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「ねえ、マイクロトフ、明日は雪だってさ!」 テレビを見ていたカミューが洗い物をしていたマイクロトフに興奮気味に声をかけた。しかしマイクロトフは特に手も止めたりせず、「そうか」とわずかに嫌そうに眉をひそめただけであった。 ここ、マチルダは雪国である。雪国に雪が降る、と言われたところで「そうか」と応える以外ないとマイクロトフは思うのだが、カミューは違ったようだ。 「そうか、じゃないよ! 明日、何の日かわかってる?!」 意気込んで問い返され、マイクロトフはその迫力にたじろぐ。 明日は12月24日。言わずと知れたクリスマスイヴである。そこまではわかるのだが、それが雪と何の関係があるのかいまいちわからない。 マイクロトフは探るような目付きでカミューを見ながら、慎重に答えた。 「クリスマス……だろう」 「そう! わかっているじゃないか! 明日はクリスマスイヴ。雪が降ったらホワイト・クリスマスだろう!」 オペラ歌劇でもはじめそうな勢いで訴えるカミューに、マイクロトフはこめかみのあたりを押さえる。 初雪はとっくに降り、それどころか、ここ最近は雪の日が続いているため、天気予報も『曇り、時々雪』とすれば9割はあたるような日々だ。すでに春まで溶けない根雪となるであろうというぐらいの降雪量がある。今更、少々雪が降ったところでなんだというのか。 「寒いのは嫌だとごねているのは誰だ」 今年の春、暖かい地方から転勤してきたため、北国の寒さが相当こたえているらしい男に嫌味半分言ってやると、寒がりは偉そうに人差し指を立て、マイクロトフにずいっと詰め寄った。 「わかってないな。いいか、この冬は俺が初めてマチルダで過ごす冬だ」 それはそうである。マイクロトフはまたもわけのわからない迫力に押されながら戸惑ったように応える。 「な、何を当たり前のことを言って……」 「つまり、俺とおまえが恋人同士になってから初めて過ごすクリスマスだろう」 「なっ……?!」 びしっと突きつけられた指と言葉にマイクロトフは目を白黒させた。そう、2人は春に出会ったのだが、山あり谷ありの様々な出来事を乗り越え、秋の終わりに恋人同士という関係になったのだ。男同士だというのに恋人、という単語を憚らない男にマイクロトフは赤面する。こういう関係になったことは後悔していないが、やはり堂々と口にできるものではない。 「そ、それがどうしたというのだ! いまさら雪などめずらしくもなんともないだろう!」 照れ臭さと混乱からマイクロトフがぶっきらぼうに言い返すと、カミューはどこか浮かれたような笑みを浮かべた。 「それでもやっぱり特別だよ。明日、2人で窓から雪が降るのを見られたら、すごく嬉しい」 柔らかい、優しい笑みにマイクロトフはうっと詰まる。カミューのこんな笑みに弱かった。本当に嬉しそうな、甘い表情が……とても好きだった。 赤面したまま黙ったマイクロトフにカミューはそっと背後から抱きしめる。 「明日が……楽しみだね」 「……と言ったのはおまえだろうが」 「いや、だってさぁ……」 2人は窓の外の景色に唖然としていた。外は一面の銀世界。しかし、それは昨日までの見慣れた雪景色ではなく、一晩でゆうに50センチは積もり、すべてが一変した景色であった。記録的な大雪である。 言葉をなくして外の景色を見つめていた2人だったが、雪国育ちのマイクロトフがため息をひとつ吐き、窓を離れた。 「とりあえず雪かきに行くぞ」 「ええっ? せっかくのイヴなのに?!」 「阿呆! おまえの車が雪だるま状態だぞ。凍って固まる前に動かさないと春まであのままだ!」 雪の怖さはよく知っているマイクロトフが怒鳴る。甘〜い一日を過ごそうと思っていたカミューは天を仰いだ。 「こんなに降るなんてあり?」 「ホワイト・クリスマスだ。嬉しいだろう」 めずらしく嫌味をびしばし飛ばしてくる恋人も、ゆっくりと過ごせないことを少しは残念に思っていてくれているのだろうか。カミューは雪国を舐めていた……と反省しながら上着を羽織った。 おわり |