愛があれば●●の差なんて




 容姿端麗、頭脳明晰、物腰が柔らかく、人当たりも良い。そして、もちろん剣の腕も申し分ない。
 そんな、誰もが憧れる赤騎士団長・カミューだが、ひとつだけ欠点、というか、惜しまれるところがあった。

 それは。
 身長が少々低かったのである……。

 マチルダ人は色白で黒髪、そして、騎士の家系ゆえか、長身でがっしりとした者が多かった。マイクロトフも180センチをゆうに超える立派な体躯の持ち主である。
 一方、グラスランド出身のカミューは160センチを少々超えたあたり。彼曰く、出身の部族は皆小柄だという。それはグラスランドでは草むらや岩の陰に身を隠しながら狩りを行なったり、戦うことが多いため、身体が順応していったのだろうというのが彼の持論だった。
 しかし、周りの騎士たちが180センチ前後という体格差の中で団長の座に上り詰めたのだから、実力は文句なしだった。たとえ、馬に乗っても周りに立つ騎士たちとせいぜい同じくらいの背丈だろうが、大勢の騎士たちの中に混じるとどこにいるのかわからなくなろうが、団長は団長なのだ。
 少々背が低くても顔はいいし、口も巧い。カミューは女性によくモテた。160センチに届かない小柄な女性は気にすることもなかったが、少々背が高い女性はヒールの低い靴を選ぶ、という密かな気遣いはロックアックス城下の女性の間では無言の了承となっていた。
 そんなカミューがマイクロトフ相手に上に乗る(つまり『攻め』)という立場を崩さなかったのは騎士団の中では逸話となっている。出会った当初は同じくらいの身長だった2人もマイクロトフが成長期に入るとぐんぐんと差がつきはじめ、カミューが告白したときには10センチほどの身長差があったはずである。初キスのときはカミューがこっそり段差に上がっていたというのは騎士団内では有名な話であった。
 カミューには10年来隠し通してきた秘密があった。騎士団のプロフィールには163センチと公表しているが実は160センチなのである。だが、マイクロトフも8年前からごまかしていた。185センチと公表しているが実は188センチもあったりする。22センチという身長差は実は28センチ差だったのだ。6センチの誤差は小さいはずがなかったが、あえてどちらもそのことに触れることはなかった……。
 嘘が嫌いなマイクロトフがあえて身長を低く申請しているのは愛ゆえか……。



「カミュー! いつまで寝ているつもりだ?! とっとと起きろ!!」
 毎朝恒例の赤騎士団長起こしがはじまった。それはマチルダ騎士団を離反し、ここ都市同盟軍に身を寄せた今日でも変わることがない。彼を叩き起こすのはもちろん、親友であり、恋人である青騎士団長・マイクロトフの役目である。
 カミューが布団の中で「ううーん」と唸り声を上げると、マイクロトフは容赦なく布団の上から揺さぶりにかかった。
「おい! 起きろ!!」
「もうちょっと……」
「もうちょっとではない!!」
 マイクロトフは一喝すると揺さぶる、というには少々乱暴な手つきでカミューの身体を転がすように押した。すると、カミューの身体が布団に海苔巻きのように巻かれながら反対側へ転がっていく。そして。
「あ」
 ドスンっという鈍い音と共にカミューはベッドから転げ落ちた。さすがに落ちるとは思わなかったマイクロトフは慌ててベッドの反対側に駆け寄る。
「大丈夫か?」
 跪いて布団の中から出てきたカミューと視線を合わせると、カミューは起き抜けの事故に涙目になっていた。
「いたた……。ひどいよ、マイク……。もうちょっと手加減というものをだね……」
「お、おまえが、ち、寝汚いのが悪いのではないか!」
 思わず、小さいのが、と言いそうになって少々口ごもりながらマイクロトフは言い訳した。自分と同じくらいの体格なら落ちるまではいかなかったはずである。だが、さすがにそれは禁句だということはわかっていた。普段は気にしていないふうを装っているカミューだが、それはもう、激しく気にしているのは付き合いの長いマイクロトフはもちろん、周りの騎士たちも重々承知している。
 うつむいて「おまえがすぐ起きないのが悪い……」と小声で言い訳がましく呟くマイクロトフをカミューは半目でじっと見つめていたが、ぐい、と後頭部を引き寄せるとおもむろに口付けた。そして、マイクロトフが我に返る前にすばやく立ち上がり、逃げるようにクローゼットに向かう。
「カ、カミュー!!」
 一瞬遅れて我に返ったマイクロトフは立ち上がると、逃げるカミューの肩を掴もうと手を伸ばした。

 がしっ

「…………マイク、その、頭を掴む癖、やめてくれないかと言ってるだろう」
「す、すまない……」
 目測を誤ったとは言えず、マイクロトフは慌てて亜麻色の髪から手を離す。付き合いは長いのだが、周りとの体格差には未だに慣れずにいたマイクロトフであった……。



 カミューはいつもの赤騎士団長の制服に身を包み、紫のマントを装着した。そして、そのマントの陰に大事な物を装備する。

 それは。
 折りたたみ式の小さい踏み台であった。

 これの存在は本人と使われている相手しか知らないことである。騎士団内で目撃した者が何人かいたが、その使われていた状況と、万一話したことがばれたときに受けるであろう報復を恐れ、口外する者はいなかったため広まることはなかった。
 以前、ナナミが廊下を走っていて、余所見が原因でカミューの背中に衝突したことがある。目から火花が散るほど痛かったのだが、カミューに「大丈夫ですか? レディ」とそれはもうフェミニストぶりを十二分に発揮され、ナナミは痛みを忘れ夢心地にその後ろ姿を見送った。そして、後から追いついてきた弟に「カミューさんの背中ね、すっごく硬いの! 鋼の筋肉ってああいうのを言うのね!!」と興奮して語ったのだが。鋼の筋肉ではなくて鋼にぶつかったのだ……。


「これでよし、と」
 カミューは大きな鏡で後ろ姿のチェックを行なうとひとつ頷いた。背中に背負っている小さな踏み台はマントによるカモフラージュで完璧に隠れている。もう何年も背負っているのだから隠すのもお手のものであった。
「じゃあ、今日も行きますか」
 ぱんぱん、と顔を軽く叩き気を引き締めると、そこには完璧な赤騎士団長が立っている。
 カミューはドアの外で待つ恋人の隣に並ぶべく歩き出した。彼と並ぶと頭ひとつくらい違う。だが、それを滑稽だなどと思わせないくらいの気品と威厳を備え、カミューは今日も彼の隣に並ぶのだ。それはこれからもずっと変わることはない……。


 おわり





すみませんすみません。つい出来心で書いちゃいました。
前にMさんとこんな設定で盛り上がったのを思い出したら
なんとなく書きたくなりまして……。
苦情は勘弁してください。本人も重々承知してます……。
でもちょっとだけ楽しかったりして……(笑)


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