〜マチルダ騎士団を改革せよ!〜




「カミュー」
「……………………」
 何度目かの呼びかけにも一向に返事をしないカミューに、マイクロトフはため息をついた。
「カミュー……いつまでそうやってむくれている気だ?」
「…………だってさ」
 不満たっぷりといった口調で振り返ったその顔に、マイクロトフはもう一度ため息をつく。従騎士いちの美青年、と評されている彼がこんな子供みたいなふくれっつらをしている姿など、誰が想像できようか。……自分は見慣れているが。
 普段のカミューは、人当たりのいい笑みを浮かべ、何事もそつなくこなしてみせる。周りからは歳の割には落ち着いている、などと言われているが、自分と2人っきりでいると歳相応な、いや、少し子供じみているのでは、というほど感情を露にする。そんな姿を見るたびに他のヤツらに見せてやりたい、と思う反面、自分にしか見せないことにいいようのない優越感を覚えていた。
 マイクロトフがそんなことを考えていると、カミューはベッドから降りて、ベッドに背を預け床に座りこんでいたマイクロトフの顔を覗きこむ。
「だって、マイクは平気なの?」
「……仕方ないだろう?」
 苦虫を噛み潰したような表情で答えるマイクロトフにカミューはぷう、と頬を膨らませた。
「仕方ないってあきらめられちゃうわけ? 俺は嫌だよ!」
 カミューの癇癪にマイクロトフは心の中で、俺だって嫌だ……とつぶやく。しかし、互いを責めることもできずにいた。

 今日、従騎士から正騎士に昇格した者の配属先が発表された。その中にカミューとマイクロトフの名前があったのだが……。
 配属は貴族階級となっている白騎士を除けば、よほどのことがないかぎり本人の希望が通ることになっていた。それが思わぬ悲劇を呼んだ。
 紋章による魔法にほとんど頼ることなく剣技を磨き、戦闘ではへたな小細工などせず先陣を切っていく役目の多い赤騎士団。マイクロトフは当然こちらを選ぶであろうとカミューは思った。
 逆に、剣技と同時に魔法も鍛え、戦闘では遊撃部隊として様々な方法で敵の意表を突く役目の多い青騎士団。カミューは当然こちらを選ぶであろうとマイクロトフは思った。
 その結果が……。

「嫌だ、と言ってどうにかなることか?」
 あきらめろ……とため息混じりに言うマイクロトフの頬にカミューの手が伸びた。両手で頬を挟んで至近距離で向かい合う。
「マイクは平気なの? 俺と一緒じゃなくても?」
 覗き込んだ琥珀色の瞳は少し潤んでいた。マイクロトフは、平気なわけがない、と思いつつ、ここで自分まで弱音を吐いたらきりがない、とぐっとこらえる。
「決まってしまったのだから、どうすることもできないだろう?」
 マイクロトフは平然を装ったつもりだった。しかし、思っていることがすぐ顔に出てしまうタイプのマイクロトフが、完全に感情を隠すことはどだい無理な話で。カミューはじっと漆黒の瞳を見つめていたが、意を決したように口を開いた。
「……抗議してくる」
 そう言って立ち上がろうとするカミューに、マイクロトフはぎょっとした。慌てて腕を掴み、引き止める。
「なっ……! 馬鹿な真似はよせ!」
「馬鹿な真似じゃないよ! これは俺たちの一生に関わる問題なんだ!」
 カミューが腕を振り払おうとするとマイクロトフは必死にしがみついた。はたから見ればなんとも滑稽な姿だが、2人はいたって真剣である。
「しかし、そんなことをしたらおまえがどうなるか……!」
「俺のことなんてどうでもいいよ! だいたい、マイク、青騎士団は女好きの集まりのようなところなんだぞ? おまえに耐えられるのか? 間違って花街にでも連れて行かれたら……!」
 死んでやるーとカミューは床に伏せ、おいおいと泣き出す。マイクロトフは花街、という単語に赤面しつつ反論した。
「お、おまえだって赤騎士団は武骨者の集まりだというのに、その体力のなさでついていけるのか?! 聞けば早朝訓練もあるという。おまえの寝汚さでは無理だろう!」
 毎日城の周りを走らされてるおまえの姿を見たら(早朝訓練の遅刻の罰らしい)騎士団を辞めるかもしれん……とマイクロトフは唇を噛む。
「……………………」
「……………………」
 互いに睨むように見つめ合う。自分に合わない団だということは重々承知していた。それも互いがいればなんとかやっていけると思っていたのだ。だが、道は別れてしまった。

 こうなったら……改革してやる……!

 2人は密かに誓った。

 そして、10年後、見事に誓いを成し遂げた両団長の姿があるのである……。



 おわり(汗)




某団報に投稿させていただこうかと思った文。
あまりにもアホだったので、ボツにしました。
青がたまにらしくないことをしようとするとこうなります(笑)


−back−