〜果て無き挑戦・結〜




「……いいの?」
「いいと言ってるだろう! さっさとやれ!」
 こんな状況だというのに色気ない……と、カミューはがっくりと肩を落とした。
 こんな状況、というのはベッドに折り重なって倒れている状態である。夜、またも獲物が罠に飛び込んできた。今夜は早寝するんじゃ……とカミューは思ったが、そんな疑念よりマイクロトフが来てくれた、ということのほうが嬉しいに決まっていて、部屋に招き入れた。そうしてまた2人で酒を酌み交わしていたのだが、なにか景気付けでもするかのように勢い良く飲み続けていたマイクロトフが酔いが回った頃、カミューをベッドに誘っ……引き摺っていったのである。

 明日、怒られるんだろうなぁ……。

 カミューはそう思いつつも目の前の誘惑に勝てるはずがなく、据え膳をご馳走になることにした。


 カミューの唇が首筋を辿り、胸元に降りてくる。マイクロトフは胸への刺激に身構えたが、忘れてた、と言わんばかりに唇は急に鎖骨へと戻り、きつく吸いついた。
「っ!」
 そういう予想外の行動は反則だ! と思いながらなんとかこらえる。昨日の失敗を繰り返さないためにも冷静さを失うわけにはいかないのだ。
 舌がちろちろと鎖骨の窪みをなぞり、軽く噛みつく。びり、と電流に似た何かが身体を駆け抜け、思わず腰が浮いた。その反応に気を良くしたのか、カミューはようやく胸へと唇を滑らせる。突起を口に含み、舌で形をなぞるように舐めれば硬度が増してくる。それをかり、と軽く噛めばびくっと身体がすくんだ。あいてるほうの突起も指で捏ね、押しつぶす。たまらずマイクロトフの腰が揺らめくのをなんとも扇情的だと思いながら、愛撫に没頭した。
「ゃっ……、か、みゅ……っ……」
 喘ぎそうになるのを無理矢理押し殺して出した声は甘えるように舌足らずで、カミューは目を細める。そして、さらに下を目指そうと身体をわずかにずらした。
 その瞬間、マイクロトフがハッと我に返る。カミューの次の行動はだいたいわかっている。下半身のほうに進まれてはひっくり返すことができなくなるではないか。
 マイクロトフは冷静な判断を下した自分に満足し、今日こそはいける、と確信した。ひとりで力強く頷くと下へと移動しようとしていたカミューの頭と背中に腕を回す。
「マイクロトフ……?」
「うりゃあ!」
 気合いとともにカミューもろとも身体を引っくり返す。
「がふっ」
「どうだ、カミュー!」
「ま、まいった……」
 マイクロトフが聞いた「どうだ」は、驚いたか、という意味であったが、カミューにそれがわかるはずもない。マイクロトフの体重をもろに腹に受けることになったカミューは息も絶え絶え白旗を上げる。
「まいるのはまだ早いぞ!」
 マイクロトフはさっそく次の行動に出ようとして……ハタ、と動きが止まった。

 ここから……どうするんだ……?

 夢とは都合のいいもので、細かいところはまったく省かれていた。さすがにマイクロトフも騎乗位というのがこれで終わりではないことはわかっている。
 馬乗りになったまま動かなくなったマイクロトフをカミューは不思議そうに見つめていたが、ようやく驚きから立ち直ると、にやっと人の悪い笑みを浮かべた。
「なに? 今日はマイクが自分で挿れてくれるの?」
「なっ……!」
「この体勢は……そういうことなんでしょ?」
 と、カミューは手を伸ばし、マイクロトフの双丘の合間に指を滑らせる。びくっと身体を強張らせたマイクロトフが顔を真っ赤にさせながら首を振った。
「むっ、無理だ! できるわけがない……!」
 カミューは吹き出しそうになるのを堪えながら口を開く。
「じゃあ、どうして俺に乗っかったりしたの?」
「そ、それは……」
 口篭もるマイクロトフにカミューはだいたいマイクロトフの意図がわかってきた。なんとも可愛いことを考える恋人だ、と頬が緩むのを止められない。
「俺が手伝ってあげるから。そこの引出しを開けて」
 そこ、と指差されたのはベッドの脇にあるサイドボードの引き出しだった。マイクロトフは動揺していたせいか、おとなしく指示に従う。カミューの顔の脇に手をついて引き出しに手を伸ばした。カミューは目の前にきたマイクロトフの肌につい悪戯心を刺激されて、舌を伸ばす。
「ひゃっ……!」
 突然、へその窪みを舐められてマイクロトフはすっとんきょうな声を上げると同時に体重を支えていた片手から力が抜けた。べしゃっとカミューの上に撃沈する。
「いったた……。重いよ、マイク」
「おっ、おまえが悪いんだろうが!!」
 マイクロトフは真っ赤になりながらカミューを睨みつけると、カミューは、もうしません、という意思表示に両手を軽く上げてみせた。マイクロトフは渋々もう一度手を伸ばし、引き出しを開ける。
「小瓶があるでしょ? それ取って」
 言われるがまま小瓶を手にすると瓶の中の液体が揺れた。その液体に嫌というほど見覚えがあるような気がして、マイクロトフは目の前に持ってきてしげしげと見つめる。カミューはそんなマイクロトフに笑いを誘われながら、やんわりと瓶を奪い取った。
「カミュー……」
「別に今更めずらしいものでもないでしょ」
 カミューは軽く応じながら蓋を開け、中の液体を手のひらに零す。そのしぐさにマイクロトフの疑問は確信に変わった。いつも、いつのまにかカミューが用意する、己の奥を解きほぐすのに使われる液体。
「ちょっと腰を上げて……」
 声とともにカミューの指が双丘を割り、奥まった箇所に触れた。ぴく、と思わず腰を引くとすかさず指が侵入してくる。指は油の滑りを借りて簡単に挿入され、中を探るようにぐるり、と動いてから解きほぐす動きに変わった。
「っ……く……っ……」
 マイクロトフは息を詰めるとカミューの肩のあたりに顔を伏せる。下になっているカミューに全体重がかからないようにと両肘をついて身体を支えているのだが、その腕が震えているのがなんともカミューの興奮を誘った。顔を横に向け、目の前にある耳に熱い吐息を吹き込む。
「ね、マイクの中、熱いよ? いつもより感じてる……?」
「うっ、るさい、バカ……ぁ……っ……」
 精一杯の憎まれ口を叩くマイクロトフにカミューは目を細め、指で弱いところを引っ掻くように掠めた。とたん、背中が弓なりに反り返る。カミューはもう片方の手でマイクロトフの花芯を捕らえるとそちらにも愛撫を施しはじめた。
「やめっ、……ぅ、……っ」
 前後からの刺激に、ヘンになる、と声には出さずに訴えるマイクロトフに、カミューは艶然と微笑んだ。それは慈悲とは程遠い笑み。
「ヘンになっちゃえば?」
 意地悪く耳元で囁く。既に自分は理性が吹き飛ぶ寸前なのだから。これでおあいこだろう、とカミューは愉しげに笑う。後ろの指を増やしながら花芯を育て上げ、身体を少し起こしては胸の突起に啄ばむようなキスを繰り返した。
「か、かみゅ……ぅっ……!」
 ぐい、と髪の毛を掴まれ、顔を上げるとマイクロトフの漆黒の瞳が限界が近いことを訴えていた。苦しそうに息を吐き出し、瞳には生理的な涙が滲んでいる。
「マイク……」
 両手が塞がっているため頭を引き寄せることができないカミューが名を呼ぶと、マイクロトフは引き寄せられるように唇を重ねてきた。カミューは口付けを堪能しながら後ろから指を引き抜くと両手でマイクロトフの腰を掴む。びく、と身体を震わせ、思わず口付けを解くマイクロトフにカミューは安心させるように微笑んだ。
「身体、起こして」
 愛撫を受けている間、身体を支えきれなくてカミューに覆い被さる格好となっていたマイクロトフを促すと、マイクロトフはしばし逡巡したが、ためらいつつも身体を起こす。カミューは腰を支え、マイクロトフの秘所を己の中心にあてがった。
「腰、落として?」
 カミューのセリフにマイクロトフは目を剥いてぶるぶると首を振った。カミューは困ったように笑む。
「ゆっくりでいいから。身体の力を抜いて……」
「む、無理、だ……」
「それじゃあ、なんのために俺の上に乗っかったの?」
 マイクロトフが、うっと言葉に詰まってしまうとカミューは腰を掴んでいる手に力を込め、少しずつ引き落とそうとする。足と手を踏ん張り抵抗していたマイクロトフは、やがてあきらめたのか、覚悟を決めたのか、カミューの手を掴んで腰から引き剥がすと、そろそろと自分から腰を落としはじめた。先端を少し飲み込んだところできつそうに目を閉じる。
「大丈夫?」
「そう、思うならっ……少し小さくしろ……っ」
 無茶苦茶な悪態をつきながらマイクロトフはひとつ息を吸うと、思い切ったように一気に腰を落とした。その衝撃にカミューも思わず呻き声を上げる。マイクロトフはそのあまりの痛みと圧迫感に、カミューが普段どれだけ自分に気を使っていてくれたのかを知った。しかし、今はそれどころではなく、痛みをなんとか逃そうとカミューの胸に頭をつけ、荒い呼吸を繰り返す。その背中にカミューの手が伸びた。
「おまえは……本当に無茶をする……」
 苦笑を漏らしながら宥めるように背中を撫でる。確かに自分が挑発したのだが、こんなときにまで真っ向勝負しなくてもいいだろうに。
 でも、そんなところも可愛くてしょうがない。
 カミューは愛しい想いを抱えながら背中を撫で続ける。しかし、挿れたまま放置されるのは思った以上に辛かった。甘い責め苦になんとか耐えながらマイクロトフが落ち着くのを待つ。やがて、ようやく馴染んできたのか、マイクロトフの呼吸が落ち着いてきた頃にはカミューの我慢は限界に近かった。
「マイク、動いてくれる?」
 どこか切羽詰まったように言うカミューに、マイクロトフは絶句する。騎乗位とはそういうものだということは漠然とわかっていたが、実際、直面してみるとどうすればいいのかもわからない。身体の奥は熱を孕んでいたが、我に返ってみると今の格好ですら憤死しそうなほど恥ずかしい。
 とてもじゃないが、限界だった。
 カミューは言葉を失ったマイクロトフを、どうしたんだろう、と見つめていたが、彼が一気に首まで真っ赤にして逃げるように自分の肩口に顔を埋めてくると、どうやらここまでが限度らしい、ということがわかった。少し残念に思いながらも、とりあえず自分の我慢も限界である。
「マイク……四つんばいになって……」
 しがみついてくれるのは嬉しいが、それでは身動きがとれない。少し酷だとは思ったが、要求するとマイクロトフも意図がわかったのか、のろのろとした動きながら両手をカミューの顔の脇につく。
「ちゃんと支えていてね……」
 カミューはマイクロトフの腰を両手で掴むと一気に突き上げた。下からの突き上げは楽ではなかったが、それでも与えられる快楽のほうがはるかに上回る。いつもと違う体位、いつもと違う角度にカミューは夢中になって腰を動かした。マイクロトフの苦しそうな、だが色めいた呼吸が耳元をくすぐるのも自分を煽るもの以外の何者でもない。
「ぁ……は、……っ……」
「マイク……マイクロトフ……」
 凄くイイ、と耳元に淫らに囁くとマイクロトフは背中を仰け反らせ、カミューを締めつける。カミューは限界を感じ、腰を強く引き寄せると同時に奥を突き上げた。
「……っっ…………!!」
 2人は息を詰め、ほぼ同時に欲を吐き出す。マイクロトフの腕から完全に力が抜け、カミューの身体に倒れ込んだ。カミューは荒い息をついたまま身体を引き寄せ、中から自身を抜き出す。く、と眉を顰めたマイクロトフの眉間にひとつキスを落とすと、そのまま唇を重ねた。何度も啄ばむようなキスを交わし、呼吸が落ち着いた頃、ようやく離れる。
 カミューが漆黒の瞳を間近に覗き込んだ。
「ねえ、マイクトロフ」
「……なんだ?」
 いろいろと醜態を晒したことが恥ずかしくてぶっきらぼうに返事をするマイクロトフにカミューはにっこり笑った。
「リベンジはいつ?」
「っ! もう絶対やらん!!」
 カミューに勝てるわけがない、と、嫌というほど思い知ったマイクロトフであった……。



 おわり




というわけでマイクロトフの挑戦は失敗に終わりました。
まあ、相手が悪いということで……。
おそまつさまでしたー。


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