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マイクロトフはゆっくりと目を開けた。 部屋の中は闇に包まれていたが、窓際のカーテンに目をやると、わずかに青みがかっている。冬は日が昇るのが遅いため、これくらいの明るさでも普段の起きる時間だとわかったマイクロトフはけだるげに上半身を起こした。とたん、腰のあたりが鈍く痛む。思わず腰に手をあて、こらえるようにしばし唇を噛んだ。 恨めしそうに隣を見遣れば、それはそれは幸せそうに眠りの世界に浸っている男がいる。 昨日は聖夜。 執務を終え、カミューの私室を訪れたマイクロトフを待っていたのは、豪華とまではいかないが食欲をそそるのには充分な料理の数々と様々な酒瓶。その中にはマイクロトフの好きな銘柄やカミューの好きな銘柄も並んでいる。室内を照らす蝋燭の数はいつもより少なく、ほの暗い雰囲気が聖なる夜を演出していた。 恋人にとって特別な夜だから、ね。 力の入りように思わず絶句したマイクロトフに、カミューが照れ臭そうに、だが嬉しそうに呟いた言葉。背中を優しく押されるがままに席についたマイクロトフのグラスにピンク色のシャンパンが注がれ、カミューのグラスも同じもので満たされると、カチリとグラスを合わせて二人の夜ははじまった。 マイクロトフの好きな肉料理をはじめ、用意された料理はどれも量も味も申し分なく、それに合わせた酒もカミューのセンスの良さを感じさせるものばかりだった。料理が美味ければ会話が弾む。会話が弾めば酒が進む。 気がつけばどう考えても二人分ではなかった料理の皿はほとんど空になり、酒瓶も数本が空になっていた。 「やっぱり、クリスマスといったらね」 そう言ったカミューが奥の部屋に消えたかと思うと、次に現れたときにはその手には綺麗にデコレーションされたケーキの皿が乗っていた。二人ともそれほど甘いものを食べるほうではないが、今日は特別。子供のように笑い合い、ケーキに手を伸ばした。 マイクロトフのフォークがケーキに届く前にカミューの指がケーキに埋没した。思わず動きが止まるマイクロトフにカミューが、にこり、と笑い、指で生クリームを掬う。 「行儀が悪いぞ……むぐ」 説教しかけた口に指が突っ込まれた。甘い匂いが鼻をくすぐり、口いっぱいに甘味が広がる。思わず指を拭うように舐めるマイクロトフにカミューはくすぐったそうに笑いながら指を引き抜いた。 こうなるとマイクロトフも所詮、酔っ払いである。真似してケーキに指を突っ込み、塊を掬うとカミューへと伸ばした。それにカミューが齧り付く。ケーキ職人が心を込めてデザインしたであろうケーキはあっという間に原型を留めず、二人の指から口へと運ばれていった。最後には顔に生クリームを塗りつけようとする始末である。普段の厳格な青騎士団長、華麗な赤騎士団長の姿からは想像もできないほど子供のように笑い声を上げ、はしゃぎながらクリーム争奪戦を繰り広げた。 最後に頂上にあった苺を互いの口内で味わいながら飲み下すと、そのまま顔のあちこちについたケーキの残骸を唇で拭いはじめる。 ひと段落するとカミューはテーブルの下に隠してあったらしい包みを取り出すとマイクロトフに「メリークリスマス」と言って手渡す。赤と緑を基調とした包装紙を解くと、中から出てきたのは一対の篭手だった。良質の革を使った丈夫そうなデザインで、さりげなくきめ細やかな刺繍が施された、一目見て名工の一品とわかるものである。前の戦で篭手をだめにしたばかりだったマイクロトフは驚いてカミューを見た。戦の消耗品など、だめにしたところでいちいちカミューに伝えていない。 カミューはお見通し、とばかりに片目を瞑ってみせた。 「ありがとう、カミュー。大事にする」 「大事にしなくてもいいから、怪我をするな」 カミューは笑いをおさめるとマイクロトフの手から篭手を取り上げ、「ちゃんとおまえを守るように……」と恭しく口付ける。 「カミュー、俺は……」 「俺にも、クリスマスプレゼントちょうだい」 言いかけたマイクロトフの唇をカミューの唇が柔らかく塞いだ。そして、口付けが深まるままに熱を分け合う行為へともつれ込んでいく。 カミューの言う「特別な夜」とはここからはじまったらしい……。 拒まなかったのは自分だし、自分だって求めた。少々節操がなかったとはいえ、それを一方的に責めるつもりはない。 だが。 「プレゼントくらい渡させろ」 今年も何も用意していないと思ったのであろうカミューは自分が気まずく思わないようにと身体を求めてきたのだと思う。しかし、今年はちゃんと用意していたのだ。身体で払わせられるハメになったマイクロトフの口からは愚痴めいた呟きが漏れる。 マイクロトフはベッドを降りると床に脱ぎ捨てられた制服のポケットから小さな包みを取り出した。渡すタイミングを逃してしまったプレゼントをどうしようか考える。今日がクリスマス本番とはいえ、今更、改めて渡すのも何か気恥ずかしいではないか。 マイクロトフはしばし考え込んだ。 目を覚ましたカミューの目の前には見慣れないものが置かれていた。いや、そのもの自体はめずらしくもなんともないのだが、枕元に置かれているものではない。 「?」 首を捻りながらそれを手に取ると、がさり、と紙がこすれる音がした。逆さにして中のものを取り出してみる。 「へえ……。朴念仁だと思っていたけど、なかなかやるじゃないか」 カミューは嬉しそうに目を細めた。 「あれ? 団長、ペンを変えたのですか?」 「ああ。サンタクロースからもらったんだ。いいだろう?」 カミューは真新しい万年筆を自慢げにかざしてみせた。 holly night |