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カミューとマイクロトフは、カミューの自室にいた。 今日は二人揃って休日だったため、遠乗りに行く予定だった。しかし、雨が降ってしまい、あきらめざるをえなかった。マイクロトフは本を読み、カミューはぼうっと外を眺め、時を過ごす。 互いが隊長、という地位に就いてから1ヶ月。まだ20歳と19歳の着任は異例ともいえる早さだったが、充分すぎるほど実力が伴っていたため、周りからはすんなりと受け入れられた。しかし、初めて人の上に立つ立場になった二人はそれはそれは目が回るような忙しさだった。 それが、久々に休日が重なったというのに、つれない恋人は本なぞ読んで自分を相手してくれない。いままでロクに会えなかった分、1日中でもいちゃいちゃしていたかったカミューは、外を眺めているふりをしつつ、頭の中ではあれこれとマイクロトフを釣り上げる作戦を考えていた。 そして、ほどなく考えはまとまった。こういうことにかけては天才的である。 くるり、と本を熱心に読んでいるマイクロトフを振り返った。 「マイクって単純だよね」 「なんだと?!」 いきなり不躾なことを言われ、マイクロトフはムッとしたように顔を上げた。カミューは、ひっかかった、と内心ほくそ笑みながら、すました顔して答える。 「まあまあ。ばかにしてるんじゃなくてさ、マイクの長所だよ」 「俺はそんなに考えなしじゃないぞ!」 ムキになって反論するマイクロトフにカミューは小首を傾げた。 「うーん。じゃあ、試してみる?」 「……どうやって?」 「ゲームをしよう」 「ゲーム?」 「うん。負けたら罰としてキスね」 にやっと笑ったカミューにマイクロトフは瞬時に赤くなる。 「なっ、なんでそうなるんだ?!」 「あれ? やっぱり自信ない?」 わざと挑発的に聞き返せば負けず嫌いのマイクロトフが引くはずもなく。 「う、うう……受けて立つぞ!」 「そう?」 くすくす。こういうところが単純で可愛いのに。 「どんなゲームだ?」 「簡単だよ。これから嘘をつかないでね」 「は? それのどこがゲームなんだ?」 「やってみればわかるよ」 「嘘をつかなければいいんだな」 よく意味がわからないまま確認するマイクロトフに、カミューはにっこり微笑む。 「そう。じゃあ、はじめるよ。ここにこれくらいの箱があるでしょ?」 カミューは言いながら、指で空間に四角を描いた。マイクロトフはクイズかな、と思い、頷いた。 「ああ」 「あ。嘘ついた。箱なんてないでしょ?」 「なっ……!」 ちゅ。 目にもとまらぬ早業で唇を掠め盗られて、マイクロトフは、かあ、っと赤面する。 「ほら。やっぱり単純じゃないか」 「く、くそ! もう1回だ!」 悔しそうに歯噛みするマイクロトフがおかしくて、カミューはくすくす笑った。 「いいよ。じゃあ、次は俺の質問に必ず『うん』って答えるんだ」 「よ、よし。いつでもこい!」 「じゃあね、マイクは肉が好き」 「うん」 「マイクは犬が好き」 「うん」 「マイクは女の子の話題が好き」 「う、うん……」 たかがゲームだというのに、苦手なことを好き、と答えなければいけないことを強制されて、躊躇いがちに頷くマイクロトフに、カミューは笑みを誘われる。 ゲームだというのに、正直だなぁ。 「マイクは甘いものが好き」 「……うん」 これも、ちょっと苦手。答える声が小さい。 「マイクは剣の稽古が好き」 「うん!」 とたん元気良く答えるマイクロトフ。 ああ、ほんとわかりやすい。 「マイクは俺が好き」 カミューの質問にぎょっとしたように目を見開いたマイクロトフは、寸でのところで言葉を飲み込み頷いた。わずかに頬が赤い。 「っ……う、ん」 「じゃあ、キスして」 軽く唇を突き出し、おねだりするように目を閉じたカミューにマイクロトフは思わず後ずさった。 「なっ、なんでだ?!」 「あ。うんって言わなかった」 罰ゲームね、とすかさずカミューはマイクロトフにちゅっと軽くキスする。 「〜〜〜〜〜〜〜!!」 悔しいのと恥ずかしいので真っ赤になっているマイクロトフを、カミューは可愛くてたまらない、という笑みを浮かべて見つめた。 「ほら。可愛いくらいに単純だよ」 「ひっ、卑怯だぞ! こんな……!」 「ゲームなんだから、うんって答えればよかったのに。誰も本当にしてくれなんて言わないよ」 してくれたら嬉しいけどね、とカミューは笑う。マイクロトフは赤面したまま悔しそうに唇を噛んで睨みつけていたが、 「よし。じゃあ、今度は俺の番だ!」 と、突然、意気込んできた。カミューはてっきり、「もう一度勝負だ!」と言ってくるものと思っていたため、ちょっと面食らう。 「俺は種明かしを知っているんだよ? ひっかかるわけがないよ」 「やってみないとわからないだろう。勝負だ」 「いいけどね……。じゃあ、俺が勝ったらマイクからキスだよ」 「ううう……、い、いいだろう」 「よし。じゃあ決まり」 「よし! 勝負だ、カミュー!」 まるで剣の手合わせをするときのように気合いを入れるマイクロトフがおかしくて、カミューは笑いながら鷹揚に受けて立つ。 「どっからでもかかってきたまえ」 「いくぞ! カミューは早起きが嫌い」 「うん」 『嫌い』できたのか、と、カミューは、マイクロトフにしてはけっこう考えたんだな、と少し失礼なことを思いながら返事した。 「カミューは冬が嫌い」 「うん」 「カミューはセロリが嫌い」 「うん」 「カミューは辛いものが嫌い」 「うん」 だんだん好きなものを題材としてきたマイクロトフに、カミューは、さて、どんな手でくるのかな、と半ば楽しみにして待つ。 「カミューは紅茶が嫌い」 「うん」 「カミューは俺が嫌い」 「?!」 カミューは思わず「え?!」と言いそうになって慌てて口を噤む。ひっかかるところだった……と内心冷や汗をかきながら頷く。 「うん……」 「そうか。よくわかった」 「え? ち、違うよ、マイク〜〜っ」 あまりにも冷たく答えられて、カミューは一瞬で状況を忘れ、慌てて取り縋った。にや、と笑ったマイクロトフに、しまった! と思うがすでに遅し。 「俺の勝ちだな」 「う、ううう〜。まさかマイクにしてやられるとは……」 「カミューだって人のこと言えないではないか」 勝ち誇ったようなマイクロトフに、カミューは悔しくて頭を抱えて「うーっ」と唸っていたが、顔を上げるといきなりマイクロトフに飛びかかった。 「悔しいからキスしてやるっ」 「え? な、何を言って……んーっっ!」 ……暗転…… ようやく離れたカミューの唇は、マイクロトフの顎に伝った銀糸をぺろりと舐め取ると、満足げな笑みをかたどった。 「ごちそうさま♪」 「……っは……ばかかみゅー……」 激しい口付けに途中で腰が立たなくなり、ぐったりと壁にもたれた体勢で目を潤ませて睨みつけてきても、効果がないどころか煽るばかりだということにまだ気づいていないマイクロトフに、カミューはもう一度軽く口付けた。 「それにしてもね、愛されてる自覚があったんだ?」 あんな質問で俺をひっかけようとするなんて、とカミューはからかうように笑う。そのセリフに、マイクロトフは自分がどれだけ恥ずかしい真似をしたのかということにようやく気づき、かあ、と赤くなった。 「い、いや、それは……」 しどろもどろに言葉を探すマイクロトフに、カミューは嬉しそうに笑って優しく抱き寄せる。ほとんど抵抗なく腕におさまったマイクロトフに、ますます気を良くした。 「俺としたことがまんまとはめられたものだよ。 でも、マイク、覚えておいてね」 カミューはそっとマイクロトフの耳元に唇を寄せる。 俺を手玉に取ることができるのはおまえだけなんだから……ね。 おしまい |