寒がり




「寒いー!」
「寒い寒い言うな! 余計寒くなるだろうが!」
「だってー」
 マイクロトフの叱責にカミューは唇を尖らせた。

 ここ都市同盟軍本拠地は緊急事態に陥っていた。季節は真冬だというのに城内の暖房が故障したのだ。同盟軍一の(というより唯一の)発明家、アダリーによって整備された暖房は『えれべーたー』の動力がもたらす熱を配管を通して各部屋に送るというものだった。火を使わなくていい安全性が買われて、すべての部屋でその暖房を活用していた。
 だが、動力が壊れればすべての暖房が止まってしまうという致命的な欠点があったのだ。
 雪がちらつく寒い日に暖房なしでは人々がまともに機能するはずがなく、今日の執務全般は臨時休業となったのである。カミューとマイクロトフは寒い部屋で何をするでもなしに過ごしていた。

「子供ならともかく、おまえがそんな顔をしても可愛くないぞ」
 ふん、と呆れたように鼻を鳴らすマイクロトフにカミューは胸を反らせる。
「俺より可愛い27歳はいないと思うんだけどなあ」
「おまえより大人げない27歳はいないだろうがな」
「まーっ! 言いますわね! きーっ!」
 カミューはふざけた調子で言うとマイクロトフの無防備な首筋に冷えきった手を押しつけた。不意を突かれたマイクロトフは、うひゃあ、とあられのない声を上げる。
「な、何をする! 馬鹿者!」
 真っ赤になって怒鳴るマイクロトフにカミューは、にやりと笑った。
「おまえの悲鳴のほうがよっぽど子供っぽいぞ」
「なんだと!」
 マイクロトフはムッとしたようにカミューを睨みつけると、にやにや笑っているその両頬を包み込んだ。その手もやはり氷のように冷たい。
「うわっ! 冷たい! 触るな!!」
 たまらず悲鳴を上げるカミューにマイクロトフは人の悪い笑みを浮かべて手を離す。
「ほう。いつもは触れとうるさいのにな」
 何やらいつもと様子が違うマイクロトフにカミューは何やら不安を覚えた。
「マ、マイク?」
「わかった。おまえには二度と触れん」
「なっ! ま、待ってよ、マイク!」
 カミューは慌ててマイクロトフの肩を掴もうとするが、マイクロトフはするりとかわして
「触るな」
 と、冷たい一言を投げつける。
「マ、マイクロトフー……」
 マイクロトフは情けない声を出すカミューにかまわず、少し体を暖めようと愛剣・ダンスニーを持って部屋を出ようとした。カミューはそうはさせじと慌てて後ろから抱き着く。ここで逃しては後が厄介であることは嫌というほどわかっていた。
「ごめん! 俺が悪かったよ!」
 カミューはマイクロトフの剣を持っていないほうの手を己の頬に押し当てる。
「どんなに冷たかろうと痛かろうと、おまえが触れてくれないくらいならいくらでも我慢できるから」
 懇願するように言うとマイクロトフは呆れたように深く息をつき、ダンスニーを壁に立て掛けた。そしてもう片方の手もカミューの頬にあてる。
「こんなに冷たくてもいいのか?」
「うん。マイクロトフの手ならいい」
 カミューはそう言うと自分で押し付けたほうの掌に口付けた。そして、お伺いするように上目遣いでマイクロトフを見る。
「これで暖かくなるかな?」
「さあな……」
 マイクロトフはかすかに笑みを浮かべ、そっと両手を己のほうに引き寄せた。当然、カミューの顔も引き寄せられ……

 ふわり

 柔らかいぬくもりがカミューの唇に触れる。
「どうだ? 少しは暖かくなったか?」
 悪戯っぽく目を細めるマイクロトフをカミューは茫然と見つめた。その惚けようがおかしくてマイクロトフは肩を震わせる。
「どうした? おまえはもう終わりか?」
 マイクロトフのからかうような声にカミューはようやく我に返った。そしてにっこりと満面の笑みを浮かべるとマイクロトフにぎゅっと抱き着く。
「こうしていれば暖かいよね」
「まあな」
 たまには。寒い日もいいかもしれない。


 おわり





仕事中、銀行で待っている間に作った文。
暖房が止まったのは実話。
携帯で打ったのでちょっと文がぎこちなく……


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