衣替え




ピンポーン

 インターフォンの音にカミューは缶ビール片手に玄関に向かった。ようやく恋人が帰ってきたらしい。今日は彼は遅番で、すでに日付が変わっていた。
 ガチャ、とドアを開けるとやはりそこにいたのは同居人のマイクロトフ。しかし、彼は朝と違う格好で立っていた。普段は私服で出勤し、会社で濃紺の制服に着替えているのだが、なぜか制服姿のままだった。
「あれ? どうしたの?」
 目を瞬かせるカミューにマイクロトフはすぐ言わんとしていることがわかったらしい。軽く肩をすくめてみせた。
「明日から衣替えだからな。着替えるのが面倒でそのまま帰ってきた」
「そっか。明日から6月だもんね」
 衣替えなどないサラリーマンのカミューは、なるほど、というように頷いた。衣替えなどもう10年近く縁がない。通勤途中に女子高校生の制服が変わっているのを見て、ああ、そんな時期か、と思い出す程度である。
 そんなことを考えているカミューの脇をすり抜け部屋に上がったマイクロトフは、窮屈そうにネクタイを緩めながら振り返った。
「カミュー、俺も咽喉が渇いた」
「はい、とりあえずどうぞ」
 カミューが自分の飲みかけのビールを差し出すとマイクロトフはそれを受け取りぐいっと呷る。ふう、と、ひと心地着いたようなため息を吐くと「暑い」と言いながら制服の上着を脱ごうとジャケットのボタンをはずしはじめた。カミューはその後ろ姿にどきっとする。制服のまま家に帰ってきたことがないため、こういうしぐさは初めて見た。まだ仕事中のような禁忌的な雰囲気がカミューの官能を刺激する。
 ボタンをはずし終えたマイクロトフは上着の襟を両手で背中のほうに滑らせようとしたが、背後からそれは阻まれた。
「カミュー?」
 いつのまにか背後に回ったカミューに手を掴まれ、マイクロトフが怪訝そうに名を呼ぶ。そして、振り返ろうとしたが、
「俺にやらせて」
 と、一瞬早くカミューが言うと、するり、と上着を肩から滑らせた。マイクロトフは今更止めるわけにもいかず、居心地の悪そうな顔になる。このシチュエーションはまるで……。
「なんか新婚さんみたいだなぁ」
 嬉しそうに言うカミューに、まさにそう感じていたマイクロトフが頬を染めた。
「ばか……」
「家で制服姿ってなんか変な感じだね。ちょっと新鮮かも」
「……って、カミュー! どこを触っている?!」
 上着を脱ぎ終わり、そそくさと離れようとしたマイクロトフだが、上着を脱がせたその手がそのまま胸のあたりをさわさわと撫ではじめたのに慌てて声を上げる。
「どこって、ねぇ?」
 カミューは楽しげに笑うと胸元のボタンをひとつふたつとはずし、隙間から掌を滑り込ませた。
「やめろって! ……っ」
 掌が敏感なところを撫で上げ、マイクロトフは思わず息を飲む。カミューはその反応にほくそ笑みながら耳元に息を吹きかけるようにして囁きかけた。
「ほら、新婚さんがすることっていったらさぁ」
 決まってるじゃん、とカミューはくすくす笑ってあいてるほうの手で腰のあたりを抱き寄せ、腰を密着させると太もものあたりを撫で回す。敏感なところを掠める動きにマイクロトフは湧き上がる官能をなんとか逃そうと首を左右に振った。
「っ、く……、やめ、ろっ、腹が減ってるんだ……っ」
「あとでおいしいものを食べさせてあげるよ」
 色気のない拒絶の言葉に少々苦笑しながらカミューは耳朶を柔らかく食む。マイクロトフが、ぴく、と背中を仰け反らせると、カミューは駄目押しとばかりに器用にズボンのファスナーを引き下ろし、中でゆるくかたちを変えはじめているマイクロトフ自身を握った。マイクロトフがたまらず膝をつくと、カミューは覆い被さるように自分も片膝をつき、うなじに柔らかく噛みつきながら、手を上下に動かしはじめる。
「ぁっ……、やめ……っ、皺になる……っ」
「どうせクリーニングに出すんでしょ」
「そ、ういう問題か……っ……ぅ……」
 呼吸が荒くなるのを誤魔化すように悪態をつくマイクロトフに、カミューは「あ、忘れてた」とのんきな声を出した。何、とマイクロトフが思わず振り返ると、カミューはすかさず顎を捉え、唇を塞ぐ。すかさず入り込んできた舌先をなんとか追いやろうとしたマイクロトフだったが、技巧でカミューに敵うはずがなく、逆に捉われきつく吸われた。
「……っ、ふ……っ……」
 辛い体勢で口付けを強いられ、マイクロトフの身体を支える肘から力が抜けていく。前倒しになっていく身体にカミューはのしかかりながらますます口付けを深め、中心を刺激する手の動きを早めた。
「ぁ……、は……っ」
 抵抗する力がなくなった頃を見計らって解放された唇からは飲みきれなかった互いの唾液があふれ、顎を伝っていく。カミューはそれを熱い舌先で辿りながら顎に噛みついた。
「危うく、おかえりのちゅーを忘れるところだったよ」
 楽しげに笑うカミューに、
「ど、こが……っ」
 おかえりのちゅーのレベルなんだ、と力が抜けてしまった身体を肩と頭で支えながらマイクロトフが睨みつける。しかし、その漆黒の瞳は快楽に潤み、カミューを煽る以外の何物でもなかった。
 中心に絡めた指を器用に動かし、感じるところを引っかいてやれば先から透明な雫が滴り落ちる。それを塗りつけると手の動きはますます滑らかになり、マイクロトフの硬度もぐん、と増した。
「っあ……、かみゅっ、……も、もう……っ……」
 懇願するような声にカミューは艶然と微笑んで促すようにきつめに扱いてやる。息を詰めたマイクロトフの背中が弓のようにしなり、熱い迸りをカミューの手に放った。受け切れなかった精が紺色のズボンに飛び散る。
 カミューは力が抜けてしまった身体を仰向けに引っくり返すとその上に跨り、唾液で少し固くなってしまった咽喉元のボタンを歯ではずしにかかった。熱い吐息が首筋をくすぐり、吐精したばかりのマイクロトフはそれだけでも感じてしまい、力なく身を捩る。カミューはその動きを利用して下も下着ごと取り払ってしまった。
「カミュー……」
 恥らうような、それでいてもどかしい声で名を呼ぶマイクロトフにようやくボタンをはずし終えたカミューが顔を上げ、唇を寄せる。
「マイクロトフ……」



 次の日。風呂場でズボンの染み抜きをさせられているカミューの姿があった。
 そして、マイクロトフは二度と制服を着て家に帰ることがなかったという……。


 おわり





この時期といったら衣替え。
社会人になると男の人は縁がないなーと思ったら
バスの運転手がいました(笑)
あ、またも「BUS STOP」の流れの話です。

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