*始めに*
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- ◆羊腸の入手に関して大切なお話
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- 順序が変わってしまいますが、大事なことなので、初めに断わって置きたい事があります。 ガット弦の材料、羊腸を国内で調達することに関しまして、残念なことですが、Aランクの丈夫なものはヨーロッパで消費されてしまい、日本国内で入手することは現状では不可能なようです。 オセアニア産では、頑張ってもその下のABランクというものが最上ということだそうです。 たったひとつ下のランクじゃないかといっても、弦作りにおいて天然素材を使うギリギリのところでは、丈夫さで、とても大きな差になります。 またその他の国から輸入されるものも、品質にバラツキがあるんです。 では北海道などで飼育されている綿羊のものはどうかといえば、販売はされておらず、焼却処分されてしまうそうです。
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- この事がガット弦製作に関して意味することは、細い弦(ギターの第1弦やリュートの1コースなど)に適した羊腸は、束(1ハンク=91.5m)で入手したうちの中で、極めてわずかということになりますから、手作りするということは効率的に分が悪いですね・・・では、個人で羊の飼育かな? 情が移って、それどころじゃなくなってしまいますよねぇ。
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- 自作することに於いて、現実的で賢い選択は、太い弦を作るということでしょう。 輸入される弦メーカーの製品は太いものほど、高価なことはご存知でしょう。 ところが、実際に製作してみると、太いものほど簡単にできてしまうんです。 羊腸の原価などは、小ロット(たとえば、家庭でのソーセージ作り用)でも、太い弦を自分用に作るには充分な分量ですし、輸入弦の価格と比較してしまうと、全く、たいした出費にはなりえません。 いやになるほど長持ちもします(いやにはなりはしませんが、、いい音だもの)。
2008年 6月
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- ◆始めに・・・
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- ガット弦の製作も、私なりにですが、一通り目途がたちましたので、本格的に公開させていただくことに致しました。 なかなかと奥の深い作業で、これが絶対的だとか正しいだとかはない世界なのです。
なにせ、相手が”なまもの”なもんですから、、、私も正直に言いますと、当初から思考錯誤と失敗の連続でした。 幾度となく、くじけそうになりましたが、多くの方のご協力により、どうにかこうにか使用できるものが作れる様になりました。 この場を使い、御礼申し上げます。
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- ケルンからやってきた200年ちかく昔に作られた楽器と、とても素敵な皆さんとの出会いが、ここまで私を走らせてしまうなんて、思ってもいなかったんですよ。 このプロジェクトのきっかけは佐々木さんでしたね。 それに乗ってしまった私達が、おバカなのか?乗せた貴方が悪いのか? すっかり、はまってしまいました。 資料の弦を快く、提供下さった鶴田さん、山口さん、鶴田さんの金属リングは私の工程の全てを変えてしまいました。お気づきでしたか? 山口さんは最初のモニターも引き受けてくれましたね。 おかげで、細い弦は切れやすいという、当たり前の事なんですが重要なことを、深く再認識させられました。 このプロジェクトには残念ながら参加できませんでしたが、暖かく見守ってくれた三野さん。 それからモニターといえば西垣さんですね。 暖かなお言葉と同時に「コンサート使用には??」のお言葉には、発奮させられました。 まだまだ稚拙な弦なのに貴方の様な方が協力してくれるなんて、とても光栄でした。 水原さん、田中さんの使用レポートはかなり(現時点の工程においてですが)決定的な意味を持ちました。
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- この作業を通して、楽器に対しての弦の重要性を、改めて確認させられたこと、そして何よりも、音を自分で紡ぎ出すことの楽しさ、なにかを産み出すことの喜び、それらを実感できたことは、本当にうれしいことでしたし、皆さんのおかげだと、心より思っています。
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- ヨーロッパの伝統の一端を私に垣間見せてくれたL氏、そしてクレッセ氏、高価な絹の原糸を格安にご提供してくれた某繊維会社の部長さん、印材用の角を3本も無償でくれた大阪のハンコ屋さん(これって、買うとなるとけっこう高いですよねぇ)、銅の単線を過分にご提供くださったT電線のM社長、関西の電線業社の皆様、感謝致します。 羊腸の入手ルートになって下さったM商会さん(Iさん、いつもご無理で、おバカな注文ばかりでごめんなさいね)。
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- たかがガット弦、されどガット弦です。 いろいろな事を勉強させられました。 本当に、こんな感覚はひさしぶりです。 1人の力ではやはり何にもできないんですね、人間は、、、
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- 物づくりは、作る作業も面白いものですが、その過程の中に、とっても多くの素晴らしいリンクがあって成り立っているんですねぇ、、、
しみじみと実感させられました。 皆さん、本当にありがとう! まだまだ私の弦作りは幼稚ですし、独断や偏見に溢れています。 なにせ前例が、あまりに乏しいのです。 まだまだ研鑽していかなければならないのです(ホント、まだまだなのね)、これからも宜しくお願い致します。
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- それでは、おバカな男の、汗と涙の苦闘の記録をお楽しみくださいな。
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2003年 6月
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- ◆線径と音について
昨年から、低音弦製作の試行錯誤でもがいているわけなんですが、線径と音の関係で気づいたことがあります。
まずは、これをお聴きください・・・クリック! これは真鍮線(直径0.35-0.45-0.55-0.66mmの順)を5-10フレットの間で弾いた音です。 お気づきになったでしょうか?
太くなるにつれ音の伸びがなくなり、太鼓の様に変化していきました。 金属線では0.5mmあたりから始まり、0.6mmを越えたものは顕著に出ます。
銅等でも、音質は若干違うのですが、同じです。 羊腸弦では、直径1mmを境にして、この現象は、はっきり現れてきます。
また開放弦で弾いた場合にはかなり緩和されるんです。 どうやら、振幅する部分の長さと弦の径は、音の伸びに大きな関係があるようですね。(ギターを弾かれる方は、12フレット辺りで弾くと、音の伸びが減るのは、もう実感されていることでしょう?) 弦が長ければ長い程、また細い程に、音の伸びは増してくるようなんです。
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- この事は、弦長600-650mm前後のギターという楽器で、6弦全てで音のバランスを取る場合、弦の線径には、ある一定の枠があるということを意味していないでしょうか?
絶えずフレット間を移動し、ポジションを変化させる実用域内では、ある程度の音の伸びは欲しいものです。
つまり、その楽器の弦長が、それに使う弦の素材ばかりでなく、線径をも決定付けるということを意味しています。
リュート属や19世紀のハープギター等の様に弦長が長かったり、開放弦のみで弾弦される楽器の場合は、多少太くても問題にはならず、かえって味わいがでてくるかもしれませんし、ルクスライン方式で、太めの金属線を巻くこともできるのでしょう。
逆に、600mm辺りのレニャーニタイプの楽器では、第3弦にも金属を足した巻弦やルクスラインを張ることができますね。 線径を増やさないで重量を増し、張力を得るやり方も、音の伸びのバランスにとっては、効果的かもしれません。 私たちが弦を選ぶ際、そのテンションばかりに、つい眼を奪われがちになりますが、この事も選択の大きな手助けには、ならないでしょうか?
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- *注:リュートやバロックギターは・・・倍音を補う高いオクターヴの複弦があるので、私のめざしている、伸びや余韻のあるルクスラインとは性格が違うのだそうです。(6単弦のギターとはちがうのだそうです)
そして、こんなところにも、低音弦製作の大事なヒントがあったのですね。
弦を単純に太くして、重量を増やせばいいという問題ではないのでしょう。 ギターで一般に使われる低音弦の重量は、第3弦が1g/m以下に対して、4弦が1.5g以上、5弦で2.5g以上、第6弦では4g以上もあります。 なのに、線径を太くして音の伸びを減衰させることなく、かなりな重量を稼がなくてはならないのです。 使う芯材も太くはできず、そしてそれに巻く金属線も、かなり細いものが要求されるという、相反した難問が待っているというわけです。 おおざっぱにいえば、巻かれる金属線は0.5mm未満、芯材の径は1mm以下が、ねらいたいところなんですよ。
細い金属線(0.08-0.30mm径辺り)を使った巻弦は、かなり古くからあるそうですね・・・
これを始めて作った人、アンタはエライ! おそらく「やったぁ!」と叫んで、微笑んだに違いありまっしぇん!(踊りまわっちゃったカナ・・・) 私も自分なりの知恵と工夫でもって、いつの日にか・・・”ニンマリしたいナァ〜”・・・と、浅はかにも願っているのであります。
2004年 2月
◆補足◆
上記◆線径と音について◆を書いてから以後、試行錯誤を重ねた結果、自分なりに低音弦を解決いたしました。 結局は巻き弦なんですが、芯に使う糸や巻き線に使う金属を色々と試していくことで、これだ!という音をもったものが作れるようになりました。 演奏家の方々の評価も良く、CDアルバムやコンサート等にも使用されています。(2005年1月現在)
2005年 1月
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