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ふっと脳裏を風渡る草原がよぎった。 はっと目を開けてみたが、しばらく周囲の状況がつかめない。瞬きをし、マイクロトフはゆっくりと辺りを見回した。何の事はない、見慣れた同盟軍の自室だった。 「よく寝てたね。疲れてるのなら、ベッドに横になればいいよ」 「い…いや。大丈夫だ」 先ほど感じた草原の風はおそらく、カミューの匂いがしたからそんな夢を起き際に見たのだろう。気遣うように伸ばされた手を断り、マイクロトフは机の上の書類に目をやった。 「夕方までにこの書類を仕上げると軍師殿に約束したのでな…」 「ふぅん、まぁ、余り根を詰めては駄目だよ。お前はそれでなくても働きすぎるんだから」 「そんなことはない。軍師殿などは俺の何倍も働いていらっしゃるのだろうからな」 さらさらと紙に文字を書き付けていくマイクロトフを眺めながら、カミューはなにやら考えていた。そして小さな笑みを頬に浮かべるや、マイクロトフの肩を叩く。 「…そうだ、マイクロトフ。疲れてるのは疲れてるんだろう?肩でも揉んであげるよ」 他意のなさそうな笑みを浮かべたカミューに、マイクロトフも油断したのか、そうだな、とうなずく。確かに疲れているといえばそうだった。このところずっと訓練続きで、指揮をしているマイクロトフとカミューは休む間もなしだったのだ。 カミューはいそいそとベッド周りを整え、マイクロトフを手招いた。散々懲りているはずのマイクロトフだが、この人がまた素直にベッドに寝そべってしまう。彼の学習能力はネズミ並らしい。 「寝てしまっていいよ。起こしてあげるからさ」 「そうか…すまんな」 うつ伏せになり、マイクロトフは目を閉じた。彼が今身につけているのは薄手のシャツ一枚。清潔そうな白いシャツごしに鍛えられた体が見て取れる。カミューは舌なめずり…いや。爽やかに微笑むとマイクロトフの背中に手を添えた。 筋肉にそって揉み解していき、段々と下のほうへ手を移動させる。その手の動きが普通のマッサージとは微妙に違っていることにマイクロトフは気がつかなかった。 「うわ、こってるなー。少しは休まないと駄目だよ、マイクロトフ」 「そ、そうか…?カミューだって…」 カミューは体をかがめ、マイクロトフの首筋に唇を押し付けた。 「私は十分休んでます。ほら、首も硬い」 「こ…こら、変なことをするな!」 「はいはい」 首筋にキスしただけで怒られ、カミューは苦笑した。 しかし、その敏感な反応に悪戯心も大いにくすぐられる。カミューはマイクロトフの体を反転させ、仰向けた。マイクロトフの目が不審そうにカミューを見上げている。 「カミュー?」 「いや、こうなったら徹底的にマッサージしてやるかと思って」 「…何だそれは」 笑ったマイクロトフの瞳がひどく澄んでいる。いい加減カミューの行動を読めるようになってもいいだろうに、彼はいつまでたっても彼のままだ。その素直さがもどかしくも愛しいと思うのは、病膏肓にはいっているらしい。 「はい、腕貸して」 腕を預けると、カミューはこれ以上は出来ないだろうと思うほど丁寧にマイクロトフの腕をマッサージしていく。目が合うと、優しく微笑まれた。そして指先に口付けられる。 「腕は大切にしないとね。我々の命なんだから」 「あ…ああ…。柔軟は充分にしているのだが」 カミューの指先はまるで愛撫のように優しく動く。はっと気付き、マイクロトフは頬を赤らめ視線をそらした。カミューはただマッサージをしているだけだ。それなのに一体俺は何を考えて…。とまあ、素直な青騎士団長様はこんなことを考えているのだが、もちろん赤騎士団長の考えていることも似たり寄ったりだ。 いや、こっちの方が遥かに先に進んでいる。 マイクロトフの反応を見、カミューは満足そうに微笑んだ。その含みのある表情をマイクロトフは見てはいない。それ幸いと、今度は脚にカミューの毒牙が移る。 初めは真面目にふくらはぎなどを揉み解し、どんどんその手は当然のごとくに上っていく。太ももに触れられ、マイクロトフははっと視線を上げた。 「い、いや、カミュー!も、もういい…」 「いやいや、遠慮は無用だよ。さ、楽にして」 カミューの手は嫌になるほど器用に動いた。 付け根の辺りまで延びたと思ったら、焦らすように遠のいていく。偶然を装った手が膝頭に触れたとき、マイクロトフの体がびくっと震えた。カミューはそ知らぬ顔でマイクロトフを見、笑う。 「あ、ごめん。くすぐったかった?」 「い……いや……」 どう考えてもすでにマッサージの範疇は越えているだろうに、マイクロトフは全く気がついていないらしい。これ幸いとカミューは脚の付け根付近を丁寧に揉み解してやった。こうなるとマイクロトフも健康な成人男性なので、嫌でも何かを感じずにはいられない。 必死に意識を飛ばそうと試みるが、それを許すカミューではなかった。優しく容赦なくマイクロトフの弱いところを突き、かといって決定的な刺激も与えず。カミューの本領発揮である。 「どう、気持ちいい?」 「……………………」 どう答えていいのか分からず、マイクロトフは沈黙を守っている。カミューは戸惑っているげなマイクロトフの表情に我慢しきれず、ぷっと吹き出した。 「あっはっは!ああもう…お前はなぁ…。ごめん、悪戯が過ぎたみたいだね」 「……やはり、分かってやっていたのか…」 「当然。ベッドに横になったお前に何もしないでいられるような俺じゃないよ。…で、どうする?」 ニヤニヤと笑うカミューにマイクロトフは枕を抱えて腐っている。どうするもこうするもない。散々煽った人間の言うセリフだろうか。 無言のマイクロトフに覆いかぶさり、カミューは小さく笑った。 「じゃ、責任を取らせてもらえるのかな?」 「…………。勝手にしろ!」 「了解」 くすっと笑い、うつぶせたマイクロトフの首筋に口付けた。 ぴくりと震えたマイクロトフの肩を愛しそうに撫で、唇をそっと背中にはわせた。背骨を伝うように舌先で舐め、ところどころに赤い花びらを散らす。 「か…カミュー、あまり…」 「ん、見えるところにはつけないよ」 ほとんど胸の辺りまでたくし上げたシャツを脱がせ、ゆっくりと口付けた。カミューのマッサージのおかげですっかり熱の上がったマイクロトフは珍しく素直に口付けに応える。マッサージというのも一つの手か、と思いはしたが、さすがのマイクロトフもこれからはそう素直にマッサージさせてはくれないだろう。 口付けを解くと、はあっとマイクロトフは熱い吐息を吐き出した。すっかり息が上がって漆黒の瞳も潤んでいる。眩暈がするほどの吸引力を感じ、カミューは逆らわずもう一度口付けた。いや、逆らえず、と言うべきかもしれない。 手を下肢に伸ばすと、カミューの悪戯のせいかマイクロトフの性器はすっかり熱を上げてしまっている。ついばむように口付けながら手をゆるゆると動かすと、マイクロトフは焦れたように頭を振って逃れようとする。 「あまり余裕がないみたいだね。……いいよ、いっちゃって」 嫌だともいいとも言えず、マイクロトフはぎゅっと目を閉じた。這い寄る快感に足が震える。いってしまいたいが、はいそうですかと素直にうなずけないものがあったし、まだ日も高い。そんなマイクロトフの葛藤をカミューは楽しそうに見つめている。 「我慢は体に毒だよ、マイクロトフ」 「そ、そういう…問題か!」 「そういう問題さ。セックスの抑圧は体に悪い。それとも、私と一緒がいいなんて可愛いことでも言ってくれるのかな?」 バシッと顔面を手ではたかれ、カミューは思わず顔を押さえてしまった。涙の浮かんだ目でマイクロトフを見ると、これがまた何とも言えない表情でこちらを見ている。カミューは顔の痛みも忘れ、うっとりとその表情に一瞬呆けた。 そして正気に戻るや、苦笑してしまう。何のことはない、我慢できないのはいつもカミューのほうだった。今日も慣例どおりマイクロトフの無意識の誘いに乗り、ゆっくりとマイクロトフに覆いかぶさる。マイクロトフが目を閉じたのを見、脚の間に体を割り込ませた。 一人用のベッドが悲鳴のような軋みを上げている。 だが、それを気にかけるものはこの部屋にはいなかった。 汗ばんだ体をベッドの上に投げ出したまま、マイクロトフはぼんやりと天井を見上げている。書類を仕上げなければ…と思いはするものの、気だるい空気に包まれたままどうも動けなかった。 カミューは汗で張り付いた前髪をかきあげ、マイクロトフの額に口付ける。 「で、マッサージの続きはどうする?」 マイクロトフはこれ見よがしに大きなため息をつき、カミューを見上げた。呆れたようなその瞳にはあるかなきかの愛情が含まれているように思えるのはカミューのうぬぼれだろうか。 「遠慮する」 「あ、やっぱり。でも、気分転換にはなったでしょ」 「あまり、ありがたくはなかったがな」 「つれないなぁ」 苦笑したカミューに、マイクロトフも小さく笑って見せた。 |