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疲れた。 カミューは自宅であるマンションの一室でくつろ…いや、のびていた。 カバンを床に放り、スーツのままソファに横になる。スーツがしわになるだろうが、それが何だ。疲れているんだ、もう、泥のように。カミューは誰が聞くわけでもない愚痴を心の内に向かって延々喋り続けていた。 春先の異動のおかげでカミューの部署のみならず、会社全体が火事場のごとく忙しかった。だが、新しい社員を交えた忙しさというのは何ともいえず新鮮で、悔しいことに何が何でも嫌というほど嫌ではないのだ。それがまた悔しい。 だが…疲れた。 部署が営業なので人と接することには慣れているはずが、こんなにも疲れるとは。新入社員に仕事の説明などをし、質問に答え、得意先に挨拶に回る。仕事の引継ぎもある。歓迎会もある。嫌になるほど忙しかった。 カミューは天井を見上げ、ふーっとため息。カミューのため息など、会社ではまず聞けない。 明日は休みだ。ああ…忙しすぎたおかげで実感が湧かないが、休みなんだ…。カミューはつぶやき、だが疲れすぎているせいか、あまり嬉しくもなかった。そんなものなのかもしれない。 そのとき、鳴るはずのないチャイムが部屋に響いた。時刻は…珍しく早い。今日は残業もそこそこに切り上げたのだ。それは、訪問販売を受けるためではもちろんない。カミューの機嫌は悪かった。 無視することに決め込んだが、またチャイム。そして、また。 いい加減腹が立ってきたとき、ふっとカミューは気がついた。そして、跳ね起きるや玄関に走る。相手は…せっかちなのだ。待っているかどうかも怪しい。 チャイムの鳴らし方に、愛しい愛しい恋人の癖が含まれていた。気付かなかったのは疲れすぎているせい。カミューは聞く相手もいないのに弁解をはじめている。 玄関を開け、カミューは笑った。 「マイクロトフ!」 「…あ、帰っていたのか、良かった。…その、邪魔か?」 恋人はどこか不安そうにこちらを見つめていた。その視線に、カミューのしつこい疲れも吹っ飛んだ。どころか、心すら浮き足立ってくる。 「邪魔なものか。…どうしたの、急に。あ、入って入って。帰ったばかりで散らかってるけど」 「そ、そうなのか、すまなかった」 「いいから、ほら」 引きずり込むようにマイクロトフを入らせ、鍵をかけた。マイクロトフはくつを脱ぎ、カミューに続いてリビングへと入ってくる。その姿を眺めるカミューの胸に、じわりと甘い幸せが広がった。 「マイクロトフも明日は休みかい?」 「ああ、そうだ。…ひょっとしたら帰っているかと思って…寄ってみたのだ。その、携帯がつながらないから…連絡のつけようがなくて、いきなりになってしまった」 「え、あっ!ご、ごめん、電源を切ったままにしてた…」 「忙しかったのだろう、すまなかったな。疲れているのではないのか?」 気遣うような言葉にカミューは苦笑を浮かべ、栗色の髪をかきあげた。自然なその動作が気障ではなく似合っている。マイクロトフは一瞬瞳を奪われ、視線を逸らせた。 カミューはそんな恋人の仕草に笑みを浮かべ、隣に座ったマイクロトフの肩を抱いた。 「疲れてるさ。でも、お前の顔を見たら元気が出てきた」 「……。無理はするなよ、ちょっと寄ってみただけなのだ。その…最近電話もあまりしていなかったし……顔が、見たくて」 「………マイクロトフ」 嬉しそうな切なそうな笑みを浮かべたカミューにマイクロトフは赤面し、慌てて立ち上がった。 「あ、そ、その、腹は減ってないか?何か食ってきたのか?まだなら、俺が何か…」 「座って」 立ち上がったマイクロトフの腕を取り、カミューは目を細めた。薄茶の瞳に揺らめいた炎が、マイクロトフの動きを縛る。魅入られたようにカミューを見つめ返し、唾を嚥下した。 「……カミュー…」 「腹は減ってるけど、その前に……駄目かい?」 「………しかし…」 「マイクロトフ」 マイクロトフは無言でソファに座った。カミューは体を反し、マイクロトフに覆いかぶさる。翳った闇色の瞳に愛しさと、抑えきれぬ欲求を感じた。首筋に顔を埋めると、彼の匂いが鼻腔をつく。何とはなしに幸せになり、それから熱を上げた体を自覚する。性急な自分に笑ってしまった。 「…あんまり思い出さないようにしてたんだけどね、毎日でも会いたくなっちゃうし。私もお前も忙しいしね…。でも、やっぱり毎日会いたいな」 カミューの言葉に、マイクロトフは何も言わず背中に腕を回した。無言の肯定が愛しい。顔を上げ、カミューは笑った。そして、甘い言葉を紡いではくれぬ唇を指でなぞる。 「愛してるよ」 「……カミュー」 唇が触れ合った。 マイクロトフの体がぴくりと震える。触れ合わせるだけで一度顔を離し、もう一度口付けた。直前に感じたマイクロトフの吐息が生々しくカミューの胸をえぐる。激しい飢えに自分で戸惑い、だが、欲望のまま彼の唇を貪った。 マイクロトフの指がカミューのスーツをつかむ。唇を割って入り込んで来た舌に空腹も羞恥も絡め取られてしまった。カミューの吐息がマイクロトフを誘う。反抗できぬまま、マイクロトフは器用なカミューの舌に舌を絡めた。 「………ん…」 稚拙な舌遣いがカミューの熱を煽る。唇の端から漏れる小さな声が誘うような色を帯びている気がした。のしかかり、本格的に口付ける。吐息も許さぬように唇をふさぎ、舌先で口内を思う様なぶった。 マイクロトフの指先が震え、ずるずるとカミューの背中を滑り落ちる。脇に落ちたマイクロトフの手を、カミューは優しく握った。 「………愛してるよ」 唇を離し、ささやく。マイクロトフは潤んだ瞳でカミューを見つめたままぼんやりと言葉もない。濡れた唇が物欲しげに見えるのは、カミューの勝手な思い込みだろうか? 誘われるようにもう一度口付けた。 吐息が甘い。 もれ出る小さな声にカミューの心が震えた。思わず抱きしめる手に力が入る。 狭いソファの上で窮屈に抱き合いながら、寸暇を惜しむように口付けを続ける。激しい口付けにマイクロトフの呼吸が乱れた。もがくようにカミューの腕の中で身をよじり、それでもキスは止めようとしない。 カミューはわずかに唇を離し、笑った。 「向こう、行こうか」 「……………」 マイクロトフは寝室に視線を投げ、うつむいた。 「いやならここでもいいんだけど?」 幾分切羽詰ったような、笑いを含んだ声にマイクロトフは慌てて顔を上げる。自分を間近に見つめる琥珀色の瞳にはからかいと、抑えきれぬ欲情を孕んでいた。マイクロトフがかぁっと赤面すると、カミューはたまらない、とばかりにぎゅっと抱きしめる。 「ああ、ほんと、そういう顔は反則だよ。おまえがいつも『ここじゃ嫌だ』っていうから我慢しているのに。本当にここで襲っちゃうよ?」 耳元に熱い吐息を感じてマイクロトフの身体が震える。それは嫌悪ではなく、かすかな不安とそれを大きく上回る期待。小声で「行く……」と応えた。しかし、カミューは抱きしめた格好のまま動かない。マイクロトフはしばし待ったが、呆れられたのだろうか、と、だんだん不安になり、声をかけようとした。 「カ、ミュー……?」 「さあ、行こうか」 いきなり、がばっと顔を上げてカミューは言った。突然の行動に目を瞬いているマイクロトフに苦笑いを向ける。 「ごめん。マイクがあんまり可愛いから抑えるのに時間かかっちゃった」 「なっ、なにを……っ?!」 「さあ、行こう、行こう」 カミューは素早く身体を起こすと絶句しているマイクロトフの腕を引いて立ち上がらせ、そのまま腰を抱いて寝室へと足を運んだ。 ぱふっとほとんど抵抗なくベッドに沈んでくれた身体に覆い被さりながらカミューは自分のネクタイを人差し指でぐいっと緩める。マイクロトフはそのしぐさにどくん、と胸が高鳴った。ネクタイを緩めるこのしぐさが、露になる首元が、色っぽくて実は弱かったりする。……カミューには内緒だが。 「マイク……?」 カミューはぼうっと自分を見ているマイクロトフにそっと口付けようと顔を寄せた。ハッと我に返ったマイクロトフがわずかに身体を捩ると、スーツの裏地が滑った音を立て、自分の格好を思い出す。上着も脱いでいない。 「皺に、なる……」 「明日クリーニングに出せば明後日にはできるよ」 「……おまえ持ちだぞ」 「はいはい」 カミューは悔しげに睨みつけてきた愛しい恋人の鼻先にちょん、と唇をおとすと、首筋に顔を埋める。 「会いたかった……」 心からの囁きにマイクロトフも意地を張るのを放棄した。 「俺も、だ……」 「………………」 てっきり「嬉しいよ」とあの綺麗な笑顔を浮かべてくれると思っていたマイクロトフは、沈黙してしまったカミューにおそるおそる声をかける。 「カミュー?」 「まいったな……」 ようやく顔を上げたカミューはこれでもか、というほど赤面していた。片手で自分の顔を覆いながら、多少恨めしそうにマイクロトフを見下ろす。 「久しぶりだからおまえの負担にならないように抑えようと思っていたのに」 「え?」 自業自得だからな、と言いながらカミューはマイクロトフに噛みつくように口付けた。 熱烈な口付けの洗礼を受けたマイクロトフは、荒い息をついてぐったりとしている。そんなマイクロトフにカミューは艶然と微笑みかけながら、手はプレゼントの包みを開けるようにうきうきとした手つきで服を暴いていった。 スーツの上着を脱がし、ネクタイをワイシャツから器用に抜き取る。ワイシャツのボタンを2、3外し、露になった鎖骨に唇を寄せた。 「んっ……」 普段の彼からは想像できない鼻にかかったような甘ったるい声を聞いて、カミューの熱も一気に上がる。そこにくっきりと所有印を刻んでから、さらにボタンを外していき、今度は胸元に吸いついた。胸の突起を唇で挟みこむと固くなる。その反応にほくそ笑みながらカミューはもう片方にも手を伸ばし、愛撫をはじめる。 「ん……ぁ……っ……」 敏感な箇所から与えられる刺激にマイクロトフは無意識に身を捩った。カミューはわずかに浮いた腰に手を差し入れ、胸からほどよく鍛えられた腹筋へと唇を落としていく。そして、胸を弄んでいた手をベルトに伸ばし、ズボンを脱がしにかかろうとした。 「まっ、待てっ、かみゅっ……」 「え?」 マイクロトフが真っ赤になりながらも腕をつっぱねてきて、カミューは思わず手を止めた。何事だろう、とマイクロトフの言葉を待っていると、マイクロトフはかすかに震える腕を伸ばしてカミューの緩めただけのネクタイに触れてきた。 「おまえも……少しは脱げっ……」 快楽のためかかすかに潤んだ瞳で睨まれて、カミューはどきり、としつつも自分の姿を思い出す。ワイシャツどころか上着すら脱いでいない。 たまに自分ががっついてマイクロトフを脱がすのに夢中になっていると、しばしば抗議される。自分だけが脱がされるのは嫌だ、と。気をつけていたつもりだったが、またも理性が飛んでいたらしい。 カミューは苦笑して「ごめん」と顎にキスをひとつ落とすと、豪快に上着を放り、ワイシャツを脱ぎはじめた。 マイクロトフは間近でカミューの均整のとれた上半身が露になっていくさまを見つめていたが、心の底では少し安堵していた。 自分だけが脱がされて愛撫を受けていると、自分ばかりが快楽に陥ちているような気になる。浅ましい自分を見てカミューが嫌悪しないか、と不安なのだ。せめて2人とも裸でいれば少しは対等なのだと思うことができる……。 上半身の衣服を脱ぎ捨てたカミューは再びマイクロトフに覆い被さる。お伺いをたてるように間近で漆黒の瞳を覗き込めば、マイクロトフは目を伏せてしまった。しかし、そっと背中に腕が回される。無言の肯定にカミューは嬉しそうに微笑んで、頬にキスした。 そして、先程の続き、と下半身に手を伸ばす。ベルトが立てる金属音にびく、と硬直したマイクロトフにカミューは気をそらせるため激しく口付けた。 「……ぅんっ……んんっ……」 マイクロトフがキスに夢中になっている間にじゃまなものはすべて取り払ったカミューは、そっと半ば勃ちはじめているマイクロトフ自身に指を絡め、扱きはじめた。 「ぁっ……やっ……」 思わず口付けを解くマイクロトフを許さず、カミューは追いかけて再び唇を塞ぐ。おもうさま口腔を貪りながら手の動きもだんだん大胆になっていった。感じやすいところを撫で上げ、軽くひっかき、確実に追い詰めていく。 口を塞がれているため思うまま声を上げられないマイクロトフは、背中に回した手に力を込めて爪を立てた。ちり、とした痛みが合図。カミューはなごり惜しそうに口付けを解く。2人の間に銀糸が伝うのを舐めとって間近に顔を覗き込んだ。 「……っは…………」 瞳に涙をにじませ、荒々しく息をつくマイクロトフの姿はカミューの欲をこれ以上はない、というくらい煽る。カミューは目を細めて耳元に囁いた。 「ねえ、マイク……。先に一回イっておく? それとも一緒にイク?」 魅惑的な低音で淫らな言葉を囁かれ、マイクロトフは背筋をぞくり、と震わす。情事のときにしか聞けない艶を含んだ声。その声を聞くと身体が熱くなる自分がいるのをマイクロトフは知っている。しかし、それを羞恥と思うにはカミューに溺れすぎていて。 マイクロトフは背中に回していた腕を首に持っていってカミューの頭を引き寄せた。 「……いっしょが……いい……」 囁かれた言葉にカミューは優しく、愛しげに微笑んだ。そして、マイクロトフ自身に愛撫を施していた手をそっと外す。その手はマイクロトフ自身から流れ出た先走りの液で濡れていた。その手をそっと後ろに忍ばせる。マイクロトフの身体がかすかに震えた……。 それはこれから躯を割り開かれる事への少しの怖れからなのか、それとも与えられるであろう快感への期待なのか。 どちらから来る震えなのかは解らないけれど、マイクロトフはカミューが躯を弄って来るのを感じながら、そのどちらでもいい、と思う。 必要なのは、欲しいのは・・・カミュー。 ただその人の存在だから。彼が与えてくれる感覚なら、何でもいいのだ。 今日ここに来たのは、彼に会いたいと思ったから。忙しいで在ろう事は、ちゃんと理解っていた。普段まめに定期連絡を寄越す筈の恋人の連絡が不規則になりがちだった事や、たまに声を聴けてもその声色に疲労の色が見て取れたから。 だから。 顔を、本当に見るだけで良い、と思っていたのだ。 明日彼の会社が休みなのは解っていたけれど、長居する気は毛頭なかった。ゆっくり身体を休めて欲しいと思っていた。元気なのか。ちゃんとご飯を食べているのか。 そんな事が心配だったから、顔を見て、確認して、それで本当に帰るつもりだったのだ。 けれど。 ・・・そんな考えは彼の顔を見た瞬間、瓦解した。 柔らかな笑みを向けられて、身体を引き寄せられた途端に離れたくないと思ってしまった。触れられた箇所から、隠しようのない熱が生まれて躯の芯を疼かせる。彼と言う存在にこんなにも餓えていた己を自覚させられた。 そして同じ位の飢えと情熱で自分を求めてくれるこの恋人が、堪らなく愛おしくて、嬉しい。 「カ・・ミュー・・っ・・ん・・」 敏感な後孔の廻りを指先で探られて、思わずぴくり、と仰向いた顎先から首筋を舌先がねっとりと嬲り降り行く。 首筋に降りた唇が、胸元の尖りを優しく食み、舌先で転がし始める。 「っく・・ぁ・・・っ・・。」 快感に張り詰めていた身体に、その刺激は余りに激し感じ、仰け反ってそれから逃れようとした瞬間、彼の指先が不意に自分の後孔に挿し入れられた。 めりこむような、押し開かれる様な、感覚。 「っ・・!」 「・・・・痛い?」 気遣うような視線をカミューが向けてくるのに、マイクロトフはなんと答えて良いか、解らなかった。 数週間ぶり、だった。 彼とこういう行為をするのは。 だからだろうか。痛いと言えば痛いような、むず痒いような、曖昧な感覚で、カミューの問いに答えられない。 ただ、指の感覚が妙にリアルに感じて、それは自分の裡が彼の指を締め付けているという事だ、と気づくとマイクロトフは真っ赤になって俯いてしまう。 「・・・マイク?」 指は、未だ裡に在るまま。 カミューが俯いたマイクロトフの顔を窺うかのように、覗き込んで来る。その顔色は痛かったら止める、とでも言いたげで、さっきの勢いはどうした、とか色々思ったけれど、取り敢えず、素直に言ってみる事にした。 「・・・・その・・。」 「ん?」 「良く・・わからんのだ・・・。」 「へ。」 間抜けな顔をしたカミューに、これまたしどもどろになりながら、マイクロトフがぼそぼそ言い募る。 「久し・・ぶり、だから・・。痛いような気もするし、痛くないような・・っでも・・。」 「でも・・?」 「・・・・・・から。」 「え?」 最後の語尾が消え入って、カミューには良く聞えなかった。思わず聴き返すと、いきなりマイクロトフが、がばっ!とカミューの首筋に顔を埋め、恥ずかし気な・・けれど熱の篭った声で、言い放つ。 「それでもいい・・・っからっ!・・その、・・・。」 瞠目。 思わず己の肩口に伏せたままの漆黒の頭を、カミューはまじまじと見詰めてしまう。柔らかな黒髪から覗く耳が真っ赤になっているのを見やり、カミューは破顔した。 この極度に照れ屋な恋人が、こんな風に、こんな事を言ってくれる姿が見れるなんて。 今日は嬉しい驚きばかりだ。 「マイクロトフ・・・・。」 「ん。」 「マイクロトフ・・・愛してる・・・。」 囁きながら、頑なに伏せたままの顔を上向かせて貪るような口付けを施す。 「ん・・ぅ・・。」 くぐもった吐息を漏らす愛しい恋人の顔を、ちら、と盗み見ながらカミューは裡の指を探るように少し奥へと進めた。 「っぁ・・。」 舌を絡め、口腔内を荒らし、吸い上げて唾液と唾液を交換しつつ、またちらり、と彼の顔を盗み見ると、眉根が少し寄っているのが見えた。 やはり裡の感覚がどうやら少々痛みを伴っている事が窺い知れる。けれど、もうカミューにも余裕がなかった。ローションを取りに彼から身を離す時間すら、惜しい。 この温もりを、存在を、数瞬足りとも離したくない。離れたくない。一刻も早く深く深く繋がって、貫いてしまいたい。それしか思えない。 彼自身の先端から、たらたらと零れ落ちる透明な雫が蕾まで伝い降りて来る。それに挿入を助けられながら、カミューは更に容赦なくマイクロトフの感じる場所をくゆらせては指先で引っかいて、彼の快感を促す。 背に廻されていたマイクロトフの指に力が篭り始める。 少々の痛みの中にも快感を追っているのか、先程から塞いだままの唇から上がる吐息は、艶のあるものへと変化し始め、甘い喘ぎが微かに漏れ出でていた。 拒絶されていない事も、彼の潤んだ蒼闇の瞳を見れば解るので、心の内でごめん、と謝りながら、尚も彼の奥深くへと強く指を侵入させる。 やがて、マイクロトフの先走りの液に助けられて指を蠢かし、指を2本から3本に増やす・・と、 「・・・っう・・!」 マイクロトフが今度は明らかに苦痛と解るうめきを上げた。 指の滑りが少し・・・足りない。奥へ侵入させたくとも、女性と違って濡れないそこは、少し渇きを帯びていてカミューの指のそれ以上の侵入を拒む。 (やっぱりローションがいるか・・・・。) 痛い思いは極力させたくない。 そう思って、カミューが身体を離そうとした刹那、マイクロトフがカミューの背に腕をきつく廻して、その動きを止めさせた。 「・・・マイク?」 「ぃ・・ぃっ、から・・っ。かみゅ・・っ・・。」 「・・でも。」 逡巡している顔のカミューに、マイクロトフが困ったような、痛みを堪えたような複雑な顔をして、それでも上目遣いに懇願の眼差しを向けて来た。 「・・も・・早く・・お前とイきた・・・ん、ぅうぅ・・っ。」 言葉を最後まで紡がせなかった。 限界だ。 そうでなくとも、彼に餓えていたのだ。 必死に人が我慢しているときに、こんな台詞を吐かれては、もう抑えようが、ない。 まだ少し慣らしきってない裡から、指を引き抜き、カミューは限界まで勃ち上がっていた己をそこに宛がい、マイクロトフの耳元に囁く。 「爪・・立てて、いいから。―――ごめん。」 「いっ・・・!っぁあ・・っ!」 短い謝罪の言葉を聞いた瞬間、マイクロトフは下肢に灼熱の痛みを感じて悲鳴を上げた。カミューが一気自分の裡に押し入って来たのだ。 ぎり。 縋りつくようにカミューの背に爪を立ててしまう。この痛みを、押し広げられる苦痛を、何とか逸らしてしまいたくて。 「マイクロトフ・・・・。」 「っくっ・・ふ・・。」 痛みを堪える為に、きつく閉じられた眦に何か生温かいものが触れては撫でて行く。カミューの唇だ、と気づき、ゆっくりと瞳を見開くと、眼前にはこの上なく心配そうに、自分を見詰めている恋人の顔があった。 ああ。 マイクロトフは思わず泣き笑いになってしまう。 今自分の裡でずくりずくりと脈打ってるのは、この男。 こんな痛みを自分に与えて苛んでいるのは、この男だというに、どうしてこんなに・・・愛しいのだろう。 「・・・カミュー・・。」 呼ぶと、優しい口付けが降りて来る。 「カミュー・・。」 何も言わないまま、まるで許しを請うようにして肩口に寄せられる、彼の吐息。 熱い。 下肢の中心が、裡が、熱くて熱くて堪らない。 まるで彼と初めて情交を交した時のような、感覚。 ・・・・だから、知っている。 これは、そのうちすぐに快感に変わる。 辛いのは、今だけ。 「・・・もう、少し待って・・っぁ・・っ。」 耳朶にやんわりと噛み付かれて、背筋をぞくり、とした痺れが駆け抜けた。 「カミュー・・ゃめ・・っぁ!」 耳に与えられた刺激に、思わず身じろぎしかけた瞬間、繋がっていた下肢もまた動かしてしまい、結果それは熱い疼きをマイクロトフに伝え来る。 疼き。 熱く、うねる疼きが・・・変化の兆し。 緊張していたマイクロトフの下肢から、ふっ・・と少し力が抜けた。 その機をカミューが見逃す筈もなく。 ぐぃ! 「・・っは・・!かみゅ・・っ。」 いきなり下肢を大きく割り広げられた。マイクロトフの片脚を自分の肩に担ぎ上げ、カミューが激しく律動を開始する。 「マイクロトフ・・・っ・・もう抑え、られな・・ごめ・・んっ・・。」 がくがくと急激に抜き差しされる。 彼の自身が自分の裡を擦り、抉っては突き上げて来た。 「っ・・んぅ!ぁあぁっ。」 激しい動きに思考が置いて行かれ、次いで流されて真っ白になって行く。下肢の感覚だけしか追えなくなり、恥ずかしい嬌声が我慢できずに自分の喉奥から漏れ出でる。 やがて、カミューの先走りの液で挿入の滑りが良くなり、彼の大きさに慣れて来たマイクロトフの後孔は、その柔軟性を以って裡にいる侵入者を奥へ奥へと誘う動きをし始める。 「かっ・・みゅー・・・っ。」 「マイクロトフ・・・。愛してる・・・。」 するり。 カミューの手が、マイクロトフの花芯に触れ、穿つ律動に合わせて扱き始めた。 「ん、っぅ・・・!」 擦る動きと同時に、マイクロトフの弱い処をカミューの自身が突付いては刺激を与える。けれど、微妙に一番イイ処をうまく逸らしたその突き上げは、カミューの焦らしの手段で、マイクロトフは彼の肩を掴んで思わずきっ、と睨む。 「カミューっ!」 そんなマイクロトフの態度に、悪戯っぽい意地悪な顔をした恋人がにや、と笑って腰を蠢かす。 「欲しいのは、ここ?」 ぐりっ。 「!!」 マイクロトフの身体を、脳天から足の爪先まで電流にも似た快感が一気に走り抜けた。 「ここ、とか?」 ぐん! また違う箇所を鋭角に突付かれた。 「っあ!!」 目眩がする。脳裏がちかちかして、何も考えられなくなる。・・・・眼前の男以外の事は。 「こっ・・のっ!」 先程の殊勝な態度はどこに行ったんだ! 思い、悔し紛れに首筋に噛み付いてやろうと思った瞬間、自分の腰がふわりと浮いた。 「な・・・に・・・?」 「おイタは駄目だよ?」 ベッドの上で少しバランスを崩し、慌ててカミューにしがみ付く羽目になったマイクロトフを、彼は艶然と見下ろしている。 「もう、痛くないよね?」 そう囁くと、カミューは肩に担ぎ上げてない方の、マイクロトフの脚の膝裏に手をやって、更にぐ、と腰を押し進めて来た。 「っん!!」 繋がりが否応なく深められる。 奥深くまで、突き刺さるかのように潜り込んで来るカミューの熱さに本能的に恐れを為し、身体を退きたいような、退きたくないような、妙な感覚に一瞬捕らわれるけれど、激しい抜き差しを開始されれば、そんな思考はすぐにどこかに攫われてしまう。カミューの律動に合わせ、いつしか自分の腰も揺らめき、呑み込み、頂点までを求め貪り合う。 「マイクロトフ愛してる、愛してる・・。」 熱を帯びて行く彼の吐息と、余裕のない声色。 裡にある彼の感触に、彼も限界が近い事を知る。 自分ももう限界が近い。彼の手の中で嬲り続けられている自分の分身ははちきれんほどになっているのが、自分でも解る。 「か・・みゅ・・!も・・っ!」 「マイクロトフっ・・・・!」 どくん! 内の奥深くに熱いものが放出された。と、同時にカミューの手の内にも、白濁の飛沫が散った。 「・・・っは・・ぁ・・。」 「マイ・・ク・・・。」 ずるり、とカミューの背からマイクロトフの腕が落ちた。 力の抜けた体を預け合い、しばしの間、互いの荒い呼吸が辺りを包み込む。 「・・・・かみゅ・・・重・・い。」 少し呼吸の落ち着いたあと、未だ覆い被さったままのカミューの背に手をやって、マイクロトフは上から退くように促す。 が。 「やだ。」 「カミュー・・?」 「まだ・・離れたくない・・・。」 ぎゅむ、とカミューの腕がマイクロトフの身体に廻される。 「こらっ。」 「だって久し振りなんだよ?お前にこうして触れられるのって・・。ああ、マイクだなぁ・・と思ってさ・・。」 甘えるようにして、顔を自分の肩口に埋めて来るこの男を拒める術など、マイクロトフは知らない。 けれど。 「カミュー・・夜は長いんだぞ?」 覆い被さる男の背を宥めるように撫で付けて、マイクロトフはふんわり微笑みかけた。 「マイクロトフ?」 「・・・その、お前の事だ。忙しいからと言ってろくなものを食べてないだろう?先にちゃんと食事を・・・摂ろう?」 「・・・ああ。」 自分の身体を当たり前のように気遣ってくれる。他愛のないけれど、とても大事な幸せをくれる、恋人の言葉にカミューは胸が熱くなった。 「じゃ、食事した後は好き放題してもいい?」 けれど口をついて出るのは、感謝とかの言葉ではなく、やはり欲望丸出しの言葉。 「なっ・・・!」 顔を真っ赤にしている恋人の鼻先にちゅ、とキスを落とす。 「いいだろう?明日、明後日と休みだし!好き放題・・・くれるよね?」 にやりと優しく笑んだカミューの瞳の奥に煌くは、拒む事など許さない獣のような光が見え隠れしている。・・・・逃げれないのは、明白だ・・・とマイクロトフは悟らざるを得ない。 「・・・・・お前・・・疲れてたんじゃないのか・・。」 諦め半分でぼやくと、力一杯身体を抱き締められた。 「だから!それをお前に癒してもらうんじゃないかっ。」 「・・・・・。」 がくり。 「・・・解った・・好きにしろ・・・でも!」 「うん?」 「その前に食事だ!!」 そうして。 結局一回目でさんざ酷使されたマイクロトフは起き上がれなくて、カミューにベッドまで食事を持ってこさせたとか。 食事の後は宣告通り、好き放題されて翌日マイクロトフはベッドの住人を余儀なくされ、休日は終わったとか。 その辺のイロイロは。 ――――――――各自の御想像にお任せします。 |