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いつからだろうか。キスを受け入れるときに眉を寄せなくなったのは。 いつからだろうか。キスを受けている間、身体が強張らなくなったのは。 そんな些細なことが。嬉しくてたまらない……。 カミューは部屋の明かりをおとすと、所在無さげにベッドに腰掛けている恋人の方に歩み寄った。もう数え切れないほどこういうシチュエーションを繰り返しているのに、いまだ慣れない恋人が愛しくてしかたない。 カミューはかすかにうつむいている恋人の目の前に立ち止まると、そっと愛しい名を呼んだ。 「マイクロトフ……」 少しの沈黙ののち、マイクロトフはゆっくりと顔を上げた。頬には朱がさしていて、唇はどこか悔しそうに結ばれている。そして、カミューを魅了してやまない漆黒の瞳はかすかに潤んでいた。それはこれからのことを不安がっているようにも、期待しているようにも見える。 カミューはくす、と笑った。マイクロトフがこういう表情をしているのは、恥ずかしくてうつむいていたのに顔を上げさせられたことを怒っているのかな、と。 だったら名前を呼ばれても顔を上げなきゃいいのに。 彼の性格上、できないとわかっていても、意地悪くそんなことを思ったりする。こういう素直なところも可愛くてしかたないのだ。 カミューの漏らした笑いに、マイクロトフは居心地悪げに目をそらす。こういうときのカミューはいつも余裕たっぷりで、自分の拙さがおかしくてしかたないんだろう、と思う。 「マイク……、俺を見て……」 頭上から囁かれる言葉にマイクロトフの胸がどくん、と跳ねた。執務中にはあまり聞くことのないこの低い声はひどく官能的で、自分の身体の奥を刺激する。 耳まで真っ赤にしながらも顔を上げてくれないマイクロトフにカミューは苦笑いした。こういう頑ななところも可愛いと思っているのだから、もうお手上げ状態だった。 そっと頬に手を伸ばし、優しく包み込んで仰向かせると、思いのほか抵抗なく自分を見上げてくる。ゆっくりと顔を近づけていくと、漆黒の瞳は静かに閉じられた。眉間に皺が寄ってないことを確認して、カミューは嬉しそうに笑う。 初めの頃のように、どこか無理して自分を受け入れてくれているんじゃないんだということを、こんな些細なことで実感できるのが嬉しい。 カミューは身を屈めて唇を重ねると、そのままマイクロトフに覆い被さるように体重を傾けた。力を抜いて待っていてくれた身体はほとんど抵抗なく、共にベッドに倒れ込んだ。 前は押し倒すのも力まかせだったのにな……。 角度を変えて何度もついばむようなキスを繰り返しながら、カミューは幸福感に胸がしびれた。 前は慣れないマイクロトフを、リードする、と言えばきこえがいいが、半ば強引に快楽を暴いていく日々だったのに。今は……心が通っているような気がするのは都合がよすぎる解釈だろうか。 間をおかず何度も重ねられる唇に、マイクロトフは呼吸が苦しくなったのか、わずかに唇を開いた。しかし、それは、カミューにとっては誘い以外のなにものでもなく。ほう、と甘い吐息をつくのを待って、唇を深く重ね合わせた。 無防備に開かれた唇の隙間からするりと舌を滑り込ませてゆっくりと歯茎を辿る。くすぐったいのか、マイクロトフは少しくぐもった声を上げた。その鼻にかかったような甘い声にカミューの理性は脆くも崩れはじめる。舌をさらに奥に侵入させ、口腔をおもうさままさぐりながらマイクロトフの舌に辿りつくと、ノックするようにつついてみる。すると、とまどいがちに舌が動き、カミューの舌にそっと触れてきた。 カミューは舌先でマイクロトフの舌をなぞり上げる。びくっと反射的に引こうとするのを許さず、素早く絡め取った。 「……んっ…………」 抜けそうなほど強く吸われて、マイクロトフの身体中に電流が走る。いつもカミューの巧みなキスだけで自分の理性など跡形もなく飛ばされてしまうのだ。 マイクロトフは覆い被さっているカミューの背中に腕を回してぎゅ、と力を込めた。 背にしがみ付いて来たその力の篭り方にカミューは密やかにくすり、と笑いを漏らしつつ、まだまだだな、とか思う。 まだ・・・緊張がイマイチ取れてない。 でもこんな状態の彼に、カミューはいつもゆっくり時間をかけて愛撫を与え、身も心もとろとろに溶かして、欲に溺れさせる。 今はまだ少しぎこちない状態でも、やがては快感に揺れ、何もかもをカミューに委ね、恍惚とした姿を自分だけに見せて来る、愛しい恋人。その媚態はいつもカミューに堪らない悦びをもたらす。 廻されている腕はそのままに、尚もカミューは口付けを続ける。・・・・まずはキスに全部意識を持って行かせよう。 「・・ん・・ふぁ・・っ・・。」 激しくなって来たカミューの舌技にマイクロトフがくぐもった吐息を漏らす。 懸命にカミューの舌の動きについて来ようとしているのだが、段々とそれが敵わなくなり始め、彼の舌の力が抜け行く。 マイクロトフが完全にキスに没頭し始めた辺りを見計らって、カミューはそろそろと彼の首筋に手をやった。 ぱちん、と軽い音を響かせ、禁欲的な雰囲気醸すプレートを取り外すと、カミューは彼を護らんとしてるかの如くきっちり閉じられているベルトも緩め、更に彼の白い肌を露にして行く。 マイクロトフはカミューの邪な手には気づかない。いや、気づけない。 カミューのキスはその位巧みで、強ばって彼の背の服を掴んでいた指も力が抜け、いつしか背から滑り落ちていた。 ぴちゃ・・・。 マイクロトフが飲み込み切れなかった唾液が、口端から漏れ、顎を滑り落ちて首筋へと流れ始める。その銀糸を辿るように、カミューは唇を外し、徐々に舌を首筋へとずらした。 顎をぺろ、と舐めつつ、白い首筋を時折きつく吸い上げながらやんわりと噛み付くと、びくりとマイクロトフの身体が震える。その震えを宥めるように、カミューは手の平を胸元に落として優しく撫でつけた。 「・・か・・みゅー・・っ・・・。」 マイクロトフが潤んだ瞳で喘いだ。 カミューの手の平の動きは優しいけれど、ある意味容赦ない。撫でさすってるだけかと思いきや、手の平は両の胸の尖りの上をまるで偶然を装ったかのように、掠めるように触れ行くのだ。 既に熱くなりかけていた身体は、たったそれだけの刺激でも痛い程の官能を訴え、マイクロトフは息が上がって行くのを止められなくなってしまう。 熱い吐息が漏れる。 ふっ・・と気がつけば、いつしか自分の服はあらかた取り払われていて、霰もない姿を恋人に晒しているのに気づく。 「カミューっ・・・・。」 「なあに、マイク。」 くすりと優しく笑む瞳に浮かぶは艶然と煌く欲の色。 「お・・前も、脱げ・・っ・・・!」 照れ隠しにマイクロトフは力の入らない腕を何とか持ち上げ、カミューの服に手を掛けた。 「・・・脱がせてくれるの?随分積極的になって来たね・・。」 「・・っ茶化すなっ・・!」 言い返しながら、マイクロトフはカミューの服を脱がそうとする。・・が、羞恥心に加え、熱くなりはじめた身体が邪魔して、思うように指先に力が入れられない。指が震えてしまい、服の前を合わせているホックがうまく外せないのだ。 そんなマイクロトフの様をカミューは愛おし気に目を細めてしばし観察した後、おもむろにその手を握り込んで止めた。 「・・・カミュー?」 止められて、訝し気な顔をするマイクロトフの爪先にキスを落とし、カミューは返答する。 「自分で脱ぐよ。」 「・・・っ。」 「マイクに任せていたら、待ちきれなくて俺が困る。」 「・・え。」 きょと、とした顔のマイクロトフにカミューは少し困った顔で破顔すると、掴んでいた彼の手をそうっと、自分の欲望に押し当てた。 「・・かみゅっ・・!」 触れさせられた箇所が熱く昂ぶっているのが解る。 「・・ね?・・・待てないんだ。」 真っ赤になって俯いてしまったマイクロトフを余所に、カミューは、少し身体を起こしてぱさりぱさりと衣擦れの音を響かせながら、上半身の全てを脱ぎ去った。 ふと、カミューの方を見上げたマイクロトフはその均整の取れた綺麗な裸を目の当たりにて、どくん、と大きく心臓が跳ねた。 (うわ・・・) まだほとんど何もされていないというのに、心臓がばくばく言う。己の下半身に熱が集中して行くのが解ってマイクロトフは一人うろたえてしまう。 (お・・落ち着け!お、お、落ち着くんだ!!) 「マイクロトフ・・・・。」 甘やかな声に耳朶を擽られてはっ、とする。いつの間にかカミューが眼前間近で自分を見つめていた。 「余り・・緊張しないで・・。」 「・・っ」 低い、少し掠れた声がやけに耳に心地良い。 「愛しているよ・・・・。」 囁いてカミューの唇が耳朶から首筋へ。首筋から胸元のラインを降り行き、胸の突起を舌でつい、と舐めつけた。 「ぁっ・・・。」 あえかな声がマイクロトフの口から漏れる。 先端を唇で挟まれたかと思うと、舌先で舐るように突起をこねくり廻された。 「・・・っ!・・ぅ・・。」 強い刺激に身体が跳ねる。 堪らず仰け反り、身を捩った弾みで腰がシーツから浮く。その瞬間、カミューは反動を利用してマイクロトフの脚を自分の膝の上に乗せると、ズボンのベルトに手を掛け、一気に引き降ろした。 するすると、下半身を覆っていた着衣が器用に下着ごと降ろされて、剥き出しの脚が外気が晒される。けれど熱くなりかけていた下肢にはそれが冷やりと感じて何だか地良く、マイクロトフははぁ、と息をついた。 「マイクロトフ・・・・。」 カミューが再度口付けを落として来る。 やや口を開き、そのままそれを受け入れた瞬間、カミューの手がさっき舌で舐めつけられていた突起をつい、と摘まんだ。 「んぅっ・・!」 塞がれた唇からくぐもった喘ぎを漏らす。 だが、その喘ぎすら絡め取る激しさでカミューが口腔内を蹂躪し、容赦なく吸い上げて来る。更に今度は空いたもう片手はマイクロトフの下肢を滑り降り、反応して勃ち上がりかけていた、中心をやんわりと握り込んだ。 「・・っ・・ぁ・・っぅ。」 握り込まれてゆるゆると擦られる。親指の腹で撫で付けられたかと思えば、手の平全体で包み込まれて扱かれた。 頭の芯が真っ白になってゆく。まるで酸欠を起こした時のように、脳裏がちかちかと点滅し、どこか苦しいのに与えられる感覚は紛れもない快感で、思考が混乱しそうだ。 呑み込まれそうな感覚が何だか恐い。思わずカミューの背を叩くと、ようやくカミューが唇を解放してくれた。 「マイク・・・・・・・。」 自分の名を優しく呼ぶ声に促され、それまでぎゅっ、と瞑っていた瞳を見開くと、愛しくて愛しくて堪らない、と言った風情で自分を見つめている彼の視線とぶつかった。 「か、カミュー・・・ぁ・・っ。」 呼びかける間もない。 すぐにふっ・・とカミューの頭が自分の顎下に消える。 亜麻色の髪が顎先を擽った、と感じた瞬間、生温かい舌の感触が胸の尖りへと到達した。 やわやわと舌先で先端を突付かれたかと思うと、唇に尖りを挟み込まれて吸い上げられる。無論、口に含まれてない方の突起も彼は忘れずに指の腹で嬲っていた。しかもその間も下肢の中心はもう片手で握り込まれたままだ。 「ぁ・・ぁあっ・・・ゃ・・ぁ・・っ・・。」 堪らない。 胸と下肢に与えられる余りの刺激の強さに、思わず横に身を捩って逃れようとするが、それは敵わず、カミューが全体重を器用に使ってマイクロトフの上に圧し掛かり、動けないように拘束してしまう。 やがて。 徐々に徐々に、カミューの頭が下へ下へと降りて行く。 「ゃっ・・・だ、駄目だ・・っ!」 カミューが何をしようとしているのかを察したマイクロトフは、咄嗟にカミューの頭を両手で掴んで止めようとする。が、ちょうど脇腹の辺りまで降りていた彼は、引き締まった腹筋に口唇を寄せ、ぺろり、と舌で撫で付けた。 「・・っ!」 最早身体中のどこもかしこも性感帯状態だったマイクロトフにとって、その刺激は強烈で、一瞬びくりと震えて手が頭から離れてしまう。その隙を逃さず、カミューはやすやすとマイクロトフの手から逃れてしまった。 彼の腕が両足を大きく割り広げる。 どうしてか逆らえない。 腕の力よりも絶対的に自分の足の力の方が強い筈なのに、わななく下肢は自分の意志で力を込められず、ただカミューの意のままに動かされ、一番大事な場所をいとも簡単に彼の眼前へと晒す。 ぴちゃ。 湿った熱い感触に包み込まれる。 抵抗したい心とは裏腹に、自分の分身は彼の口内に迎え入れられて、歓喜の涙を零しつつ成長してゆく。 「か・・かみゅ・・っ・!」 舌の腹で包み込まれるように、舐め上げられる。かと思えば根元まで呑み込まれて、窄めた唇で絞られるように何度も上下に扱かれた。 「ぁっ、あっ、ぁぁあっ・・ゃ、め、っぁあぁ・・っ!」 恥ずかしい。 だから止めて欲しい。 でも・・・・止めて欲しくない。 多大な羞恥心と同時に、けれどそれを上回る強烈な快感を与えられ、その思考の狭間で翻弄されるが、その内に理性も羞恥心も快楽の前に降参して彼方に吹き飛ばされてしまう。 彼を止めようとしていたマイクロトフの手は、いつしか無意識の内に彼の頭を自身の中心に押し付けるかのように強く、亜麻色の髪に絡み付き始めた。 手が、指が更なる快感をカミューに促して解放を、請い願い始めるのだ。 そんなマイクロトフの反応を、カミューはくすり、とほくそ笑む。 ―――ようやく陥ちきった。 禁欲的なこの恋人が、自分に身も心も全てを預けて、快楽に溺れるこの瞬間を見る度、とてつもない歓喜をカミューにもたらす。 (ああ、でも・・・・・) ぱたり。 カミューは突然、蹲っていた中心から唇を離した。 「・・っゃっ・・かみゅっ・・?!」 解放したくて熱が荒れ狂っていたマイクロトフが、思わず抗議の喘ぎを上げる。 その顔を満足気に見詰めつつ、マイクロトフの花芯の根元をイけないように、きゅ、と握ると上に戻ってやんわりと口付けた。 「・・・今先にイったらマイクが辛くなるだろ・・?」 言いながら、カミューは根元を握り締めている方とは逆の手をそろそろと後ろにやって、そこをするり、と撫で付けた。 途端、真っ赤な顔になるマイクロトフ。 「ふっぁ・・。」 ぞくり、とした戦慄にも似た快感の痺れが撫でられた箇所から背筋を駆け上がる。躯が更なる快感を期待しているのを自分でも解ってしまい、マイクロトフは俯いた。 そんなマイクロトフの表情に、カミューは思わず苦笑をもらす。赤く染まった頬に優しく口付けると、体をそっと離した。 「ちょっと待っててね。…ま、辛いのは俺も一緒だから」 「…カミュー!!」 羞恥のために染まった頬が、今度はからかわれた怒りのために染まっている。 ころころと変わる恋人の表情にカミューはにっこりと微笑み、小さなビンを手に戻ってきた。 カミューはマイクロトフの側に体を横たえると、ビンから中身を手の平に垂らし、不安そうに見守っているマイクロトフに視線を投げた。 「……そんな顔されると、どうも弱いんだけどなぁ」 「えっ…あっ……す、すまない」 「大丈夫、大丈夫、いつも俺は優しいだろ?」 「………………」 短い前髪を引っ張り、カミューは笑った。マイクロトフはどこか不満そうな顔でカミューをにらんでいたが、腹の上に冷たい粘液を垂らされるや、目を閉じた。 冷たい。 カミューがその冷たいものを指ですくい、遊ぶように奥のほうへと垂らしていく。気遣うような焦らすような指の動きにマイクロトフは唇を噛んだ。 この、何とも言えない時間が嫌いだ。そして、不安を感じる自分も嫌いだった。 すると、カミューの自由な方の手がマイクロトフの指先に絡んできた。そして、優しく握り締めてくる。マイクロトフは思わず薄く目を開け、カミューを見た。カミューは、微笑んでいた。 「……愛してるよ、マイクロトフ」 「………カミュー…」 「……愛してるよ…」 カミューは絡ませあった手を持ち上げ、指先に口付けた。そして、ぬめる粘液を指に絡め、もう片方の手でマイクロトフの入り口をなでる。 ゆっくりと、カミューの指が侵入してきた。 「………っ…」 息を飲んだマイクロトフの額をカミューは優しくなでる。額に口付け、頬に口付け、そして唇に口付けられた。入り込んできた柔らかい舌に自分も舌を絡め、夢中で口付ける。 マイクロトフの腕がカミューの首に回った。引き寄せられ、カミューの口元に笑みが浮かぶ。 甘い口付けを続けながら、マイクロトフの体を指で開かせていった。締め付ける力と吐き出す吐息に相反する彼の心が表れているようだった。 かたくなな彼の心を反映しているかのように、その体もなかなか開いてはくれない。何度経験しようとも彼の反す反応はほとんど変わらなかった。 羽化したての蝶のように体を震わせ、恐る恐るといった感じでカミューの指に応えてくる。その反応がたまらなくカミューの心に響いた。 「……痛くない?」 「……カミュー……」 見上げてくる瞳がにじんでいた。揺れる闇色の瞳に理性の殻を破られそうで、でも、目が離せなかった。平生より幼い彼の瞳がひどく愛しい。 思わず指で彼を強めに責め、そのとたんマイクロトフの喉がひくりと震えた。 「………っ……」 マイクロトフの指がカミューをきつくつかむ。だが、その瞳に浮かんでいるのは苦痛の色ではなかった。カミューの瞳に欲望の炎がひらめく。胸の奥で野生が叫んでいた。 「カ…カミュー……っ…」 じり、とマイクロトフの足が開く。シーツを蹴り、マイクロトフは片手で顔を抑えた。感じた鋭い快感に体がついていっていないのだろう。苦痛に似た快感にマイクロトフの目がにじんでいた。 「ごめん…きつかったね……」 「……平気……だ……」 「…ごめんね」 カミューはマイクロトフのまぶたに口付け、指をもう一本増やした。抵抗は段々となくなってきている。そして、同じようにカミューの余裕もなくなってきていた。 カミューは指を抜くと、マイクロトフの上に覆いかぶさった。 「いい?」 「…………馬鹿者、聞く奴があるか…」 「…聞かなきゃできないじゃないか。…じゃ、いくよ」 「………」 カミューは手近なクッションをマイクロトフの腰の下にあてがい、足を大きく開かせた。湿った部分が空気にさらされ、同時にひどい羞恥がマイクロトフを襲う。何も感じまいとすればするほど、顔が火照っていくのが分かった。 いつまでも動かないカミューにマイクロトフが怒鳴る。 「は、早くしろ!!」 「…言葉のわりには色気のないセリフだねぇ…」 「うるさい!お、俺にそんなものを求める方がどうにかしている!」 「……そうかな?」 にやりと笑ったカミューの顔面をクッションが襲った。マイクロトフは手近にあった柔らかい凶器をカミューに投げつけ、怒ったように目を閉じる。 「お前は、最低だ!」 「じゃ、どうしてお前は俺の親友なんかやってるのかな?」 言いつつ、ゆるゆると前をしごいた。マイクロトフは思わぬカミューの反撃に息を飲み、恨めしそうな視線を向ける。抗議するようでどこか甘いマイクロトフの瞳に、カミューはうっとりと目を細めた。 「……いい加減、俺のほうが限界かな」 「…カミュー……?」 カミューはマイクロトフの前をきゅっと握り、ゆっくりと体を進めた。 「………っ……!!」 開いたマイクロトフの口が声にならない声をあげる。きつくつかまれた肩に爪が食い込んだ。カミューは鋭い痛みに眉を寄せ、どこかうっとりとマイクロトフを見る。 強く締め付けられ、痛みに似た快感がカミューの神経を鷲づかみにした。マイクロトフが呼吸困難のように短い呼吸を繰り返す。カミューはその胸に優しい口付けを落とした。 「……大丈夫…」 「……か……カミュー……」 「マイクロトフ…」 前をしごきつつ、ゆっくりと体を進めていった。締め付けられるたび、カミューの欲求がはじけそうなほどに膨らむ。だが、無理やりそれを押さえつけた。 苦痛を感じているようなマイクロトフの表情が、カミューの心にブレーキをかける。 だが、苦痛にゆがむ彼の姿が、同時にカミューの心を波立たせた。 乱暴な獣が胸の奥で荒い息を吐き出している。 マイクロトフの腕を自分の首に導き、腰を抱いてゆっくりと体を動かした。 「……っ……カミュー……っ」 マイクロトフがカミューにすがりつく。かすれたマイクロトフの声が鼓膜を震わせた。吐き出される荒い息にカミューの中心が熱く脈打つ。 マイクロトフの熱い体を抱き、カミューは強く彼を責めた。思考が白く染まり、互いの吐く荒い息遣いのみが部屋に満ちていく。熱かった。 マイクロトフの腕を解かせ、シーツの上につなぎとめた。マイクロトフが救いを求めるような瞳で自分を見ている。目の端に涙が光っていた。 「…カミュー……っ…」 「……マイクロトフ……愛してるよ」 「……っ…」 言い、強く彼を穿った。マイクロトフの背中が弓なりに反る。喉の奥でつぶれた苦痛か快楽の叫びがカミューの心を蕩かせた。ギリギリで保たれていたカミューの理性がもろく崩れ去る。 光を増したカミューの瞳に射られ、マイクロトフの体を戦慄が駆け抜けた。 悪寒のようなその感覚すらもが体の奥で快感に変換され、マイクロトフを狂熱のるつぼへと叩き込む。 もう、何もかもどうでも良かった。 自分の体を支配するカミューという存在だけが、全てだった。 しがみつき、名を呼ぶ。何を言っているのか自分でも分からなかった。名前を呼び、声にならぬ声をあげ、二人分の快感に屈服する。かすれたカミューの声がマイクロトフの体を駆け抜ける。 求め合う体は獣だった。言葉という余計なものはいらない。ただ、本能の叫びだけで会話を続ける。ふだんの顔をかなぐり捨てたマイクロトフの姿に、カミューは瞳を奪われていた。 今のこの瞬間に飲み込まれ、彼という人格すらもがよけいなものに思われる。 清浄で高潔な彼の人格が、ひどく遠いものに思われた。 それでも、確かめるように彼の瞳をのぞき、瞳の奥にひらめくいつもの固い意志を見て取った。何物にも溶かされないその礎はひどくカミューを苛立たせ、安堵させる。快楽の薄いベールに包まれた漆黒の瞳はいつも以上に艶やかで、ぞくりとカミューは体を震わせた。 「…カミュー…」 苦しげな声にカミューははっと我に返った。 声が、耐えるものに変わっている。寄った眉根が彼の限界を伝えていた。 カミューは汗を拭い、ふうっと息を吐き出す。うずくような下半身の熱はそろそろ限界だった。いつまでもこうしていたいが、それは無理な相談だ。腰を抱え直し、より強く攻め立てる。 耳に届く濡れた音がマイクロトフの羞恥心を煽った。そして、近かった限界への距離を一気に縮める。耐えがたい衝動が体を駆け抜け、思わず身を震わせた。 「………いくよ」 低い声はカミューのものだ。いつも以上に艶めいたその声が誘うようにマイクロトフを捕らえる。その声に縛られ、思わずうなずいていた。自分も限界だ。 早く吐き出してしまいたいが、だが、終わって欲しくもない。その考えをあさましいと思う余裕は今のマイクロトフにはない。 いっそう激しくベッドがきしんだ。 高い声を放ち、マイクロトフはカミューにすがりつく。カミューはマイクロトフから体を引くや、小さなうめき声をあげて白い腹の上に熱いものを吐き出した。 しばらく言葉もなく荒い息を吐いていたが、どちらともなく大きく息をつくと、視線を合わせた。 「……大丈夫?」 乱れた髪をかきあげ、カミューが笑った。マイクロトフは天井を見上げたまま応えない。 「今日は何だか、積極的だったね」 「………!そ、そ…そんなことを言う奴があるか!!」 「ははは、誉めてるんじゃないか。いやいや」 「馬鹿者!!」 蹴飛ばされ、カミューはにやりと笑った。 その笑みが気に入らず、マイクロトフはさらにカミューを蹴飛ばす。しばらくじゃれあうように攻防を繰り広げていたが、どちらともなく吹き出した。 「……馬鹿め」 「悪いね。言うなら、マイクロトフ馬鹿ってところかな?」 「……本当に、馬鹿だな…お前は…」 楽しそうに笑ったカミューを、マイクロトフは呆れ顔に見つめていた。 汗ばんだ部屋の空気は、まだ冷めない。 |