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ふと、目が覚めると空はすでに明るかった。 驚いたマイクロトフは慌ててがばっと起き上がる。とたん、腰に走る鈍痛。 「つ……っ」 原因はわかりすぎるほどわかっている。マイクロトフは思わず腰に手をあてたまま、隣で眠る男を睨みつけた。その安らかすぎる寝顔に怒りがわいてきて、べしっと平手で頭を叩く。……起きないように手加減しつつ。 マイクロトフは痛みをこらえてベッドから降りた。急がないと朝練に遅れる。だるい身体を引きずるようにしてシャワールームに向かった。 「カミュー、俺は朝練に行ってくるからな……」 いつものようにそっと揺さぶって小声で話しかける。カミューの「う、ん……」という夢うつつな返事を聞いてマイクロトフはベッドから離れた。 朝、部屋をでるときは必ず声をかける。 覚えていようがいまいが、これで朝の決まり事は果たしたことになる。律義なマイクロトフは朝練に向かうべくドアを開けた。 バタン…… ドアが閉まると同時にベッドの住人がパチッと目を開けた。むくり、と起き上がってベッドの上にあぐらをかくと、いま恋人がでていったドアをみやる。 「あれですんだと思わないでね、マイク……」 カミューは挑戦的な笑みを浮かべ、そっと物騒なセリフを吐いた。その首筋には痛々しいまでにくっきりとついた歯形があった……。 カミューと二人でいるときは散々いいように扱われ、立つ瀬なしのマイクロトフだが、剣を握ると無敵の青騎士団長となる。 今日も昨夜の名残りなど微塵も感じさせない、威風堂々たる態度で訓練に臨んでいた。 訓練も半ばに差し掛かった頃。 「やあ、やってるね」 陽気な声とともに珍客が訓練場に現れた。赤・青区別なく、ほとんど自主的に行われているこの朝練になど、一度も顔を出したことのない人物。 予想もしない赤騎士団長の突然の来訪にその場にいた全員が一斉に手を止めてしまった。 「カミュー?」 マイクロトフもきょとん、とカミューをみつめる。いつも自分に起こされないと起きないのに、今日はどうしたというのだろう……。 注目を集めてしまったカミューは動じることもなく軽く片手を上げて、 「ああ、気にしないで続けてくれ」 と、促す。全員はっとしたように訓練を再開した。カミューは目を細めてその光景を眺めつつ、マイクロトフのほうに歩み寄る。 「おはよう、マイクロトフ」 にっこりと微笑むと、まだ面食らった顔をしたマイクロトフに、 「……どういう風の吹き回しだ?」 と、怪訝そうに返される。カミューは軽く肩をすくめた。 「ひどい言われようだね。 まあ、たまには朝から身体を動かすのもいいと思ってね」 言って愛剣を軽く掲げる。 「お手合わせ、願えるかな?」 カミューの言葉にマイクロトフはぱっと顔を輝かせた。 カミューはめったに自分と剣を交えてくれない。強い相手と剣を交えるのが何より好きなマイクロトフにはそれが不満だった。 そのカミューが自分から手合わせを申し出てくれるなんて。 マイクロトフはすぐさま了承しようとした。が、普段が普段だけに、裏があるのでは? と、ひっかかるものがあり、思いとどまる。……ようやく学習能力がついてきたらしい。 「……何か企んでいるのではないだろうな?」 と、警戒するマイクロトフに、カミューはにやっと笑うと耳元に唇を寄せた。 「昨夜はずいぶん無理をさせたからね。お詫びのつもりだよ」 「腰は大丈夫かい?」と囁くカミューにマイクロトフは瞬時に真っ赤になった。 「なっっ……」 思わず「誰のせいだ?!」と怒鳴りそうになったマイクロトフに、カミューは腕を掴んで「さあ、はじめよう」と、促す。絶妙なタイミングだった。 マイクロトフは怒りと羞恥で目元を赤らめながら、ずんずんと訓練場の一角に歩いていく。それに気づいた周りの騎士たちが、団長たちにスペースを譲るため、場所をあけた。カミューはマイクロトフの後ろをついていきながら、「悪いね」と、どいてくれた騎士たちに礼を言っていく。 充分なスペースができあがると、マイクロトフは怒りのままに剣を構えた。 「さあ、いくぞ! カミュー!」 「はいはい。そんなに力まなくても……」 「うるさい!!」 怒声とともに向かってくる剣をカミューは正面から受け止める。軽口をたたけるのはここまでだった……。 けっきょく一時間ほど打ち合ったが、カミューの「そろそろ時間なんじゃない?」というセリフが終了の合図だった。確かに間もなく訓練の終了時間だ。 二人して荒い息をついたまま剣をおさめ、礼儀にのっとって礼を交わす。どんなに親友同士でも、練習試合でもこういう決まり事は大事にしていた。 頭を軽く下げた際に、頬から汗が伝い落ちる。マイクロトフはそれを片手で拭って、満足そうに笑った。 「ありがとう、カミュー」 カミューはマイクロトフのその笑顔に満足してにっこり笑い返す。 「こちらこそ」 マイクロトフはよく通る声で訓練の終了を告げた。騎士たちが緊迫していた空気を緩め、解散しはじめる。 マイクロトフも副団長と2、3言葉をかわしてから部屋に戻るべく出口に向かった。大抵の騎士たちは風呂場に向かうのだが、マイクロトフは自室でシャワーを浴びるのがほぼ習慣になってしまっていた。……情交の跡をさらすわけにはいかなかったから。 なんの抵抗もなく部屋に向かう自分に気づいていないのが悲しい。 ちょっと離れたところで待っていたカミューが当然のように近づいてきて並び歩く。 「朝練もたまにはいいだろう?」 「うーん……。やっぱり朝はゆっくり寝ていたいなあ」 相変わらずの物言いにマイクロトフはちょっと笑う。カミューの寝起きの悪さは自分がいちばん知っている。そのカミューが自分のために起きてきてくれたことが嬉しかった。 訓練場を出ると、カミューはマイクロトフと反対側に行こうとする。てっきり部屋に戻ると思っていたマイクロトフは、驚いて問いかけた。 「カミュー? どこに行くんだ?」 「どこってお風呂だよ」 さらりと答えられて、マイクロトフはそうか、と納得する。じゃあね、と片手を上げてくるり、と背中を向けたとき、騎士服の襟元から首筋の紅い跡が目に入った。 「!! カ、カミュー!!!」 マイクロトフが慌てて腕を掴んで引き止めると、カミューは「何?」と頭だけ振り返った。その顔には、にやにやとしか表現できない笑みが浮かんでいる。 「どうしたの? マイク。一緒に行く?」 からかうように言うと、マイクロトフは真っ赤になって、 「いけるか!」 と、怒鳴り返す。お前のせいだろう! と、睨みつけつつも、もしかして首筋の噛み跡を忘れているのかもしれない……と思い、そっと耳元に小声で囁いた。 「そ、その、……首に、あ、跡が残ってるぞ……」 「うん。汗がしみて痛いよ」 けろっと応えられて、確信犯か!! と、マイクロトフは歯噛みする。 「お、おまえは、は、恥ずかしいとか思わないのか?!」 「全然。だってマイクがつけてくれたんだよ? みせびらかさなきゃもったいないじゃん」 と、襟元をちょっと動かしてみせる。それだけではっきりと跡が見えてしまった。 マイクロトフはくらくらと目眩がしてくる。これ以上怒鳴ってもムダだと言うことを悟り、口調を変えた。 「……頼むから……、やめてくれ……」 一転して弱々しい声に、カミューは 「んー、そうだねぇ……」 と、ちらっとマイクロトフの顔を見た。羞恥のあまりか瞳が少し潤んできている。 ああ、かわいいな……と、思いつつ、カミューはにっこり笑った。 「じゃあ、俺と一緒にシャワーを浴びてくれるなら行かない」 もちろん、身体の洗いっこ付きだよ……と耳元で艶っぽく囁かれる。 ……マイクロトフは究極の選択を突きつけられた……。 おしまい(汗) |