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「何ですかこれは?」 カミューは黒い重箱を指差して顔を引きつらせ、そう言った。 「今日はそれを食べる日だってリーダーが昨日急に持ってきたアルヨー、これ以外今日は作っちゃ駄目だって言われたヨー」 冷たい視線を向けられたハイ・ヨーは必死で自分のせいではないと主張していた。 「とにかく、中身はそこの水槽に泳いでいる不気味な魚なのですね!?」 カミューは昨日までは無かった大きな水槽を睨み付けた。 「ウナギって言う魚らしいヨー今日はそれを食べる日だって昨日あの水槽を持って来られたヨー…私のせいじゃないヨー」 「こんな妙なモノを我々に食べろと言うのですか??」 カミューは怯えるハイ・ヨーに詰め寄った。レストラン内に居た人々の視線が一斉に集まる。カミューの隣にいたマイクロトフは流石にそろそろ止めなければいけないと思った。 「ま、待てカミュー。城主殿が薦められるのだ、きっと美味いのだろう。」 そう言ってハイ・ヨーの胸ぐらを掴むカミューの腕を掴んだ。するとカミューはすぐにハイ・ヨーから手を離し、マイクロトフに抱き付いた。 「マイク…俺はマイクが嫌がるかと思って言ってるんだよ?マイク、こういうぬるぬるしたの嫌いでしょ?」 「そっそれはそうだが……理由もなく城主殿が我々に食べることを強制したりしないだろう?」 カミューとマイクロトフは見つめ合い、徐々にその距離を縮めていった。 「俺はマイクが嫌がるかと思って…ごめん、酷い事したね……」 「カミュー……」 二人はまだ見つめ合ったままだった。ハイ・ヨーは謝る相手を間違えていると思っていたが、今声を掛けたらカミューの烈火の紋章、または腰に下げたユーライアで殺されることは間違いない。 「カミュー、我儘を言わず一度食べて見ようではないか。」 「ああ、マイクがそう言うなら……」 そう言いながらカミューは横目でウナギの泳ぐ水槽を見た。水槽の中が黒く見えるくらいにウナギが入っていた。大量のウナギが所狭しと身体を擦り合いながら泳いでいる様にカミューは気分が悪くなった。 そもそもグラスランドでもロックアックスでもこんな生物を食べる習慣は無いし、何よりカミューはその形態が嫌だった。蛇のように長くぬめっているアレを食べるだなんて考えるだけで気持ちが悪い。 先ほどまでマイクロトフの為と言って、食べることを拒否していたが、実はあれ、自分がウナギを食べたくなかったからこそ文句を言っていたのだった。何とか他のメニューを作らせようと思っていたのだが、マイクロトフという思わぬ障害にその野望は阻まれた。 しかも、マイクロトフに我儘と言われて宥められることになろうとは…… 「意外に美味いかもしれないぞ…ほら、いい匂いだ。」 ハイ・ヨーから黒い重箱を受け取り、マイクロトフはその蓋を開けた。香ばしい醤油の匂いがしてくると思ったが、辺り一帯同じ物を食べているわけで良い匂いなどしてこなかった。だが、マイクロトフがそう言うのでカミューも否定はしなかった。 「ほら、食べようじゃないか。」 マイクロトフは自分達に一番近いところにあった席に座った。割り箸を取り、自分の正面に座っているカミューに手渡した。 マイクロトフはどんな味がするのだろう、と好奇心一杯で食べ始めていたが、カミューはその蓋すら開けずにマイクロトフの食べるのを苦笑いで見ていた。 マイクはどうしてあんな不気味な生物をこんなに美味しそうに食べられるんだろ!? 「カミュー、どうした食べないのか?」 マイクロトフは箸を止め、カミューを気にした。 「ああ、あまり食べたくないんだ……」 「見た目で嫌うのは良くないぞ。ウナ…ギだったか。なかなかイケるぞこれは。」 マイクロトフはウナギを一口大に切り、その下の米と共に箸で取り、カミューの前に差し出した。どうやら食べさせてくれているらしい。 普段ならすぐに飛びついて箸まで舐めるところだが、今日はモノがモノだけに戸惑っていた。 「ごめん、やっぱり俺はいいよ。」 水槽の中を思い出したカミューは、思わず口を押さえて横を向いた。 「だがな、カミュー…折角城主殿が食べろと薦めて下さっているのだ、一口くらい…」 なおもマイクロトフはカミューにウナギを薦めた。 「嫌な物は嫌なんだよ。分かってくれマイクロトフ…」 仕方ないな、とマイクロトフは自分の口にウナギを放り込んだ。 「あ!カミューさん食べてない!!」 二人のテーブルの前に仁王立ちで立っていたのは今日のメニューを強制変更した同盟軍の城主その人だった。 「駄目じゃないですか、今日はウナギを食べる日なんですよ。」 城主はカミューの鰻重の蓋を開けた。 「あのですね、今日は何故あんな生物を食べるんですか?」 カミューがさっきから感じていた疑問だった。 「え?知らないんですか。えっと……夏は暑かったでしょう?夏バテで弱った体を精力の付くウナギで体力を付けて元に戻すんですよ。」 「精力が付く……」 カミューは重箱を両手で掴み、目を輝かせていた。その様子を見ていたマイクロトフの食欲は一瞬にして掻き消えた。 「分かったら食べて下さいね。」 城主はにっこりと微笑んだ。 「ええもう、勿論です。お心遣いありがとうございます。」 カミューも爽やかな笑顔でそう答えた。 さっきまでは割箸も割らずにふてくされていたくせに、精力の二文字でこうも変わるものなのだろうかとマイクロトフはカミューの食べっぷりを見つめて思った。 「マイク!早く食べなよ!!」 先ほどまでと打って変わったカミューにマイクロトフは溜息を付いた。 「駄目だよ精力が付くんだから食べなきゃ。マイク今夜バテちゃうぞ☆」 余りにもストレートな言葉にマイクロトフを初め、そこにいた人たち全員が複雑な表情を浮かべた。 「ああもう、俺ウナギ大好き!!」 晴れやかなカミューとは対称的にマイクロトフは細々とウナギを食べ進めていた。端から見ても可哀想なくらいに。 で、その日の夜。 「よし………」 マイクロトフは自室に厳重に鍵を施し、尚更タンスまでドアの前に持って来てカミューが入るのを阻止しようとしていた。 「いくら何でもこの防壁をかいくぐっての侵入はカミューであれど無理……だと思う。」 マイクロトフはここまでしているというのに何故か嫌な予感が消えなかった。 「うーん、良くここまであの短時間で動かしたねぇ。」 「ああ、今日カミューを部屋に入れたらどうなるか分からんからな。」 「そう。」 振り向いたマイクロトフが見たのはカミューその人だった。 「やあ。」 「か、カミュー!?どうやって入った!!?」 マイクロトフは瞬時にカミューから離れ、タンスの影に身を隠した。 「どうやってって………」 カミューが指差したのは大きく開け放された窓だった。 「ああなるほど……って何でお前そんなところから入って来るんだ!?」 「だってこういう日はマイク、部屋に入れてくれないじゃないか。」 カミューはにこりと笑った。妙に優しげなのが気持ち悪い。 「一応聞くが…何の用だ?」 「決まってるじゃないか、マイクに責任とって貰おうと思って来たんだよ。」 「責任??俺が何かしたか?」 マイクロトフは首を傾げた。 「だって、マイクがウナギを食べろって言ったから精力が付いたんじゃないか、責任とってvああもう、マイクが俺に精力付けて欲しいだなんて……なんて積極的…v」 「はぁ!?」 確かに食べろと言ったがそんな意味で言った覚えはない。 「だから、ね?」 マイクロトフが考え込んでいる隙にカミューはマイクロトフに抱き付いていた。 結局、マイクロトフは責任をとらされた結果、次の日には立ち上がれなかったとか。 |