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快晴の天気の中、空と同じく清々しい色の騎士服を纏った青年が、思案顔で同盟軍城の中庭をてくてくと歩いていた。 その青の騎士服のデザインは団長たる者にしか許されぬ、長衣の中でも特別なもので、歩みを進める度にはたはたと青い裾が風に揺らめく様が凛々しくも、清々しい。 だが、その清々しさとは別に、彼・・・・・マイクロトフの顔は、この天気など目に入らぬ、といった風に思案に暮れたどんより顔のまま。いつもの彼ならば、きっと遠乗りにでも行きそうな絶好の天候具合だというのに、今の彼には天気なぞ目に入ってはいなかった。 「何がいいんだろうか・・・・。」 思わず漏れる溜息交じりの、呟き。 遠乗りも何もかもを忘れるくらいに、マイクロトフを悩ませているもの、それは。 誕生日プレゼント、だった。 明日はカミューの誕生日である。 毎年の如くマイクロトフはカミューの誕生日プレゼントに悩まされるのだ。 何しろカミューは「何が欲しい?」と問うても「マイクロトフがいればいいよ。」と言ってのける、ある意味強者で、思考回路が少し変とも、おめでたいとも言える奴で、如何ともしがたいのだ。 逆にマイクロトフの誕生日の場合、マイクロトフは「ステーキが食べたい!」だのと我が侭放題に彼に言って、カミューの方も蕩けるような笑顔をこちらに向けつつそれを叶えてくれるのだが。 いい加減、「誕生日には俺をやる」などというこっぱずかしいパターンは年も年だし、したくない。これがまだ恋人になったかならないかの頃なら微笑ましいかもしれないが、マイクロトフにしてみればもうそれは気恥ずかしい云々以前の問題で、既にやりたくないパターンである。 大体にして、ほとんどいつも一緒だし、夜だって・・その、2、3日に一回はそういうコトをしている訳で、今更改めて「俺をやる」などど言う必要性も、必然性も感じられないのだ。 自分がカミューのものであるということは、とうの昔からの事で、それを今更「あげる」というのも変な話しではないか。 ・・・・・・という訳で、マイクロトフは彼に何をプレゼントすべきか、こそばゆいながらも、難しい問題に直面していたのであった。 そんなこんなで。 マイクロトフはなんやかやで、何かプレゼントを買う為にサウスウィンドゥに来ていた。 クスクスでも最低限の日常品は買い揃えられるが、嗜好品の類はやはり交易所のある、サウスウィンドゥの方が豊富だ。 マイクロトフはあてどなくふらふらとあちこちの店を見回った。 取り敢えず、陶磁器類・・・カップ関係が無難か、と考えて店の中を見回っていたマイクロトフは、ふと、あるカップが目に入って足を止めた。 大きなマグカップ。 いつでも優雅な雰囲気を醸している恋人にはおおよそ似つかわしくない・・・・・彼になら、誰もが優美なフォルムのティーカップを選ぶだろう・・・・・少しごつい感じの、マグカップ。 でも。 マイクロトフは色が気に入った。 深い藍色で何となく海のような、それでいて空のような。 光の加減と見る角度によって少し趣が違って見える。 そして。 確かにカミューは紅茶の類いが好きで、しょっちゅう飲んでいるが、実はああ見えて疲れたときなどは、甘い物を好んで飲む。そう言った場合の時は紅茶ではなく・・・・マイクロトフが「疲れている時に紅茶は胃に良くない!」と怒るせいもあるが・・・・・ホットミルクを良く飲むのだ。 このマグカップはホットミルクにとても良く合いそうだ。 ―――決めた。 カミューはまだここ同盟軍に来てから、マグカップを購入してはいない筈。ちょうど良いではないか。 マイクロトフはマグカップを手に、カウンターにいる店の主人と思しき初老の男に問う。 「これはお幾らですか?」 「おや・・お前さん、お目が高いねぇ・・ああ、でもこれは一個では売れないよ。」 「え?」 「ほらさ。それがあったとこと同じ棚に色違いのが置いてあるだろう?それはペアカップなんで、二つ揃っての値段しかつけれないんだ。」 「ペア・・・。」 今マイクロトフが手に取っているのは、深い蒼い色のマグカップで。 そして、主人が言う方向にあるのは、紅い色のカップ。 深い緋色のそれは、これまた青いカップと同じく、見る角度によって夕日のような優しい色合いを帯びたり、はたまた赤くなったり、と不思議な光沢を放っている。 「とても良い物だよ。釉薬も何もかも、最初から最後まできちんと手を抜かずに職人が創ったものだから。」 「・・・では、とても高いのでしょう?」 色もデザインも気に入った。二つ揃いだというのなら、是非に買い揃えたい。だが、買える限度額という金銭的問題が今のマイクロトフにはあった。 マチルダにいた頃は騎士団長、という立場上からそれなりの額を手当てで支給されてはいたが、如何せん今の立場はしがない只の剣士。かろうじて騎馬隊頭領という地位にはあるが、お給金は雀の涙で、自由になるお金は少ない。・・・それでも一般兵に比べればかなりマシな額ではあるのだが。 ―――余りに高価であれば買えない・・。 「幾らで売ってくださいますか?」 二つのカップを手に持って真剣な面持ちで値段を問う、マイクロトフのその様子に、主人が柔和な微笑みを浮かべた。 「・・・そうさね・・お前さんは随分とこれを気に入ってくれたみたいだしねぇ・・・このくらいでどうだい?」 「え・・?そんなに安くていいんですか・・?」 主人が提示した額の安さに驚いた。 そこそこ裕福な生まれのマイクロトフは、こう見えても物の価値を見る眼はあるほうだ。この釉薬の色といい、そんじょそこらの安物ではない事が分かる。 「・・・価値を知っていて、且つ大事に使ってくれる人に買われて行くのなら、その方がカップも幸せさね。大切にしてやっておくれ。」 「は・・はい!ありがとうございます!」 優しい、どこか職人を思わせる顔立ちの・・・・もしかして、このカップを創ったのかもしれない・・・・主人に、マイクロトフは身体一杯に嬉しさを込めて、礼を言ってそのカップを購入した。 店を後にしたマイクロトフはカップの包みを大事そうに抱えつつ、予算が予想以上に安く済んだので、他に何か買おうと思案する。 と・・不意に、マイクロトフの鼻を柔らかくも甘い、良い匂いが擽った。すぐ近所でケーキか何か焼いているらしい。 ついつい香りに誘われて、辿り着いた一角で主婦と思しき恰幅の良い女が、台所でケーキをかまどから取り出しているのが見えた。 思わずじっ、と見つめていると視線に気がついたのか、女が不意に振り返った。 「・・・おや?」 「あっ・・と、す、すみません!」 「まぁお待ちよ、お兄さん。」 女は、慌てて踵を返して立ち去ろうとするマイクロトフをくいくい、と手を振ってこちらへ来るようにと呼ぶ。 「・・・え、あ・・いや・・。」 「ほうら、良い匂いだろう?味見してお行きよ。」 「し・・・しかし・・。」 ぐぅぅ・・きゅるる・・・。 断ろうとするマイクロトフの心とは裏腹に、すきっ腹が正直に女の声に答えてしまった。 「!!!」 途端、かぁぁっ、と顔を真っ赤にするマイクロトフ。 「あ、あはははは!ほらほら、やせ我慢しないの。味見してくれないかい?」 そのマイクロトフの様子に、女が豪快に笑いながらぐい、とマイクロトフの服の袖を引っ張って中へと招き入れる。こうなればマイクロトフも観念した。この気の良さそうな女の好意をむげにはしたくなかったし、何よりこの良い匂いのモノを食べてみたいのが大きかったのだ。 「どうぞ食べとくれ。」 「・・これは美味そうだ!」 とん!と小気味良い音を立ててテーブルに置かれた皿を見て、マイクロトフは感嘆の声を上げた。 「あっはっはっは。さぁさぁ熱いうちに召し上がれ。」 お皿の上には、まだ湯気の上がる、出来たてほやほやのシフォンケーキが鎮座ましまししていた。 ああ、そういえば。 カミューはホットミルクと一緒にほわん、と柔らかなシフォンケーキを食べるのを結構好んでいた。 二人で過ごすお茶の時間に、ほんのり砂糖の利いたホットミルクと、ふわふわした感じのシフォンケーキを手で千切って少し行儀悪く食べる。 普通、ケーキ類はきちんとフォークで食べるのが常だが、カミューとマイクロトフが二人でシフォンケーキを食べるとき、あの何とも言えないふわふわ感を手でも楽しみたいし、互いに「そっちの欠片が大きい」だの、「お前の方が多く食べた!」だのと、じゃれ合って食べるのが常だった。 (そう言えば同盟軍に来てから、食べてないな・・・。) そんな事を思い出しつつマイクロトフは眼前のシフォンケーキに手を伸ばす。・・・・が。 「あつっ!」 出来立てのケーキが熱いのは自明の理。 つい、いつもの癖で千切って食べようとしたマイクロトフは小さく悲鳴をあげた。 「まぁまぁ。こんな出来立てのを手で千切って食べれないよ。そら。ちゃんとこれをお使いな。」 マイクロトフは仕方なく、女が苦笑しつつ渡してくれた、ナイフとフォークで、ケーキを少しつぶしてしまいながら、食べた。 「美味い!」 切る時に少し潰してしまったが、それでもシフォンケーキ独特のふわり、とした舌触りはちゃんとあるし、何より味も甘すぎずちょうど良い具合で。 「そうかい、良かった。これはお店で出そうかと思った試作品なんでね。美味しいと思って下さる人がいるんなら、お店で出しても大丈夫そうだ。」 「お店・・?」 「ああ、表の方でケーキ屋をしていてね。今度シフォンケーキを出そうと・・・あ、そうだ兄さん、良かったら残ってるのも、持って行っておくれ?・・・まだ食べたいだろう?」 あっと言う間にぺろり、とケーキを平らげてしまったマイクロトフを見て、女が微笑んで同時に焼いていたのと思しきシフォンケーキ数個を指差す。 「え・・いや、では買います。是非買わせてください!」 こんなに美味しいのだ、カミューにも食べさせてやりたい。 「ああ、いらないよ。試作だから、少し焦げてるのもあるし。あんたの美味しそうな顔が御代だ。・・・・その代わり、次には店に寄って売り上げに協力しておくれよ?」 「いや・・しかし、それでは!」 「いいからいいから。」 かくして。 マイクロトフはマグカップとシフォンケーキ数個をカミューの誕生日プレゼントとして、同盟軍城に持ち帰ったのである。 翌日。 朝の鍛練を終えた、マイクロトフはいつもの如くカミューを起こそうと彼の部屋へと向かった・・・・・・が。 マイクロトフはカミューの部屋に入れなかった。 何故なら。 常なら、まだ就寝中の彼は、自室のドアの前で沢山の少女やら御婦人に囲まれて、プレゼント攻勢を受けていたからである。 「カミューさぁん!」 「カミュー様!」 「カミューさまぁ!!」 「誕生日おめでとう〜〜!」 わいわいきゃいきゃい。 いっそ姦しい、と思える女性の大量軍団がカミューに砂糖に群がる蟻の如く群がっている。とても近づけそうにない。 マイクロトフは短く嘆息した。 まぁ。毎度の光景でもある。ロックアックスにいた時も、城の若いメイドやら何やらがカミューの誕生日の度にああして何がしかを渡しに行っていたから。 恐らく惰眠を貪っていたであろうに、あの黄色い声でカミューは起こされたに違いない。 苦笑しつつカミューの方に視線を向けると、カミューもこちらの視線に気づき、疲れた笑いを向けて来る。この分では朝食を誘うのは無理そうだ。 マイクロトフは短く目配せをし、軽く手を振ってそこを後にして一人でレストランに向かった。どうせ執務の時間になれば後で幾らでもカミューには会える。 そして、午後の執務の時間。 いつも通りなんて事のない、書類にざっと目を通しつつサインをし、少し経った頃、カミューが顔を覗かせた。 「マイクロトフ、仕事一段落ついた?」 「ああ、ちょうどな。」 「じゃ、お茶にしよう。」 「そうだな。」 いつもお茶はカミューの部屋で頂く。 てくてくと廊下を歩き、マイクロトフはカミューの部屋に招きいれられた。 そして。 マイクロトフは思わず言葉を失った。 「・・・・・・。」 部屋の中には朝カミューを囲んでいた女性軍がカミューに贈ったと思しきプレゼントの数々がででん!と山になって無造作に置かれていた。 別に、数の多さ自体に驚いた訳ではない。 ロックアックスにいた頃もカミューはこの位の量はいつも貰っていたから。 マイクロトフの目を奪ったもの、それは。 ピンクやラメの入った煌びやかな色の包装、だった。 ・・・失念していた。 自分は、プレゼントと思って買ったはいいが、包装の事まで考え付かなかった。 色とりどりに飾られたプレゼントの数々。それに比べて自分が用意したプレゼントは・・・・。 マグカップは、店主が包んでくれた茶色のごく普通の厚めの紙で陶磁器が割れない仕様の、ありきたりな・・・というか、プレゼント、とはお世辞にも見えない粗末な外装だ。 プレゼント用に、とか言えばまだ何とかなったのかもしれないが、あの時は値段の安さと、手に入った嬉しさにそんな事にまで気が廻らなかった。 シフォンケーキだって、ただの紙袋仕様。あの恰幅のいい女は「出来立ての湯気で汗をかくといけないからね」と言って、紙袋に入れてくれたのだったし。 「マイクロトフ?」 「あ・・。」 「どうした?呆っとして。さ、お茶にしよう。ああ、そういえば。今日御婦人から手作りのチョコレートケーキを頂いたんだけど、マイク、食べるかい?チョコ、好きだよね?」 カミューが眼前に美味しそうにデコレートされたチョコケーキを差し出した。 「しかし・・これはお前の為にと、せっかく御婦人が・・。」 「・・別にそうでもないと思うよ?くれた人を覚えてるけど、先だってのフリック殿の誕生日にも、同じようなのをプレゼントしていたのを見たし。」 カミューが笑って言う。 でも今は、何だかそれが・・・酷く心に引っ掛かった。 眼前にあるケーキは綺麗なラッピング包装されていた上、ケーキ自体もとても凝ったチョコのデコレートが施されていて。 でも自分が用意したものは粗末な包みのもので、シフォンケーキだって素朴なものだ。 しかも自分は、カミューの誕生日だからと言って、「何か作ろう」とまで思考は廻らなかった。「何を買ってやろう」と思っただけで。 作る、と買う、では圧倒的に作った方が心が篭っているように感じられるし、包装を全く考えなかった時点で、自分の間抜けぶりが浮き彫りに出たよう何だかで居た堪れなくなってしまう。 自分は一生懸命考えて買って来たつもりだったけれど、今この部屋にある品々に比べれば、自分が用意したものなど、ちっぽけな物に思えてならなくなった。 そして、そんな事を考えてしまう自分の心に対しても酷く自己嫌悪に陥る。マグカップを売ってくれた店主、ケーキをくれた女の真心篭った笑顔や優しさが心に浮かんでは消えて行く。 こんな事を考えてしまう自体、あの親切な人達に対して侮辱ではないのか・・・。 自分は何て・・・情けないのだろう・・・・・。 「マイク?」 いつのまにか俯いていたらしい。カミューが心配そうに自分の顔を覗き込んでいた。 「・・・ケーキをくれた人に申し訳なく思うのかい?それとも不快になった?プレゼントが沢山あるから・・・もしかして、嫉妬・・・してくれた?でもそれなら俺は・・」 「ち・・がぅ・・。」 そんな・・・事ではないのだ。 女性らに嫉妬など、しない。 カミューがどれだけもてていようが、彼の心が自分の上にある事は、自分が一番良く知っているから。 でも、自分は。 自分は彼のその心に十分に応えてあげられているのだろうか・・。 「マイクロトフ?!」 カミューが慌てた声を上げた。 「な・・なに?どうしたんだ?何を泣いてるの、マイク?!」 「・・え?」 言われて自分の頬に手をやれば、濡れた感触が指先を滑る。 「あ・・・・?」 「マイク?」 おたおたしながらカミューが自分の身体を抱き締めて来た。 涙が零れる頬に唇を寄せて、舌が優しく雫を掬い取っては、背を撫でられる。 「・・・また何を抱え込んでいるんだい?俺の大事な大事なマイクロトフは。何を抱えて、気にして、そんな風になった?・・・言ってごらん。」 「・・いゃだ・・っ・・。」 「聞えないなぁ。マイク。良いから、言ってご覧。」 カミューが自分を逃がさないよう、腰にぎゅう、と片腕を廻し、もう片手で何度も優しく背中を宥め擦って促す。 「・・・俺は・・。」 「うん?」 「俺は、卑怯で醜い・・。」 「はぁ?お前が?どこが?」 頓狂な声を出したカミューの肩口に、ぎゅ、と顔を押し付けてマイクロトフは黙りこくった。 しかし、その肩口にじわり、と温かい湿りがどんどんと広がって行くのを感じ、カミューは無理矢理にマイクロトフの身体を離し、顔を上げさせた。 「マイク。」 両手でマイクロトフの頬を優しく掴んで上向かせると、まだ流れる涙を拭ってやりながら、ふわ、と口付けた。 「っ・・っく・・。」 「マイク、マイクロトフ・・・愛してる・・。」 鳴咽が混じり始めたマイクロトフの呼吸の邪魔にならないように、何度も啄ばむようなキスを繰り返しては、眦の涙を掬い取る。 「マイク・・。」 「・・・・・・。」 「マイク、ベッドに行こう。」 「・・っなっ・・!」 「いいから、行こう。」 ぐい! 腕を強引に引っ張られた。 抵抗しようと思えば出来るのに、何故か今のマイクロトフには抵抗出来なかった。 ベッドに優しく押し倒されて、服を徐々に脱がされても、マイクロトフは情けない、半べそを掻いた顔でカミューを見上げたまま。 「マイク・・・。愛してるよ。」 徐々に、徐々に、優しくも、激しい愛撫が身体中に施される。 「・・っ・・く・・ぁ。」 甘い睦言だった言葉はいつしかカミューの口から紡がれなくなり、言葉よりももっと確かなもの・・・指で、舌で、彼の身体そのもので、彼は自身の持つ愛情を余す事なくマイクロトフに伝え、マイクロトフの全てを翻弄し、巻き込んで行く。 上がって行く内側の熱に思考が真っ白になる。恥ずかしい嬌声を上げてしまい、快感を容赦なく導き出す男の背中に取り縋っている内に、欲の解放を促され、同時に彼の欲も自分の奥深くへと注ぎ込まれた。 そして・・やがて訪れる、静寂。 気怠い身体と、まだ少し荒い呼吸。 汗ばんだ肌と肌からしっとりと伝わり来る温もりが酷く心地良くて、マイクロトフはただじっとしたまま、カミューの身体にくっついていた。 その様子にカミューは目を細めて見やり、優しくマイクロトフの髪を梳きながら囁く。 「・・・・・落ちついた?」 「・・・っ・・お前の方こそ・・このっ・・万年発情・・っ、ん・・ぅ・・。」 照れ混じり、口惜し混じりで放った罵倒の台詞は甘いキスで塞がれ、それ以上の言葉にならず消された。唇を絡める合間合間でカミューがくすくす笑って言う。 「憎まれ口を利くのも可愛いけれど、たまには愛してる、とか言って欲しいな。」 せっかく俺の誕生日なんだし。 「・・・っ・・・。」 一瞬だがマイクロトフが少し傷ついた・・・何とも言えない曖昧な表情を浮かべたのを、カミューが見逃す筈がなく。 「マイク・・?」 「・・・・・・・。」 「マイクロトフ。」 ぷい、と向こうを向いたマイクロトフをカミューが身体を起こして、顔を訝し気に覗き込んで来る。 「・・・何かあった?」 「カミュー・・・。すまん・・俺は・・。」 「うん?」 「俺は・・お前を愛してないのかもしれない・・・。」 「なっ?!」 「俺は・・・・・・。」 お前の誕生日に何も作ろうとは思わなかった。―――と、マイクロトフは続けようとしたのだが。 「ななな?!何?!俺と別れたいの?!よりにも依って何もいきなり俺の誕生日に言わなくても!い、いや!俺は絶対にマイクとは別れないぞ!冗談じゃない!!」 一気に捲し立てた後、カミューはがばり!とマイクロトフを腕にぎゅう、と力一杯抱き込んで来た。息が詰まるのではないか、と思えるほどの、その強い抱擁にマイクロトフは胸が締め付けられたかのようになって、目頭が熱くなる。 「・・みゅー・・・。」 「・・マイク?」 「俺、は・・かみゅが・・好き・・だ。」 「マイクロトフ。」 抱き込んだその顔を見れば、不安に揺ら揺ら瞬く蒼闇。漆黒の瞳が、やや潤んで自分を見上げていた。 「その・・・カミュー・・・・。プレゼント・・。」 「プレゼント?」 「お前の・・誕生日の・・・。」 「うん、それが?」 「買って来たんだ・・。」 「本当かい?嬉しいよ、マイクロトフ!」 「・・・だが。」 「え?何か・・あったのか?」 逡巡している様子のマイクロトフを少しずつ促して、聞き出す。 数分後・・・・・・・。 「・・・という訳で・・・ちゃんとした包みには入ってないんだ・・すまん・・しかも・・俺が作った訳でもないし・・・。」 「マイクロトフっ。」 カミューは破顔し、堪らなくなって、マイクロトフをかき抱いた。 「えっ・・うわ!こら、カミューっ、よせ!どこを触っ・・・っ・・ぁっ・・!・・ゃめっ・・・っふ・・。」 「ほらほら、観念しようね♪」 遠慮なんかしない。じたじたと暴れる身体を少し強引に抱き込んで、先程の余韻の残る体から情欲の欠片を引き出してしまえば、もうこちらのモノ。 大体にしてこんな顔して、こんな可愛い事を自分を言ってくる方がいけない。上目遣いの少し不安気に揺れる瞳が自分をどれだけ煽るのかなんて、この最愛の存在は絶対に気づいていない。 誰かになんて、渡すものか。 こんな綺麗で、こんなに愛おしい者を。 「か・・みゅ・・ぅ・・ゃめ・・っ。」 身を捩って逃げようとする素振りはあるけれど、彼の中心は熱を持ってカミューにその状態を如実に伝えて来る。・・・本当は嫌がってなんか、いない。 「駄目。逃がさない。愛してるよ、マイクロトフ。」 「・・・っふ・・ぁ・・。」 紅潮した頬。熱い身体。もう彼の全ては快感にほどんど支配されようとしている。なのに、未だ彼の内に欠片として残る理性は、往生際悪く快感から逃れようとし、まるで誰かに助けを請うかのように指先を宙にふらふらと伸ばす。 そんなマイクロトフを艶然と見下ろすと、カミューはくすり、と至近距離で微笑みかけ、その指先をやんわりと掴み取った。 「・・・・?」 何をされるのかと訝し気な顔をしている彼の眼前で、爪先にキスを仕掛けて、次いで濡れた口内に迎え入れて、舌で爪先をねっとり愛撫する。 「・・っふ・・!」 途端、顔を切な気に歪め、びくり、と震えるその反応。 堪らない。 その媚態はどこまでもカミューの欲を更に煽るばかり。 「マイク・・・。」 「ぁっ・・ぁあ・・!」 足掻くようにわななく下肢を割り開き、容赦なく指をその奥へとくい、と忍ばせれば余韻の残るそこは既に熱く畝って指を迎え入れる。腰が快感に揺れて悶える様は扇情的で、カミューに底無しの飢餓感にも似た情欲を沸沸と蜂起させる。 「・・ぁっあ・・かみゅ・・・!」 もうそろそろ陥ち切った。 切ない瞳に欲望の色を混ぜて、マイクロトフの腕がカミューの首に絡みつき、引き寄せ始める。 「・・・観念した?」 「馬鹿も、の・・・ん・・ぅ・・・。」 可愛いのに可愛くない事を言う唇を塞いで言葉を奪う。吐息を絡め、舌を絡め。どちらのものとも知れない唾液を貪りあって、互いに互いを感じる事だけに没頭して快感を探り合う。 交じり合う下肢から聴こえ来る卑猥な音すら、今は愛おしくも狂おしい。 合わせた身体と身体から伝わる、伝えられる熱と痺れるような甘さ。その感覚を分け合える事が堪らなく嬉しくて、幸せで、キスとキスの合間に瞳を見つめ合っては、くすくすと二人して笑い合う。 「マイク、愛してるよ・・・。」 「かみゅ・・っはっぅ!」 自分も愛してる、と伝えたいのに徐々に激しくなり始めたカミューの抉るような動きに言葉が紡げなくなる。 「ぁっあっぁっ・・・。」 最早意味のない嬌声しか紡げない。 「か・・ゅ!やぇっ・・うぁっ・・!」 「駄目。止めたげない。もっと、乱れて。」 恥ずかしいから嫌なのに、こんな時のカミューはいつも、声をもっと上げさせようと、躍起になって腰を狂おしく進めてマイクロトフの内を激しく犯す。 そして悶え狂う自分の嬌態を艶然とした・・・・マイクロトフが一番綺麗だと思う・・・・恍惚とした顔で彼は見下ろしているのだ。 (こんな綺麗な顔が見れるのなら、乱されるのも悪くはないかもしれない・・・・。) そんな事を思ってしまう己の思考に苦笑しながらも、マイクロトフは更にカミューにしがみ付き、裡にある熱い塊を締め付けるように下肢に力を入れた。 「・・・ぅ・・!こ・・の・・っ・・」 今のでかなりキたらしいカミューが眉間に皺を寄せて、マイクロトフを軽く睨む。 「俺ばかり乱すからだ・・・っぁあっ・・んっ・・!」 「冗談。乱れ、てるのは一緒だっ・・ろう・・!」 カミューが腰を強く押し進めて来る。 「かみゅ、待っ・・ぁああっ!」 「待てない。」 そろそろカミューにも余裕がなくなり始めて来た。 マイクロトフの腰をがっちり押え込み、激しく突き上げてはがくがくと揺らす。堪らず、喘ぎ乱れ啼くその恋人の媚態に、最早止まらない。止められない。 ただただ、責め立て続け、快感という快感に没頭し、留まる事を知らずに律動を繰り返す。 「マイク・・マイクロトフ・・っ・・!」 「ふ・・ぁっ・・ぁあっぁぁあ!」 ―――限界。 頭の芯が真っ白とも、光の暴走とも知れぬ感覚に襲われて、瞼の裏がちかちかと点滅してくらりとする。互いに触れ合っている箇所から、ぬるりとした生温かさを感じ、恐らくは同時に欲を解放したのだ、とまだ紗のかかる思考でぼんやりと思う。 「マイクロトフ・・・。」 呼びかけると、まだ半分の意識が彼方に飛んでいるであろうマイクロトフが、潤んだ瞳で視線をこちらにさ迷わせる。焦点を定めようとして、カミューと目が合った瞬間、この上なく嬉しそうに微笑むその恍惚とした表情に、また煽られてカミューの下肢がずくん、と疼く。 「んっ・・?か・・か、みゅっ・・!」 マイクロトフが困った声を上げる。 一度萎えた筈の彼が自分の裡で、また硬度を取り戻し始めるのを感じ、身を捩ってみるが、すかさずカミューに押え込まれた。繋がっているこの状態では逃げようなんか、ない。 「まだ駄目。・・・付き合ってね、マイクロトフ。」 艶然とした瞳に浮かぶは、容赦ない獣のような煌き。こういう顔をした時のカミューは絶対に止めようがない事を、マイクロトフは過去何度も経験済みだ。 「・・・もぅ・・好きに・・しろ・・・っ。」 「くす・・好きに、するよ。」 苦笑とも自棄ともとれる声を上げつつも、緩慢な仕種で自分の背に腕を廻して受け入れる体勢を取ってくれるマイクロトフに、カミューは微笑んだ。 自分がいつも誕生日毎に「マイクロトフがいればそれでいい。」と言っているのは、嘘でもなんでもない。 それは、本当の事。 お前は知っているだろうか? 俺が毎年の誕生日ごとに、こうしてお前が側にいてくれるのを、どれだけ至上の幸福と感じているのかを。 お前が俺の誕生日プレゼントを何にするのか考えて困っている顔を見る度に、実はとても嬉しく感じる、という事を。 困った顔が。 一生懸命考えてくれるその心が。 俺を深く想っていてくれてる事に他ならないから。 愛する者と想いを、そして身体を重ね合わせられる、この今の現実がとても大事でかけがえないと、いつも日々感謝している。 お前をとてもとても愛しているよ。 それが自分の中の一番の真実。 だから。 今日は目一杯その想いの強さを教えてあげよう。 結局。 それから散々カミューにいいように抱かれまくったマイクロトフは、ぐったりした身体を引き摺るように、けれど今日はいつものように怒る事なく、カミューと数刻遅れのお茶の時間を過ごす事となった。 「マーイク。ミルク入ったよ♪」 浮かれ顔で、早速に新しいカップにホットミルクを入れて、自分に差し出した恋人の様子にマイクロトフは苦笑した。 ・・・あの後、マグカップの包みを開けつつカミューは言ってくれた。 『俺は、お前が俺を想って、そうして迷って考えて考えて買って来てくれた物なら何でも嬉しいんだよ。”作る”とか”買う”とか。そんなのは関係ない。大事なのは、お前の心、気持ちなんだから。』 そうして。 包みを開けて中のペアのマグカップを見たカミューは、この上なく嬉しそうな全開の笑顔を、マイクロトフに向けてくれたのだ。 あんなに変に悩んだ自分が馬鹿みたいだ、とマイクロトフは思う。 この顔を見ろ。どこをどう取っても「幸せ一杯」と顔だけでなく、身体全体に書いてある。不安になった自分が馬鹿みたい、ではなくて大馬鹿だった。 「・・・ところでマイクはどっちの色がいい?俺はこの色のが欲しいなぁ。」 カミューがにこにこ顔で選び取ったのは蒼のカップ。マイクロトフの色。 「じゃあ俺は赤がいい。」 実はマイクロトフは緋色の方が欲しかったので、ちょうどいい。 「ふふ。お揃いだね。しかもこの色なら執務の合間もずっとお前と一緒な気分で嬉しいよ、マイクロトフ。」 「・・・・っ。」 臆面もなく、嬉しい気持ちを言葉で表現する恋人の顔は蕩けるような笑みを浮かべている。それがまたこの男の生来の造作の良さに拍車をかけ、尚一層綺麗に見えてしまう。思わずマイクロトフは見惚れ、次いで頬に朱を上らせて俯いた。 「こーら。そんな可愛い顔して俯かないでくれる?また襲いたくなるだろう?」 「なっ・・だっ・・駄目だぞ!」 今日の執務はまだ全部終わっていないのだ。 慌てて椅子から飛びずさるマイクロトフ。 「冗談だよ、冗談。・・・・ま、でも今夜はまた・・ね?」 「なっ・・・。」 「だって俺の誕生日だも〜ん。」 「お前!さっきあれほ、どっ・・!」 余りの恥ずかしさにマイクロトフは真っ赤な顔をして、口を手で覆ってしまう。そんなマイクロトフの両肩を、カミューはやんわりと椅子に押し付け、逃げれないようにし、真正面から顔を覗き込んでにやり、と微笑んで宣告をする。 「”あれほど”?冗談。たったあれだけで足りる訳ないだろう。俺はいつだってマイクが欲しいんだから。今日は俺の誕生日なんだし、俺の欲しいだけ、思う存分マイクを貰うつもり満々なんだけど?」 プレゼントはお前でいいって、毎年言っているよね? 「〜〜〜〜〜〜〜っ!」 相変わらず真っ赤なまま口を塞いでいるマイクロトフの手を取って、手の平にキスを落とす。 「愛してるよ、マイクロトフ。・・・お前だけだ。」 「・・・・っ。」 「ねぇ?マイクロトフは?」 「・・・・だ。」 「うん?」 首を傾げて聞き返した瞬間、マイクロトフがカミューに抱き付いて、耳元で返事を返す。 「・・(ごしょごしょ)・・・だっ。」 内緒の話しをするように甘い言葉を囁いてやる。小さな小さな声で。 「―――うん、わかった。」 艶やかに微笑んで、カミューはマイクロトフの頬に口付けた。 「さて、美味しそうなシフォンケーキを頂こうか。」 「ああ。」 いつもの如く、手で千切って。 じゃれあって、取り合って。 「こら!マイクっ酷いじゃないかっ。そんな大きく千切ってっ!!」 「ぼさっとしてる方が悪い。そもそも昔、早いもの勝ちのルールを最初作ったのはお前だぞ。」 「なにおぉ?!こら、そっちを寄越せっ!」 「うわっ!噛み付くなっ。あああ!そんなでかい口で食べるな!」 まるで子供のように。 優しくも、楽しい。 愛おしい時間を共有出来る、奇跡。 愛してる。愛してる。 不安になったなら、いつでも、何度でも、告げるから。伝えるから。 だから、ずっと側にいて。 お前だけが俺がいつでも欲しい、唯一の、もの。 もぎゅもぎゅとシフォンを頬張るその表情が堪らなく愛おしいと思う。 「口端についてるぞ、マイクロトフ。」 「えっ・・?」 きょと、として口を拭おうとした彼の手を止めて。 カミューはそっと、口付けた。 |
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はい・・カマ様のとこで催されました甘々交換会に 提出してしまった作品・・・。 イマイチ甘々になってないなぁ・・と思い、誤魔化すために 無理矢理えろりを入れてみたらば、交換会規定の重さ、 「テキストで10〜20kb」という条件を、見事ぎりぎり20kbに なってしもうた・・・といういわく付き・・・(泣) しかも同時期10kbを越えた〜と嘆いていたまさみさんを 笑ってみていた私が、重さTOPに輝くという・・(泣) ああ、このような長い作品でごめんなさい・・・・。 さぞや他サイト様にはご迷惑を・・・(切腹してお詫びを・・) |