悪魔と修道士見習い2
〜食事〜




「……もっと他の方法はないのか……?」
 マイクロトフはまだ少し上がってる息を押し隠して、自分を抱くように背中に手を回している男を睨み上げた。すると男、カミューはにやっと笑う。
「どうして? これはイヤ?」
 カミューは、「これ」と言いながら、まだ少し唾液で濡れてる唇を指でツツ、となぞった。するとマイクトロフは真っ赤になってその手を振り払う。
「イヤだから言ってるんだ!!」
 マイクロトフの反応にカミューはくつくつと喉を震わせた。


 修道士の見習いであるマイクロトフと悪魔・カミューの間で『契約』が交わされて一ヶ月が経っていた。『契約』の内容は毎日マイクロトフがカミューに生気を与えること。それを破ればカミューは村に行って娘たちを襲うという。
 神に遣える立場であることを抜きにしても、もともと正義感の強かったマイクロトフはそんな真似をさせるわけにはいかず、毎日こうして悪魔の元に通い、生気を与えているわけだが……。
 生気、というものがどういうものなのかはよくわからないが、与える分にはかまわない。供給したあと、軽い眩暈のような疲労感を覚えるが、それくらいは少し休めば回復するのだから。しかし、与える方法に問題があった。
 口移し。つまり、人間でいう接吻によってそれは行なわれる。
 マイクロトフにはそれがとても嫌だった。女性ともしたことがなかったのに、今は毎日悪魔であるカミューと交わしているのだ。しかもどういうわけか、唇は触れるだけではなく、あたりまえのように口内に侵入してくる舌にあちこちをまさぐられ、己の舌を捕らえてはきつく吸われたり、舌や下唇を柔らかく噛んできたりする。そのたびにマイクロトフの背筋に得体のしれない何かが駆け抜けた。苦痛であればまだ我慢ができたかもしれない。しかし、この感覚はどうしても抑えることができず、マイクロトフを困惑させる。不快とは程遠い感覚……。
 カミューにしてみればこれは『食事』なのだからその行為に特に意味はないのかもしれない。だが、マイクロトフは日に日に強くなっていくその感覚になんとなく居たたまれない気持ちに陥ってしまっていた。
 それで思いきって口にしてみたのだが……。


「んー。他に方法がないわけではないけど……そっちのほうがいいかい?」
 カミューはそう言いながら意味ありげに笑う。その笑みの意味に気付くほどマイクロトフは人の観察力に優れてはいなかった。素直すぎる性格が災いしているのだろう。疑うということを知らず、物事の裏、というものにとんと疎かった。他に方法があるのなら、と、ろくに考えもしないで、いちにもなく頷く。
「そう。じゃあ少しおとなしくしててね」
 言うが早いか、カミューは抱きしめていた腕を離し、マイクロトフの背中を木の幹に預けた。
「カミュー?」
 マイクロトフはカミューの意図がわからず戸惑い気味に名を呼ぶ。しかし、カミューはそれにかまわずマイクロトフの膝に手をかけた。マイクロトフが、なにを、と思うより早く、カミューの手がマイクロトフのズボンを下着ごと剥ぎ取る。
「なっ?! カ、カミュっ……! う……っ」
 慌てた声は突然襲ってきた刺激に呻き声に変わった。目の前にいたカミューが視界から消えた、と思ったとたん、信じられないところに信じられない感触。
「や、やめ……っ! うぅ……ん……っ」
 カミューが何をしているか、その行為はあまりにもマイクロトフの理解を越えていた。今まで経験したことのない強烈な刺激にパニック状態に陥り、とにかく逃げようと本能的に腰を引こうとする。しかし、カミューの手が腰をがっちりと押さえ込んでいてそれもかなわなかった。身じろいだ拍子にカミューの頭が揺れ、濡れた音が耳を打つ。
「カミュ……っ! カ、ミュ……っ」
 必死に呼びかける声に、カミューは視線だけを上げた。マイクロトフは怖いものから逃げるかのようにきつく目を閉じている。その表情にカミューはからかうような笑みが浮かべ、わずかに口を離すと、言葉を紡いだ。
「暴れないで。落ちたら大変だろう?」
 『食事』は人目につかないようにと木の上で行なわれていた。カミューの言葉に、自分が今、どこにいるのかを思い出したマイクロトフは片手で口を塞ぎ、もう片方の手は身体を支えようと木の枝を掴む。しかし、再び愛撫を再開したカミューによって絶え間なく与えられる刺激に手はがくがくと震え、支えになるものではなかった。それでもこの手が命綱だ、とばかりに必死に手に力を込める。
 初めての行為にマイクロトフはわけがわからないまま追い詰められ、あっけなく果ててしまった。ひくっ、と息を詰め、精を吐き出す。それを喉を鳴らして嚥下したカミューは顔を上げ、満足げに目を細めた。
「ごちそうさま♪」
「な、なに、を……」
 マイクロトフは生まれて初めての吐精感に、そして本日二度目の生気の供給に、ぐったりと力が抜けてしまった。意識は靄がかかったかのようにぼんやりとし、思考がまったくまとまらない。カミューに「おいしかったよ……」と抱き寄せられ、口付けられる間も指ひとつ動かすことができなかった。


 いつのまにか意識が飛んでいたらしい。マイクロトフが目を開けると、カミューに抱きしめられた格好で眠っていた自分に気付き、その原因を思い出そうとして先程の出来事が脳裏に甦った。
 がばっと顔を上げ、自分を抱きしめている男を睨みつける。
「き、貴様、なんてことをするんだ!!」
「えー? マイクが『他の方法がいい』って言ったんじゃないか」
 カミューは悪びれることなく、しれっと応えた。
「だ、だからってこ、こんなこと……!!」
 真っ赤になって口篭もるマイクロトフにカミューは、ふふ、と笑う。その余裕たっぷりな笑みはマイクロトフの癪に障ったが、それより先程の行為の真意を知るのが先だ。
「……生気、とはいったいなんなんだ?」
「そうだね。わかりやすく言うと体液、みたいなものかな」
「体液?」
「そう。だから、血でもいいし、唾液でもいい。そして、せ……」
「わーっ!! 言うな!」
 マイクロトフは慌ててカミューの口を塞ぎにかかった。カミューはおとなしく口を塞がれる。睨みつけてくる漆黒の瞳は羞恥のあまりか少し潤んでいた。カミューは目を細め、口を塞いでいる手をやんわりと外す。
「涙でもいいんだけどね。少しもの足りないかな」
 そう言うと、ぺろ、とマイクロトフの目尻に滲んだ涙を舐め取った。そして顔を間近に覗き込む。
「俺はなんでもいいんだよ? ちゃんと毎日もらえれば、ね」
 どうする? と目で問いかけてくるカミューに、マイクロトフの答えはひとつしかなかった。
「……前のでいい……」



 おわり




ずっと書きかけだったので完成させてみました。
っていうか、こんな話じゃなかったような……(汗)


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