舞台の裏側〜青騎士VS赤い悪魔〜




「俺は、俺は騎士である前に人間だ!!!」

 カツーン……

 マイクロトフが床に叩き付けたエンブレムが乾いた音をたてる。
 それは騎士である証。彼が何より大事にしていたもの。

 周りの騎士たちが動揺するなか、俺は冷静にことの成り行きを見守っていた。

 こうなることはわかっていた。いや、ある意味自分がこうなるように仕向けた。
 最近目に余るようになったゴルドーの独裁ぶり。自分たちを所有物のように扱う傲慢な態度にはほとほと嫌気が差していた。
 それでも実直なマイクロトフは騎士の誓いを違えることなく従っていたものの。
 最近ではさすがにゴルドーの態度に不信を抱き、不満をもらしはじめていた。


 そして彼らに会った。いや、再会した、というべきか。
 前に一度ミューズで会った姉弟。そのときはほとんど話をしなかったものの、少年の強い意志をたたえた瞳が印象的だった。
 その少年たちと思わぬかたちで再会した。彼らはハイランドに対抗する同盟軍の中心人物としてマチルダにやってきたのだ。
 苦しい戦いばかりを強いられてるはずの彼らの、それでも生き生きとした姿をみて決心した。マイクロトフと共に彼らの元に行こう、と。だからミューズに行こうとしたマイクロトフを止めなかったし、彼らにマイクロトフのことを託した。
 ここはマイクロトフには狭すぎたのだ。規律や制約にがんじがらめに縛られるのは、彼の高潔な精神にはとても似合っているけど。上がそれにふさわしくない。ならばふさわしいところに行こうではないか。


「カミュー! 裏切り者を捕らえろ!!」

 あくまでも周りは自分のいいなりだと思っているらしいおめでたい奴。
 俺はマイクロトフとは違って、最初からお前程度の男に仕える気はなかったんだよ。いつか失脚させて、その地位にマイクロトフを据えようとしていたのに。

「マイクロトフを捕らえる? そんなことはできませんね」
 思い切り、侮蔑を込めて言ってやる。そして胸のエンブレムを外して床に放り投げた。乾いた音に……すこし胸が痛んだ。

 自分だって、騎士である、ということには誇りを持っていた……。

「カミュー……」

 ああ、マイクロトフ、どうしてそんなに驚いた顔をしているんだい?
 俺がマイクロトフについていかないと思っていたの?
 誰よりも大事な、誰よりも愛しいおまえと別れるなんて考えたことはないのに。


 俺がエンブレムを捨てたのが合図だった。周りの赤・青騎士たちも次々と捨てていく。
 知らぬは愚かな独裁者とその部下である白騎士たちばかりなり。前もって信用のおける部下たちに打ち合わせておいた。
「逃がすな! 全員殺せ!!」
 怒りで顔を真っ赤にさせたゴルドーが怒鳴る。
 場は一気に混乱したが、これも予想済み。特に腕の立つ連中ばかりを広間に待機させておいたのだからなんの心配もない。白騎士は貴族上がりが多い。家柄と金で地位を得た者がほとんどなので常に鍛練を怠らない赤・青騎士たちの敵ではないはずだ。


 追手を振り切りながら、城門までたどりついた。ここから関所に向かう。関所を抜けてしまえば追ってはこられない。
 ここまで一緒に行動した赤・青騎士たちにマイクロトフたちの護衛をまかせて(必要ないだろうが)、自分はひとりその場を離れることにした。
 同盟軍のリーダーに声をかける。
「少しやり残したことがあるので先に行ってていただけますか?」
「え……? あ、はい」
「カミュー……?」
 突然の申し出に、隣にいたマイクロトフが眉をひそめた。引き返せば危険だ、ということを危惧してくれてるのだろう。
「大丈夫だよ。すぐ追いつく」
 そう言って、身を翻す際にすばやく手をぎゅっと握った。周りからはマントの陰になって見えないように。

 俺は見られてもいいんだけどね。

 とたん目元を赤くするマイクロトフに目を細めつつ、俺は騎士たちの詰め所に向かった。



 ばんっっ!

 青騎士たちの詰め所のドアを開けると、そこは戦場だった。
「急げ! 団長がいってしまうぞ!!」
「荷物は必要最低限にしろよ!」
「部屋数たりなかったらどうするんだろうな。団長と相部屋になったりして……」
 ……………………
 一人のつぶやきに全員が想像したらしく一斉に沈黙がおりる。その表情は一様にうっとりと幸せそうだ。

「……もしそうだとしても私がマイクと一緒になるから心配ないよ」
「「「わっっ!!」」」

 でやがった、愛しきマイクロトフ団長を一人占めしようとするにっくき赤騎士団長。
 とはさすがに恐ろしくて声にはださなかったが。視線が雄弁に語っていた。
 青騎士団はマイクロトフを尊敬、というには少し(かなり)度が過ぎた連中の集まりである。こともあろうか自分と別れさせようと模索したり、自分の居ぬ間にお近付きになろうと虎視耽々と狙っているヤツらばかりなのだ。……ことごとく撃破してやってるが。

 自分が敵視されてることは充分わかっていたから俺もひるみはしない。冷たく言い放つ。
「全員は連れていけないって言っただろう。半分は残ってくれ」
 一斉に起こるブーイング。

 こっちだってほぼ全員が同行の意志を示してくれたのを、断腸の思いでおいていくのに。
 赤騎士だけ半分残ったら彼らの命が危険にさらされる。青騎士も半分残って、白騎士たちと均衡を保ってもらわないと。
 できれば赤騎士も青騎士も希望者は全員連れていってやりたい(こいつらはイヤだけど、マイクロトフは喜ぶだろう)。しかしまちがいなくマチルダに攻め込む日がくる。そのときのために伏兵はどうしても必要なのだ。

「そんなことできません!」
「我々は団長のそばにいたいのです!」
 口々に拒否を唱える青騎士たち。カミューはひとつため息をついた。
「気持ちはわかるけど。なにも今生の別れってわけじゃないだろう?
 それに、みんな同盟軍にきてしまったら、マチルダに帰ってきたとき、誰がマイクロトフを迎えてやるんだ?」
「う……」
 この一言は効果があったらしい。ようやく興奮をおさめつつある連中にたたみかけた。
「白騎士だけがマチルダに残ったら騎士団はめちゃくちゃになってしまう。そうしたらマイクロトフは悲しむと思うよ」
「うう……」
「それに、同盟軍が攻め込むときにおまえたちが内部から招き入れてくれたらマイクロトフは感動するだろうね。『俺のために危険な真似をしてくれて!』ってすごい感謝すると思う」
「……………………」
 完全に沈黙して考え込む連中を見やって、作戦成功、と心の中でガッツポーズ。
「じゃあ二人一組になってじゃんけんしてもらえるかい? うらみっこなしだよ」
 こういうときは考えがまとまらないうちに押し切ってしまう方がいい、とてきぱきと指示をだす。青騎士たちもしぶしぶながら従い、一斉にじゃんけんを始める。あちこちで歓声と悲鳴が上がった。
 中にはこっそりお金を渡す者、ひそひそと交渉を進める(おそらくマイクロトフグッズを送ってやるだの言ってるのだろう)者、などと不正を働く者がちらほらいた。
 もちろん見逃すはずもなく。
「じゃあ勝った方はこっち、負けた方はそっちに別れてもらえるかい?」
 あくまでもにこやかに話を進める。
 全員がぞろぞろと移動を始め、ふたつに別れた。
「おつかれさま。協力、感謝するよ」
 ひとつ息を吸う。

「踊る火炎!!!!!」

 いきなり烈火の紋章を発動させ、『勝った』連中にぶっ放す。

(マイクロトフにとっての)危険分子を連れていくほど酔狂じゃないんだよ、俺は。

「じゃあ行こうか」
 あまりの出来事に呆然としてる『負けた』連中に涼やかに声をかけて歩き出す。
 後ろで動けない程度に火傷を負った騎士たちが「鬼!!」「悪魔!!」などと罵っている。
 ドアを閉める際にくるりと振り返り、
「何を言ってもいいけど、今生の別れじゃないってこと、……忘れるなよ」
 と、どこまでもにこやかに言ってやる。最後の一言はトーンを下げて。
「………………」
 一気に静まり返った連中に勝ち誇った笑みを浮かべドアを閉めた。
 ドアの向こうで怒号が聞こえた。


 ……赤い悪魔の誕生である。



 数日後、同盟軍の生活にようやく慣れてきた頃、マチルダから亡命者が数人、城にたどりついた。その姿は『火傷の跡』が痛々しく、マイクロトフは「そんな危険な目にあってまできてくれたのか!」と青騎士たちを労った。彼らはもちろんじゃんけんの際に不正を働いたほど気合の入った連中。
 カミューは「『最後の炎』にしておけばよかった……」と心底後悔したらしい。



 おしまい




会社で仕事が暇だったので一日で書き上げてしまいました。
ゲームと多少違うところもあるかもしれませんが、
それは勘弁を……。っていうか、あんなシリアスなシーンを
なんて書き方してるんでしょうね……。石投げないでください。


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