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「カ、カミュー! おまえというヤツはっ……、いつもいつもこんなことしか考えてないのか?!」 マイクロトフは狭いソファに身体を押しつけられつつ抗議の声を上げた。上から圧し掛かり、抑えつけようとするカミューは悪びれない笑みを浮かべる。 「やだなー。昨日はちゃんと我慢したじゃない」 「あたりまえだ、どあほう!!」 金曜日、カミューは、どんなに遅くなってもいいから泊まりに来てほしい、と言った。マイクロトフがカミューのマンションに着いたのは遠慮なく深夜2時を回っていたが、カミューはちゃんと起きていて、笑顔で出迎えてくれた。「大変だったろう」と労いの言葉を何度もかけてくれる。マイクロトフはそれだけで3日続いた過酷な残業の疲れが癒される思いだったのだが、カミューは軽い夜食を作っていてくれて、更に彼を喜ばせた。仕事の合間に夕食を摂ってから随分時間が経つ。心身ともに疲れていたが、空腹を感じていたのも事実だった。 マイクロトフがそれをありがたく頂戴している間、カミューはビールを空ける。食べ終わる頃にマイクロトフも2、3口貰うと、満腹感に冷たいアルコールが染み渡り、身体が充足するのを感じた。 そしてその夜は月曜日のように少々揉めつつも二人で抱き合って眠りについたのだが……。 「日中だってゆっくりしたでしょ?」 言いながら服に手をかけようとするカミューの腕をマイクロトフは咄嗟に掴む。 「あっ、あたりまえだろう! 誰が明るいうちからそんな不埒な真似ができるか!!」 「もう夜だよ。あたりまえ、あたりまえって、恋人同士がこういうことするのはあたりまえじゃないの?」 カミューが不満そうに口を尖らすとマイクロトフは一瞬怯んだが、すぐ気を取り直すと突き放そうと腕に力を込めた。 「夕食を食べたばかりだ!」 「俺はマイクロトフを食べたい」 と、カミューはマイクロトフの頬に、ちゅ、と音を立ててキスする。マイクロトフは容赦なく亜麻色の髪を引っ張った。 「馬鹿なことを言ってないで離れろ!」 「いやだーっ」 こうなってくると子供の押し問答状態であるが、本人たちはいたって本気であったりする。狭いソファの上でのしかかろうとする者とそれを阻もうとする者。熾烈な攻防が繰り広げられた。 「もういい!」 突然、大声を上げたのはマイクロトフだった。服の裾をまくられてカミューの手が侵入してきた、という分が悪くなったとたんの大声にカミューは驚いて手を止める。 「おまえは所詮、身体が目当てなんだな! ゆっくりと2人でくだらない話をしたり、テレビを見たりして過ごす時間になんの意味も感じないんだな?!」 「マ、マイクロトフ……?」 「だったらもう知らん。好きにしろ」 マイクロトフはごろっと、まな板の上の鯉よろしくソファに大の字になって力を抜くと目を閉じた。その恐ろしいまでの無表情にカミューの背中に冷たい汗が流れる。本気で怒らせてしまった。 「マ、マイクロトフ……」 カミューは恐る恐る声をかけてみたが、マイクロトフはなんの反応も返さない。頬にそっと手をあててみたが結果は同じだった。 「ご、ごめん……」 謝ってもやはり目は開かれない。カミューは捨てられた子供のように頼りなさげに眉を寄せると、そっと覆い被さるように抱きついた。 「ごめん、マイクロトフ……」 怒らせるつもりなんてなかった。嫌がったりするからちょっとふざけたつもりだった。 でも。一分でも一秒でも早く欲しかったのは本当だ……。 カミューが抱きついて動かなくなると、マイクロトフは、ふう、とため息をついた。びく、と過敏に反応するカミューに苦笑すると背中にそっと腕を回す。 「俺だって……嫌だと言ってるのではない。ただ、終われば……その、大抵は寝てしまうだろう? だったら起きている時間をもう少し持ちたいと思うのは……我侭か?」 「マイクロトフ……」 マイクロトフのセリフにカミューは目を見開いた。思わず顔を上げると頬を朱に染めたマイクロトフが所在無さげに目を泳がせている。 確かに肌を重ねた後は、充足感と脱力感の狭間に身をまかせ、そのまま朝を迎えることも少なくない。 同じ朝を迎えるなら、はじまりを遅くする分、いろんな時間が過ごせるのでは……。 「ごめん、マイクロトフ! 俺が浅はかだったよ!」 カミューはもう一度マイクロトフにがばっと抱きついた。 「カ、カミュー?」 「俺は最低だ! ケダモノにもほどがある! おまえにがっついてばかりいて、ごめんよ!」 「い、いや、それはそれでうれしいが……」 つい気が緩んでいたマイクロトフは口を滑らせそうになり、ハッとして慌てて口を紡ぐ。だが、幸いと言おうか、気が昂ぶっているカミューの耳には届いていないようだった。 「おまえの言うとおりだ。ヤるのはいつでもできる! どうせなら、深夜に何もすることがなくなった頃にヤろう!」 「ヤるヤる言うな!」 そんなすったもんだの挙句、2人は並んでソファに座り、ビールを片手にテレビを見ていた。テレビのCMやら番組やらに対して、たわいのない会話を交わすだけで心が充たされるような穏やかな時間が過ぎていく。 そして、12時をややも過ぎた頃、マイクロトフが風呂に入る、と立ち上がった。カミューはテレビに視線を向けたまま、いってらっしゃい、と小さく手を振る。マイクロトフはカミューの寝室に向かい、着替えやタオルを取り出すと浴室に向かった。パタン、というドアの閉まる音にカミューが視線を向ける。 「さて……と。もう、文句なしに深夜だよね……」 と、一人ごちると、ゆっくりと立ち上がった。 髪を洗っていたマイクロトフは、ガタ、と脱衣所から物音がしても、やっぱりな、と思うだけでとくに慌てたりはしなかった。とりあえず深夜といっても差し支えない時間になったことだし、あんまり拒んでいると後の反動が怖いということは嫌というほどわかっている。まあ、あの男にしては耐えたほうだろう、と軽く肩をすくめた。 今日は、いつも彼の思い通りに事が運んでしまう日常にちょっと逆らってみたかっただけ。 そうと知ったら憮然とした顔をするんだろうな、と思うと知らず笑みが浮かぶ。振り回されているのはお互い様だということを思い知れ、などと見えない相手に心の中で舌を出した。 そして、とりあえず頭だけでも洗ってしまおうと泡のついた髪にシャワーをあて、ごしごしと掻き回す。泡が流れ落ち、目が開けられるようになった頃、タイミング良く浴室のドアが開いた。マイクロトフが雫を絞るように髪をかきあげながらそちらに視線をやると、一糸纏わぬカミューと目が合う。 黙っているマイクロトフに、てっきり真っ赤になって「何しに来た?!」と慌てると思っていたカミューは少々拍子抜けした。 「……どうして落ち着いているの?」 「騒いでほしいのか?」 平然と返答するマイクロトフにカミューは、お見通しだったわけか、と苦笑を漏らす。しかし、出ていけ、と言われないということは了承ということなのだろうか。そんな結論に達すると心が浮き立ってきた。 浴室のドアを閉め、軽い足取りでマイクロトフの傍に寄る。キスしようと腰を抱き寄せようと手を伸ばしかけたとき、シャワーのノズルを固定具から外したマイクロトフがシャワーの先をカミューに顔に向けた。 「うわっ、ぷっ……、っ?!」 顔にお湯を浴び慌てるカミューにマイクロトフは声を上げて笑う。 「水もしたたるいい男だぞ」 シャワーの先を変えてやればカミューは犬のようにぷるぷると頭を振った。 「酷いよ、マイクロトフ……」 拗ねたような声にマイクロトフはさらに笑って、濡れた亜麻色の髪をぐしゃぐしゃと掻き回す。 「風呂場で濡れたところで、どうってことはないだろう?」 「そりゃそうだけどさ……」 出鼻を挫かれるかたちになったカミューは子供のように唇を尖らせた。シャワー片手にずっと笑っているマイクロトフに、お返しとばかりにシャワーを奪おうと手を伸ばす。だが、それはふりであって、思惑どおりにマイクロトフがそちらに気を取られた隙をついて身体を壁際に押しつけると、おもむろに唇を重ねた。一瞬目を見開いたマイクロトフだったが、やれやれというふうに目を閉じると、突ついて催促してくる舌先を迎えるべく唇を薄く開く。 「なんか、今日は主導権握られっぱなし?」 口付けを解くと、カミューが悪戯っぽく笑った。マイクロトフもからかいの色を浮かべて目を細める。 「たまにはいいだろう」 「うーん、どう足掻いてもおまえには勝てないんだから、こういうときの主導権ぐらいは握っていたいなぁ」 「なんだ、そりゃ」 額がくっつきそうなほど間近に互いの目を覗き込んでくすくす笑う。 「で、今夜はこのままおまえがリードしてくれるのかな?」 カミューはマイクロトフを慌てさせようとわざと挑発するように言った。しかし、マイクロトフは心持ち顎を上げて目を眇めると、 「俺にまかせるなら、背中を流し合いして終わりだ」 と、おまえはそれでいいのか、という態度で応える。カミューは白旗を上げざるを得なかった。 今夜はどこまでも勝てないらしい。 「それはご遠慮願いたいなぁ……」 カミューは苦笑いを浮かべ、軽く肩をすくめる。 だが、思い通りにならない恋人を悔しく思うどころか、好敵手に出会ったときのような嬉しさを覚えるのだから重症としかいいようがない。欲しいのは従順なだけの恋人ではなくて毎日いろんな顔を覗かせては刺激を与えてくれるパートナー。新しい一面を見せられるたび彼に惹かれていく。もがけばもがくほど嵌っていく、終わりのない蟻地獄のような甘美な罠……。 「って、へっくしょい!」 「……………………」 派手なくしゃみをしたカミューにマイクロトフは無言で手に持っていたシャワーをカミューに向ける。温かいお湯を浴びたカミューが安堵ともつかないため息を吐くと、マイクロトフもやれやれ、というため息を吐いた。 「……あがるか」 「ええっ?! そんなー! せっかく侵入してきたのに!」 せっかく侵入しておいてムードをぶち壊しているのはどいつだ、とマイクロトフは思ったが、カミューがマイクロトフの手からシャワーのノズルを取ってフックに引っ掛け、甘える猫のように擦り寄ってくると拒むわけでもなく再び唇を重ねる。自然、深くなっていく口付けに没頭しているとカミューが腰を押しつけてきた。互いの中心が昂ぶりをみせはじめているのがわかる。思わず息を詰め、反射的に引こうとするマイクロトフの腰をカミューは抱き寄せ、さらに密着させると、もう片方の手をマイクロトフの身体に這わせはじめた。緩やかに身体のラインをなぞりながら触れ合わせている腰を揺らめかせて刺激を与える。マイクロトフの背中が壁から浮き、仰け反った後頭部だけが壁につく不安定な格好になると、マイクロトフの手が縋るように背後の壁に爪を立てた。がり、というわずかな音に目を開けたカミューは音の原因を悟ると口付けを解く。マイクロトフが喘ぐように大きく息をついた。 「だめ……」 カミューは吐息混じりに囁いて顎に軽く噛みつくと、マイクロトフの両手を掴む。支えをなくしたマイクロトフの身体が壁をずり落ちるように座り込むとカミューもそれに合わせて膝をついた。そして、愛撫を続ける前にシャワーを止めようとカランの方に手を伸ばすと、壁に背中を預けていたマイクロトフが目を開け、ぼそりと呟く。 「止めるな……」 「マイクロトフ?」 「止めなくていい……」 確かにシャワーは自分たちには降り注がない。だが、出しっぱなしにしておくと、几帳面なマイクロトフこそが気にすると思って止めようとしたのだが。カミューが意図がわからず怪訝そうな顔をしていると、それに気付いたマイクロトフが睨むように眉を寄せ、唸るように応えた。 「ここは……っ、音が、響く……っ」 マイクロトフの言葉にカミューは目を瞬いた。そして、数瞬後にひとつの仮定に辿り着く。 「えーと、それって、声が響くのが恥ずかしいから水音がほしいってこと?」 「う、うるさい!」 怒鳴る声は確かに浴室内では反響した。しかし、ザーザーという水音に少々かき消されるもの確かで。カミューは、にへら、と締まりのない笑みを浮かべると壁にもたれているマイクロトフに抱きついた。 「もー。可愛いなぁ、マイクは」 「うるさい、うるさい!」 カミューは、真っ赤になって引き剥がそうとするマイクロトフの耳に舌を這わせる。とたん、びくっと身体を震わすマイクロトフに気を良くしながら、耳から首筋へと流れる水を追って舌を滑らせた。鎖骨の窪みを辿り、軽く噛みつく。 「……っ…………」 マイクロトフの息を飲む気配に、カミューは、くっくっ、と咽喉を鳴らす。 「そんなことしなくても、声なんてほとんど聞かせてくれないじゃないか」 「うる、さい……っ、誰、が、そんなみっともない真似……っ」 「みっともないっておまえね……」 カミューは苦笑を浮かべると顔を上げ、マイクロトフの両肩に手を置いた。またも中途半端にされ、どこか辛そうに自分を見るマイクロトフに、カミューは真剣に語り出す。 「いいかい、マイク。これは、愛し合う、という、恋人同士にとってはとても大事な行為なんだよ? 互いにどんな姿を晒そうと、みっともないはずがないんだ。 それに、感じるものを感じるままに相手に伝える、というのは相手にとって、とても嬉しいことなんだよ? 俺がもしマイクロトフに抱かれる立場だったら、あんあん喘いでいると思うけどな」 「……そして俺はそんなおまえを見て萎えるんだな」 「ひ、酷い……」 だからおまえも心置きなく喘いでくれ、と続けようとしたカミューはマイクロトフの容赦ない突っ込みに思わず乙女座りになった。マイクロトフはそんなカミューを呆れたように見やって、口を開く。 「だいたい、おまえはそんな喘ぎまくる俺に欲情するのか?」 マイクロトフの問いにカミューはさっと目線を逸らした。数秒後、がばり、と頭を下げる。 「………………すみません、嘘つきました」 無理矢理こらえたりするから聴きたくなるのであって、実際のところ、そんなマイクロトフの姿は想像できなかった。まさか萎えるようなことはないだろうが、やる気が倍増するかは甚だ疑問である。 カミューはまたも言いくるめられたことを悔しく思いつつ、挽回するためにマイクロトフの身体に手を伸ばした。 「というわけで、シャワーは出しっぱなしにするし、声も殺していいから続きしようね♪」 「ちょっ……、ま……っ」 言いかけた唇を無理矢理塞ぎ、手は胸の突起に滑らせる。身体が冷えてきたせいか、すでに少し固くなっている先を指で押しつぶすようにして刺激を与え、硬度が増すとかたちをなぞるように指先でくすぐった。 「…………んっ……」 合わせた唇からくぐもった声が洩れると、カミューは口付けを解いて胸元に唇を寄せる。固くなった突起を唇で挟み込み、軽く歯を立てては舌で舐め上げた。もう片方の突起にも指先や手のひらで刺激を与えつつ、空いた片手を半ば勃ち上がっている中心に滑らせる。緩く握り込んでゆっくりと上下させるとマイクロトフが息を詰めつつ、うっすらと目を開けた。 「カ、ミュ……っ、おまえ、このままやる気じゃないだろうな……?」 「え? どうして?」 「……尻が……痛い……」 確かにこの固いタイルでは下になるほうの負担が大きい。 カミューは、ならばと代案を口にする。 「じゃあ、立ってやる?」 「……疲れるから嫌だ」 むっと眉を寄せたのは前にしたときのことを思い出したのか。 カミューは、いつもと違う体位に興奮したものの確かにあれは疲れた、と内心苦笑して次の案を出す。 「じゃあ、浴槽……」 「湯が入るっ」 ごもっともな言い分にカミューは、ぽり、と顎を掻いた。 「ひょっとして、俺のことすごーく怒っていて、煽るだけ煽っておいて放置プレイするのが目的?」 「そ、そんなわけがあるか! もういい! やっぱりあがってから……」 マイクロトフは顔はおろか首筋まで真っ赤にして、立ち上がろうとカミューを押しのける。カミューはマイクロトフの言いかけたセリフに満足しながら、その腕を掴んで、ぐい、と己のほうに引き寄せた。バランスを崩したマイクロトフはカミューの膝の上に向かい合って座る格好となる。間近に迫った端正な顔にぎょっとして身を引こうとするマイクロトフに、 「じゃあこのままで」 と、カミューは頭を引き寄せて軽く唇を触れ合わせた。マイクロトフは恥ずかしい体勢に抗議の声を上げようとしたが、自分の腿あたりにあたるカミューの中心の状態に気付き、これ以上焦らすのは(焦らすつもりはなかったのだが)さすがにかわいそうか、と、あきらめ半分、身体の力を抜く。 「腰を痛めても知らんぞ」 照れ臭さを隠すようにぶっきらぼうに言うと、カミューはやっとお許しが出たか、と嬉しそうに笑った。 「マイクロトフの下で死ねるなら本望」 「……俺はごめんだ」 マイクロトフは憮然と応えると、くすくす笑っているカミューの首に腕を回して唇を重ねる。 はじめるまでにはなんだかんだと揉めたりする2人だが、はじまってしまえば互いに手慣れたもので、刺激を与える側、与えられる側、と、役目を交代しながら互いを高め合うまでにそう時間はかからなかった。 マイクロトフの秘所に埋めていた指をゆっくりと引き抜いたカミューは荒い息をつきながらお伺いを立てるように目の前にあるマイクロトフの咽喉をざらりと舐め上げた。その獣じみたしぐさにマイクロトフは背中を仰け反らせて大きく息をつくと、了承の意を伝えるように亜麻色の髪に手を差し入れ軽く引っ張る。カミューにまたがる格好となっているマイクロトフはほとんど力が抜けている足をなんとか踏ん張り、わずかに腰を浮かせると、カミューが心得たように身体をずらしてマイクロトフの秘所に自分の中心をあてがってくる。反射的に息を飲むマイクロトフの背中を宥めるように優しく撫で、両手で腰を支えるとゆっくりと下ろし、自身を埋めていった。 「く……っ」 背中に腕を回し、しがみつくように力を込めてくるマイクロトフに、カミューは申し訳なく思いながら耳元でそっと囁く。 「もう少しだから……。ごめんね」 「あやまる、な……っ」 どうしても慣れない、受け入れる瞬間。だが、そのあとはどうすればいいのか身体が知っている。マイクロトフは食いしばっていた歯を緩め、身体から力を抜くために大きく呼吸を繰り返した。マイクロトフの身体から力が抜けはじめるとカミューは少しずつ身体を進めていく。程なくすべて収まるとどちらともなく熱い吐息が漏れた。 カミューがマイクロトフを見上げてちょっと笑う。 「なんだ?」 マイクロトフが居心地が悪そうに眉を寄せた。 「風呂場ってさ、いろいろと不便もあるけど楽でいいよね。 マイクロトフの身体は温まっているおかげで柔らかいから準備が早く終わるし、中に出してもすぐ流せるし……って、いたたっ」 「は、破廉恥なことを言うな!」 マイクロトフは真っ赤になってカミューの両頬を思いきり引っ張った。容赦ない力にカミューが涙目になって繰り返し許しを請うとようやく解放される。カミューは両頬を押さえて拗ねたような視線をマイクロトフに向けた。 「下ぶくれになったらどうするんだよー」 「自業自得だろう!」 「そんな可愛くないことを言うなら……こうだ!」 カミューは悪戯っぽい笑みを浮かべたかと思うとマイクロトフの腰を両手で抱え、下から大きく突き上げた。 「うっ、くっ……!」 マイクロトフは不意打ちの刺激に必死に声を噛み殺し、してやられたことを悔しく思いながらなんとか衝動をやり過ごそうと顔を歪めて耐える。が、見ればカミューもなぜか苦しそうな顔をしていた。 「マ、マイクロトフ……」 「カミュー?」 「あの……動いてくれる?」 尻が痛い、と訴えるカミューにマイクロトフは半目になる。まあ、2人分の体重がかかっているのだから無理もないのだが。 「俺の下で死ねるなら本望だ、とか言ってなかったか?」 「マイクロトフがどうしても嫌だ、というなら死ぬ気で頑張らせていただくけど……」 ダメかな、と、上目遣いにお伺いを立ててくるカミューにマイクロトフは、ふう、とため息をついた。 「目を閉じてろ」 「え?」 「目を開けたらやめるからな!」 そう言ったマイクロトフの顔は見事なまでに真っ赤で、カミューはマイクロトフが了承してくれたことを知る。思わず、にへら、と締まりのない笑みを浮かべると、「早くしろ!」と叱咤の声が飛び、慌てて目を閉じた。カミューが目を閉じたのを確認するとマイクロトフは覚悟を決めたように自分も目を閉じ、緩やかに動きはじめる。 どこか遠慮したような浅い動きに、カミューは、確かに快感は感じるものの、もう少し、というじれったさも覚える。薄目を開けてみればマイクロトフはきつく目を閉じたまま、わずかに開いた口から浅い呼吸を繰り返し、身体を上下させていた。その表情は恥ずかしいのを耐えているようにも見えるが、物足りなさを堪えているようにも見える。 カミューは、それならば、と、軽く自分から突き上げてやった。すると、マイクロトフは一瞬動きを止め、目を開ける。挑発するような笑みを浮かべて待っていたカミューが、 「全然足りないよ」 と、からかうように言った。マイクロトフは、ぐっと息を飲むと悔しそうに歯噛みし、カミューの目を片手で覆って再び動き出す。それは先程とは比べ物にならないくらい大胆になっていた。 カミューは思惑どおり挑発に乗ってきたマイクロトフに気を良くし、目を覆った手を取ると指に舌を這わせる。びく、と中が締めつけてくる感覚に眩暈をおこしそうなほどの快楽が襲ってきた。カミューは余裕がなくなってきたのを隠すように口を開く。 「ああん、気持ちいい〜」 「気色悪い声を出すな!!」 「じゃあ塞いで?」 冗談半分おねだりすると噛みつくように唇が振ってきた。少々歯をぶつけながらもそれを受け止め、夢中で舌を絡め合う。舌の熱さで互いの限界が近いのがわかった。カミューはマイクロトフの中心に手を伸ばすと扱いてさらに欲を煽り、マイクロトフはそれに応えるように動きを早くしていく。気付けばカミューの腰もさらなる快楽を得ようと動いていた。 「ふっ……ぁ……っ……」 「マイク……マイクロトフ……っ……」 「……んっ……カ、ミュー……っ……」 互いの背中に回した腕に痛いほどの力がこもると同時にマイクロトフが達した。一瞬後にカミューが精を吐き出す。 きつく抱きしめ合い、互いの肩に顔を伏せて荒い呼吸を繰り返した。やがて少し落ち着くと、マイクロトフがわずかに身じろぎしてカミューのモノを体内から抜き出そうとする。 「待った」 「カミュー?」 「俺の質問に答えないとこのまま続行」 カミューが冗談ともつかない口調で言うとマイクロトフは怪訝そうに眉をひそめた。 「なんだ?」 「どうして同居は嫌なの?」 カミューの問いにマイクロトフは一瞬黙ったが、軽い口調とは裏腹にカミューの目に真剣な光が宿っているのを見ると、少し不本意そうに眉をひそめて答える。 「…………誰も嫌だとは言っていない」 「え? だって、いつも『そんなけじめのない真似はできない』って言うじゃないか!」 意外な返答にカミューがムキになって反論すると、マイクロトフはわずかにうつむいた。 「おまえは……」 「え?」 「おまえはあんな軽いノリで言われて、はいそうですか、と同居をはじめたところでうまくいくと思っているのか?」 そう言って顔を上げたマイクロトフの表情は驚くほど固く、カミューは思わず息を飲む。 「同居は楽しいことばかりではない。お互い知らなかった面を見ることになるだろうし、それがきっかけで関係が壊れることもあるかもしれない」 「……………………」 「そんな覚悟をしていないおまえと軽々しく同居なんて真似をして、こんなはずじゃなかった、なんて言われて関係が終わったりするのは俺は嫌だ……」 「マイクロトフ……」 カミューは初めてマイクロトフの心境を知った。彼は自分以上に真剣に2人の関係を考えていたのだ。いや、自分とて真剣に彼を愛しているのだが、本気で同居を口にして拒まれるのが怖い、という不安も拭えずにいた。だからいつもわざと軽いノリで口にしていたのだが、それを彼は不安に思っていたとは。 互いに踏み込まなかったのがすれ違いの原因か……。 自分が、どうして同居したくないのか、と聞けばもっと早く話を聞けたかもしれない。 彼が、どうしてそんな軽い口調で言うのか、と聞けばもっと早く心情を吐露できたかもしれない。 だが、互いにその一線が踏み込めなかったのだ。 自分は彼の言う「けじめ」という単語に意味もなく壁を感じていた。 彼は普段から茶化す発言ばかりしている自分に真剣に話をするのは、自分だけが本気にしているのでは、という不安があったのかもしれない。 カミューは自嘲するように苦く笑った。その笑みをどう捉えたのかマイクロトフの顔がわずかに強張る。カミューは安心させるように彼の頬にそっと触れた。 「ごめん、マイクロトフ。俺は自分のことばかりを考えていたんだね」 「……カミュー」 「おまえはこんなにも俺たちのことを考えていてくれたというのに」 「……いや、俺も自分の理屈ばかり並べて頑なだった」 緩く頭を振って真っ直ぐ己の目を捉えてくる漆黒の瞳を、カミューは心底愛しいと思った。 「俺も真剣になるよ。だから……」 頬に滑らせていた手を首の後ろに回し、ゆっくりと引き寄せる。唇が触れる瞬間、そっと囁いた。 2人で、歩んでいこう……。 一週間後。 「バカか、おまえは!!」 「えー?! どうして?! 俺はこんなに真剣なのに!!」 至近距離で睨み合う2人。カミューの手には小さな箱が握られていた。マイクロトフは顔を真っ赤にしてわなわなと震えている。それは怒りのせいでもあり、羞恥のせいでもあった。 「し、真剣って、こんなものを買ってくるバカがどこにいる?!」 「こんなもの、とはなんだよ! 普通、プロポーズには用意するものだろう!」 小さな箱には。シンプルだが洒落た指輪が入っていた。……男物サイズの。 マイクロトフは貴金属類には詳しくないが、この男が安物を買うはずがない。しかも『プロポーズ』なんて単語を口にする、ということはひょっとしたらご丁寧に給料3ヶ月分なのかもしれない。 マイクロトフは自分の想像に、ざあっと血の気が引くのを感じた。 「とっとと返してこい!!」 「えー?! だってマイクロトフに同居を申し込むために買ったのに!!」 「わかったから早く行って来い!!」 ……こうして、けじめにこだわっていたはずの同居はこんなかたちで始まった。 しかし、この先、別々に住むことはなかったのだから、形式などどうでもよかったのかもしれない……。 おわり |