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マイクロトフの一番の好物は、と聞かれたらおそらくマイクロトフ自身は答えられないだろう。食べ物ならなんだって好物だくらいのことは言いそうだが、これという一品をあげることは、マイクロトフにとっては至難の技に違いない。 ならば、誰に聞けばいいのであろうか。 「俺の好物、か?しかしそれはまたどうして…」 「お花見のシーズンだからね、なんでもお花見の弁当に好きな物を一品だけ入れてくれるそうだよ。手間だろうけど、ハイ・ヨー殿も気づかってくれてるんだろうね」 「…それはつまり、この戦時下において花見をするということか…?」 マイクロトフの、意志の強さをあらわすかのように逞しい眉が歪んだ。現在進行形ではおおがかりな戦闘は行われていないものの、小競り合いやモンスターとの戦いは日をおかずおこなわれており、武器の手入れをすればその直後にまた武器が汚れるといった状況である。真面目きわまりないマイクロトフが顔をしかめるのも仕方のないことだろう。 「いや、べつになにもみんなで足踏みそろえてどこかに花見に出るわけではないよ。城内か、せいぜい近郊の街か。そのあたりで個人的に花見をする人のためにお弁当を用意してくれるってことらしい」 「ああ、そういうことか…。まあ息抜きも大事だしな」 「そういうこと!で、普段は忙しい騎馬隊頭領が、同じく多忙な騎馬隊頭領を誘って公然と花見に行こうとしているわけです」 よく考えてみれば、集団で行くのであれば一人好物一品というのは無理な話で。それに気付いたらしいマイクロトフが恥ずかしそうにあごを軽くかいた。 「で、何がいい?一応大体の好物は知ってはいるつもりだけどね、確認しておこうと思って」 「う〜〜ん…好物……」 「ちなみに、あまり手のこんだものや地方色が強すぎる料理は避けたほうが賢明だろうね」 「いや、そうではなくて…。そうだ、さっき俺の好物は知っていると言ったな。では、俺の好物の一品はなんだと思う?」 「クイズかい??待ってよ、あててみせるから!!」 そういうわけではないのだがという言葉は、音として聞こえることはなかった。 「…肉!」 「それは…一品とは言わないのではないか…?」 「あ、そうか。ならばステーキ」 「いや、ステーキも確かに好きなのだが…」 「牛丼」 「う〜ん…」 ここで悩むべきは解答者であるカミューのはずであって、出題者であるマイクロトフが悩まなければならない道理はない。だがカミューの目の前にいるマイクロトフは誰の目から見ても思案顔で、カミューは思わず自分の立場を逆転させた。 「どうしたんだいマイクロトフ?当てると言っておいていつまでたっても正解がでないから怒っているの?」 「いや、そうではなくてだな…なんというか…、こう、改めて一品と言われると…」 「ははあ、一つにしぼれないってわけだね?」 「恥ずかしいことだがな」 そんなことはないと笑いとばすカミューの表情はとても明るい。マイクロトフもつられるかのように目を細めて笑った。 「そうだな、カミュー。俺のかわりに好物決めてくれないか」 「それは無理だよ。だってマイクロトフが一つに決めれないものを、どうして私が決められると言うんだい?マイクロトフが大好きなものを言うことはできるけどね、たった一つっていうのは私が決めることではないよ。そうだろう?」 「だな…」 マイクロトフは腕を組み、しきりに首をまわしている。こんな何気ないことでこうまで悩むとなると、カミューも大変である。とにかく生真面目な性質なマイクロトフ、いったん悩みはじめれば例え空の色がすっかり変わろうとも、日付けが変わろうとも、答えを得るまで悩み続けるのだから。 「まあ、そんなに悩まないで。無理に決めなくてはいけないことでもないし、第一、無理に決めることでもないよ。そんなの自然に決まっていくものなんだから」 「そうだな…」 マイクロトフが顔の渋味をやわらげた。 「ねえマイクロトフ?」 「なんだ?」 「そこまで悩んでもらえるなんて、マイクロトフの好きな食べ物は幸せだね。…その何分の一でも、私のことで悩んでくれ…」 「馬鹿カミュー!!」 カミューのぼやきは、マイクロトフの怒鳴り声で突如さえぎられてしまった。カミューは目を丸くさせて驚きの表情をその優美な顔に浮かべている。 「お前というやつはっ!俺がどれだけカミューのことで悩んだと思っているのだ!俺のなかの一番がカミューであるということを漠然と認識しはじめてからはっきりと理解するまで、どれだけの時間を費やしたと思っている!!」 マイクロトフは急に肩を激しく上下させ、息を切らすほどの声をあげた。 カミューは目を数度またたかせて、それからふわりと舞い降りるようにマイクロトフの肩に顎を沈ませた。 「カ、カミュー?!」 「そんなに悩んでくれたんだね。ありがとう…素直に嬉しいよ。マイクロトフを私のことで悩ませたと思うと心苦しいけど、でも、それ以上に嬉しく感じる私を許してよね?」 「許すも許さないもないぞ…カミュー」 ぎこちない所作で同じくカミューの肩に顎をのせるマイクロトフ。ずしりと肩にのしかかる重さと、つたわるほのかな暖かさとをカミューはしばし味わった。 「マイクロトフの一番が私かあ…ありがとう…ほんとうに…」 「…カミュー…」 マイクロトフは少し困ったようなとまどったような口調でつぶやくと、感情のおもむくままカミューの背に手をまわした。少しだけマイクロトフよりも低いところにある肩が、それでもマイクロトフの目には広く、頼りがいのあるものとしてうつっていることだろう。 その肩が、身じろぎをするようにぴくりと動いた。 「ねえマイクロトフ。お前は好物を一品と言われて迷っていたけれど、私はすぐに答えられるよ」 「そう言えばカミューの一番の好物ってなんだ?」 マイクロトフがその問いかけを口にするのに端を発したかのように、カミューがその柔らかな唇をマイクロトフの唇に重ねた。マイクロトフのなめらかな頬を両手で丁寧に包みながら、軽く開かれたままのマイクロトフの唇から中へと侵入し、どこか甘いその中をなめとるように味わう。カミューの手のひらに熱がつたわり始めた頃、手をそのままにカミューは唇が少し触れあうていどに顔を離し、婉然とした笑顔をほころばせた。 「私が好きな物も、好きなことも、好きな食べ物も、もちろん好きな人も。私が一番好きだと思うなにかは全部お前だよ、マイクロトフ。嘘じゃない…」 「ま、待てっ!好きな物と人、まあ百歩譲ってことまではわかるが、どうして好きな食べ物までもが俺なのだ!!」 「だって言うじゃないか。食べちゃいたいくらい可愛いって」 「ば、ば、馬鹿、言うにことかいて…」 どもりながら文句を言おうとしているマイクロトフは耳まで赤い。いや、もともとが透けるように白い肌をしているので、淡い薄紅色という形容がふさわしかった。その色は、外で満開に花開いた桜にひどく似ていた。あまりの見事さに、寒気がするくらい綺麗な桜に。 「これじゃ、花見の必要なんてないかもね…ねえ、食べさせてよ。私の一番の好物」 「バカ者…」 苦笑しながらも緩慢と歩き、ソファーに身をゆだねて肯定の意をあらわすと、マイクロトフはカミューに手をさしのべた。 その手を優しくとると、焦れるくらいゆっくりと唇をおとすカミュー。それを皮切りに二人はじゃれあうように互いの服を脱がし始めた。くすくすと音をあげて笑いあう声と衣擦れの音が耳に優しい。 「まさにいただきますって感じだね」 一糸まとわぬマイクロトフの白磁のような肌にカミューが唇をおとすと、かすかな震えがおこった。カミューはしばしその反応を楽しんでから名残惜し気に唇をはなすと、その跡に薄桃色の花が刻み付けられていた。 「見せてあげたいくらい綺麗だよ、マイクロトフ」 「バ、バカ…誰が見たいと思うか!そんなもの見て綺麗だなどとぬかすのはお前くらいのものだぞ!」 今さっきつけた跡と、前回のときつけたほのかに残る跡とをたどるようにカミューの指がマイクロトフの体をつたっている。その指がマイクロトフの下肢に届くころには、すでにマイクロトフの息はあがっていた。 「カ…ミュ…」 びくりと大きくマイクロトフが揺れた。とけそうなくらい熱く感じられるそれを優しくしごくと、マイクロトフの言葉にならない声がカミューの耳に届いた。 「私の名前を呼んで…体だけじゃなくて、声を、息遣いを、全て、味わいたいから…ねえ…」 「か…かみゅ…ぅ…」 「決めた…マイクロトフの好物。私。いいでしょ?お互いの一番好きなものがお互いだなんてそれに勝る幸せはないんだから…」 花見などでは味わえないであろう至福の時間をふたりでむさぼりあう。 それに勝る幸福を、少なくとも二人は知らない。 |
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遅くなってすみません…切腹… |