衣所で1人呟く、パチュリーの僕。 「さ、お洗濯お洗濯♪」 小悪魔は腕まくりをして、皆の服の洗濯を開始した。 あとがき 明日の自分は今日の自分よりダウングレード。 どうも朔夜です。 さて、今回久しぶりというか、朔夜と名乗るようになってからは初めての小説です。 元ネタは皆さんご存知東方プロジェクトより。 っていうかね… フランがストライクゾーン過ぎるのだが?(笑 うん、つい取り乱して書き殴った。 後悔はしていない。 というか、あまりに「フランたん萌え〜♪」 とかキ○ガイもビックリの絶叫をしながら書いた結果構成もろくにまとまらず、最終的にはかなりグダグダに… とはいえ、久々にちゃんと「書き切った」ので個人的には満足だったり(ちょ、おま… さて、この後ですが、1年以上放置していた「リリカルなのはA's」の同人小説をそろそろ…(何 うん、まず続きを書くよりも「手直し」をね。 いや、作ってるうちに生じてしまった矛盾の描写を幾つか… ヒントは第6話。 っつっても、まだギャラリー復旧させてなかったっけ。 その他、過去の作品で「これを早く見れる様にしてくれ!」などもし有れば、 掲示板などでご一報を。 それでわ!