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バタン…… 図書室のドアが閉まる音が響くと同時に……カミューとマイクロトフはどちらともなく唇を重ねた……。 ゆっくりと、お互いを確かめ合うように強く抱き合いながら、深く、深く。 長いキスを交わして名残惜しげに唇を離すと、マイクロトフは苦しかったのか切なげに吐息をつく。カミューはそのしぐさに触発されてマイクロトフの首筋に唇を寄せた。 「あっ……、カ、カミュー……、こ、こんなところでは……」 「マイク……。我慢できない。今すぐ欲しい……」 首筋にかかる熱い息にマイクロトフはびくり、と身体を震わせた。しかし、いつ誰がくるかしれない図書室で……というのにはやはり抵抗があった。 「カミュー……。俺も……欲しいけど……でも……」 「やはり……」と恥じらうように口篭もるマイクロトフに、カミューはひとつ息をつくと理性をかき集めて身体を離した。 「じゃあ……早く部屋に戻ろうか……」 「……ん……」 顔を真っ赤にしてうつむいたままかすかに頷くマイクロトフにカミューはもう一度、触れるだけのキスをする。唇を離す際に、ぺろりとマイクロトフの唇を舐めた。マイクロトフは目元を赤くしたまま恨みがましい視線を向ける。 自分だって我慢しているのに……煽るような真似はやめてほしい……。 さっきまでここにはもう一人女性がいた。名も知らぬ、美しい女性。 彼女は自分の美貌に溺れ、男を食い物にしていた。そんな彼女が目をつけたのがカミューだった。彼女は酒場でモーションをかけてみたが誘いに乗ってこないカミューを訝しみ、周りを調べたところ、自他ともに認める親友という立場にあるはずのマイクロトフが実は恋人同士だ、という信じられないような噂を耳にした。それをマイクロトフに詰め寄ったところ、どうやらそれは本当のことで……。別れさせようとなじってみるとマイクロトフはかなりショックだったようで、作戦成功、と思ったのだが。ここ、図書室でカミューにこっぴどく返り討ちにされた。二人ともお互いをかけがえのない存在だと想っているということは揺るぎ無い事実で、結局は二人の絆を深めたにすぎなかった……。 二人は図書室を後にし、部屋へと向かった。どちらももどかしい想いをかかえたまま、無言で並んで歩く。ときどきはずみで触れる手が熱かった。部屋までの距離が異常に長く感じられる。自然、歩調が早まった。途中すれ違った人に挨拶されても自分がなんと答えたかすら覚えていない。 部屋に前までたどりつくと、カミューがドアノブに手をかけた。がちゃがちゃ、と汗なのか2、3回空回りするのがマイクロトフにはおかしかった。カミューでもあせっているのかな、と。 ようやく開いたドアから中にすべりこむと、バタン、と背後でドアの閉まる音がした、と同時に後ろから凄い力で抱きすくめられる。それに逆らうことなく、二人でもつれ合いながらベッドに沈んだ。どちらももう限界だった。 噛みつくように降りてくる唇。夢中で舌を絡め合いながら、お互いの服をむしるように脱がせていく。先にマイクロトフの白い肌が露になると、カミューはたまらず首筋に食らいついた。マイクロトフの身体がびくん、と跳ねる。カミューをなにより興奮させる甘い声が上がった。 しかし、今日のマイクロトフはいつものように一方的に愛撫を受けるだけでは嫌だった。震える指先で脱がしかけてたカミューの服に手をかけると、ぐっと力を込めて一気に引き降ろす。ボタンがいくつか弾けとんだ。 カミューはさすがに驚いて手を止め、顔を上げた。しかし自分を見上げるマイクロトフの瞳にまぎれもない情欲の炎をみつけると、にやっと挑発めいた笑みを浮かべる。 「ひどいな」 からかうように言うとマイクロトフは無言のままカミューの頭を引き寄せ深く口づけてくる。カミューはそれを甘受しながら片手は胸を、もう片方の手は脇腹を撫で上げた。どちらもマイクロトフの弱いところ。マイクロトフは思わず口づけを解いて身を竦ませた。余裕たっぷりに笑うカミューを潤んだ目で睨み上げる。と、今度は首筋に食らいついてきた。いつにない積極的なマイクロトフにカミューは嬉しくてくすくすと笑いながらしたいようにさせている。が、情熱的にさまよう唇が胸元に降りてくる頃にはすっかりそんな余裕も失せていた。自分もお返しとばかりにあちこちにキスを降らす。 二人は夢中になってお互いにもつれあい、貪り合い、求め合いながら、何度も、何度も愛し合った……。 「ねえ……、マイクはどういう状況になったら俺と別れる?」 けだるい身体を投げ出したまま、ぼうっと髪を撫でられる感覚に身をまかせていたマイクロトフはカミューの言葉に身を強ばらせた。自分を見上げてくる漆黒の瞳に不安げな色を見つけると、カミューは苦笑いして首を横に振った。 「たとえば、だよ。たとえば家族にばれて、泣きつかれて別れろって言われたら、とかさ」 カミューがそう言うとマイクロトフはちょっと眉間に皺を寄せて真剣に考え込んでしまった。 今は別れてしまったけれど。マチルダにいる家族をなにより大事に思っていることを知っている。 我ながらいじわるな質問だったかな、とカミューは質問を取り消そうとした。 悩む余地があるだけましか……と思いながら。 「マイク……」 「俺は……」 同時だった。カミューが言いかけたのを遮る格好となってマイクロトフはばつの悪そうな顔をする。カミューは優しく目で続きを促してやった。 「俺は……家族に反対されても……最後は自分の意志を貫くと思う……」 ちょっとつらそうに言葉を紡ぐマイクロトフにカミューは目を見開いた。 「マイク……」 ぽかん、とした顔がおかしかったのか、マイクロトフはくす、と笑う。 「俺がカミューと別れるとしたら、完全に愛想をつかされたときと、俺の目の前に『好きな人ができた』と相手を連れてきて、俺がたちうちできないな、と認めたときだ」 「マイク……」 「愛想をつかされても、その内容を聞いて俺に非があると思ったら直すよう努力するし」 「……マイク……」 「それこそ誰かに頼まれたりして、別れようと芝居をしても、絶対に見抜いてみせるからな」 覚悟しろよ? と勝ち気な笑みを浮かべられて。カミューはたまらなくなって力一杯抱きしめた。 「マイク……マイク……!」 声が震えるのを止められなかった。幸せすぎてどうにかなりそうだった。肩口に顔をうずめ、2、3深呼吸するように息を吐くとようやく口を開いた。 「じゃあ、死ぬまで一緒だね」 「お前はどうなんだ?」 さっきの質問を今度はカミューに問うマイクロトフの唇をそっと塞ぐ。 ……言葉は必要なかった。 おわり |