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ふたつの影が、月明かりの下を歩いていた。 同盟軍の仕事には、本来与えられたものの他に、当番制で回ってくるものもある。城内の見回りもそのひとつで、ふたり一組でいくつかのグループが、毎晩城内の警備にあたっていた。 かつかつと踵のある靴の音を響かせながら、ふたつの影は石畳を歩いていた。無言の間に飽いたのか、男は空を振り仰ぐと、もうひとりに向き直った。 「……退屈だな、マイクロトフ」 そう言ってランタンで相棒の顔を照らすと、彼は むすっと唇を引き結んでいた。 「うるさいぞ、カミュー。無駄話をしていては、賊が潜んでいた時に気付かれてしまうではないか」 「それはそうだけど……。せっかくお前とふたりで夜道を歩いているというのに、何も話さないのは色気がないと思ってね。 何か、ムードのある話でも……」 「やかましい」 マイクロトフは、カミューの話を最後まで聞かずに歩き出した。カミューは慌ててその後を追う。 「ひどいなあ」 カミューが追い付くと、マイクロトフは僅かに歩調を緩めた。それを悟って、カミューは口元が緩む。 厳しかった夏も終わりに近づき、草むらからはひっきりなしに虫の音が聞こえていた。騒がしいまでのその声に反して、マイクロトフが囁くように口を開く。 「虫の声がすごいな」 マイクロトフの言葉に、カミューは頷いた。 「ああ。秋が近いね」 しばらくそうして耳を傾けていたが、ふいにマイクロトフが笑った。 「しかし、これだけやかましくては、例え賊が侵入して来ても分かってしまうな。 少し草むらに分け入っただけで、虫が静かになってしまう。 おれたちは、その静かになった所を探せばいいのだ」 得意そうに話すマイクロトフを見て、カミューは目を丸くした後、吹き出した。 「ははは、それはそうだ。 お前は賢いなあ、マイクロトフ」 腹を抱えて笑うカミューに、一体何がおかしいのか分からないマイクロトフは むっとした。ひとしきり笑うとカミューは満足したのか、涙の浮かんだ目尻を拭った。 「いやしかし、虫の声に気付くとは、マイクロトフも風流だな」 「……どうせおれは、風雅に疎い」 からかわれたと思ったのか、すっかりへそを曲げたふうのマイクロトフの、歩く先にカミューは回った。先回りされ、マイクロトフは足を止める。 「いや、マイクロトフはロマンチックだと思うけどね」 「…………」 カミューの意図が読めずに、マイクロトフは口を噤んだ。そんなマイクロトフを伺うように見ながら、カミューはその頬に手を伸ばす。 「こんなムードのある場所で虫の音の話をするなんて、充分ロマンチックだよ」 そう言ってカミューはマイクロトフに近付き、顔を傾けた。月明かりの下、虫の音を聞きながら甘くくちづけを交わ――そうとしたカミューの試みは、マイクロトフの手のひらで呆気なく遮られた。顔面を掴むように手で押さえられ、カミューは目を白黒させる。 「……ひ、ひどいよマイクロトフ…」 「まだ勤務中だ」 つめたく言うと、そのまま歩き出すマイクロトフの背を眺めながら、カミューは はっとしてその後を追った。 「じゃあ、早く終わらせよう。今日はどこも問題ないみたいだし、手早く終わらせてその後…」 「きちんと全部♂ったらな」 「…………本当?」 「……男に二言はないぞ」 ぱっと顔を輝かせるカミューを見て、マイクロトフは僅かに頬を染めた。警備の任の翌日は、午後出になっているはずだ。……まあいいか。 途端足取りが軽くなるカミューの横で、マイクロトフは小さく笑った。 虫はまだ、さわがしいくらいにその声を響かせていた。 * * * * * ごめんなさい…。甘くない。 |