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ある朝の早朝。 「報告します!」 勢いよく道場に駆け込んできた若い青騎士を、その場にいた全員が振り返った。 そのメンバーは、元・団長、副団長を除いたほぼ全員の青騎士、少数の赤騎士からなる、「青騎士団長の幸せを守る会」だった(過去は「青騎士団長の純潔(笑)を守る会」だったが、『コードネーム:赤い悪魔』に奪われてしまい、泣く泣く改名したという経緯がある)。 マチルダ騎士団時代から会長を務める青騎士が声をかける。 「おお、待ちかねたぞ。して、今朝は……」 「はっ! それが、今朝も……」 くっっ、と悔しそうに若い青騎士がうつむく。その言葉に道場にいた全員がどよめいた。 若い青騎士は夜が明ける前からカミューの部屋を張り込んでいた。さきほど、マイクロトフがその部屋から出て自分の部屋に戻っていったのを確認して、駆けつけたという次第である。 最近、朝錬にくるマイクロトフのどこかつらそうな様子にいてもたってもいられず、連日こうして対策会議が練られていた。 「なんと! 今朝もか?!」 「もう、これで4日連続だぞ!」 「いや、その前はカミュー様が2日間、マイクロトフ様の部屋から……」 「いくらなんでも度がすぎる! 新婚だってそんなにはしないぞ!」 「子供ができるわけでもないのに……」 「マイクロトフ様似の子供ならさぞかしかわいいだろうなぁ……」 「うむ……。それはもう、天使も恥じらうような愛らしさに決まっている」 「……カミュー様に似たら最悪だな」 「よせ。想像してしまった……」 「話がズレているぞ、おまえら!」 「赤騎士たち、上司だろう! なんとかしろ!」 「……死にたくないです」 ぼそり、とつぶやかれた赤騎士の声で場がシーンとなる。一気に温度が2、3度下がった気がした。 恋人、という関係は相思相愛なため認めざるを得ない。どんなに納得のいかないことでもマイクロトフの幸せが最優先なのだ。 しかし、毎朝つらそうなマイクロトフを見ていると、カミューに「もう少し控えてほしい」と進言したくなる。だが、けっきょくはおそろしくて誰も言い出せない、という状況なのだ。一見、フェミニストの優男に見える元・赤騎士団長は、女性には確かに優しいが同性にはけっこう容赦ない。しかも、マイクロトフがらみになるといくつか恐ろしい噂が流れていた。しかし、当事者は全員が絶対に口を割らない、もしくは行方不明となっているので、真相を確かめることはできなかった。確かめる勇気のある人間もいなかったのだが……。 「なにかいい手だてはないものか……」 会長がため息をつくと、何人かの騎士が手を上げた。 「こういうのはどうでしょう? 城主様を買収して、カミュー様をパーティーに入れてもらって遠出をしてもらう……」 「ふむふむ」 「しかし、また、このあいだのように……」 前に、城主にはなんの悪気もなかったのだが、たまたまカミューをパーティーに入れてグレッグミンスターへ出かけたことがあった。まともにいくと1週間ほどかかる道のりを、どうやったのか、3日で帰ってきた。そのとき一緒にいったビクトールが「こいつとはもう二度と一緒に行きたくねえ!」と青ざめていたとか、いないとか。フリックが帰ってきてから倒れて3日3晩意識不明になったとか、ならないとか。 会長は重くため息をついた。 「周りの方々への影響が大きすぎる……。それではマイクロトフ様もお気になさるだろう」 「では、逆にマイクロトフ様を連れていってもらってはいかがでしょう?」 「ふむふむ」 「それもこのあいだ……」 前に、やはり城主にはなんの悪気もなかったのだが、たまたまパーティーにマイクロトフを選んだことがあった。出発直前にメンバーの一人に選ばれていた、ホイが大火傷を負うという事件が起こった。すわ、侵入者か?!と城内が騒然となる中、涼やかな顔をしたカミューがホイの代役をかってでた。城主の「で、でも、彼は後衛メンバーだったので……」というとまどいの声に、にっこりと「私は魔法も得意ですから。お任せ下さい」と応えていた……。 ガボチャがホイの部屋の近くで「さいごのほのおぉぉ!!」という怒号のあとに、どおんっ!という爆発音を聞いたと言ったとか言わないとか。しかし、パーティーが帰還してから城主が改めて聞きに行ったら、ガボチャは何かに脅えるように首を横に振って決して口を開かなかったとか。真相は闇の中である……。 ………………。 恐怖、という名の沈黙が道場を包んだ。 「打つ手はないのか……」 「……いちばん手っ取り早いのはカミュー様に怪我でも負ってもらうことだな……」 「ふむふむ」 「しかし、誰があのカミュー様に怪我を負わすことができるというのだ」 「とても我々では……」 歯がたたない。自分の鍛練は全然していないそぶりなのに、昨日も「複数の敵を相手にするとき」のお手本として赤騎士3人を相手に、華麗な剣技を披露してみせたのだ。つまり、めった打ち。 「お、俺が相打ち覚悟で……!!」 若い騎士が必死の形相で手を挙げる。しかし、全員首を横に振った。 どんなにこちらが命懸けで向かっていっても、あの赤い悪魔はかるく返り討ちにしてみせるだろう。 会長は重いため息をついた。 「あの方に怪我を負わせるなど……。そんなことができるのはマイクロトフ様くらいだろう……」 「そのとおり。よくできました♪」 ぴきっ 背後から聞こえてきた、この時間にここにいるわけのない人物の明るい声に、一瞬にして場の空気が凍った。誰もが確認したい、何かの間違いであってほしい、とは思っても恐ろしくて振り向くこともできない。 そんな連中をおもしろそうに見やりながらカミューは口を開く。 「マイクロトフ、今日はちょっと来られないから、私が代わりにきたんだけど……」 また、無理させたんかいっっ! と全員が心の中で突っ込むが、恐ろしくて口にはできない。 「さっそくはじめようか。元気が余っているようだから『みっちり』と」 にっこり。 女性なら頬を染めずにいられないくらいの笑顔でさりげなく「みっちり」を強調するカミュー。 殺される……。 その場にいた全員が己の死期を悟った……。 おしまい。 |