〜夏〜




 熱気をはらんだ風が窓から入り込んできた。マイクロトフはふっと窓から外を見、晴れ渡った空に目を細める。
「……ああ、すっかり梅雨もあけたようだな」
 マイクロトフは嬉しげな声でそう言い、笑った。
 それもそのはず、ずっと続いていた雨のせいで屋外での訓練がまったくできず(一回ほど鬼軍師の命令で雨天時の演習を行ったが)、マイクロトフはすっかり腐っていたのだ。ようやくのことで梅雨が終わり、これからは思う存分屋外で体を動かせるとマイクロトフは上機嫌だった。
 一方。
「………何が嬉しいのさぁ………あー暑い……」
 相棒の赤騎士団長はというと、この暑さですっかりやる気をなくしているのか、机の前に座ったままぐったりと伸びている。なんというか、机にへばりついている赤いアメフラシのような外見である。
 マイクロトフはその声に眉を寄せ、じろりとカミューを睨んだ。
「カミュー、なんだそのやる気のない態度は!!」
「だって、暑いじゃん…。私は至極繊細に出来てるからね、気温の変化には敏感なのさ」
「誰が繊細だと?お前が繊細ならビクトール殿などは繊細の極みだな」
 マイクロトフは相変わらずビクトールに失礼なことをさらりと言ってのけ、カミューを睨みつけている。その隣の部屋でビクトールは大きなくしゃみをしていた。
「ぶえっくしょい!!……かー」
「!!きたねえな!あっち向いてくしゃみしろ、バカ!」
「つーか、風邪でもひいたか……?」
「ああ、夏風邪はバカでもひかないというからな、それ以上のお前ならひくかもしれん」
 こっちはこっちで勝手に言いあっていた。
 そしてマチルダコンビはというと、相変わらずカミューはフジツボのように机にへばりつき、マイクロトフはその背後で仁王立ちしている。
「いい加減にしろ、カミュー!お前も騎士ならばしゃきっとせんか!」
「あーもう、夏の間だけ騎士は休業するよ。暑い暑い…」
「暑いというから暑いのだ。心頭滅却せば火もまた涼し!気合が足りんぞ!」
「火が涼しいわけないでしょ…。……レストランにいってかき氷でも食べてくるか…」
 そのセリフにマイクロトフはぎゅっと眉根を寄せた。
「……お前、毎日冷たいものばかり食っているのではないだろうな」
「へ?うーん……そう言えば、昨日も食べたし…その前も…」
「だからバテるのだ!冷たいものを食いすぎれば夏バテするのは当然だ、馬鹿者!」
「夜は元気なんだけどね」
「…………それこそ不要だ」
 ぽかりと頭を殴られ、カミューはスライムのように机の上に伸びた。まるで人外の生き物のような外見である。マイクロトフはだれているカミューをしばし苦い顔で眺めていたが、仕方なさそうにため息をつくと腰に当てていた手を外した。
「……まったく…仕方のない奴だな。お前は体力が足りんぞ」
「お前が体力に満ち溢れすぎてるんだよ。城の中を見てみろよ、ばててる人間であふれかえってるぞ?」
「お前は騎士だろう。そういうのは言い訳にもならん」
「うー…」
 珍しくマイクロトフに言いくるめられ、カミューは言葉に詰まっている。その表情がおかしかったのか、マイクロトフは笑いながらカミューに歩み寄ると、じっとりと汗に濡れたカミューの髪を軽くかきまわした。
「……まったく。明日は湖で水練でもするか。確かに夏バテしている人間が多いようだし」
「え?本当?わーい、団長大好きー」
「何が団長だ、馬鹿者。お前だって団長だろう。……元、だがな」
「まあ、細かいことは置いておいてだね。……せっかく水練の話が出たことだし、ちょっと水浴びでもしませんか、元青騎士団長どの」
 その言葉に含まれたカミューの魂胆に気がつき、マイクロトフは渋い顔をした。カミューの視線をたどるや、どうも部屋にある簡単なシャワーでも浴びないかと言いたいらしい。そんなことは真っ平ゴメンだ。カミューがシャワーを浴びる程度で済ますはずはない。
 マイクロトフはあっさりとカミューの発言を無視し、その視線を再度窓の外に投げた。最近までは湿気の多い風しか入っては来なかった部屋にも、梅雨の明けた今ではぎらつく太陽に熱された夏の暑い風が入りこんでくる。暑くはあるが、湿気がないだけ爽やかだった。
「カミュー、そんなに水浴びがしたいなら、おれの訓練に付き合え。ずっと室内でしか体を動かすことが出来なかったからな、ちょうどいい。今日はいい天気だし、訓練の後に水を浴びればきっと気持ちがいいぞ!」
「……う…うーん……」
「さあ、行くぞカミュー!」
 言うやダンスニーを片手に部屋を出ていったマイクロトフを見送り、カミューは憂鬱なため息をついた。カミューは物憂げな仕草で髪をかきあげ、仕方なさそうに苦笑を浮かべる。
「……まあ、確かに、気持ち良さそうではあるかな」
 カミューもユーライアを手に取ると、足早にマイクロトフの背を追いかけた。
 梅雨の明けた空は、まばゆいばかりの光に満ち溢れ、輝いていた。

 季節はもう、夏である。





甘々推進委員会の交換会でいただいたカマさんのSSです!
人外の生き物になってる赤氏……ほんとに騎士やってたのか?(汗)
それに比べて青氏、夏に傍にいたらちょっとイヤかも……(笑)


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