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桜が咲いた。 たまたま、マイクロトフが起こしに来るより早く起きたので、部屋に書置きを残して散歩にでた。 のんびりと歩いていると、ひらひらと桜の花びらが舞い落ちてくる。 よく晴れた小春日和に舞う花びらはとても心地よくて。 春独特の、贅沢な景色。 一人で見るのもいいが、二人で見たいと思った。 どうしようもなくマイクロトフと一緒に見たくて、桜の花びらが舞い散る中、マイクロトフを呼びに行くために走る。 ―この時間なら部屋にいるはずだな― 焦る気持ちを抑えて、マイクロトフの部屋のドアをいつもの調子でノックする。 さりげなく誘って驚かせたい。 きっとマイクロトフは桜には気がついていないから。 桜の木は彼があまり行かないところにしかない。 ―喜んでくれるかな?― ノックの音が廊下に響き・・・返事がない。 もう一度、ノックをしてみるがやはり返事がない。 ―おかしいな― 朝というには少しくらい遅い時間。 大体にしてマイクロトフはこの時間は部屋で読書をしている。 今は春休みで、実家に戻っている者が多い。例に漏れずカミューとマイクロトフの友達も里帰りをして、寮にはいない。 だから、マイクロトフを部屋から連れ出す者がいるとすれば、カミューだけなのだが。 「道場か?」 考えながらも足はマイクロトフを探すために動き出す。 ―ここにもいないか― 溜め息をついて、マイクロトフは図書館を後にする。 朝起きて、あまりの暖かさにカミューを遠乗りに誘おうと思い、自主トレもそこそこに切り上げて・・・。 いつもの時間より少し遅めにカミューを起こしに行ったが、部屋はもぬけの殻で書置きがあるだけ。 散歩と言ってもほとんど人のいない学び舎ならすぐに見つかると思ったが・・・・・・見つからない。カミューの影さえ見当たらない。もしかして、外に散歩に行ってしまっているのかもしれないという思いがよぎる。 ―遠乗りは無理だな― 青い空に輝いている太陽を仰ぎ見て、そう思う。カミューを探しているうちに、だいぶ時間が経ってしまい日が高い。 ―少し遠くへ行きたかったのだが― 手に持ってるバスケットを見て、もう一度ため息をつく。 そして、ふと、前を見て・・・・・・ ―さくら・・?― ふわりと舞う花びらに逆らい、上を向く。 ゆっくりと降ってくるそれに驚く。 知らなかったのだ。 咲いていたこと自体より、桜の木があったことを知らなかった。 そう言えばここは、普段は来ない場所。 ―・・・・・・― どっしりとした桜の木から花びらが零れ落ちる。 貫けるような青にとても良く似合う。 その綺麗な光景に足を止めてうっとりとする。 だが、少し物足りなさを感じて、何が足りないのか考えて出た結果。 「一人で見るのは勿体無い」 吐き出した自分の台詞に苦笑を漏らして。 一緒に見たいと思った人を思い浮かべて、もう少しその人を探そうともう一度歩こうとして・・・ 「マイクロトフ!!」 その人の声がした。 校舎の中もほぼ探し終えて、イラつきとともに窓の外を見ると、桜を見ているマイクロトフが目に入った。 ―なんであそこに・・・?― 幻じゃないかと窓を開けて身を乗り出して、目を凝らしてみても消えない。 マイクロトフが桜を見て、その光景をカミューは声をかけずに見ていると、不意に変化がおきる。 ―笑った?― 嬉しそうにではなかったが。でも確かに、マイクロトフは笑った。 滅多に笑わない、表情の変わらない鉄面皮の変化。 驚いているカミューをよそにマイクロトフはまた歩き出そうとする。 「マイクロトフ!!」 我に返って、慌てて声をかけた。 「そこから動かないで。今行くから」 マイクロトフがこちらを見たのを確認してから、窓を閉めて校舎内を走って、マイクロトフの元へ行く。 「カミュー、何処に行っていたのだ?」 先ほどマイクロトフが見ていた桜の木の根元に腰を下ろし、マイクロトフが言った不満。 いや、不満かどうか分からないくらいに表情が変わっていないのだが。 「ん〜。マイクロトフを探していたんだけど」 「書置きは『散歩に行く』となっていたぞ」 声が、身体からでる雰囲気が、目が、表情以外のすべてが不満だと物語っている。 他の者にはほとんど分からないらしいが、カミューには分かる。しかも大体当たっているのだ。 だが不満だと言うことが分かっても、何が不満なのかが分からない。 「散歩に行ったらさ、桜が綺麗でマイクロトフと一緒に見たくなったんだよね。だからマイクロトフをずっと探してたんだよ。そういうマイクロトフは何処に行っていたの?どうしてこんなところにいるの?」 カミューが正直に言葉に出すと、マイクロトフはそっぽを向きカミューの膝の上にバスケットを置く。 どういう意味なのかわからなくてマイクロトフを見ると、少し気の済んだらしい声色で言葉を出してくれる。 空気が少し和らいだ。 「陽気が良かったから、遠乗りに誘おうと思ったのだが」 バスケットを開けてみると、中には色とりどりのサンドイッチ。 そして水筒と、前にカミューが好きだといっていた紅茶。 「カミューが何処にもいなくて、探していたらこんな時間だ。遠乗りなんか行けないではないか」 マイクロトフはカミューの膝の上からサンドイッチを取り、カミューの口の中に放り込む。 黒い瞳と言葉で少しだけ、責める。 「馬鹿者が」 「むごご・・・」 カミューが喋ろうとすると、手を唇に当てて遮る。 「何を言ってるのか分からんが、味わって食べろ。急いで喋ろうとしなくても構わないから。もう怒っていないしどうせ時間は沢山あるのだ。それに、こんなことで謝るな」 言って、マイクロトフはカミューの元からサンドイッチをとって自分の口の中に放り込み、紅茶を入れる。 「ん」 口にサンドイッチを咥えたままでカミューの膝の上のバスケットを草の上に置き、カミューに淹れた紅茶を渡す。 紅茶を受け取り、口の中のものをマイクロトフの言うとおりに味わって片付けていると、マイクロトフがサンドイッチ片手にポツリと呟く。 「本当は遠乗りに行きたかったのだがな。先ほど桜を見てたら、カミューと一緒に桜が見たくなった。だからあの時声を掛けてくれて、カミューに会えて嬉しかった」 遠くを見ながら言うマイクロトフの思わぬ告白にカミューは真っ赤になって、 「じゃあ、俺とマイクロトフは同じ気持ちだったんだ」 それでも何とか平常心を取り戻しながら反撃を試みたが、 「そうだな」 見事に玉砕した。 これ以上、惚れさせないで欲しいと思うカミューの心を他所にマイクロトフはサンドイッチの美味しさと、居場所の居心地のよさに目を細める。 「天気がよければ明日こそ、遠乗りに行こうな」 もうすっかり不満の無い声で、真っ直ぐな黒い瞳で言われた。 お腹いっぱいになったマイクロトフは、木にもたれてすやすやと眠ってしまった。 カミューは愛しそうに眠っているときまで締まっているマイクロトフの顔を見て微笑み、彼の髪の毛に付いている花びらを取り、花びらに口付け、頬に口付けをして目を閉じる。 「おやすみ」 貫けるように青い空と、はらはらと舞い落ちる桜の花びら。 ただ、何となく一緒に何かを見たいと思う人がいる。 |