〜あなたに、逢いたくて〜




 カミューはペンを持ったまま窓から外を眺めていた。そして何度目かのため息をつく。
 マイクロトフが一部隊を率いてハイランドとの国境付近に遠征して2週間になる。ハイランドに何やら不穏な動きがあるため、監視を続けるとのことで1週間の予定が延びてしまっていた。小競り合い程度の接触はあったらしいが、大規模な戦闘になった、という連絡は受けていない。
 カミューは普段の仕事の他に、青騎士団の団長の決裁が必要な仕事、マイクロトフの遠征部隊の情報収集、もし、戦闘になった場合の援軍の派遣の準備など、激務に見舞われていた。はじめは忙しさに気が紛れる、と歓迎していたが、最近ではさすがに疲れていた。
最愛の恋人、マイクロトフに会いたくてしょうがなかった。

「団長……」
 赤騎士団副団長が困ったような笑みを浮かべる。さすがにこれ以上、仕事しろ、とは言えなかった。ペースが落ちたとはいえ、毎日かなりの量の仕事をこなしている。いまだって通常の勤務時間をとっくに過ぎているのだから。
「さあ、今日はこれぐらいで切り上げましょう。ゆっくり休んでください」
「ん……」
 気のない返事をするカミューに副団長は宥めるように肩を叩く。
「情報では、向こうもそろそろ落ち着いてきた、とのことですよ。出会い頭に叩いたのが効いたのでしょう」
 さすがマイクロトフ様ですね、と副団長は微笑む。カミューはぼんやりとする頭で、早く帰ってこい、と強く願った。



 カミューは自分の部屋に戻ろうとして、ふと足を止めた。立ち止まったまま少し考え込むと、くるりと踵を返して別の部屋に向かう。
 辿りついたのは青騎士団長の私室だった。合鍵を使って中に入る。部屋の中は2週間も無人だったため、寒々としていたが、彼の香りが残っているような気がして、カミューの気持ちが少し和らいだ。
 我ながら女々しいとは思ったが、今夜はここで眠りたかった。少しでも彼を感じられるように。
 カミューは騎士服を脱ぎ捨て、マイクロトフのクローゼットを開けた。自分の服も多少は置いてあるが、少し考えたのち、彼の夜着を手にする。

 こんなことしたと知ったら怒るだろうな……。

 苦笑しながら、いつもは脱がせている彼の夜着に袖を通した。そして2週間使われていなかったベッドに潜り込む。久々の安堵感を胸に、カミューは泥のように眠りについた……。



 カミューが眠りに就いて1時間ほど経った頃、青騎士団長の私室のドアに人影があった。
 その人影は少し乱暴な手つきでドアの鍵穴に鍵を突っ込み、がちゃがちゃと回す。それは、本来の部屋の主、マイクロトフであった。

 カミューめ! せっかく急いで帰ってきたのに、部屋にいないとは何事だ!

 ハイランドの兵が引き上げたのを確認し、後のことを駐在している騎士たちと打ち合わせた後、マイクロトフは単身、馬を飛ばして帰ってきたのだ。そして、着のみ着のままカミューの部屋を訪ねたというのに、部屋はもぬけの空だった。

 どこかに飲みに行っているのか? こんな時間まで城を空けるなど、怠慢だ!

 予告もなく勝手に帰ってきたのだから、カミューが知らずにいるのは当然なのだが、少しでも早く会いたくて帰ってきた自分がばかなように思えて、マイクロトフはやつあたりのようにいなかった恋人に文句を並べたてながら、鍵を回す。
「あれ?」
 手を止めた。鍵の回した手応えがおかしい。そっとノブに手をかけると簡単に開いてしまった。鍵がかかっていなかったらしい。
 部屋を出るときにはちゃんと閉めた。と、なれば合鍵を持っているカミューが勝手に入って鍵をかけ忘れた可能性が高い。

 人がいない間に人の部屋で何をやっていたんだ!

 マイクロトフはさらに怒りを増しながら部屋に入った。そして、硬直する。
 ベッドが、人の形に盛り上がっていた。そっと歩み寄ると布団からはみ出ているのは見慣れた、探し求めていた亜麻色の髪。マイクロトフはしばし呆然と規則正しく動く頭を見ていたが、ぶっ、と吹き出すと、自分も寝るべく準備をはじめた。シャワーを浴びて夜着に着替え、ベッドにもぐり込む。壁側を向いて寝ているカミューの背中にぎゅ、と抱きついた。
「ん……、マイク?」
 寝ぼけた声がした。マイクロトフは上機嫌に応える。
「ああ。ただいま」
「…………ごめん、疲れてるんだ……」
「ああ。ゆっくり休め」
 何がしたくて抱きついたわけではなかったマイクロトフは甘えるように背中に頬をすりつける。カミューは再び規則正しい呼吸に変わった。

 淋しい、と思っていたのは自分だけじゃなかった。

 マイクロトフはカミューの香りを胸一杯に吸い込みながら、幸福感に満たされるのを感じた。
「おやすみ、カミュー……」
 マイクロトフもカミューの背中に抱きついたままやがて眠りに落ちた……。



 ごそごそと。身体を何かが這い回る感触にマイクロトフの意識は浮上した。いつもであればすぐ目を開けるのだが、さすがに疲れていて瞼が重かった。それに、自分に触れる感触はとても優しく、心地良かったため、もっと感じていたい、という気持ちもあり、されるがままになっていた。
 しかし。
 胸に濡れた感触を感じたとたん、びくっと震えて目を開けた。
「あ、起きた?」
 カミューはマイクロトフの胸元に埋めていた顔を上げ、にこり、と笑った。
「なっ、カ、カミュー?!」
「起こしちゃったかな?」
「こっ、こんなことをされて起きないヤツがいるか!」
 マイクロトフが真っ赤になって怒鳴るとカミューは笑みを浮かべたまま首を傾げる。
「うーん。でも、ここまでされて起きなかったんだから、その言葉にはあまり説得力がないと思うけど……」
「なっ……!」
 マイクロトフは自分の姿を見て愕然とした。いつのまにか夜着はほとんどはだけられ、しかも、すでに何箇所か朱い痕が散っている。
「せっかく起きちゃったんだし、しようよ♪」
 確信犯的な笑みを浮かべ覆い被さってくるカミューに、マイクロトフは慌てて腕を突っぱねた。
「ま、待て! お、おまえ、疲れているんだろう?」
「うーん。疲れてはいたけど、目を覚ましたらいつのまにかマイクが帰ってきてるし、隣で寝てるし、俺に抱きついているし。また夢見ちゃったのかな、と思ったけど、覚めないし。こんなおいしいシチュエーションを逃せるわけがないじゃないか」
「さ、さっきは疲れているといって俺のことはほったらかしで寝ていたぞ!」
「覚えてない♪」
 カミューはにっこり笑って、ちゅ、と触れるだけの口付けを落とす。
「ね、会いたかったよ。会いたくて会いたくて気が狂いそうだった。何度も夢に見たよ。でも、目が覚めるとマイクはいなくて。……つらかった。
 マイクは? 俺に会いたくなかった?」
 琥珀色の瞳にあふれんばかりの愛情を浮かべてカミューが言う。その煌きに、ああ、帰ってきたんだな、と実感しながらマイクロトフは口を開く。
「俺だって……、会いたくなければあんな時間に帰ってきたりしなかった……」
「マイク……」
 カミューは嬉しそうに微笑んで、照れたのか顔をそむけてしまったマイクロトフの頬に唇を落とす。
「それにしてもおまえが帰ってきたときを覚えていないなんて不覚だったなぁ」
「そうだ。おまえは倦怠期の夫のようなセリフを吐いて寝こけていたんだ。俺は傷ついたぞ」
 顔をそむけたまま言うマイクロトフにカミューは慌てて抱きつく。
「ごめん! 本当にごめん! そんなつもりじゃ……」
 言い訳しかけて、マイクロトフの肩が震えていることに気づく。顔を覗き込むと、にやにやとからかうような笑みを浮かべていた。カミューは一瞬、きょとんとし、すぐ破顔する。
「マイク……!」
 笑いながら顔を自分の方に向けて額をくっつけた。くすくす笑っている漆黒の瞳を覗き込んで、
「いつからそうやって人をからかうようになったのかな?」
 と、鼻にキスをする。マイクロトフはくすぐったそうに笑った。
「おまえと付き合っていれば自然とそうなる」
「言ったね」
 くすくす。
 ひとしきり笑い合うと間近で見つめ合う。ふと、マイクロトフの瞳が真剣味を帯びた。
「疲れていても無理はない。相当忙しかったのだろう。青騎士団の面倒までみてもらって……、感謝している」
「感謝なら態度で示して欲しいな」
 意味ありげに笑うカミューにマイクロトフはちょっと赤面する。
「つ、疲れているんだろう?」
「マイクを見たら疲れなんて吹っ飛んだよ。……それよりも、マイクが欲しいんだ」
 顔を寄せるカミューの瞳には焦燥に似た熱が見え隠れしていて、マイクロトフはうっとりとその瞳を見つめる。優しく細められた瞳も好きだったが、こういう野生じみた獣のような瞳も好きだった。いつものすましている仮面を自分が剥ぎ取っているような、一種の優越感を感じるからだ。
 自分の返事を待っているカミューに、マイクロトフは少し笑う。
「俺が、疲れている……といっても聞かないんだろう?」
「もちろん。そのために起こしたんだからね」
「だったら……好きにしろ」
 マイクロトフは目を閉じてカミューの首に腕を回す。カミューは嬉しそうに目を細め、しかし、口調はからかいを含んで、
「どうして、俺も欲しい、って言ってくれないかなぁ」
 と、マイクロトフの唇に人差し指をあてた。
「っ、言えるか!」
 目を閉じたまま頬に朱を散らすマイクロトフをかわいいなぁ、と思いつつ、カミューはゆっくりと唇を寄せる。触れるか触れないかの位置で低く囁いた。
「では。いただきます」
「……ばか」
 憎まれ口を叩く唇をそっと塞ぐ。触れてしまえばいままで保っていた理性の壁は脆くも瓦解した。いきなり深く重ね、舌を口内に忍ばす。マイクロトフもすんなり受け入れ、寧ろ自分から舌を差し出してきた。カミューは満足げに目を細め、器用に絡めとる。2人はすぐ口付けに夢中になった。互いに口内をまさぐり合い、絡め合い、甘噛みし、きつく吸う。何度も何度も角度を変えて口付け合った。飲みきれなかったお互いの唾液がマイクロトフの唇の端から糸となって零れ落ちるのにもかまわず貪り合う。
「……は、ぁっ……」
 先に根を上げたのはやはりマイクロトフの方。カミューの激しさに、舌技についていけなくなり、やっと解放された唇から荒い息をつく。既に意識が半分飛んでいて、ぼうっと潤んだ瞳でカミューを見上げた。
 カミューはそんなマイクロトフに艶やかに微笑みかけると、先程までの悪戯でほとんど脱がせていた夜着を改めて剥ぎ取りにかかる。露わになった首筋に、鎖骨に次々と朱を散らしていった。弱いところはきつく吸われ、噛みつかれ、指で撫で上げられる。マイクロトフはその性急さについていけず、あっというまに高まった熱に翻弄されそうになった。
「あ、ちょ……と、待て……カミュ……ぅ……」
「待てない。もう、2週間も待ったんだから」
 マイクロトフの懇願をあっさり却下して、カミューは胸の尖りに唇を寄せる。びくん、と跳ねそうになる身体を押さえつけて、既に固くなっていた尖りに歯を立てた。マイクロトフの口からこらえきれない甘い吐息が上がる。カミューはぞくぞくする快感が背筋を伝うのを感じながら、舌で転がし、唇で挟み、甘噛みを続けた。空いている手ももう片方の突起に触れ、丹念に愛撫をはじめる。
 2週間ぶりに与えられる強烈な刺激に、マイクロトフは口元を手で抑え、頭を緩く振った。触れられてもいないのに、自分の中心が熱を帯びているのがわかる。触れられることなくイってしまうようなことがあったらカミューに呆れられる、と必死に熱を逃がそうとした。
 しかし、カミューの愛撫は巧みで執拗で、すぐ追い詰められる。マイクロトフは同じ恥をかくなら懇願してしまおうと、口元を抑えていた手をゆるゆると外した。そのとき、偶然だったのだが、カミューが一際強く突起を噛んだ。
「はあぅっ……!」
 こらえる間などなかった。思いきりあられもない声を上げてしまって、マイクロトフは真っ赤になる。カミューも前戯ではめったに聞けない嬌声に思わず手を止めてマイクロトフの顔を見た。ここで、どうしたの? なんて聞こうものなら怒り出すのは目に見えているので相手の反応をじっと待つ。マイクロトフはカミューの視線を受け止めることができないまま、ぎゅ、と目を瞑ってカミューの手を己の中心に導いた。マイクロトフに触れたカミューは既に固くなっていたそれにだいたいの状況を把握する。優しく握り込みながら、苦笑を浮かべた。目を閉じていたマイクロトフは笑う気配に、呆れられたか、と谷底へ突き落とされたような痛みに襲われる。
「ごめん。俺ばっかりがっついちゃって」
 カミューはもう片方の手でマイクロトフの手を取り、指を絡めて、その指先に口付けた。マイクロトフが目を開けると照れたような琥珀色の瞳にぶつかる。
「我ながら情けないことに抑えがきかなくて……。いますぐにでも無理矢理繋げてしまいたい、という衝動を抑えるので精一杯だったんだ。マイクのこと気遣ってやれなくてごめんね」
「カミュー……」
 慣らさないうちに繋げる、なんて無体な真似はしたくなかった。しかし、その欲望を抑え込むには他に気を移すしかなかったわけで、その結果、マイクロトフの全身にむしゃぶりつくようなかたちになってしまっていた。普段であればマイクロトフの反応を楽しみながら陥落させていく行程を楽しむ余裕すらあるのに。改めてマイクロトフに餓えていたことを実感させられる。
 カミューはマイクロトフの額にキスをひとつ落とすと、中心を包んでいた手を緩やかに上下させはじめた。マイクロトフはとっさにカミューに握られている手をぎゅ、とすがるように掴む。それを力強く握り返してやりながら、カミューは片手で巧みにマイクロトフを追いたてていった。
「んっ……あぁ……っ」
 くちゅ、と先走りの蜜がカミューの手を濡らしはじめる。マイクロトフはその濡れた音が自分から出ているということに羞恥を覚えつつ、与えられる快感に抗うすべを持たない。先程声を上げてしまったせいで、抑えがきかなくなっていた。
 感じるままに甘い声を上げる恋人を陶然と見つめていたカミューは自分の中の理性がどんどん無くなっていくのを感じる。
「カ、ミュー……、も、もう……」
 潤んだ瞳で限界を訴えるマイクロトフの声を聞いたときにはカミューも既に限界だった。赤く染まった耳に唇を寄せて、切羽詰ったように囁く。
「マイク……、ごめん。……いい?」
 伺いを立てながら、耳たぶに舌を這わせ、緩く噛む。
「んっ、あ、ぁ……っ」
 弱いところを弄られ、マイクロトフはびくびくっと身体を震わせた。その媚態にカミューはたまらない、とばかりに自分の中心をマイクロトフのそれにこすりつける。マイクロトフは熱く張り詰めたカミューの雄にカミューも余裕のないことを知った。恍惚とした表情でカミューを見上げる。
「かみゅ……、い、い……。俺も……、はや、く欲し……っ」
 カミューはマイクロトフの言葉を最後まで言わせずに噛みつくように口づけた。マイクロトフもすぐそれに応える。2人で激しく舌を絡ませ合いながら、カミューは繋いでいた手を名残惜しげに一度強く握ってから外し、マイクロトフの中心に伸ばした。そして達しないように根元を抑え、さっきまで愛撫を施してマイクロトフの先走りの液で濡れた手を後ろに忍ばせる。指を挿入させると口付けを交わしている唇がぴくっと震えた。カミューは離れることを許さず、ますます深く口付ける。その間も侵入した指を動かし、中を広げていった。
「んっ……、んんぅっ……」
 マイクロトフが苦しげに合わせた唇の間から吐息を漏らす。後ろから与えられる刺激と激しいキスでどうにかなってしまいそうだった。マイクロトフはカミューの舌に軽く噛みついて、カミューが反射的に引いたところで唇を無理矢理離す。
「っ、はっ……ぁ……、こ、殺す気、か……っ」
 マイクロトフが息も絶え絶えに上目遣いに睨みつけると、カミューは艶然と微笑んだ。
「死なれたら困るけど……、死にそうなほど感じてるマイクは見たいね……」
「ばか、もの……」
 ますます頬を上気させるマイクロトフにカミューはふふ、と笑う。
「マイクが悪いんだよ。俺をこんなに夢中にさせるから……」
 うっとりと囁いて、後ろの指を1本増やした。くっ、と眉根を寄せて息を詰めるマイクロトフの額にキスを落とす。
 何度この腕に抱いても、満足するということを知らない。飽きるということを知らない。
 それはどこか虚しく、それ以上に甘美な想い。
「か、ってなこと、を、言うな……んっ」
 マイクロトフの抗議は巧みな指の動きによって途切れ途切れになる。それでも必死になって口を開いた。
「夢中、になっ……ている、のは……お互い、様だ……ぁっ」
 ぐい、と弱いところを引っ掻かれ、マイクロトフは喉をのけぞらす。カミューはその言葉に、媚態に、くらり、と眩暈に似た酩酊を感じ、指を引き抜いた。もう我慢できない。
 限界まで張り詰めた自身をマイクロトフの蕾にあてると、マイクロトフが無意識に息を呑んだのがわかった。
「力……、抜いて……」
 カミューは掠れた声で囁いて、ぐい、と腰を進める。
「あぅっ……」
 何度肌を重ねても慣れない痛みにマイクロトフの腰が引けそうになった。カミューはそれを強引に引き寄せ、ますます深く埋めていく。
「っ、……ぃっ……つ……っ……」
 カミューは苦痛に顔を歪めるマイクロトフに「ごめんね……」と何度も囁いてキスを降らせた。
 マイクロトフは顔中にキスを受けながら、まただ……、と自分の不甲斐なさに憤りを覚える。本当は苦痛の声など上げたくなかった。自分だって待ち望んでいることなのに、カミューにだけ罪悪感を感じさせてしまうなんて。しかし、歯を食いしばれば全身が強張ってしまうため、カミューの妨げになる。どうしても声を殺すことができないのが現状だった。

 殺せないなら……、言えなくしてしまえばいい……

 マイクロトフは震える腕を伸ばしてカミューの首に回した。そして、そのまま引き寄せて自ら口付ける。舌をカミューの口内に忍ばせるとカミューの舌がすかさず絡んできた。甘く噛まれ、強く吸われ、くらくらしてくる。
 口付けを解くのと、カミューがマイクロトフの中に収めきるのとほぼ同時だった。どちらともなく深く甘い息をつく。
 カミューがくすり、と笑った。
「そういえば。いまさらだけど……、おかえり」
 カミューの唐突な言葉にマイクロトフも笑う。
「本当にいまさらだな」
「だって、今まで実感が湧かなかったんだもの。マイクを抱く夢なんて何度見たことか。
いつ、目が覚めるんだろうって気が気でなかった……」
「おまえな……」
 マイクロトフの呆れたような口調にかまわず、カミューはぎゅっと抱きしめた。
「やっと帰ってきたんだね。ずっと待っていたよ」
「ああ……。俺もだ」
 マイクロトフも背中に腕を回してしっかりと抱きしめ合う。互いの雄は張り詰めたままだが、さっきまでの昂ぶっていた熱が嘘のように引いていった。しかし、それは決して不快なものではなく。
 カミューは肩口に埋めていた顔を上げてマイクロトフの顔を覗き込んだ。
「ねえ、マイク。ただいま、は?」
「俺は帰ってきたときに言った。おまえが応えなかったんだ」
「……悪かったよ。ね、もう一回言って?」
 甘えるように小首を傾げるカミューにマイクロトフは苦笑いすると、少し身体を起こしてカミューの耳元に「ただいま」と囁く。カミューはくすぐったいように、でも嬉しそうに笑って、もう一度「おかえり」と応えた。
 穏やかな時間が終わると、あとは本能のままに貪り合うだけ。身体の奥でくすぶっている熱を昇華させることになる。カミューはマイクロトフに触れるだけの口付けを落とすと、緩やかに動き出した。浅く、深く抜き差しを続けると簡単に2人の熱が戻ってくる。息が乱れ、喘ぎとも吐息ともつかない声が上がりはじめた。
 ぐいっと奥を抉るとマイクロトフの口から嬌声が漏れる。その声に煽られてカミューの動きは激しさを増していく。
「マイク……、マイクロトフ……っ」
「……っ……かみゅっ……あぁっ……かみゅぅ……っ」
 縋るように伸びてきた腕を引っ張って自分の首に回させる。カミューは一際強く奥を突いた。
「んぅっ……あああっ!」
 張り詰めていた花芯は簡単に弾ける。精を放った衝撃で甘く締めつけられたカミューもマイクロトフの中に想いのたけを注いだ。
 荒い息をついたまま唇を重ねる。唇をわずかに離して、カミューが熱っぽく囁いた。
「マイク……、もっと、欲しい……」
 マイクロトフは、その魅惑的な声に、誘惑に、抗うすべを持たなかった……。



 マイクロトフは夢うつつのまま少し身じろぎをしようとして、違和感を感じた。ふと目を開けると目の前には亜麻色の睫毛を伏せた恋人の寝顔。マイクロトフの胸に安堵が広がる。
 そして、先程感じた違和感が下半身の痺れているような感覚のせいだということに気づくと、昨夜の情交の激しさを思い出した。結局、最後は気絶するように眠ってしまったらしい。

 まだ中にカミューがいるような感覚はその名残か……。

 マイクロトフは1人赤面して身を起こそうとした。そして、気づく。
「なっ……!」
 感覚、ではなかった。実際、カミューと繋がっていたのだ。

 ひ、一晩このままだったのか……?

 たらり、と冷や汗を流して、安穏と寝ている恋人を見やる。その幸せそうな寝顔が癇に障って、肩を乱暴に揺さぶった。
「こ、こら! 起きろ、カミュー!」
「ん……、マイク……? なに、もう一回する……?」
 カミューは寝ぼけた声で応えながら、肩を揺さぶっていたマイクロトフの手を掴んで自分の口元に持っていき、キスをする。
「寝ぼけるな! どあほう!!」
 マイクロトフは掴まれた手を振り払って、そのまま口に裏拳をお見舞いした。まともにくらったカミューは唇が歯にあたり、涙目になる。
「いたた……。どうしたの? そんなに怒って」
「どうした、じゃない! さ、さっさと抜け!!」
 真っ赤になって怒鳴るマイクロトフにカミューは状況を把握し、にやっと笑った。
「えー? 嫌」
「嫌、じゃない!」
「自分で抜いたら?」
「なっ……!」
 カミューは絶句するマイクロトフの鼻にちょん、と人差し指を押し付ける。
「じゃないと今夜までこのまま♪」
「へっ、変態!」
「今日はずっとこのままいようね♪」
「いやだーっっ!!」

 この日、両団長の姿を見た者は一人もいなかったという……。



 おわり




今回はカミューに「ごめん、疲れてるんだ……」という
倦怠期の夫のようなセリフを言わせたい、というので書き始めました。
マイクがカミューさんの背中に抱きついて眠ったところで
終わりそうになって、まてまて、とか自分に突っ込んだり(笑)


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