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何気なく城内を見回るでもなしに歩いているときのこと。 マイクロトフはふと通りかかったレストランから何ともいえないいい香りが漂い出しているのに気がつき、足を止めた。それと言うのも、その匂いがマイクロトフの好きな「肉類」の物だったからだ。 「…………………」 平生の彼らしくもなくレストランの従業員口から顔をのぞかせ、匂いの元をきょろきょろと探した。と、それに気がついたウエイトレスがあわてて飛んでくる。 「駄目ですよ、団長さん!ここは入っちゃ駄目です!」 「あっ、いや、失礼!」 声に頬を染め、マイクロトフは思わず身を引いた。ウエイトレスは入り口に立ちはだかり、それから後ろをちょっと見ていたずらっぽい笑みを浮かべる。 「今は駄目ですよ。ハイ・ヨーさんが新しいメニューを試してるところですから。もう少ししてから……」 ウエイトレスは大きな体を小さくしているマイクロトフにくすくす笑っていたが、その視線をふとその後ろにやった。そしてにっこりと微笑む。 「あら、あなたもですか、カミューさん」 「いえいえ、うちの相棒が失礼をしているのではないかと思いましてね、レディ」 「……………!!」 ばっと振り返り、マイクロトフはにやけた…失礼、いつものごとく完璧な笑顔を貼り付けたカミューの姿を認めた。 「カミュー!」 「どうせ、いい匂いにつられて厨房をのぞいたんだろう、仕方のないやつだ。まだ夕食には早いよ、マイクロトフ」 「…う……」 図星を突かれ、マイクロトフは頬を染めた。カミューはそんなマイクロトフの表情につい鉄壁の仮面を捨てそうになったが、あわてて元のとおりの笑顔を浮かべる。 当然カミューは匂いに惹かれてレストランに立ち寄ったわけではなかった。ウエイトレスと立ち話をしているマイクロトフを見咎め、引き剥がそうとやって来ただけなのである。自分のいないところでマイクロトフと勝手に話されてたまるものか。 「しかし、いい匂いですね。これは新しいメニューか何かですか?」 カミューの言葉にウエイトレスはうなずいた。 「はい、そうなんです。リーダーさんがレシピを持って来られたんで、ハイ・ヨーさんが色々試されてるんですよ。焼肉です」 「何、焼肉!!」 あからさまにマイクロトフの瞳が輝いた。カミューはそれに優しい視線を送り、ウエイトレスに苦笑してみせる。その顔はどう見てものろけていた。 「やれやれ…。どうでしょう、我々に味見係を拝命させてはいただけないものでしょうか?」 「えっ…。あ…ちょっと待ってください」 ウエイトレスは戸惑ったような表情で厨房に戻っていった。カミューは隣の食い意地の張った相棒に視線を送り、そっと耳元でささやく。 「ねえ、私と焼肉、どっちが大事?」 「今は焼肉だ!!」 きっぱりと言い切られ、カミューは何だか悲しくなってしまった。いや、マイクロトフが本当に肉好きなのは嫌と言うほど知っているのだ。それが分かっていながらも聞いてしまう、悲しい乙女…いや、男心をマイクロトフは分かってくれない。嘘でも『お前だ』とか言ってくれればいいのに…でも、そんなマイクロトフはちょっと怖くもある。 「あ、表に回ってください、お二人とも!味見、お願いします!」 「そうか!行こう、カミュー!」 好物を目の前にぶら下げられた犬のような表情でマイクロトフはカミューを振り返った。 「はいはい……」 嬉しそうなマイクロトフににやけた笑みを送るカミューの姿は、ひょっとしたら何よりも悲しいのかもしれない。本人が幸せそうなだけによけい不憫だった。 テーブルにつくと、ウエイトレスが七輪と肉の皿を運んできた。どうやらテーブルの上で自分たちが焼くらしい。 「これがカルビ、ロース、こっちが塩タンとミノです。ユッケとか食べます?」 「ユッケ?」 「生肉なんですけど……」 うなずきかけたマイクロトフを見、カミューがあわてて首を振った。 「あ、駄目だよマイクロトフ!すぐお腹壊すんだから、生肉なんか食べちゃ駄目だって!」 「……分かった」 不満そうにうなずくマイクロトフに、ウエイトレスは浮かべかけた笑いをあわてて押し殺した。いけないいけない、マチルダコンビには下手に関わるなっていうリーダー命令を忘れてた…(フリック発案)。 ウエイトレスは小さな皿をテーブル上に綺麗に並べ、一つ一つ説明を加えていった。 「このたれをつけて食べてくださいね。こっちのレモンは塩タン用です。ゴマはお好みでどうぞ」 「ああ、ありがとう」 「すぐご飯持ってきますね」 去っていったウエイトレスも見送らず、カミューは手際よく肉を網の上に置いていった。いつもこういう感じなのかは知らないが、マイクロトフは見ているだけだ。 「バーベキューのようだな…」 「うん、室内バーベキューって感じだね。ほら、あまり近づくと火傷するよ」 「しかし、いい香りだ…」 幸せそうなマイクロトフに負けず劣らずカミューも幸せそうだ。 うっとりと焼ける肉を見つめているマイクロトフと、肉を焼きながら幸せそうにマイクロトフを見やるカミュー。当人たちは非常に満足そうなのだが、焼ける肉を中心において幸せそうな雰囲気をかもし出している騎士二人と言うのは、控えめに言ってもそれはそれは奇異な光景だった。 「このあたりはもう焼けたよ。食べてごらん」 「ああ!これは…こっちのソースだといったかな…」 東洋風のタレに焼けた肉を浸すと、ジュウっという心地よい音が鳴った。マイクロトフは食べる前から満足そうな顔をしていたが、口に放るや目を輝かせる。 「うまいっ!!」 「そう、よかったね」 「ほら、カミューも食ってみろ!」 マイクロトフはフォークで肉を突き刺し(ハシは使えません)カミューに差し出した。カミューは「はい、アーン★」というシチュエーションにめまいを覚え、くらくらしながら口を開ける。 ブツが色気もクソもない焼肉だと言う事実はカミューの妄想に何ら傷をつける物ではないらしい。 「どうだ、うまいだろう!」 「うん……おいしい…」 「そうだろう!」 マイクロトフは鬼の首でも取ったかのような表情だが、カミューにとってはそれが何であれ、マイクロトフが食べさせてくれたと言うだけで天上の果物よりも美味に思えたに違いない。 マイクロトフはカミューが焼いてくれる肉を遠慮なく次々と平らげていく。カミューも嬉々としてマイクロトフのために肉奉行(?)になっているし、なんというか…割れ鍋に閉じブタ…。 まだ食事には少々早い時間でもあり、レストラン内に人は少なかった。だが、少ないとはいってもいないわけではなく、周囲にいる人間は興味津々+ちょっと恐ろしげにマチルダコンビの動向を慎重に見守っていた。 マイクロトフは食べる合間にカミューにも肉を差し出す。比率でいくとカミュー:マイクロトフ=1:10という所だろうか。つまり、ほとんどマイクロトフが食べている。 しかしカミューは不平を言うどころか、いたく満足そうな表情だ。あのマイクロトフがよりにもよって自分の大好物である肉を『アーン』と食べさせてくれるのだから、不平のありようもない。 「ほら、カミュー」 「うん、あーーん」 「誰がアーンだ。静かに食え」 「モグ(えへ)」 「しかし、焼いてばかりいないでお前も食ったらどうだ?なくなるぞ?」 自分が焼かなかったら誰が焼くんだ?と思いはしたものの、カミューは素直にうなずいて相変わらず肉を焼きつづける。マイクロトフもああは言ったものの、肉の焼ける香ばしい匂いには逆らえなかったのか、次々と肉を口に放り込む。カミューは食欲旺盛なマイクロトフに幸せそうな笑みを浮かべた。 「お前は本当においしそうに食べるね」 「ムグ?………うまいからだ」 「うん。……あ」 カミューはマイクロトフの口元を指で拭い、いたずらっぽく笑うと指をぺろっと舐めた。マイクロトフはさっと頬を染め、カミューをにらむ。 「…カミュー!」 「うん?どうかしたの?」 にっこりと笑ったカミューにマイクロトフはよけい真っ赤になった。そして無言で肉を口に放り込む。カミューはくすくすと笑い、空になった肉の皿に目をやった。 「あぁ、全部なくなったね。…どうする、他の物も頼むかい?」 「あっ……すまない…全部食ってしまったか……」 しゅんとなったマイクロトフに笑いかけ、カミューは優しい目でマイクロトフを見つめた。マイクロトフも叱られた犬のような目を上げ、カミューを見つめる。 瞬時にして空気は桃色になり、周囲にいた連中はあわてて視線をそらせた。 「馬鹿だな…お前のおいしそうに食べる顔が何よりのご馳走だよ…」(寒) 「カミュー…でも、俺もお前に食べて欲しかったのだが……」 「充分、お腹いっぱいだって。お前が食べさせてくれたんだからね」 「そ…そ…そんなことは関係あるまい!!」 自分が「食べさせていた」事実にはじめて気がついたのか、マイクロトフは耳まで真っ赤になった。カミューはおかしそうに笑いながら、テーブルの上のマイクロトフの手を優しくつつく。 「今日のお前はずいぶんと優しかったな」 「…し、知らん!お、俺は普段と変わらんぞ!」 「そう?じゃあ、いつも俺に優しいのかな?」 「…………っ」 マイクロトフは口元を引き締めてカミューをにらむが、それ以上に二人をにらみたいのは周囲の人間であろう。焼肉くさい空気の中でラブラブな雰囲気をかもし出さないで欲しいものだ。 しかし、周囲など知ったことではないとばかりに二人は見つめあいつづけている。カミューはテーブルの上でマイクロトフの手を握り、うかがうように漆黒の瞳をのぞいた。 「マイクロトフ?」 「……いつも、冷たいとうるさいではないか…」 「ふふ、そんなところも好きだよ、マイクロトフ」 優しい、幸せそうな笑みにマイクロトフは照れたような視線をうつむけた。 ウエイトレスは邪魔にならないように体をかがめ、こっそりと皿を片付けていく。邪魔をしようものならとんでもない事態になるのは火を見るより明らかだった。 「…俺は…冷たいか?」 「うん?…いつも通り可愛いよ?」 「か、可愛いと言うなと言うのに!!!馬鹿者!!」 「だって、可愛いんだもん。ほら…その目とか…ね」 うっとりと見つめるカミューの目に、あるかなきかの情欲の炎がきらめいた。マイクロトフはその炎に飲まれそうになり、あわてて視線をそらせる。周囲の人間はこっそりと机を離しはじめた。この分だと、チューくらいはやりかねない。 ウエイトレスはこっそりと紅茶のグラスをテーブルに置き、脱兎のごとく厨房に帰った。 カミューは優雅に紅茶を一口飲むと、柔らかい笑みをマイクロトフに向けた。 「どうしたの?」 「な……なんでもない…」 「顔が赤いよ…大丈夫?」 「な…っ、何でもないのだ!!」 カミューはその手をマイクロトフの頬に伸ばし、軽くなでた。中腰になり、じっと闇色の瞳を見つめる。優しく、甘く。 「……マイク…」 「……カミュー……」 「…愛してるよ…」 「………………ああ…」(レストラン内ですよー!) うつむいたマイクロトフに、カミューの瞳には再度激しい炎が揺らめいた。そしてマイクロトフの手を取るや、立ち上がらせる。 「……カミュー?」 「ん?さ、行こうよ」 「……………???」 マイクロトフは首をかしげ、それでも素直に立ち上がるとカミューに並ぶ。カミューはマイクロトフの腰に腕を回し、容赦なくその手を叩かれた。 叩かれた手を性懲りなく肩に回し、その耳元にささやく。 「部屋に帰ったら…キスしていい?」 「…………!!し、知るか!!」 「冷たいなぁ、もう」 「うるさいぞ!!」 口ではそう言いながらも、肩に回された手を払おうとはしないマイクロトフ。カミューは声に出して笑い、ぎゅっとマイクロトフを抱き寄せた。 「まったく、お前は可愛いな!」 「ば、馬鹿、声が大きい!!」 「あはははは!!可愛いよ、お前は!」 「黙らんか、馬鹿者!!」 いつもどおりのマチルダコンビに、通りすがりの人々は言われるまでもなく道をあけていく。道をあけるというか、目の届かないところへそそくさと去っていった。 「なーんか、妙においしそうな匂いだなぁ〜」 マイクロトフの髪に鼻を寄せ、カミューはうっとりとつぶやいた。 「カミューだって変わらんぞ」 「そう?おいしそう?」 「…………知るか」 ひどいなぁ、といいながらカミューはマイクロトフの唇に指を当てた。マイクロトフはカミューをにらみ、その頭を軽くはたく。 ぎゅっと抱き寄せ、カミューはマイクロトフの肩に頭をもたせかける。ふわっとカミューの栗毛がマイクロトフの視界の端で揺れた。 「焼肉、メニューに早く加えられるといいね」 「ああ、そうだな。…しかしカミュー、俺が肉ばかり食っていると『太るよ』なんていうくせに、焼肉はいいのか?」 「ん?あぁ…まぁね。お前はやせてるしねぇ…」 ニヤリと笑い、カミューは胸のうちでほくそえんだ。 焼肉だとカミューは肉を焼いてばかりなので、マイクロトフが食べさせてくれる。狙いはそこなのだが、当然マイクロトフは気づこうはずもなかった。 「あとでデザートでも食べに行こうか」 「?今食えばいいだろう。どうしてレストランから出てきたのだ」 「俺がデザートを頂くからさ」 「は?何がだ?」 「部屋に帰ったらゆっくり教えてあげるよ」 意味ありげなカミューの笑みにマイクロトフは青くなり、あわててカミューを押しのけた。そして走り出す。 「あ、待てよ、マイクロトフ!」 「誰が待つか!!冗談ではないぞ!!」 「冗談なもんか。こら、待て!」 笑いながらマイクロトフを追いかけるカミューと、半ば本気で逃げつづけるマイクロトフ。しかし、計画性のかけらもないマイクロトフのこと、気がつくと住み慣れた騎士団の居室へと入り込んでいた。カミューはマイクロトフの手を取り、壁に押し付ける。当然、その周囲には赤、青騎士たちの姿が。 「か…カミュー……」 「捕まえた。…もう、本気で走るものだから汗かいちゃったじゃないか。シャワーでも浴びようよ」 「……お前は……」 「ん?なに?」 「お前はずるいぞ!」 カミューは小さく笑い、マイクロトフの耳に唇を寄せた。 「うん、ずるいね。でも、お前が素直だからちょうどいいでしょ?」 「…………………」 「ほら、部屋に入ろう」 カミューは団長の私室に入り、マイクロトフを振り返った。マイクロトフはしばし逡巡していたが、あきらめたようにカミューの後姿を追う。 扉が閉じたあと、騎士たちはふーっとため息を吐き出した。 いちゃつくのに文句は言わない。どこで何をしようが勝手である。だが。 できれば…目の届かないところでやって欲しいものだ……。 部屋に入るなり、カミューはマイクロトフを抱きしめた。ドアにその体を押し付け、じっと闇色の瞳を見つめる。マイクロトフは口に出しかけた抗議の言葉を飲み込み、口元を引き締めてカミューの目を見つめ返した。頬に血が上ってくるのが自分で分かった。 「……マイクロトフ……」 「……なんだ」 「好きだよ。…愛してるよ」 「…何度も言うな、馬鹿者。俺はそこまで理解力に乏しくはない」 「本当に?」 カミューは目を細め、優しく微笑んだ。 「四六時中お前を抱きしめてたい私の心が分かってるのかな?」 「………っ、そ、それは…お前がおかしいだけだ!」 「お前に狂ってるからなぁ。責任取ってくれるかい?」 「………………」 じっと見つめられ、マイクロトフは首筋まで赤くなった。段々と近づいてくるカミューの顔に、マイクロトフはやや不満そうながらも目を閉じる。唇を軽く触れ合わせたあと、カミューはぺろっとマイクロトフの唇をなめた。そして笑う。 「お前の唇は、今日はやけに香ばしいね」 「カミューだって変わらんだろう」 「本当?試してみる?」 いたずらっぽく笑い、カミューは目を閉じた。マイクロトフはしばらくためらっていたものの、好奇心に負けたのか、カミューの唇を同じようになめる。 「…どう?」 「…いつもと変わらんな」 「ふぅん、やっぱり、お前の唇の方がおいしいってことか」 もう一度マイクロトフの唇をふさぎ、今度は少々深く口付け、そっと顔を離した。それからマイクロトフの手を取り、シャワーに向かう。 「さっさと浴びてしまおう。夕方頃にケーキでも食べに行こうよ」 「…いつもお前は勝手に自分で決めてしまうな…」 「嫌?俺はお前とずっと部屋にいてもいいんだけど。…新しいケーキがレストランに出てたんだ。……食べたくないの?」 からかうようなカミューの表情に言葉を詰まらせたものの、マイクロトフは渋々うなずいた。 「…食べたい…」 屈辱そうながらもどこか甘えるような瞳にカミューは笑い、マイクロトフの頭をやや乱暴になでた。 「もう、お前は本当に可愛いな!」 「う、うるさい!俺は可愛くなどないぞ!!」 「はいはい。さ、俺にもデザートを食べさせてくれるかな?あまり待たせると夜まで離してやらないぞ?」 「………お前は……」 器用にマイクロトフの服をはぎながら、カミューはちらっとマイクロトフの表情をうかがった。抵抗しないのは、あとで待っているケーキのせいだろうか? 「俺は、そういうお前の方が可愛いと思うぞ……」 ため息混じりにそういったマイクロトフは、どこか苦笑めいた笑みを浮かべていた。 カミューは嬉しそうに笑い、マイクロトフに口付ける。 「うん、俺は子供だからね」 「自己申告されると、なんだか悔しいな」 「…さ、喋ってばかりいないで。早くお前を頂戴」 「は…恥ずかしいことを堂々というな!!」 赤くなったマイクロトフに、カミューは幸せそうに笑った。 |
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色気も何もなくて申し訳ない。=3/30= |