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マイクロトフは月を見上げていた。 先程まで熱を交わしていた相手は乱れた布団の中で寝息を立てている。マイクロトフも眠りに就こうとしたのだが、カーテンの隙間から漏れていた月明かりになんとなく惹かれてしまい、布団の上にあぐらをかいて見つめていた。 今宵の月は満月というには少々欠けている。マイクロトフにはそれがこれから満月を迎えようとしているのか過ぎたばかりなのかはわからなかったが、冴え冴えとした光りは眩しいくらいだった。 「そんなに熱心に見つめるなら俺の顔にしてよ」 不意に背後から不満そうな声がかかる。マイクロトフが振り返ろうとするより早く、毛布と共に腕が巻き付いてきた。 「月と対決しなくちゃいけない日がくるとは思わなかったなぁ」 背後から肩に顎を乗せ、拗ねたような口調でぼやくカミューにマイクロトフは苦笑いする。 「何にでも嫉妬するのはやめろ」 「何にでも嫉妬したくなっちゃうんだよ。おまえはなかなか俺に夢中になってくれないから」 「馬鹿言うな」 これだけ人の心を支配していてよく言う、とマイクロトフは心の中で思う。だいたい、月を見上げて何を思っていたと思うのだ……。 マイクロトフの心境など知るはずもないカミューは悪戯っぽい笑みを浮かべると、 「でも、さすがに月を壊すのは無理だろうから、こうしようかな」 と、マイクロトフの顎を捉え、振り向かせて唇を重ねた。マイクロトフの視界いっぱいがカミューの顔になる。間近で微笑む琥珀色の瞳に慌てて目を閉じた。 緩く甘やかに唇を食まれ舌を吸われ。月明かりを浴びながら優しい口付けを交わす。 「ね。月なんかより俺のほうがいいでしょ?」 「ばか……」 悪態をつく口調は甘く、カミューは目を細めてもう一度口付けをしかけた。すると亜麻色の髪を軽く引っ張られ、阻まれる。なに、と顔を上げるカミューにマイクロトフは眩しいものを見るように目を細めて口を開いた。 「おまえは……月のようだ」 冴え冴えとした光は冷たいようで優しい。その光はどんな闇でもたやすく明るくしてしまう……。 「え?」 「そう思って見ていた」 マイクロトフはそう言うと顔を上げて再び月を仰いだ。カミューもつられて視線を追う。どうして自分を月などにたとえるのかはわからなかったが、マイクロトフの表情はどこか陶然としていて、悪い気はしなかった。 「俺が月だとしたら、さしずめ、おまえはこの星だな」 「え?」 「俺はおまえ中心にぐるぐると回っている。おまえの重力に引かれ、一生、離れることができないんだ。 月とこの星の関係みたいだろう?」 的を得たり、とばかりに笑うカミューにマイクロトフはなんとも言えない表情を浮かべる。そういうつもりでたとえたのではない、と思うが、それを口にすれば「じゃあどうして」と突っ込まれることは明らかで。あんな恥ずかしい想いを口にできるはずがない。 マイクロトフが黙っていると、カミューはぎゅう、と抱きついた。 「この星と月のようにずっと互いに引かれ合って、一緒に回り続けようね」 「…………ああ」 短い沈黙のあとに返ってきた肯定の返事にカミューは一瞬、目を見開く。だが、すぐ艶っぽい笑みを浮かべると、どさっとマイクロトフをシーツの波に押し倒した。 「月は夜のほうが輝きを増すんだよ」 月明かりを背に微笑むカミューは息を飲むほど美しく、マイクロトフは思わず見惚れる。しかし、カミューの手が敏感なところを撫ではじめたのに我に返ると、慌てて引き剥がそうとした。 「ちょっ……、待て! 俺はもう寝る!」 「おまえが俺にたとえてくれた月はあんなに満ちているんだもの。まだまだこれからだよ♪」 「そういう意味じゃない……っ!」 おわり |