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マイクロトフは悩んでいた。 原因は見目麗しい唯一無二の親友のことだ。 どうも最近、彼に対する自分の感情が変わってきている気がする。 なにがどのように、と問われればうまく言えないが、彼が自分にだけにしか見せない笑顔がある、ということに気が付いた瞬間、えもいわれぬ幸福感を感じたこととか、自分と二人っきりでいるときだけ「私」から「俺」に一人称が変わることに気づいたとき、いいようのない優越感を覚えたこととか、自分でも不可解なことを思うようになってきたのだ。 今までは友情の深さの証だと思っていた。 すぐ感情のままに突っ走ってしまう自分を何度も助けてくれたことに感謝していたし、騎士としても尊敬していた。マチルダを離反したとき、ついてきてくれたときには嬉しくて泣きそうになった。自分と彼との友情はこんなにも厚いものだったのか、と。 しかし、最近の自分の感情は……。 決定打は突然きた。 彼と昼食をともにしたあと、他愛のない話をしながら歩いていると、名も知らぬ女性が近づいてきた。 「あの……。カミュー様にお話が……」 頬を染め、そう言ってうつむく姿にマイクロトフはどきっとした。マチルダ時代から何度となくみてきた光景。 「レディ? 何用でしょう?」 彼が人当たりのいい笑みを浮かべて問い掛けると、彼女はちらっとこちらを見た。その視線を受けて、マイクロトフはぎゅっと心臓を掴まれたような胸の痛みを感じる。あわてて、 「そ、それでは、俺は先に行ってる……」 と、彼と目を合わせずに足早にその場を立ち去った。 俺は彼のことが好きなのだ。 告白しにきたのであろうあの女性に抱いた感情が嫉妬という類のものだということに、マイクロトフは気づいた。 しかし、自分は男で相手も……。 マイクロトフは机に両肘をついて、頭を抱えた。悩んでるときの癖で短く切り揃えた髪をかきむしる。 出会ったばかりのころ、彼は少女のような顔立ちだった。色素の薄い髪や瞳が、それに輪をかけて、儚げな雰囲気すらあった。異国の出身ということもあって、よくからかわれていたらしい。しかし、成長期にはいるとぐんぐん身長が伸び、筋肉も申し分なく均等につきはじめ、顔立ちは奇麗なままだったが、もう「女みたい」と言われることはなくなった。ようやく周りから実力が認められはじめ、同時にモテだした。例の人当たりのいい、しかしどこか壁のある笑みを浮かべるようになったのもこの頃からだ。 いままではなんともなかったのに……。 いつも一緒にいたマイクロトフはよくああいう場面にはでくわした。モテる彼をからかったことすらあった。そのたびに彼はとらえようのない笑みを浮かべていたが。 はあぁ……。 深いため息をつくと、 「どうしたんだい? マイクロトフ」 と、突然声がかけられた。頭を抱えてうつむいていたマイクロトフはがばっと顔を上げる。そこには自分にしか向けないであろう(と、マイクロトフは思っている)壁のない笑みを浮かべたカミューがいた。 「カ、カ、カ、カミュー!」 いつからそこに……と言おうとしたが、動揺していてうまく言葉がでてこない。そんなマイクロトフを見て、カミューは琥珀色の瞳にからかうような色を浮かべた。 「ノックは一応したんだけどね。全然気づいてくれないし」 と、肩をすくめてみせる。そしてマイクロトフに近づくと 「何をそんなに悩んでいるんだい?」 と、顔を覗き込んできた。 どきん……っ マイクロトフは一気に心拍数が上がるのを感じた。間近にせまった顔を見やれば、髪と同じ色の睫毛が思っていた以上に長いのに驚く。形のいい唇はほんのり赤く、触れてみたい……とマイクロトフはぼんやり思った。 こいつは……こんなに奇麗だったろうか……? 「マイク? 俺の顔になにかついてるかい?」 笑いを含んだ声にはっとする。いまの自分の考えに一気に赤面するのがわかった。 「マイク? なんかおかしいぞ? おまえ……」 熱でもあるのか? と頬に触れようとするカミューの手から思わず逃げた。 「な、なんでもない……」 「マイク?」 どうみても様子がおかしいマイクロトフにカミューは眉を寄せた。 「なにがあったの? 俺がなにかした?」 「い、いや……」 正直なマイクロトフは都合が悪い時はすぐ目をそらす。こいつほどわかりやすいやつもいないよな、と思いつつ、カミューはさらに問い詰めるべく、切り札を口にした。 「親友の俺にも言えないことなのかい?」 「うっ……」 マイクロトフはなによりも義を重んじるため、こういう言い方に弱い。カミューは言い逃れは許さない、というふうにマイクロトフをじっと睨むように見た。 そんな目で俺をみないでくれーっっ! もはや、その目すら艶を感じてしまう。心臓の音が彼に聞こえてしまいそうだ。 言ったら軽蔑される! カミューは自分を「親友」としてみているのに、自分は…… 追いつめられつつあるマイクロトフに、カミューはトドメをさしてしまった。 「マイクは俺のことを嫌いになったのか?」 さっきまでの強気はどこへやら、一転、不安そうに目を潤ませるカミューにマイクロトフは……切れた。 がばっと立ち上がると、机ごしに腰と肩に手を回してカミューを抱きしめた。思っていた以上の腰の細さにますます血がのぼる。 「すまん! カミュー! 俺は親友失格だ!」 「マ、マイクロトフ?」 とまどったような声が胸のあたりからしたが、マイクロトフはかまわず腕にさらに力を込めた。 「俺を軽蔑してくれっ! カミュー!」 「……しないよ。俺が軽蔑されることはあっても、俺がおまえを……」 嫌いになることはないよ、と言うカミューにマイクロトフはぶんぶんと首を振った。 「いやっ、絶対する! 俺はすでに人間すら失格なのだ!!」 「しないってば。言ってごらん?」 誘導にかけられたことにも気づかず、マイクロトフは勢いづいて言った。 「俺は……俺はおまえが好きなんだ!!」 言ってしまった! 死刑執行台に立った気分でカミューの反応を待つ。ふっと腕の中で笑う気配がした。 「少し腕を緩めてくれないか? マイクロトフ」 そのセリフに、逃がしたら一巻の終わり、とばかりにますます腕に力を込める。 「ちょっ、苦しいってば、マイク。逃げたりしないから、ね?」 自分の考えを見透かされたような言葉と、ポンポン、と宥めるように腕をたたかれて、マイクロトフはようやく腕を緩めた。カミューはようやく顔を上げるとプハっとわざとおおげさに息をついた。 「ああ、苦しかった。マイクの腕の中で窒息死するかと思った……」 「す、すまない……」 自分のばか力ではさぞかし苦しかったろうと、マイクロトフは顔を赤らめた。カミューは、そんなマイクロトフを見てくすりと笑うと、言った。 「まっ、それも悪くないけどね」 「えっっ?!」 マイクロトフが耳を疑ってカミューを見ると、カミューは見たこともないくらいの極上の笑みを浮かべていた。 「ありがとう、マイク。嬉しいよ……」 「カ、カミュー……?」 ぼうぜんとしているマイクロトフにカミューはくすくす笑う。 「言っただろう? 俺がマイクを嫌いになるわけがないって」 こ、これは両想いというやつだろうか……と、マイクロトフは混乱したまま、カミューの本当に嬉しそうな顔をじっと見ていると、カミューはゆっくり目を閉じた。 いくら鈍いと言われているマイクロトフでも、それが意味することはわかる。 マイクロトフは天にも昇る想いで、待っている端正な顔にゆっくり近づけ、自分も目を閉じた……。 ……唇に柔らかい感触…… 「マイクっ!」 「わっっ!」 眠りは突然妨げられた。 マイクロトフはベッドから跳ね起きると、すこし焦った表情のカミューが目の前にいた。 「カ、ミュー……?」 俺はカミューにくちづけて…… 天にも昇る気分だとは思ったが、本当に倒れてしまったんだろうか……、と、寝起きでまだ頭が働いてないマイクロトフはぼんやり思った。 カミューはそんなマイクロトフの頬をぺちぺちと軽くたたくと、 「おい、起きてるか? 大寝坊だぞ。急がなくていいのか?」 と、覚醒を促した。 マイクロトフは、「大寝坊」という単語に、はっと我に返った。 「今、何時だ?!」 「8時半。いつもならとっくに起こしにきてくれる時間なのに今朝は来ないから、おかしいなぁと思って来てみれば、まだ寝てたとはね……」 めずらしいこともあるものだ、とカミューはくすくす笑う。マイクロトフはようやく今までのことが夢だとわかり、複雑な気分になった。それが顔に出たのを、カミューは生真面目な彼のことだから寝坊した事を猛烈に悔やんでいるのだろうと解釈し、ぽんぽんとマイクロトフの頭をなぐさめるようにかるくたたいた。 「まっ、たまにはいいだろうさ。朝練は強制参加じゃないし。ちゃんと青騎士団が仕切って訓練は行われたみたいだよ。 それより、はやく着替えないと朝食を食べそこなうぞ」 なっ、と顔を覗き込まれ、マイクロトフは夢を思い出し顔を赤らめる。 「あ、ああ」 あんな夢を見たと知られたら、今度こそ本当に軽蔑される……。 マイクロトフは頭から夢を追い払うように首をぶんぶん振ると、ようやくベッドからおりた。クローゼットを開けて着替えをとりだすと、寝間着のボタンに手をかける。と、ふと視線を感じてそちらを見やると、入れ替わりにベッドに腰かけたカミューが、じぃっとこちらを見ていた。 「カミュー……」 「はやく着がえなよ。ほんとに朝食食べそこなうよ」 「い、いや、その……」 夢の内容の後ろめたさからか、なんとなく気恥ずかしくなって、マイクロトフは頬を染めてうつむいてしまう。カミューはにやっと人の悪い笑みを浮かべた。 「脱がせてあげようか?」 「いっ、いらんっっ!」 予想通りに顔を真っ赤にしてどなるマイクロトフにカミューは爆笑する。 そうだ、やはりあれは夢だったのだ。カミューは俺をからかって喜ぶようなやつだし、色気のかけらもないじゃないか……! マイクロトフはまたひとつ頭を振ると、カミューに背を向けて黙々と着替えはじめた。 それにしても……。 マイクロトフはふと唇に人差し指で触れた。 柔らかい感触……やけにリアルだったような……? 「マイク? ほんとに朝ご飯いらないのかい?」 背後からのからかうような声音に、マイクロトフはあわてて着替えを再開させた。 「今日は朝からおもしろいものがたくさんみられたなぁ」 カミューは上機嫌でそう言うと、ミニトマトを差したフォークをマイクロトフの方に向けた。口元にはからかいを含んだ笑み。ご飯を口に運んでいたマイクロトフは行儀が悪い、というふうにじろりと睨んだ。カミューは気にするふうもなく、さらにマイクロトフの顔にフォークを近づける。 「聞きたいかい?」 「なんだ?」 だいたい想像がついたが、無視すると3倍返しくらいされそうなのでマイクロトフは嫌々先を促した。カミューはにっこり微笑むと、空いてる左手で指を折った。 「マイクの寝顔、マイクの寝起き、マイクの寝間着姿、それからマイクの着が……」 「もういい!」 「そんなに大声だしたらみんなが驚くよ。ほら」 ぽいっとマイクロトフの口にフォークのミニトマトを放り込む。条件反射的に口を閉じてしまったマイクロトフはしかたなくトマトを咀嚼した。その素直な様子にカミューはくすくす笑う。 「マイクはほんとかわいいね」 「!!」 あれは絶対夢だったんだ! こんな性悪を綺麗だ、とか、その、キス……したい、とか思うハズがないっっ!! マイクロトフは食事が終わると、しゃべってばかりいたため、まだ食べ終わってないカミューを置いてとっとと席を立った。 待ってくれたっていいだろ、とか背後でカミューがなにか言っていたが、今度こそ無視した。 食堂を出たマイクロトフは、今朝は寝坊したため朝練をしていないことを思い出し、ストレス発散も兼ねて道場に向かうことにした。 誰かいたら相手してもらい、誰もいなかったら素振りをしよう。 「あれー? マイクロトフさん?」 背後から声をかけられ、マイクロトフは足を止めた。振り返ると、同盟軍のリーダーの義姉が立っていた。 「おはようございます。ナナミ殿」 「おはよう。どうしたの? すごい勢いで歩いていたけど」 「い、いえ、その……」 はたからみてもわかったのだろうか……と、マイクロトフは赤面した。 「あの……、カミューさんは一緒じゃないの……?」 「えっ?」 マイクロトフが顔を上げると、ナナミもなぜか顔を赤らめていた。マイクロトフの視線に気づくとあわてたように言い足す。 「あのっ、ほら、マイクロトフさん、いつもカミューさんと……」 一緒にいるから……と、言いながらうつむいてしまう。 どう答えるか迷っていると、肩に手がかかり、耳元から声がかかった。 「なにやってるんだい? マイクロトフ?」 「うわっっ!」 驚いて飛びのきようとするマイクロトフをがっしり抑え込んで、カミューはマイクロトフの肩越しにナナミに笑顔を向けた。 「おはようございます、ナナミ殿。マイクに何か用ですか?」 「カッ、カミューさん! い、いえ、あの……」 「カミュー! は、離せ!」 マイクロトフは後ろから抱きすくめられてるような体勢に、顔を赤くしてどなる。が、カミューはそれにかまわずナナミの返事を待つ。 「あ、あの、た、ただカミューさんと、い、一緒じゃなかったから、め、めずらしいなぁと思って……」 しどろもどろの話に、カミューはにっこり笑って、 「朝食を一緒に食べていたら、置いていかれたんですよ。 今朝は寝坊したのを『わざわざ』起こしてあげたのに」 『わざわざ』を強調して、ひどい話でしょう? と、カミューは肩をすくめる。マイクロトフの背後にいたのでほとんど見えなかったが。 ナナミはまだ赤面したまま、にっこり笑うと、 「そ、そうなんですか? じゃ、じゃあ……」 と、逃げるようにその場を走り去った。その背中にカミューは一言送る。 「ええ。気をつけてください、レディ」 カミューたちからは見えなかったが、ナナミは聞きたかった単語が聞けて、嬉しそうに笑っていた。 「……いつまでそうしてるつもりだ?」 「ナナミ殿と何を話していたんだい?」 マイクロトフの怒りを抑えた低い声を無視して、カミューは耳元に話しかける。ざわざわと背筋を這い上がる奇妙な感覚に、マイクロトフは力ずくで腕を振り払った。まだ頬を染めたまま、カミューに向き直る。 「おまえも聞いただろう! おまえと一緒じゃないのか、と言われただけだ!」 「それだけ?」 一瞬だけ薄茶の瞳に得体の知れない凶暴な色が浮かんだが、興奮しているマイクロトフはそれに気づかなかった。 「それだけだ!」 「ふーん……」 バカがつくくらい正直なこの男は、顔を見ればウソをついているかはすぐわかる。カミューはちょっと肩をすくめると、 「なんだ。色気のある話が聞けるかと思ったのに」 と、いつもの茶化すような口調に戻った。 「なっ、バカなことを言うな! ナ、ナナミ殿はお、おまえのことが、その……す、好きなんだろう!」 「おや、マイクロトフ、いつからそんなに色恋沙汰に詳しくなったんだい?」 冗談めかして人差し指でマイクロトフの顎をすくいあげる。 と、 「あの……、カミューさま……」 背後から女性の声がかかった。カミューは何事もなかったように振り返ると、いつものごとく人当たりのいい笑みを浮かべる。そこには名も知らぬ女性が立っていた。 「何用ですか? レディ」 「あの、カミューさまにお話が……」 頬を染めてうつむく女性。カミューの背後でマイクロトフは硬直していた。 こ、この状況は……! 「話……とは? なんでしょうか?」 カミューの声にハッと我に返ると、彼女は困ったようにこちらを見ていた。マイクロトフはあわてて、 「そっ、それじゃあ俺は先に行ってる……」 と、一緒にどこかに行く約束をしていたわけではないのに、夢のセリフをそのまま言うと足早にその場を去った。道場に行くつもりだったことはすっかり忘れ、動揺のしたまま夢のとおりに自分の部屋に戻った。 部屋に帰るとやはりあれは夢だったのだ、と改めて思った。あの時は机に腰掛けていたが、自分の今の部屋には机はない。しかし、変なところで律儀なマイクロトフはベッドに腰掛けると、夢と同じように、机のかわりに自分の膝に肘をついて頭を抱えた。 落ち着け、あれは夢だったのだ。しかし、この状況は……。 予知夢……という単語が頭をよぎる。 俺はやっぱりカミューを……? さっきまで散々からかわれていたことはどこへやら。素直すぎるマイクロトフは洗脳されてるかのように、カミューへの想いが変化していった。 はあぁ……。 「どうしたんだい? マイクロトフ」 「うわっっ! カ、カ、カミュー!!」 突然声をかけられて顔を上げると、カミューのドアップが間近に迫っていた。マイクロトフは驚いてベッドに手をついてのけぞる。それをカミューは逃がさない、というふうに覆い被さるように手をついてきた。二人とも足は床に着いたままだったが、二人分の上半身の重みにベッドがぎしりときしんだ。 「ずいぶん重いため息だったけど、なにか悩み事でもあるのかい?」 あ、あんまり近づかないでほしい……。 マイクロトフは下から見上げているせいか、伏せがちにみえる琥珀色の瞳が色っぽく感じてしかたない。急に心拍数が上がったのを感じながら視線を合わせずに返事する。 「い、いや、べつに……」 カミューはもちろんこんな答えで満足するわけもなく。ふうん、と目を細めるとベッドについていた手から力を抜き、ばふっとマイクロトフにのしかかった。 「マイクはいつからそんなに冷たくなったんだい? 俺ってそんなに頼りない?」 「お、重いぞ、カミュー!」 重いからか、焦っているからか(たぶん、両方だろう)、顔を紅潮させ、マイクロトフはカミューを押しのけようとする。しかし、一見、優男に見えるカミューは意外と力が強い。押しのけようとしているマイクロトフの両手をなんなく掴んでベッドに縫い付けるとそのまま顔を覗きこんだ。 「さあ、言ってごらん。マイクはなにを悩んでいるの? まさか、恋の悩み?」 からかったつもりで言ったセリフにマイクロトフはびくん、と過剰に反応を示した。カミューは一瞬目を見開くと、すっと細め、 「へえ……。ビンゴ? お相手は誰だい?」 と、顔には笑みを貼り付けたまま、いままで聞いたことのない、ぞっとするような低い声で問い掛けてくる。 そんな見たことのないカミューの様子に得体のしれない恐怖を覚えつつ、マイクロトフは考えをめぐらした。 な、なにかシチュエーションが違うような気がするが……。そう、決定打があったハズだ……。 律儀にも今朝の夢と今の状況を照らし合わせている。 「親友の俺にも言えないのかい?」 「それだっ!!」 「え?」 突然、大声をだすマイクロトフにカミューは毒気を抜かれてきょとんとする。その隙にマイクロトフは腕の自由を取り戻すと、のしかかっているカミューの背中に腕をまわした。 「俺を軽蔑してくれ! カミュー!!」 「はい?」 何事においても臨機応変にそつなくこなす、と自負しているカミューも、マイクロトフの突然の言動には振りまわされることが多い。さすがについていけず、間の抜けた返事になってしまった。 「俺は人間失格なんだ!!」 セリフが飛んでて、なんのことかさっぱりわからなくなっているが、夢をたどるのに夢中になっているマイクロトフはそれに気がつかない。 「ちょ、ちょっと、待ってくれ、マイクロトフ。いったい……」 「俺はお前が好きなんだーーーっ!!」 もはや、夢に洗脳された状態のマイクロトフ、爆走中。 押し倒された態勢のまま、自分から背中に手をまわしているため、カミューの胸に顔をうずめる格好になっているのだが、そんなことにはまったく気づいてない様子で、どきどきしながらカミューの出方を待つ。 「……ほんとうかい?」 ややあって、カミューが静かに口を開いた。マイクロトフは、こくり、と頷く。カミューはそっと背中にまわされた腕を解くと、頬に両手を添えて目を合わせた。 「ありがとう、マイク。嬉しいよ」 と、にっこり微笑む。それは夢で見た極上の笑みと同じものだった。 これだーっっ! マイクロトフ、なぜか心の中でガッツポーズ。 このあとは……。 どきどきしながらカミューを見上げていると、ゆっくりカミューの目が閉じられる。 こ、ここだ……。 マイクロトフはカミューを引き寄せようとして、自分が身動きできない態勢にあるということにやっと気づいた。 あれ? 疑問に思う間もなくカミューの端正な顔が近づいてくる。 「俺もずっとマイクロトフのことが好きだったんだよ……」 え? え? 「…………!!…………」 唇に柔らかい感触。しかし、それは自分からのキスではなくて……。 ぼうっとしているあいだに重ねられた唇からするりと柔らかいものが忍び込んできた。それは器用にマイクロトフの下唇、歯列をゆっくりなぞり、それがカミューの舌だと認識した頃には自分の舌を絡めとられ、強く吸われていた。 「……?!……んっ……!」 強烈な刺激に思考回路が真っ白になる。カミューに口内を思うさま蹂躪されても抵抗することすらできなかった。 やがて、自分の頬に添えられてた手がゆっくり首筋をなぞり、襟元をはだけようと動いたところでマイクロトフは我に返る。あわてて力が抜けてしまった両手でカミューの胸を精一杯突っぱねた。顔を真っ赤に染め、息が上がっている。 「なっ、何をするっ?!」 「何って……やだなあ、マイク。私たちは晴れて相思相愛になったんだよ?」 違うのかい? と小首を傾げるカミューにマイクロトフは、確かにそれは……とかすかに頷く(墓穴)。カミューは心底嬉しそうな笑みを浮かべると、ゆっくり覆い被さる。 「ね? だったら……」 「え? だ、だから、夢では俺から……。っ! カ、カミュー!! どこを触って……って、うわぁぁぁぁ!!」 「♪」 ……合掌……。 おしまい(汗) |