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「マイクロトフ、厩舎に行きたいんだけど……」 背後からかかった声に、友人と談笑していたマイクロトフは振り返って相手を認めると、軽く頷いた。友人たちに「ちょっといってくる」と断りを入れ、輪を抜ける。 待っていたのはカミューだった。 「悪いね、いつも」 首を傾げ、すまなそうに笑うカミューに、 「水臭いことを言うな。……友達だろう?」 と、マイクロトフは言いながら、自分で口にした『友達』という単語に照れたのか、わずかに笑みを浮かべる。 「そうだね。親友だもんね、俺たち」 嬉しそうに頷くカミューのセリフにますます照れたのか、マイクロトフは顔を赤らめ、 「ほら、厩舎だろ。いくぞ!」 と、怒ったように言うと、カミューの手を引いて逃げるようにその場を去った。 残された友人たちは2人のやりとりを目の当たりにして、顔を見合わせる。誰ともつかないため息が漏れた。 「よくやるよなぁ」 その呟きはどちらに向けられたものかわからなかった……。 2人は厩舎への道をくっついて歩いていた。いや、くっついて、というには少し語弊がある。カミューがマイクロトフの腕にしがみついている状態だったのだ。 「カミュー、いいかげん慣れないといつまでたっても雪道を1人で歩けないぞ」 「うん……。これでも努力してるんだけどね。昨日も3回転んだし」 恐る恐る足を運びながらのカミューの返事に、マイクロトフは深いため息を吐いた。 昨年の春、マチルダ騎士団に入団したカミューにとって初めて過ごすマチルダの冬だった。そんなカミューに思わぬ難敵が現れた。グラスランド育ちのカミューは凍った雪道を歩いたことがなく、雪道がまったく歩けなかったのである。みんなと同じ靴を履いているというのにバランスの取り方が悪いのか、見事なまでに転ぶ。そして、転び方も知らないため、受け身も取れず、頭にたんこぶを作ったり、あちこちに青痣を作ったりしていた。 マイクロトフは目の前でビダンッと音がしそうな勢いで前のめりに倒れたのを目の当たりにし、次の日に目の周りに墨で書いたような痣をこしらえたのを見たときから、歩行に慣れるまで杖の役目を買って出たのであった。見るに見兼ねたのもあるが、普段、なんでも器用にこなすカミューがこんなことに手間取っているのがおかしくて、めずらしく自分が優越感を持てることがちょっと嬉しかったのかもしれない。 それ以来、カミューはマイクロトフが時間がありそうなときは声をかけ、目的地まで支えてもらっているのである。 「おかげでお尻に大きい青痣ができたよ。……見るかい?」 やれやれ、といった表情から一転、にやり、と悪戯っ子のような顔で笑うカミューに、 「誰が見るか!」 マイクロトフは顔を赤らめて怒鳴った。 「なんでー? いいじゃん、男同士なんだから。俺だったら見たいけどなー」 マイクロトフのお尻、とカミューはどこかいやらしい笑みを浮かべた。マイクロトフの顔が火がついたように赤くなると、思ったとおりの反応にカミューが爆笑する。 「誰が見せるか! もうおまえなんか知らん!」 マイクロトフはバッとカミューの腕を振り払うと、ずかずかと歩き出した。 「あ、待ってよ! マイク!!」 慌てて追いかけようとしたカミューだったが、 ずべしゃ!! 物凄い音にマイクロトフが振り返ると、ありえない格好で雪に埋もれているカミューの姿があった。マイクロトフは深々とため息を吐くと仕方なくカミューの元に戻る。こんな姿、とてもじゃないが、カミューの容姿にきゃーきゃー言ってる街の女の子には見せられない。 「大丈夫か?」 差し伸べた手にカミューは鼻を押さえながら掴まった。凍っている地面に足を踏ん張り、軽々と引っ張り起こすマイクロトフにカミューは納得いかない様子で睨みつける。 「おまえの靴底には針か何かついているんだろう!」 「はあ?」 「見せてみろ!」 カミューは言うが早いかマイクロトフの片足を持ち上げようとした。 「わ! 馬鹿! やめろ!!」 マイクロトフは阻止しようとしたが、競り合いでは狡猾なカミューにかなうはずもなく、あっというまに片足を取られる。靴底を見るように持ち上げられ、さすがのマイクロトフもバランスを崩し、すてんっと勢いよく転んだ。その転倒に片足を掴んだままのカミューも巻き添えを食う。 「……納得いったか?」 「おかしいなぁ……」 マイクロトフのキックを顔面に受けたカミューは首を捻った。カミューの言うとおり底に針が刺さっていたら顔面血まみれである。 「来年こそは克服してみせる!」 マイクロトフの腕にしっかりとしがみつき、もう片方の手で握りこぶしを作って意気揚々と宣言したカミューだったが、 「来年って……、今年いっぱい俺にしがみついてる気か?」 マイクロトフは呆れたように眉を寄せる。そんなマイクロトフにカミューは片目を瞑ってみせた。 「固いこと言うなよ、親友だろ」 おわり |