|
触れていた唇が離れると、2人はゆっくりと目を開けた。 「89回♪」 カミューの嬉しそうな声にマイクロトフはぷい、と横を向く。その顔は熟れたトマトのように赤かった。 「なんとか達成できそうだねぇ」 カミューはからかうように笑うと、手にしていた紙にさっと線を引く。その紙には何やら記号のようなものがぎっしりと並んでいた。 「う、るさい! さっさと仕事に戻れ!!」 マイクロトフが顔を背けたまま怒鳴るとカミューは軽く肩をすくめ、反対側に回ってマイクロトフの顔を覗き込む。 「どうせならもう1回稼いでおかない?」 吐息が触れそうなほど間近に囁くと、マイクロトフは、ぎっとカミューを睨みつけたが悔しそうに歯噛みすると、亜麻色の髪を千切る勢いで引っ張り、少々乱暴に唇を重ねた……。 カミューは廊下を歩きながらくすくす笑っていた。唇の端が少々痛いのはさっきの乱暴なキスで歯があたったときに傷ついたのであろうか。だが、そんなことは気にもしないほど機嫌が良かった。 「あと10回か……」 正直、こんな展開になるとは思わなかった。売り言葉に買い言葉とはいえ、マイクロトフはさぞ後悔していることだろう。自分は心底楽しいが。 「ま。男らしく自分の発言には責任を持ってもらわないとね」 こんなに1日を過ごすのが楽しい日があっただろうか。 カミューはスキップしそうな勢いで自分の執務室へと戻っていった。 「やっぱり増えてる……」 カミューの執務室から出てきた赤騎士がぼそっと呟いた。彼は赤騎士団の事務を統括する部署の人間だった。当然、赤騎士団長の執務室に出入りする機会も多い。今日もすでに何度か足を運んでいたが、カミューの机の上にあるものが気になってしょうがなかった。 それは1週間ほど前から見かけるようになった、1枚の書類、というかメモのようなもの。 その紙には横に4本、その上から斜めに1本線が引かれた記号のようなものが所狭しと並んでいた。これは数を数えるときに使う書き方で、完成すると5個、というふうになる。その数を数える記号が見るたびに増えているのだ。団長が1週間も何を数えているのか気になる。何か重大なものを数えているのではないか。 顎に手をあて、うーん、と唸っていると、そこに赤騎士団副団長・レイブリックが通りかかった。 「どうしました? 何か問題でも?」 「あ。これは副団長。いえ、ちょっと気になることが……」 「気になること?」 人の好い笑みを浮かべ首を傾げるレイブリックに、赤騎士は目にしたものを話した。そして、こう続ける。 「どうも、マイクロトフ様の執務室に行くたびに増えているような……」 「……………………」 赤騎士がしきりに首を捻っているのを傍で見ながら、レイブリックは内心ため息をつく。 そのメモには自分も気付いていたし、この赤騎士は気付いていないようだが、1週間前から何やら浮き足立ってもいた。そして、それに比例するかのようにマイクロトフの様子がおかしくなっているらしい。青騎士副団長から「また、あの男のせいだろう!」と苦情を受けていた。……もちろん反論などできるはずもなく。まあ、あの人のことだから、何が行なわれているかの見当はだいたいつくが、それに巻き込まれているマイクロトフにも同情を禁じえない。 レイブリックはかすかに眉を寄せたが、それを赤騎士に見つかる前ににっこりと笑みを浮かべると口を開いた。 「あの人のことですから、きっとくだらないことですよ」 「え?」 「考えるだけ時間の無駄ってやつですよ。放っておきましょう」 「は、はあ……」 赤騎士団のトップを「あの人」呼ばわりし、こき下ろすような言い方ができるのは赤騎士団広し、と言えどもこの人ぐらいである。赤騎士は釈然としなかったが、副団長の必殺笑顔の威力に逆らえるはずもなく、引き下がることしかできなかった。 その背中を見送ったレイブリックは大きくため息を漏らす。 「まったくあの人は……」 カミューが去った青騎士団長の執務室では。マイクロトフが頭を抱えて机に伸びていた。その顔は先程の行為のせいで真っ赤である。 「くそぉ……。カミューのやつめ」 賭けなんかするんじゃなかった、と思っても今更であった。1週間という期限は今日で終わりなのだから。 くだらない賭けだった。 普段なら気にも止めないようなことに互いの意見が分かれ、どちらも相手の言い分に納得がいかなくて言い合いがはじまった。そのうち論争はエスカレートし、気付いたら、負けたほうがなんでもいうことをきく、という賭けになっていたのだ。そして、結果はマイクロトフの負け。勝者であるカミューに罰ゲームを言い渡された。 『1週間以内に100回キスする』 はじめは3日、という期限だった。そんなことができるわけないだろう! と却下すると、カミューは「俺なら1日で充分だけど」と恐ろしいことをさらりと口にしつつも、期限を1週間に延ばしたのだ。 毎日毎日、火の吹くような思いをしつつ、ようやく最終日を迎えた。あと10回のキスで解放されるのだ。こちらからキスするのが目的なため、期間中、カミューからはあまり仕掛けてこなかったが、たまに「お返し」などというわけのわからない理由でキスされたこともあった。だが、カミューからのキスはカウントされないため、実際はとうに100回は越えているはずである。 それでも。なんとなく、キスの回数が減ったような気がした。日に10回以上はしているのに、だ。 「そんなに……していたのか……」 自覚がなかっただけに恥ずかしさも倍増だった。カミューのことを色ボケだのなんだのと罵ってきたが、いつのまにか慣れてしまっていた自分もそんなに変わらないのではないだろうか。 コンコン、というノックの音にマイクロトフはハッと我に返る。いかんいかん、執務中だった、と首を勢いよく振って邪念を吹き飛ばすと、新たな書類を持ってきたのであろう部下を招き入れた。 入ってきたのは、青騎士団副団長のアドヴァンだった。アドヴァンはマイクロトフのわずかに赤みが残る顔を一瞥したとたんわずかにしかめ面になったが、普段から仏頂面なため、傍目からはあまりわからない。マイクロトフもそれには気付かず、というより自分の頭から不謹慎なことを追い出すのに必死でそれどころではなく、少々動揺したままアドヴァンと向き合った。 アドヴァンは書類を渡し、2、3言葉を交わすと一礼して執務室を出る。バタン、とドアを閉め廊下に出ると、 「あいつめ……!」 低く唸るような声でこの場にいない男を罵った。 マイクロトフはソファに身を沈めたカミューの身体の脇に片膝を乗せ、覆い被さるようにして口付けていた。 執務が終わり夕食を済ませたあと、今夜もマイクロトフがカミューの部屋を訪ねている。罰ゲームがはじまると、誘うのはそっちのほうだろうと言わんばかりに、カミューから部屋を訪ねてくることがなくなった。夜も、いや、夜こそ回数を重ねないとノルマをクリアできないことはさすがにマイクロトフでも悟りざるを得なく、マイクロトフはここ1週間、カミューの部屋に通っていた。 キスが解けるとマイクロトフは覆い被さった体勢のまま後ろに手を伸ばし、テーブルの上のグラスを手に取ると、中味をぐいっと呷る。そのヤケになったような飲みっぷりにカミューが苦笑した。 「アルコールで口の中、消毒してるの? それとも酒の勢いがないと、キスもできないのかな?」 「うるさいっ」 アルコールのせいか恥ずかしいのか……おそらく両方だろうが、顔を赤くしたマイクロトフはグラスを少々乱暴に置くと、もう一度口付けてくる。カミューはそれを甘受しながら、手元のメモにさっと線を引いた。それは1週間前から持ち歩いている、マイクロトフからのキスを数えている紙。すでに5つ数える記号は19個完成し、カミューがいましがた引いた線は3本目で、このキスが98回目だということを表していた。 触れ合わせるだけですぐ離れようとする唇を、カミューは頭を引き寄せて阻止し、一際きつく吸ってから解放する。 「98回目だね」 からかうように笑うとマイクロトフは無言で睨みつけた。本当は目の前でにやついている男を一発殴ってこの場を去りたいくらいなのだが、まだ罰ゲームは終わっていない。そして、時間も……。 「でも、もうすぐ時間切れだよ?」 カミューが指差す時計は日付が変わる7分前を指している。だが、マイクロトフにしてみればたいした問題ではなかった。 「あと2回で終わる」 あまりにも素っ気ない返答にカミューはくすくす笑う。こんなに色気ある罰ゲームをしているというのに、どうしてこの男は訓練でもこなすかのように堅いのだろう。 カミューはおかしく思いながらマイクロトフの黒髪に指を差し入れ、わずかに首を傾げた。 「さっきの約束、覚えているよね?」 もし罰ゲームが達成できなかったら。今夜はカミューのいいなりになるという約束。 マイクロトフは苦々しい面持ちで頷いた。またも売り言葉に買い言葉でそんな条件を受けてしまった、というかすかな後悔と、あと2回で終わるのに何を言っているのだろう、という疑念が脳裏を占める。 そんなマイクロトフの心理など簡単にお見通しなのか、カミューはマイクロトフを見上げながら、にやにやと多少品のない笑みを浮かべた。 「楽しみだなぁ。どんなことをしてもらおうか」 その嬉々とした様子にマイクロトフの背筋がぞわっと総毛立った。 「……何をさせる気だ?」 「え? 言っていいの? 大胆だなぁ、マイクは。まず……ふがっ」 なにやら言いかける口をマイクロトフは慌てて塞ぐ。きっと耳を塞ぎたくなるようなことを言って自分をからかおうと企んでいることは容易に予想がついた。 「おまえはっ、何を考えている!!」 怒鳴ったマイクロトフは、突然、ハッとしたように動きを止めた。そして、勢いよく時計のほうを振り返る。 「わかったぞ! こうやって話に夢中にさせて時間稼ぎをしようとしたのだな!」 時計はタイムリミットの5分前を指していた。カミューは軽く肩をすくめて両手をわずかにあげる。そのしぐさを、ばれたか、というふうに解釈したマイクロトフは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。 「残念だったな。今日はおまえの思い通りにはならんぞ」 得意げに言ってマイクロトフは99回目のキスをするべく顔を近づける。カミューも観念したのかおとなしく琥珀色の瞳を閉じた……。 「ブー。タイムリミットだ」 カミューの心底嬉しそうな声に、マイクロトフの頭の中は罵詈雑言が飛び交ったが、身体はとにかく酸素を求めていた。口が開いていても言葉は出てこず、ぜいぜい、と荒い呼吸を繰り返すのがやっとである。その唇はわずかに赤く腫れ、濡れていた。身体からは完全に力が抜け、カミューに覆い被さる体勢だったのが、自分の身体を支えきれずカミューに体重を預ける格好となっている。わずかに涙が滲んだ目で時計を見れば確かに日付が変わっていた。 「残念だったねー。あと1回だったのに」 一方のカミューは特に息を乱した様子もなく、いそいそと戦利品をいただくべく、マイクロトフの服に手をかけはじめていた。マイクロトフは抵抗しようとするが、力が抜けた身体では身じろぎするのがせいぜいである。あまりの悔しさにマイクロトフは荒い息の合間から唸るように声を振り絞った。 「お、まえっ……、この、卑怯も、の……っ……」 「えー? 何がー?」 マイクロトフの抗議をさらっと受け流して、カミューは露わになった肌をぺろりと舐める。突っぱねようとしていたマイクロトフの腕が、思わずすがるようにカミューの肩を掴んだ。身体が随分敏感になっているのがわかる。 「おやおや。積極的だね」 自分から抱きついてくるなんて。 からかうように笑うカミューにマイクロトフは、ぎっと歯噛みした。 カミューにまんまとしてやられたことが悔しくて仕方ない。さっさと2回のキスを済ませ、くだらない罰ゲームを終わらせてしまおうと思っていたのに、カミューがそれを許さなかった。離れようとした頭を抱え込み、舌を深く挿し入れ、ろくに息をつく間も与えない濃厚で激しいキスを5分間受け続けるはめとなったのである。そのせいで、身体も頭も全く動かず、理性は崩れる寸前だった。 そんな状態をカミューがわからないはずもなく、ひっそりと笑みを零すとマイクロトフを抱き込んで体勢を入れ替えた。ぎょっとした顔をしているのを間近で覗き込んで悪戯っぽく目を細める。 「じゃあ、罰ゲームが達成できなかったということで。改めて罰ゲームだね」 低く囁いて唇を寄せると、真っ赤になって睨みつけていたマイクロトフが、唇が触れる寸前に、ぐい、と、カミューの頭を引き寄せた。 「え……」 マイクロトフの思わぬ行動に何か言いかけた唇が塞がれる。 「……………………」 カミューがあっけにとられているうちに口付けは終わってしまった。唇が離れると、 「……100回目のキスだ。時間切れだろうと最後までやり遂げないと……」 気が済まない、だの、気持ち悪い、だのと、もごもごと口の中で言い訳めいたことを呟きながら、マイクロトフは顔を背けた。これ以上はない、というほど真っ赤に染まっている頬を茫然と見ていたカミューはようやく我に返ると、嬉しそうな笑みを浮かべてマイクロトフの顔を自分のほうに引き戻す。 「じゃあ、俺からの罰ゲーム。今夜中に100回キスをさせて」 「な……っ」 開きかけた唇をカミューはそのまま塞いだ。そして、啄ばむように角度を変えて何度も口付ける。 「ほら。これで7回。楽勝でしょ?」 どこか得意げに言うカミューにマイクロトフは力なく睨みつけた。それは恥ずかしいことを臆面もなく言ってのけるカミューへの呆れはもちろん、さっきのキスで身体の奥が疼いている感覚をどうにか我慢しているのに、という苛つきが少々含まれている。カミューはそれを正確に読み取ると、確かに自分も限界かな、と、内心苦笑を漏らし、頬に軽くキスをした。そして、そのまま首筋、鎖骨へと唇を下ろしていく。身体が震えるのが拒否ではないことは明らかで、カミューは欲に濡れた笑みを浮かべ、さらに下を目指そうと身体をわずかにずらした。胸の突起を含もうとして、ふと顔を上げる。 「あ。唇以外のキスはカウントしないからね」 「……勝手に……、しろっ……」 吐息が肌を撫でる感触ですら官能を呼び起こす材料となりそうで、マイクロトフは必死に唇を噛んで応えた。カミューは、噛んじゃだめ、と指を唇に侵入させて、熱い口内を辿りながら胸の突起に舌を這わせる。はずみで歯を立てられたが、それを詫びるかのように絡んでくる舌に気を良くして、カミューは本格的に愛撫に没頭した。 「はい。30回目」 ちゅ、と軽く音を立てて唇を離したカミューは、マイクロトフが憮然とした顔をしているのに、あれ、と思う。 「……31回目だ」 ぼそり、と呟かれたセリフにカミューは目を見開く。まさかマイクロトフが数えているとは思わなかった。 「そんなはずないよ。ちゃんと数えていたんだから」 「おまえは数もまともに数えられないのか?」 「マイクってば、そんなこと言って。俺に少なくキスさせようとしているんでしょ?」 「そんなわけあるか」 口論ともつかない言い合いをしても、すぐ互いの身体が限界を訴えてきて中断される。そして、結局は半分を数える頃には互いにカウントを続けられる状態ではなくなっていったのだった……。 「ばっ、馬鹿か、おまえは!!」 ばこっと鈍い音がカミューの頭から響いた。カミューは殴られたところを抑え、涙目になって見上げる。 「だってー……」 「だって、じゃない! どっ、どうしてくれるんだ?! このざまで人前に出ろというのか?!」 怒鳴るマイクロトフの唇は紅を引いたかのように赤かった。そして、いじけるように尖らせているカミューの唇も。 いつものように朝練に行くために起きたマイクロトフは浴室の鏡を見て気付き、この騒ぎとなった。原因は言うまでもなく夕べの罰ゲームのせいだ。途中で数えるのを放棄したため、実際は何回だったのかはわからないが、カミューがキスに執着していたのは覚えている。 「だって、マイクだってダメだって言わなかったじゃん……」 「そっ、そういう問題か?! おまえが何度も蛸みたいにしつこく吸い付いてくるから……!」 言ってて照れたのか顔を真っ赤にするマイクロトフに、カミューは芝居がかった調子でマイクロトフの顎を捉えた。 「おまえの唇はどんな果実よりも甘く、俺を虜にする……」 「どあほう!!」 マイクロトフはカミューの腹を蹴り上げる。うぐ、と呻いてベッドに倒れ伏すカミューの胸倉をマイクロトフは首を締めんばかりの勢いで掴みかかった。 「とにかく、これをどうするのかその中味のなさそうな頭で考えろ!!」 唾がかかるのではないか、というほど間近で怒鳴るマイクロトフをじーっと見ていたカミューは、ふっと視線を緩めるとムードたっぷりに囁く。 「赤い唇がさくらんぼみたいにおいしそうだよ」 次の瞬間。カミューはベッドの下に叩き落された。 赤騎士団・副団長のレイブリックは団長の執務室前で首を捻っている赤騎士を見つけた。昨日、団長が何かを数えているようだ、と気にしていた彼である。 「どうかしましたか?」 声をかけると赤騎士は弾かれたように顔を上げた。 「あ、副団長。おはようございます。あの……団長なんですが……、どうかされたんでしょうか?」 「え?」 「朝からマスクをされていらっしゃったので、こんな時期に風邪ですか? とお聞きしたんですが、曖昧な応えが返ってくるだけで……」 「……………………」 「何やら上機嫌なんですよね」 と、赤騎士は腑に落ちない様子で腕組みをしている。レイブリックは眉間に皺が寄りそうになるのをぐっとこらえ、どう言ったものかと考えていると、 「あ、マイクロトフ様だ」 赤騎士がレイブリックの背後を見て声を上げた。レイブリックが振り返ると、青騎士団の団長と副団長が向こうからやってくるのが見えた。その姿を見て、ああ、やっぱり……と、がっくり肩を落としたい気持ちに駆られる。そんなレイブリックの様子になど気付かない赤騎士は、 「おはようございます、マイクロトフ様!」 と、元気よく声をかけた。マイクロトフもわずかに目を細め挨拶を返そうとする。 「ああ、おは……」 「マイクロトフ様もお風邪ですか?」 赤騎士は無邪気にマイクロトフの顔の下半分を覆っているマスクを指差した。とたん、びきっと周りの空気が凍る。マイクロトフは見るからに動揺し、その後ろでは青騎士副団長のアドヴァンが射殺さんばかりの視線をレイブリックに投げかけてきた。レイブリックは、他の人間が見たら逃げ出すのでは、というほど睨みつけてくる青騎士副団長の視線に軽く首をすくめる。 「い、いや、これは……」 「うちの団長もマスクしてるんですよ。お2人が倒れられては大変なことになりますので、無理なさらないでくださいね」 赤騎士団長に対する観察力はあれだけ優れているのに、この場の雰囲気はさっぱり読めてない様子で赤騎士はにこにこと笑う。レイブリックは慌てて赤騎士に1枚の書類を差し出し、アドヴァンは動揺のあまりか言葉が出てこないマイクロトフの背中を促すように押した。 「すみませんが、これを至急、第2部隊長に渡していただけますか?」 「団長、早く行ったほうがいい……」 赤騎士は「はい!」と元気良く返事をし、廊下を駆けていく。マイクロトフもわずかに頷くと、ぎくしゃくとした様子で歩き始めた。 そして、この場には赤青両騎士団のナンバー2だけが残される。 「…………何か言うことは?」 「……大変申し訳ありません」 おわり |